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第八話

 決死の攻防。

 撃ち倒しても撃ち倒しても次から次へと姿を現す『フリークス』の軍勢を見ていると、いつの日か『新撰組』のメンバーでゲームセンターに寄って遊んだ“モグラ叩き”を連想してしまった。

 叩いても叩いてもニョキニョキと姿を見せる機械仕掛けのモグラの方が、討ち漏らしても殺しに襲い掛からないだけ可愛いげがあるというものだ。

 等と下らない事を考えている暇など無かった。


 薫の限界は近かった。

 『フリークス』の軍勢は、止まる所を知らないかの如く射殺した端から新たに姿を現して襲い来る。あまりの数に研ぎ澄まされっぱなしとなった集中力が、いよいよ欠け始めて来ていた。

 薫だけでなく、青年も限界のようだった。

 弾の節約の為であろう自動小銃をセミオートにして使っていた青年だが、つい先程、小銃を背に回し自動拳銃をホルスターから抜き放った。

 小銃の弾倉を使い果たしたのだろう。


 刀折れ矢尽き、とはこの事だろう。

 薫は『ガンスリンガー』であるからともかく、青年は自動拳銃の弾を切らせば、後はナイフしか頼るものが無い状況に陥る。

 そうなれば事態は悪化する一方であろう。

 今でさえ、突撃銃を備える『不死人』に手一杯だというのに、これ以上の戦力が減る事は死を招き兼ねなかった。


「二等兵、ゾンビはこちらに任せて、お前はあの『アンデッド』どもを黙らせる事に集中しろ!」


「了解!」


 青年の指示に集中力を敵兵へ絞る。

 『不死人』は姑息な事に、ゾンビばかりを前に出して自分達は十分過ぎる程に距離を取りこちらの邪魔をするように銃撃を行うだけである。消耗戦に移行したのだろう。

 確かに正しい判断である。

 『不死人』は人間と違い既に死んでいる為、疲れる事を知らない。消耗戦になれば、こちらが圧倒的に不利である。


 薫はレバーを捻りながら、この戦場からの離脱方法を思案する。

 空路が使えぬ以上、退路は一つしかない。

 それは今も『フリークス』が抑える階下へ続く扉である。そこしか屋上から撤退出来る道は無かった。

 しかし、二度も言うが扉は『フリークス』が抑えている。そこを無理やり通る事は必死であろう。

 流石の青年も、そこまで無謀な作戦は立案しなかった。


 それもここまでかも知れない。

 こう追い詰められては、消耗戦で徐々に殺されるか無謀にも敵に突っ込んで一か八かの撤退を敢行するかの二つに一つしかない。どちらを選んでも死ぬならば、せめて可能性が少しでもある方を選ぶ方が無難であろう。


 そう思案する最中、不意に巨大な影が薫の上に覆い被さった。

 悪寒が全身に迸る。

 上を向くまでも無い。

 ガルダだ。

 ガルダが薫と青年を蹂躙すべく、この屋上へ降り立ったのだ。


「この、クソめッ!」


 無駄だという事は百も承知である。

 しかし、恐怖を打ち払うべく激昂した薫は、『Outlaw M1894』レバーアクションライフルの銃口を振り上げていた。

 ガルダにライフル弾など通用しない。ましてや拳銃弾を使用する『Outlaw M1894』が、太刀打ち出来る筈など無かった。

 それでも怒りに身を任せた体は、銃口を振り上げてしまった。


「■■■■■ーーーー!」


 刹那、この世のモノとは思えない鳴き声が薫の鼓膜を震わせた。

 それと同時に、唸るような銃声が轟いた。


 死んだ。

 今度こそ死んだ。

 これまで幾度と無く死を覚悟する場面はあったが、その度に奇跡が起こり何とか乗り越えて来た。が、こればかりは流石に逃れられはしないだろう。

 薫の冷静な部分が自分の死を覚悟した瞬間、思わぬ光景が目に飛び込んできた。


 何とガルダの背に、一発のミサイルが喰らい付いたのである。

 ミサイルは轟音と共に爆発し、背中の『不死人』ごとガルダの『コア』を破壊した。

 制御を無くした怪鳥は、薫の頭上を通り過ぎて屋上の片隅に墜落した。


「へ?」


 間の抜けた疑問符だけが、口をついて出た。

 すると今度は、プロペラが回るローター音が耳朶を打った。


「攻撃ヘリ? ーーーー友軍だ!」


 次の瞬間、天空より姿を現したのは友軍の攻撃ヘリコプターであった。

 それも一機だけでは無く、複数機も上空を飛んでいた。


「やっと来たか! 待ってたぜ!」


 いつの間にか薫の隣に来ていた青年が、声高に叫んだ。

 その顔には満面の笑みが刻まれていた。


「こちら『ホークアイ』、これより機銃による斉射を行う」


 次の瞬間、攻撃ヘリコプターが屋上の『フリークス』の軍勢を攻撃し始めた。

 形勢逆転である。

 追い詰める側から追い詰められる側へと変わった『不死人』は、機関銃による銃撃に次々と倒れていった。


「これで助かるぞ、二等兵!」


 青年は薫の肩に手を置く。

 薫はと言うと、先程の緊張から解放された事で一気に力が抜け、地面に座り込んでしまった。


「おい、大丈夫か?」


「すみません。力が抜けてしまって…………」


「情けない奴だな。ほら、しっかりしろ」


 座り込む薫の腕を取り、青年は優しく立たせてくれる。


「情けない奴だが、根性は確かなようだな。お前、名前は何てんだ?」


 青年は優しげな面持ちで問い掛ける。

 指摘されるまで、自分が名乗っていなかった事に気が付かなかった。そして、この青年の名前も知らなかった。


「あの、的場薫って言います」


 素直に名乗ると、青年は怪訝な表情をした。


「マトバ・カオルだって?」


「は、はい、その…………」


 何か気に障る事でも言ったのか。

 薫は恐る恐る青年の動向を伺う。


「奇遇だな。俺もマトバ・カオルって言うんだ。“的を射る場所”で的場、“薫り”で薫だ」


 驚く事に青年の名は的場薫というらしい。

 確かにそう珍しい名前では無いが、まさか寸分違わずの同姓同名の人物と出会うとは思いもしなかった。


「ーーーーッ!?」


 刹那、頭に鋭角な痛みが走った。

 いつもの頭痛のようで、それでいていつもより激しい痛み。

 目眩が起こるほどの痛みに、薫は思わず膝から崩れ落ちる。


「おい、どうしたら二等兵!?」


 青年、的場薫の声が遠くに聞こえた。

 次の瞬間、周囲の風景がまるで掻き乱されるかの如く歪み始めた。それに呼応する様に頭痛も激しさを増す。


「うあ、あぁぁぁあぁぁぁぁーーーー!」


 やがて風景が安定すると共に頭痛は収まり、自由となった体が重力に任せるままにうつ伏せに倒れる。

 うっすらとした意識が、このまま倒れるとコンクリートに打ち付けるぞと危険信号を下す。が、実際に体が感じた感触は、コンクリートのそれと違っていた。


 それは“木”であった。

 木製の床に叩き付けられた体が、酒と死肉の酷い悪臭を覚えた。

 薫は先程までの頭痛の名残が残留する頭を振りながら、状況を把握すべく立ち上がろうとした。


「動くな!」


 不意に頭上で怒鳴られたかと思えば、我が眉間にブーツの先がぶつけられた。

 あまりの衝撃に体が宙を浮いた感覚に陥り、何事か事態を処理出来ぬ内に仰向けに倒れた。


「貴様はそこで死に損なっていろ!」


 朦朧とする意識の中に、『フリークス』のものであろうワインレッドの制服を着た男が映り込んだ。

 土気色の肌に赤い瞳をした男は、間違う事無く『不死人』である。


 分けが分からなかった。

 先程までビルの屋上で『フリークス』を撃退して大団円となっていた筈なのに、次の瞬間には『不死人』に囚われているとは。

 これはもう、薫の理解の範疇を超えている。


「…………何だ?」


 不意に男が窓辺に駆け寄った。

 直後、凄まじい爆発と轟音が木造の家屋内に木霊した。

 窓は壁ごとごっそりと破壊され、床に倒れていた薫は無事であったが、窓辺に居た『不死人』は木端微塵に吹き飛んだ。化け物とは言え、人の成りをしたモノが吹き飛ぶ様は、あまり心地好いものとは言えなかった。

 すると、今度は銃声が轟き、火線が家屋を蹂躙する。


「二等兵? 的場二等兵か?」


 その声には聞き覚えがあった。

 やがて白煙立ち込める中から、一人の青年が姿を現した。

 連邦海兵隊のアサルトスーツに身を包み、紅い瞳をした精悍な顔立ちの青年はハニカミながら薫のもとへ駆け寄って来た。


「的場薫が、的場薫と再会だな」


 薫は差し出された手を取り、ゆっくりと立ち上がる。

 青年、的場薫との二度目となる対面であった。

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