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第七話

 追い詰められて。

 さて、目標の対空システムを破壊する事は出来た。

 ミシェルとクレイの両名の尊い犠牲による作戦の成功である。二人の勇敢な兵士の存在は、的場薫の胸に一生刻まれる事であろう。

 これが映画やゲームなら、作戦目標を遂行したという事で幕引きとなるだろうが、実際はそうはいかない。

 部隊はたった二人となってしまったが、ここから撤退せねばならなかった。


「『ワイルドバンチ』から『オーバーロード』へ! 対空兵器は無力化したが敵に追い詰められている! 航空支援を求む!」


 ようやく我を取り戻した薫と青年は、撤退に向け準備を行っていた。

 屋上に退路は、一つしかなかった。

 薫達が必死に駆け上がってきた道のりは、既に『フリークス』の軍勢に押さえられ使用する事は不可能であった。ならば、何処へ逃げるか。

 空へ逃げるしか無い。


「こちら『オーバーロード』。戦域内の制空権を取り戻すのに暫く時間が掛かる。航空支援は送れない。自力で脱出してくれ」


「…………了解! くそったれ!」


 しかし、唯一の退路も使えない状況のようだった。

 青年が司令部とやり取りしている様を盗み聞きしていたが、どうやらガルダや対戦ヘリ等の航空戦力に制空権を抑えられ、救援を送る事が出来ないようだった。

 薫としては帰り道の心配もさることながら、もう一つ気掛かりな事があった。


「他に対空兵器は? まさか一機だけではありませんよね?」


 そう、この場所の対空兵器は潰したが、他にもあると考えることは自然な事だ。その証拠に、青年は薫へ“各ビル”と言っていた。複数あると考えて然るべきだろう。

 ここが何処で、どういう状況なのかは薫には分からないが、分からないなりに状況を分析しての事だった。


「心配するな。他の部隊が対処している」


 青年がそう言った直後、別のビルの屋上で火の手が上がった。

 対空兵器が破壊された爆発、だと思いたい。


「今はそれより、眼前の問題に集中しろ!」


「了解!」


 眼前の問題とは、『不死人』とゾンビの群れである。

 こうしている間も、『不死人』の兵士は銃撃を行いゾンビはよたつく足取りで距離を詰めてくる。まだ“走るタイプ”のゾンビで無いだけマシだが、やはり多勢に無勢は否めない。

 たった二人で相手取るには、圧倒的に火力が足りなかった。


 そう冷静に分析しながら銃撃を行っている内に、銃爪を弾いても銃弾が出なくなった。単に弾切れを起こしただけだ。

 薫はすかさず空となったマガジンを排出しながら、ポーチから新しいマガジンを取り出そうと手を伸ばす。が、幾らポーチをまさぐろうとマガジンに行き着く事は無かった。

 まさかと下を向き自分の目で確かめて見ると、ボディアーマーに備え付けられているマガジンポーチは全て空となっていた。


「最後の弾倉だったか…………」


 排出し地面に転がったマガジンを眺めながら、薫は恨めしく呟いた。

 それも束の間、『M8A2』を放り捨て別の武器を装備する。


 鋼鉄の銃身を木で覆ったアンティークライフル。

 狼の紋章と『Outlaw Gunner』という刻印の彫られた西武開拓時代を代表するような銃器。

 的場薫の『適性銃器』、『Outlaw M1894』レバーアクションライフルが、満を持するように手中に姿を表した。


「頼んだよ、相棒」


 ハンドガードと一体となったレバーを捻り、チューブ型マガジンに納められた銃弾を薬室へと装填した薫は、アイアンサイトを覗き込みゾンビの一体に狙いを付ける。

 照門と照星、そしてゾンビの頭部が一直線に並んだ瞬間、トリガーに掛けていた人差し指が弾かれた。

 刹那、撃発。

 馴染み深い衝撃と火薬の爆ぜる音と共に『.45対不死人弾』が撃ち放たれた。


「『適性銃器』、か」


 一体目のゾンビを一撃で葬り去った薫は、次の標的へと照準をスライドさせ撃発を繰り返す。

 あっという間にチューブ型マガジン内の銃弾を撃ち尽くした頃、青年が然も以外と言わんばかりに『Outlaw M1894』を見詰め呟いた。


「お前も犠牲者の一人だったんだな…………」


「へ?」


 ほぼ無意識の内に呟いたのか、青年は疑問符を浮かべる薫を見返すと先程の発言を取り消すように「長丁場になるぞ」と言い放つ。

 それきり意識を戦場に戻し、薫の方を振り返る事は無かった。


 聞き返そうと口を開き掛けた薫だが、眼前に迫り来るゾンビの軍勢にそれどころでは無くなり慌てて『.45対不死人弾』を喚び出し弾倉へ込めて行く。

 青年の言葉の“犠牲者”という意味は分からなかったが、少なくとも“長丁場になる”という意味だけは理解できた。

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