表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/53

第17話 校舎裏にて

 校舎裏へ信二、和尚、優紀、春陽の4人で向かう。


 校舎裏は普段、使用する建物などはなく、ただ花壇の花が飾られているだけの場所だ。


 時々、人目を忍んで告白をしたりする男女に使用されることも多い。


 しかし、男子同士の喧嘩などの呼び出しの場所にもなっている。


 校舎裏へ行くと、4人の男子が立っていた。


 どの生徒も体がガッチリしていて、茶髪にしていて、ネクタイを外して、シャツを腕まくりしている。


 春陽が見たこともない男子達だ。たぶん3年生の男子だろう。



「なぜ、呼び出されたか、わかってるだろうな?」



 春陽は呼びかけに応じる。



「絵理沙先輩のことですか?」


「そうだよ。俺達の絵理沙に手を出すんじゃねーよ!」


「俺は絵理沙先輩に手を出してないですけど? 何か勘違いしてないかな?」


「うるせーよ! 噂で聞いたんだよ! お前が絵理沙に告白してるって、そしてストーカーしてるって聞いてるぞ!」


「それは間違いだ! 俺が絵理沙先輩に告白されてるの!」



 4人は呆然と春陽の顔を見る。


 その場で動かなくなっている4人。


 これからどうするつもりだろう?


 間違えて呼び出したなんて、凄くはずかしいだろうな。


 段々と4人の顔が真っ赤になる。



「絵理沙に告白されたってー! くそ羨ましい! 絶対に許せねー!」



 やっぱり、こうなるのか。


 4人が春陽を囲もうとする。



「待たれよ。4人共、其方達の怒り、拙僧が引き受けよう」



 180cm、100kgを超える巨体の和尚が、着物に袈裟を着て、草履を履いて、春陽の前にズイっと出る。



「殴るなら拙僧にいたせ! 拙僧を殴り倒さねば春陽殿の元へは行けぬぞ」



 両手に数珠を持った和尚が両手を広げ、4人の男子達の前に立ちはだかる。


 4人の男子達は大柄な和尚を避け、横に回り込む。


 すると信二が両手を広げて、春陽を守るように4人の男子達の前に立つ。




「殴るなら、俺を殴れ。いや、是非、殴ってください!」



 4人に男子は和尚と信二の行動に戸惑っている。


 4人がコソコソと声を潜めて相談を始める。



「あの2人、変で怖いんけど……」


「俺もあの2人とは拘わりになりたくない」



 他の2人も激しく首を縦に振っている。



「ここまで春陽殿を呼び出したのはお主達であろう。何を迷うことがある。お主達は何も考えず、拙僧を殴れば良いのだ。さー殴りなさい」



 和尚は4人の男子達に殴られることを期待して、頬をピンク色に染めて、大きな目をキラキラと輝かせている。


 4人の男子達でなくても、こんな和尚を春陽も殴りたいとは思わない。


 4人の男子達に同情する。


 迷ったまま、4人の男達は和尚を避け、信二の元へ向かう。



「そうだよな。和尚みたいな大柄な男よりも、普通に考えて俺を選ぶよな。さー遠慮なく殴ってくれ」



 信二の頬がピンク色に染まる。瞳がキラキラと期待で輝いている。


 信二の前に男子4人が恐々と近づいていく。


 すると横から和尚が信二に体ごとぶつかってきた。


 思わず、不意打ちをくらった信二が花壇まで吹き飛ぶ。



「なりません。なりませんぞ。信二殿だけ良き目を見ようとは。それは拙僧と言えど許しませぬ。殴られるのは拙僧の役目。さー拙僧を殴るが良い」



 4人の男子は顔を青ざめて、和尚から距離を取る。


 そして、春陽達とは少し離れた場所で、4人の男子達がまた相談を始めた。



「あいつ等、絶対にヤバい。殴れるのを嬉しそうに待ってる」


「あれか? 特別な性癖の持ち主か? 絶対にそうに違いない!」


「あいつ等を殴って、喜ばれたら怖すぎる」


「もう、止めようぜ。俺、段々、怖くなってきた」



 4人の男子達は和尚の異様な迫力にすっかり怖気づいてしまっていた。



「もう相談は終わりましたかな? 拙僧を殴る順番でも決めておられたのかな?」



 いきなり後ろから聞こえた美声に振り返った、4人の男子達は、和尚を見て逃げ腰になっている。



「いや、もういい。俺達はもう拘わらない。もう帰ろうと思う」


「それはなりません。なりませんぞ。ここまで来て拙僧を殴らずに帰るなど、拙僧が許しません。早く殴れといっておろう」


「本当にお前達のことが怖いんだって! 冗談抜きで帰らせてくれよ!」


「こうなったら仕方ありますまい!」



 和尚が目をクワっと見開き、闘牛のようなポーズになると4人の男子生徒に突っ込んでいく。


 4人の男子達は慌てて和尚の体当たりから逃げる。


 和尚の前進タックルの速さに肝を冷やす4人の男子達。


 和尚はグルリと体を反転させ、また4人の男子達に向かって突進していく。


 そして4人の男子達の前に立ちはだかる。



「これでお主達もやる気が出たであろう。さあー、殴るが良い」



 男子達は無言で全力で首を横に振っている。


 和尚が4人の男子達の前に顔を突き出して、目を輝かせていると、いきなり真横から信二のドロップキックが和尚の横顔に炸裂する。


和尚は笑顔で喜んで吹っ飛んでいく。


 信二が吼える。



「殴られるのは俺だって言ってるだろう。人を吹っ飛ばして、自分だけ殴られようとするなんてズルいぞ!」



 4人の男子達は呆気に取られて信二を見る。



「もう、邪魔者はいないぜ。俺1人だ。さー思う存分、力の限り殴ってくれ」



 信二は両手を広げて優しい眼差しで4人を見つめて、微笑みながら、近づいていく。



「来るなーー!」


「イヤだーー!」


「お前達、絶対に変だろーー!」


「もう帰るから、許してくれよーー!」



 4人はそれぞれに悲鳴のような声をあげる。


 ゆっくりと歩いて来る信二がいきなり真後ろから吹っ飛ばされた。


 和尚の全力疾走のタックルが信二を吹っ飛ばしたのだ。



「拙僧が殴られると言っているのに邪魔は許さぬ」



 校舎裏に倒れた信二が、立ち上がって振り返る。




「俺が殴られるって言ってるだろう―が! 邪魔するなー!」



 和尚と信二がぶつかり合う。そして殴り合う。



「俺が殴られるんだー!」


「拙僧こそが相応しいー!」



 二人は拳を握って、お互いに顔や体を殴り合う。


 それを見た4人の男子達は春陽達のいる方向とは逆方向へ逃げていった。


 たぶん、あの4人が自分に拘わってくることはないだろうな。


 ずいぶん、顔が青ざめていたし、信二と和尚がこわかったんだろうな。


 春陽はいつまでも4人の男子達に同情していた。


 和尚の鼻の両方の穴から鼻血が出ている。


 信二の顔は右目のまぶたが腫れあがって、右目が見えないようだ。


 それでも二人は争いを止める様子はない。



「どうしよう、優紀。これはどうしたらいいと思う?」


「俺も今の2人を止めたくねーよ。俺まで巻き添えになるのはイヤだしな。たぶん、今の2人を止めに入ったら、俺まで殴られる」


「非力な俺だと優紀よりも止められないよ」



 後ろから、いくつもの足音が聞こえて来た。


 振り返ると圭吾先生と京香先生と綾香が走ってきている。


 香織は予定通りに先生達を呼んできてくれたらしい。


 助かった。


 早く2人を止めてほしい。


 信二と和尚は激しく戦っている。もう戦っている意味さえ覚えていないだろう。



「お前達、止めろ! どうしてお前達が争ってるんだ? 俺が聞いた話と違うぞ! どうなっているんだ?」



 圭吾先生が混乱するのも理解できる。見ていた春陽と優紀でさえ混乱しているのだから。


 圭吾先生は走っていって、無理やりに信二と和尚の間に体を入れて、体全身で2人を止めようとする。



「俺が殴られるんだよー!」


「拙僧が先だー!」



 圭吾先生の体を挟んだまま、2人の争いは続く。



「うぉぉおおーー! 止めろーー! お前達、正気に戻れーー!」



 圭吾先生は力任せに2人を離そうとするが、和尚の体格と2人の争いによって、圭吾先生が勢いよく弾き飛ばされる。



「この2人は何で争ってるの?」



 綾香が不思議そうな声で聞いてくる。



「最初は上級生4人から俺を助けるために、誰が殴られて、京香先生に治療してもらうかという話だったんだけど……」


「上級生4人に信二と和尚が殴れって迫って……和尚が信二のことを邪魔だと吹き飛ばして……そして信二が和尚が邪魔だと吹き飛ばして……それから争いになりました」


「肝心の上級生の4人組は?」


「信二と和尚が怖くて逃げました!」


「今はどうして、2人は殴り合ってるの?」


「なぜかよくわからないけど、京香先生に治療してもらう権利を賭けて、今、2人は争っています」



 綾香は春陽と優紀から話を聞いて、頭が痛くなった。


 京香先生も額を押えている。



「もう、私が止めるしかないのね」



 綾香、春陽、優紀の3人は京香先生を見て、同時に頷いた。


 京香先生は「仕方ないわね」と小さく呟いて、甘い吐息を漏らす。



「は~い! そこまでよ~! 2人共、優しく、丁寧に私が治療してあげるから、喧嘩は止めて!」



 殴り合っていた信二と和尚の動きがぴたりと止まる。


 そして2人同時に京香先生の方向へ振り返る。


 その顔はすごいことになっている。


 和尚の顔は鼻血がダラダラ出ていて、左まぶたが腫れあがっている。


 信二の両目のまぶたは腫れあがり過ぎて、たぶん、前も見えない状態だ。


 2人には京香先生の声や姿が見えているのだろう。


 2人はニッコリと笑って抱き合って喜んでいる。



「やりましたぞ! 信二殿!」


「やったなー! 和尚!」



 2人の喜んでいる声が校舎裏に響く。



「さあー、浩平君、信二君、優しく丁寧に治療してあげるから、大人しく保健室まで付いて来てね」



「「は~い!」」



 肩を抱き合い、信二も和尚も、少し足を引きずりながら、校舎裏を歩いて来る。


 そして京香先生と合流すると、2人は怪我した顔で、満開に咲いた花のようなに笑っている。


 京香先生は信二と和尚の間に体を入れ、両手で2人の腕を持って保健室まで連れていく。


 2人が喜んでいるのが後ろ姿からもわかる。


 綾香が春陽のブレザーを引っ張る。



「私達も帰りましょう。事情も聞きたいし、信二君と浩平君の容態も気になるし」



 春陽と優紀は黙って頷く。


 そして3人で歩き始めた。


 圭吾先生がいなくなったことに誰も気づいていなかった。


 保健室に着いた信二と和尚は京香先生に全身を治療してもらって、幸せを噛みしめていた。


 優紀は教室へ戻り、春陽は事情を話すため、保健室で綾香に捕まっていた。



「春陽君の話をまとめると、2人はただ、京香に優しく治療してほしかっただけなのね」


「簡単に言えばそうなる」


「2人は京香のことが大好きなのね」


「そうだね。たぶん桜ヶ丘高校で1番、京香先生のことを好きなのは、あの2人だと思う」



 それを聞いた綾香が頬をピンク色に染める。



「いいなー! 情熱的に愛してもらえるって、憧れるなー!」



 そしてじーっと春陽の目を上目遣いで見つめる。


 小さい声で綾香が春陽に聞いてくる。



「春陽君もあの2人ぐらい私のことが好き?」


「~~~~~!」



 恥ずかしくて、そんなこと言えない。



「今日の夜、部屋で待ってるから、その時に答えを教えて!」


「……」



 信二や和尚なら簡単に言うんだろうが、春陽は恥ずかしくて言葉が出ない。



「期待して待ってる!」



 綾香は頬を真っ赤にして、目を潤ませていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ