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Outlaw Gunners ーハーレム小隊の憂鬱な日々ー  作者: 梨乃 二朱
序章:『新撰組』の三人娘
7/63

幕間

 モテる薫くん。

 渡り廊下に通り掛かったところ、的場薫が欄干に手を置いて死んだような目をして立っていた。

 見る人が見れば、自殺志願者のように見えなくも無い。


「何やってんだ、お前?」


 雨竜毬耶は、堪らず声を掛けた。

 するとどうした事だろう。

 先程までの死にそうな面構えから恐怖したような面持ちに変わり、的場薫は「すみませんでした!」と悲鳴のような声を上げて頭を下げて謝るのだ。


 毬耶は溜め息を吐くと、彼の隣に歩み寄る。

 的場薫は頭を下げたままだったので、その頭へポンッとタブレット型端末を置いた。


「また騒ぎを起こしたのか? あの三人娘は?」


「はい…………」


 的場薫は下を向いたまま苦笑する。

 謝罪参りでこってり怒られた後なのだろう、と容易に想像が付いた。


「取り敢えず頭を上げろ。人目がある」


「はい…………」


 いつにも増して元気の無い声音だ。

 今回は相当に怒られたのだろう。


 一年間、怒られ続ければ馴れるものだと思うのだが、どうやらこの青年は違うらしい。

 部下の尻拭いで怒られ続けて早一年、未だに怒鳴られたりするのに馴れないようだ。


 訓練生の頃から面倒を見てきたが、的場薫という青年は真っ直ぐな子なのだ。

 何事も真正面から受け止めて、押し負けて挫けるような馬鹿な子だ。受け流せば良いものを。

 そのストレスを任務や訓練に費やして居るから保っているものの、そろそろ限界が近いのかも知れない。


「僕は、彼女達に相応しく無いのかも知れません」


 いつもの口癖だ。

 愚痴を溢す時の常套句でもある。

 この青年は、傍目から見てもじゃじゃ馬な三人娘を、誰よりも上手く纏められている。その評価が無ければ、とっくに隊長の任を解かれている筈だ。

 そうやって何度となく元気付けてきたが、彼は全く自信を付けない。


 図太いと思われがちだが、誰よりも繊細な青年。

 それが的場薫だ。


 この日も愚痴を語り終えた彼の目元には、うっすらと涙が浮かんでいた。

 怒られて辛かった事もあるだろうが、何よりも自分の不甲斐なさが悔しいのだろう。

 そんな風に思う必要など無いのだが。


「いつも話を聞いてくれて、ありがとうございます」


「気にするな。同門の好、という奴だな」


 たまにはガス抜きをしてやるべきか。

 そう思った毬耶は、個人用の端末を取り出しメールを送信した。


「ま、しっかりやれ。少なくともあの三人娘には、お前が必要だからな」


「善処します…………」


 的場薫は頭を押さえながら答える。

 すると、彼のジャケットの内ポケットから軽快な電子音が鳴り響いた。











 木刀を持って稽古を付けて貰うのは、幼い頃から変わりはしない。

 そして滅多やたらにぶん殴られ、ギッタギタにやられるのも昔から変わらない。


「相変わらず弱いですね? 薫くん?」


 クスクスと笑いながら、三科凛子は大の字に倒れる的場薫を覗き込む。

 籠手を付けていても、彼女の打ち込みは防ぎきれない。

 鋭い上に重たいのだ。


「ちょっと腫れるでしょうけど、我慢して下さいね。って、いつもの事でしたね」


 楽しげに微笑む女剣士は、先程の打ち合いの時とはまるで別人だ。

 三科凛子は美しい。

 男女問わず、誰もが認める絶世であり傾国の美女である。

 腰まで伸ばした黒髪はまるで天鵞絨の様に艶やかで、その真珠の様に白い肌は瑞々しい。剣術家らしい凛とした面持ちは、剣を持った時は刃の切っ先のような鋭さを持って相手を威圧するが、平時は優しげでさながら女神のような犯しがたい神性を帯びている。

 共通の胴着も、彼女が着れば儀式装束の様にも感じられた。


 文武両道の美少女。

 三科凛子こそ、『咲浪銃器学園』の生徒会長である。

 が、薫にとっては恐ろしく強い剣豪というイメージしか無い。


「いつになったら、私を超えてくれるんですか?」


「いつになるでしょうね…………」


「あら、入門時はあんなに威勢良く啖呵を切っていたというのに」


 確かに入門時、三科凛子を目標として彼女を超える剣士になると豪語した。

 しかし、あの頃はまだ十歳にも満たない子供だった。

 現実を理解出来ていなかったのだ。


「まぁ、日に日に上達はしていますから。精進あるのみです」


「こんだけボコボコにヤられた後に言われても、自信にはなりませんよ…………」


「それは、貴方が弱いのがいけないのですよ?」


 素晴らしく美しい笑みを浮かべながら、心に刺さる文言を吐く三科生徒会長。

 どうしてこうも薫の周りには、最強と謳われる少女が多い。

 そういう星回りなのだろうか。


「薫、終わった?」


 不意に現れたのは、同じ小隊メンバーの褐色美少女、クララ・クラーク・クランだった。最強の少女の一人だ。

 薫が打ち合いをしている最中、ずっと道場の隅っこの方で待機していたようだ。自由時間は自由にしてくれて良いのだが。


 因みに道場の入り口付近では、男女入り雑じったギャラリーが形成されている。

 三科凛子が剣を振るう場面を見るべく集まった野次馬だ。

 二十人程しか居ないのは、今日が学園の休日であるからだろう。けど、二十人余りの学生に、無様に負ける様を見られたことには変わり無い。


「こんにちは、クララちゃん」


「こんにちは」


 薫を挟んで挨拶を交わす二人。

 傍から見れば、美少女に挟まれている構図であろう。今は、あまり嬉しくないが。


「お腹空いた」


「ん? うん、分かった」


 無感情な蒼い瞳で見詰められ、薫は痛みも忘れて上体を起こす。

 この瞳には、何か逆らえない。独特の威圧感がある。


「シャワー浴びるから、ちょっと待ってて」


「うん」


 コクりと頷くクララ。

 こうしていれば普通の女の子なのだが、と思いながら、薫は木刀を片手に立ち上がる。


「じゃあ、三科さん。今日はありがとうございました」


「えぇ、私も良い汗をかきました」


 そういう三科生徒会長の肌には、汗の一滴も無く、面持ちは涼やかである。

 流石は学園最強の『ガンスリンガー』と言われるだけはある。


 薫とクララが彼女の傍から離れると、直ぐに取り巻きが彼女の周りを埋め尽くした。

 手に手にタオルや水を持って、彼女のご機嫌を取ろうとしている。


 別に羨ましくは無いが、こう歴然とした差を見せ付けられては楽しくない。

 もっと精進しろ、という事だろう。心身共に。


「…………んあ?」


 不意に左腕に温かな体温を感じた。

 見ると、クララが腕を絡めて抱き付いていた。

 薫の心境を察しての行動だろう。


「ありがとう、クララ。けど、汗臭いから」


「臭くない」


「そ、そうか…………」


 多数の人間に囲まれる事は無いが、少なくとも一人の美少女に抱き付かれるのは素直に嬉しい。

 薫はクララを連れたって、道場を後にした。











 マリさんへ。


 メールありがとうございます。

 お元気そうで良かったです。

 メールだけでも戴けて、何より僕の励みになります。

 また近い内にお会いしましょう。


                カオルより。

 伏線かどうかは、今後のストーリー次第。


 クララのイメージは薫になつく猫という感じです。

 いつも気付けば傍に居る、みたいな。

 身長と胸は小さめで、しなやかな感じです。

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