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第3話 授業中の悪戯

 1限目の授業が終わり休憩時間に入る。


 春陽の座っている席に和尚と信二と柄谷優紀カラタニユウキが集まってきた。


 優紀は高校2年生NO1のイケメンで有名だが、実は脚フェチで春陽の親友でもある。



「今日の朝も保健室へ行って、京香先生を見て来たのか?」


「左様。優紀殿は香織殿と仲良くご登校だったのかな?」


「ああ、そうだ。香織の監視の目がキツくて京香先生の素晴らしい脚の曲線美を見れないのが、毎日、残念だ」



 涼し気な二重まぶたが震えている。キリッとした瞳が少し潤んでいるように見える。


 優紀は眉目秀麗な端正な顔を渋らせて落ち込んでいる。


 和尚はそれを見て満足そうに何回も頷いている。




「良いではござらんか。香織殿も美少女。胸の形も良い。脚もきれいではないか。優紀殿は香織殿の脚に不満でもあるのかな?」


「和尚はわかってないな。少女の脚と大人の色気のある脚とは曲線美が違う。和尚にはわからないのか?」


「拙僧は胸であれば大人の女性の色香漂う胸の曲線が一番美しいと思っている。それと同じであるな」



 優紀と和尚が見つめ合って頷き合っている。


 2人の間に妙な友情が生まれているのが見える。



「俺も高校生の女子の青いお尻よりも、ほどよく柔らかそうな大人の女性の色気のあるお尻が好きだ。あのまろやかな曲線美がたまらない」



 信二が我慢できずに両手で逆ハートを描きながら、優紀と和尚に訴える。


 優紀と和尚も静かに頷いて、信二の手を握りしめる。


 3人のフェチが一体となった瞬間だった。


 年上フェチの春陽には部分フェチの気持ちはわからない。


 次の授業は綾香先生の国語の授業だ。


 今は早く休憩時間が過ぎないか、そのことばかりが気になる。



「男子3人で握手なんてして、この3バカは何を考えてるのよ。また変な話をしてたんでしょ」



 優紀の後ろから澄んだ声が聞こえて来た。


 香織だ。


 優紀が後ろを振り返ると、香りが両手を腰に当てて仁王立ちになっている。


 千条香織センジョウカオリ、優紀の幼馴染で、世話好きの美少女として人気が高い。


 艶々した黒髪のストレートヘアーが綺麗だ。



「優紀を変な世界へ連れていかないで!」



 きれいな眉、少し吊り上がった目尻。流れるような二重、スッとした鼻筋。グロスで濡れた唇が印象的だ。


 和尚が慌てず、香織に向かって手の平で制する。



「拙僧達は変な話などしておらん。香織殿がきれいで美しいと話しておったのだ。大人になった香織殿に期待していると」


「それはどういう意味? 今の私だと不満だと言いたい訳?」


「そういう意味ではござらん。今でも香織殿は美少女。大人となれば美女となる。その時の大人の色香を話しておった。優紀殿も期待している」



 香織の顔がみるみる真っ赤に染まっていく。そして両手で両頬を抑えている。



「私のことで変な話をするのは止めてよ。優紀もそんな話に乗らないで」


「香織、俺も期待しているよ!」


 優紀が爽やかに微笑む。


 信二が悪気なしに笑って口を挟む。



「俺も香織ちゃんには期待してるぜ。同級生の中で1番お尻がきれいだからさ」


「どこ見てんのよ。バカ信二。変な所、見ないでよ!」



 信二の一言で、機嫌が直りかけていた香織の意識が不機嫌に向かう。


 黙っていればいいのに、信二はいつも褒めている場所が違うんだよ。


 和尚のように機転を利かせてほしい。


 優紀が香織に近寄って肩をポンポンと叩く。



「信二はあれでも香織のことを褒めているつもりなんだ。許してやってくれないか」


「そんなことはわかってるわよ。デリカシーがないって言ってるだけよ」



 優紀が近くにいるおかげで、香織の怒りが段々と収まってきた。


 さすが優紀だ。


 しかし、香織の愚痴は止まらない。



「どうして皆、年上の女性ばかりに興味があるのよ。私達だって女子よ。4人共おかしいわよ」



 春陽まで数の中へ入れられた。完全な巻き添えだ。



「それは拙僧達よりも年上好きの春陽殿に聞いた方がよかろう」



 和尚が春陽を使って会話から逃げた。


 信二と優紀の2人も春陽と目を合せようとしない。


 確かに春陽は無類の年上フェチだ。


 高校生の女子は青い果実。大人の女性は色香たっぷりの熟した完成した果実などと言えば、香織の機嫌が一気に悪くなる。


 そんな危険な橋は渡りたくない


 どう言えば、この難局を超えることができるだろう。春陽は必死に答えを探す。



「香織は良い線を行ってると思うぞ。高校3年生になったら絵理沙先輩みたいになるかもな」


「え! 絵理沙先輩みたいに!」



 絵理沙先輩は高校生でありながら、群を抜いた色香を放っている。香織達にとって憧れの先輩だ。



「絵理沙先輩は高校生女子なのに、もう大人の女性になりかけていると思う。だからあんなに清楚なのに色気があるんだと思う。香織もそうなるよ」



 大人と対比したなら香織は余計に反発して、機嫌を損ねただろう。


 しかし、憧れの先輩のようになれると言われて、香織の心も絵理沙先輩の方向へ向いたはず。


 香織の反応を見ると、頬をピンク色に染めて、両手をギュッと握りしめて、恥ずかしそうに少し俯いている。


 この方向で話は間違いなかったようだ。


 和尚が音を立てずに拍手をしている。口元を見ると声を出さずに「お見事」と動いている。



「私、千春の所へ行ってくる」



 香織はあまりに恥ずかしくなったのか、急いで親友の神代千春カミシロチハルの元へ去っていった。


 千春は香織と中学からの親友で、スレンダーボディながら、男子の人気も高い女子だ。


 茶髪のミディアムヘアーのふるゆわカールが良く似合っている。


 しかし、男子を警戒しているのか、あまり男子と拘わりを持ちたがらない。


 いつも香織と一緒に行動を共にしている。


 優紀は振り返って、香織が十分に距離を取って、千春の元へ行ったことを確かめる。



「春陽、よくそこで絵理沙先輩を思いついたな」



 同じアパートだから、よく顔を見かけるんだよとは口が裂けても言えない。


 京香先生が学校の女神様だとすれば、絵理沙先輩は憧れの高嶺の花だ。


 絵理沙先輩が隣の203号室の部屋に住んでいることがバレたらマズイ。


 3人が春陽の部屋に押し入ってくることは明らかだ。


 それに、201号室には春陽の天女様である綾香先生が住んでいる。


 このことも絶対に誰にもバレてはいけない。


 親の都合で一人暮らしをしていることは、この3人も知っている。しかし場所は教えていない。


 うっかり絵理沙先輩や綾香先生と3人が鉢合わせしたら、マズイことになる。



「先ほどから黙っているが、春陽殿、そんなに綾香先生が待ち遠しいのかな?」



 沈んでいた思考の海から春陽はあがってくる。


 和尚がいい感じで勘違いをしてくれている。



「そうなんだ。今日は綾香先生にどんな悪戯をしようか考えていたんだ」


「春陽、それなら俺、今日は良いモノを持ってきた」



 信二がニヤニヤと笑ってズボンのポケットの中へ手を突っ込む。


 そして輪ゴムの束を手に一杯取り出す。



「それは良いモノを持っている。拙僧もいただこう」



 和尚は信二の意図を察して、ニッコリと笑う。


 春陽と優紀も信二の意図がわかったが、いくら何でも高校2年生のやる遊びとは思えなかった。



「普通にゴムを綾香先生に当てても面白くない。ここは自分のフェチ部分に当てるってことでどうだ?」



 信二が元気よく提案する。バカげたことをする時の信二の顔は輝いている。



「それでは拙僧が一番の難所ではないか。それは不公平というモノだ。意義を申し立てる」


「俺も参加したいが香織の目が怖い。だから俺はこのゲームは不参加にする」



 優紀が手の平をヒラヒラさせて不参加を表明。



「では拙僧が優紀殿のフェチ部分へ移動しよう。春陽殿が拙僧のフェチ部分でよいな?」


「それだと俺が1番、危険な場所じゃないか。怒られるのは俺に決定じゃないか!」


「綾香先生と2人きりで生徒指導室に行くというのは春陽殿にとっては魅力的な話だと思うが」


「……」



 さすがは和尚、あざとい点を狙ってくる。


 確かに綾香先生と2人きりの生徒指導室は魅力的だ。


 間近で綾香先生の顔をマジマジと見ても、真剣に話を聞いている振りができる。



「これでルールは成立。春陽が胸で、俺がお尻、和尚が脚ね。誰かが綾香先生を怒らせるまで続行!」



 真剣に春陽が検討している間に信二が勝手にルールを決定してしまった。


 これで後戻りはできない。


 休憩時間が終わるチャイムが鳴る。


 廊下からコツコツとリズム良い足音が聞こえてくる。




ガラガラガラ




 クラスのドアが開く音が聞こえる。


 綾香先輩が小さな体を姿勢よくして、教壇の前まで歩いてくる。


 教壇の上に教科書類を置いた綾香先生がクラスの生徒に向かってフワリと微笑む。


 いつ見ても美しくて可愛い!



「では授業を始めます。今日は平家物語ですよ~! 皆さん、用意してね!」



 なんというあどけなくて可愛い声なんだ。


 思わず聞き惚れてしまう。


 綾香先生は教科書を左手に持って、平家物語を静かに読みながら、生徒達の間の通路を歩いていく。


 教科書の位置が胸の位置に重なり、なかなかゴム鉄砲と打つタイミングがつかめない。


 和尚の放ったゴムが綾香先生の右足に当たる。


 慌てて後ろを振り向く綾香先生。


 和尚は無表情で平静な心で座っている。


 さすが和尚。


 今度は綾香先生のお尻に信二がゴム2本をヒットさせた。



「キャッ」



 お尻を教科書で押えて、綾香先生が周りをキョロキョロと振り返っている。


 信二は教科書を立て、顔を隠して肩を震わせて笑っている。


 今の綾香先生は教科書でお尻を隠しているから、大きくて形の良い胸が無防備になっている。


 これはチャンスだ。


 春陽は2本の輪ゴムを指に引っ掛けると、綾香先生の胸へ狙いを定めて輪ゴムを放った。


 春陽の放った輪ゴムは胸から大きく逸れて、綾香先生の低くて可愛い鼻に当たる。


 そして鼻に輪ゴムがひっかかった。


 目を寄せて輪ゴムを見て、綾香先生が指で鼻にあった輪ゴムを掴む。


 とっさに身を低くして隠れようとするが、綾香先生と春陽の視線がバッチリと合った。


 綾香先生が静かに微笑む。それはとても静かな微笑みだった。



「は~る~ひ~くん! これは一体、な~にかな?」


「……」


「先生と、生徒指導室へ一緒に行こうね! はい、立ちましょう!」



 和尚と信二が肩を震わせて笑っている。2人の思惑通りになったわけだ。


 我が行動に悔いなし!


 春陽は綾香先生に腕を掴まれ、教室を出て生徒指導室へと歩いていった。

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