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第4話 生徒指導室での一幕

 生徒指導室の小さな室内の中。


 窓から陽光が差し込み、春の日差しが室内に溢れている。


 デスクを挟んで、クリクリとした大きなこげ茶色の瞳が春陽を覗き込んでいる。


 綾香先生は少し照れたような微笑みを浮かべ、右手にシャーペンを握っている。


 室内に入って10分ほどで綾香先生の説教は終わった。


 綾香先生は怒りを持続させることが苦手というか、できない。


 すぐに春陽を見て微笑んでしまう。


 だから説教している間も和やかな雰囲気が生徒指導室の室内に流れていた。



「もう一人暮らしを始めて1カ月経つけど、部屋の掃除、片づけはキチンとできてる?」



 おっとりした甘い声で綾香先生が春陽を質問責めにする。


 掃除……まだ掃除機も新品のまま、段ボールに入れられ、部屋の中に放置されている。


 手の届く範囲で片づけはしている。1回だけ、部屋の中が散らかり過ぎたので、全て片付けたばかりだ。



「片づけはしてますよ。時々ですけど……」


「それは合格点だね! 次はお料理はどうしてるの?」



 料理、それって何ですか! 男の春陽が料理を作れる訳もなく。


 普段は「ぽかぽか弁当」に行くか、コンビニ弁当で済ませている。


 面倒な時はカップラーメンが多い。段ボール箱3箱分を買いだめしている。



「料理は苦手です。あんまり料理はしてないかも」


「あらあら、それはいけませんね! 野菜は健康の源だよ! ちゃんと野菜も食べようね!」


「……」


「好きな料理は何かな?」



 ここはどういう風に答えればいいんだろう。素直に答えておくか。



「オムライスとハンバーグと肉じゃが、それとカレーです」


「フムフム、春陽君もまだ食べ物の趣向はお子ちゃまね。可愛い~!」



 素直に答えるんじゃなかった。


 胸を張って綾香先生が少し自信を持って微笑む。



「エヘヘ、先生、料理は少しだけ自信があるのです!」



 もしかすると、綾香先生が料理を作ってくれる? 


 春陽は期待に胸を躍らせる。


 人差し指を可愛い唇に添えて、首を傾げて綾香先生が悩んでいる顔する。


 今の顔も可愛い。写メにいただきたい。



「ん~春陽君に料理を作ってあげたいんだけど……1人の生徒だけ特別扱いしてはダメだし……残念かも~!」



 上げて下げるなんて、心理の高等テクニックをこんな時に発揮しないでほしい。


 期待が大きかっただけに春陽の気持ちは沈む。



「私が料理を作り過ぎて、お隣さんの家に配りに行けばいいんだよ。それだとお隣さん。生徒じゃないよね……ウフフ、今日の私は冴えてるかも!」


「いつ作り過ぎる予定ですか?」


「あ……そこまで考えてなかった! ごめんね!」


「毎日、作り過ぎる予定は?」


「それはないわよ~。食材が勿体ないもの~」



 聞いた春陽がバカである。綾香先生がそんなに春陽に拘るはずがない。


 綾香先生は小さなノートを取り出して、シャーペンでメモを取っている。


 その姿がかわゆい!



「何を書いてるんですか?」


「お隣さん情報。「202号室さん専用ノート」を作ってみました!」



 ノートの表紙に「202号室さん♡」と書かれている。


 きれいで可愛い文字! ハートマークが嬉しい!


 綾香先生が脚を組みなおして肘をデスクの上につく。


 形の良い胸がプルンと震える。


 オォー! 胸が眩しすぎる!



「まだまだ情報が足りないわ。春陽君、身長と体重と足のサイズも教えて」


「……身長170cm、体重60kg、足のサイズは26……」


「彼女歴は? 今まで付き合った彼女はいるの? 好きな子いる?」



 彼女なんて今までいないよ。年上フェチなんだから。それに好きな人はいます。目の前に。


 そんなこと口が裂けても言えない!



「言えません。個人情報の秘匿事項です」


「春陽君のケチ~!」


「綾香先生は付き合っている彼氏はいるんですか?」


「……」



 綾香先生に付き合っている彼氏がいたらどうしよう! ショックで寝込むかも!



「203号室に3年生美人NO1の来栖絵理沙さんが住んでいます。特別に教えちゃいます」



 今、サラッと絵理沙先輩を売りましたね。


 自分のことは言わないんですね。



「時々、絵理沙さんとは話しをする仲なのです! 今は彼氏募集中だそうですよ! 春陽君、可愛いからどうですか?」



 目の前に愛しの人がいるって言えない。


 絵理沙先輩も魅力的だけど、綾香先生がいい。


 京香先生ほどの妖艶さはないが、童顔と大人の色気が混ざり合って絶妙なバランスが良い。


 キラキラした大きな瞳で興味津々に見つめてこないでください。


 あー恥ずかしい。



「やっぱり絵理沙さんのような美少女に興味あるの?」


「興味は……少しならあります……でも、少し違うかも」


「どんな女の子が好みなの? もう好きな子なんているの? 先生に教えて! 秘密にするから!」



 好みは年上で、好きな女性は目の前で無垢な瞳で、好奇心で目を輝かせている女性です。


 綾香先生にだけは絶対に言えねー!



「あー、年下が好みなんだ~」


「それだけは絶対にない」


「やっぱり春陽君も京香がいいの?」


「どちらかと言えば……京香先生」



 年上フェチだからね。京香先生と言って誤魔化すしかない。


 綾香先生が少しピンク色の頬を膨らませる。少し不満のようだ。



「大学生の時から一緒なんだけど、男性は皆、京香、京香、京香のことばっかりなんだよ」


「それはすごいですね」


「京香って脱ぐとすごくスタイルが良くてね。胸がEカップもあって、上にツンと向いてるんだよ。お肌なんかもツルツル。お尻もツンとしてるのよ~」



 綾香先生は自分の胸を持ち上げて春陽に見せてくる。


 オォーー! 胸を近づけないで! 綾香先生も女性なんだから、もう少し自覚を持とう!



「春陽君だから言っちゃいますけど、先生も実は胸はEカップあるんです」



 なぜ、ヒソヒソ声になってるんですか?



「昔から、よく男性の人の視線が、胸とお尻に集まってきて、少しコンプレックスだったの。ちょっと大きすぎるから」



 そんなことはありません。


 絶妙で最高のスタイルです!



「でも、京香といると男性の視線が京香に向かうから、先生は安心して京香の隣にいることができます。それから親友になったの」



 京香先生と綾香先生の2人の大学生時代か、一度は拝見してみたかったな。


 今の2人はそれ以上に魅力的になっていると、年上フェチの春陽は思う。



「あの京香の少し鼻にかかった甘い声が男性諸君は良いらしいの」



 綾香先生の少し幼さの残っている甘い声も魅力的です。聞いていたらウットリします。



「だから、大学生の時から先生は彼氏がいないの~……これは秘密事項でした」



 そうか、今は彼氏はいないんだ。


 喜びで顔が綻びかけるが、必死に無表情をつきとおす。


 目をウルウルと潤ませて、机の上に置いてあった春陽の両手を綾香先生がギュッと握る。



「ハワワ~、これは誰にも内緒にして~! お願い~!」


「絶対に誰にも言いません。約束する」



 綾香先生を狙っている不届き者がいるかもしれない。彼氏がいない情報なんて流せない。



「ありがとう~! 今度、夕飯を作り過ぎたら部屋に持って行ってあげるね。隣人としてだよ~!」



 ヤッター! 天女様降臨!


 綾香先生は恥ずかし気な顔をして、ハッとしたように両手で握っていた春陽の両手を離した。


 あー、柔らかくて至福だったのに……



「……あの春陽君に質問。私って女性としての魅力ないですか?」



 すごくあります。自分にとっては天女様です。


 そんなことを本人に素直に言えるわけない。


 どう答えれば納得してくれるだろう?


 相手は小柄とはいえ大人の女性。可愛いと言えば幼く見られたと勘違いするかもしれない。


 きれいと言っても、京香先生と比べて喜んでくれないだろう。


 スタイル抜群なんて言ったら、これから綾香先生に警戒されてしまう。


 こんな時、和尚がいてくれたら、良い答えを教えてくれるのに。


 和尚は頭の回転も速く、口達者だからな。


 綾香先生はデスクの下に両手を隠して、上目遣いで春陽が口を開くのを待っている。


 その姿が何と愛らしいんでしょう。


 あーとても良いわー。


 綾香先生がお尻もモジモジと動かす。春陽の言葉をじっと待っている様子。



「一般的にはきれいで可愛いという意見が大多数だと思います……個人的には好みです」


「フヘェ~」



 驚いた感じで口元を押える。だから綾香先生の表情を確かめられない。


 崖から飛び降りる気持ちで自分の本心を言ってみた。


 どういう反応が返ってくるのか心配で、心臓がドキドキする。



「エヘヘ、ちょっと嬉しかったかも。でも、先生をあんまりからかってはダメですよ~」



 からかっていません。本気です。


「先生が本気にしたらどうするんですか~。先生と生徒の交際は絶対に禁止なんです」



 やっぱり生徒と先生はダメか。



「春陽君のような可愛い生徒に好きと言われると、先生も嬉しいです」



 綾香先生はフワッと花が咲いたように満面の笑みを浮かべる。


 窓のカーテン越しに入る日差しが綾香先生を照らして、春陽には神々しく見える。


 なんとか綾香先生に喜んでもらえたようで良かった。


 フンワリとした温かい時間が2人の間に流れる。


 綾香先生の優しくて甘い匂いが春陽の心を和ます。



「もう少しで先生、少しだけ本気にする所でした。いけませんね、春陽君が悪戯好きなことを忘れていました~! 危ない! 危ない!」



 そこは悪戯じゃない! そこは本気で考えて!



「春陽君も可愛い顔をしてるんですから、今度、髪をも少し切ってきてください。可愛い顔が見えません」



 春陽は中性的な甘いマスクをしている。すぐ可愛いと言われるのがコンプレックスで、前髪で顔を隠している。



「先生も春陽君のような可愛い顔は好みです。ちょっと童顔な所も可愛い~」



 綾香先生にだけは童顔と言われたくない。


 どう見ても20歳くらいにしか綾香先生は見えないよ。


 思わず春陽は少しだけ頬を膨らませる。


 すると綾香先生が腕を伸ばして、人差し指で春陽の頬をツンツンと突く。


 そしてニッコリと微笑む。



「お肌もスベスベで可愛い。お持ち帰りしたくなりますね……ウフフ」


「俺、男です。そんなこと言われても嬉しくない」


「えー、ごめんねー。春陽君のご機嫌を斜めにさせちゃったね」


「そんなことありません」


「いつも春陽君は私とお話している時、無表情だけど、私とお話しても楽しくない? つまんない?」



 すごく楽しい。本当はワクワクしてる。


 人に表情を悟らせないのは大人への第一歩ですよ。護身術です。



「私は春陽君の笑っている顔を見たことがありません。1度だけでも今日は笑顔が見たかったな。ちょっと残念」



 そんなことを考えていたんですか!



「今度でいいから、先生にだけ笑顔を見せて。お願いだから~!」


「それは無理です」


「なぜ? なぜ? どうして?」



 一度、ポーカーフェースを外すと本音が漏れやすくなる。それを春陽は防ぎたい。



「無理なものは無理」


「こうなったら、春陽君が笑顔を見せてくれるまで、生徒指導室から今日は出しません!」



 とうとう駄々っ子のようなことを言い始めたよ。


 本当に綾香先生は春陽が次の授業に出ることを妨害した。


 日差しが差し込む生徒指導室の中は和やかな雰囲気がいつまでも続いた。

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