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第二話

 平和な三人娘。

 一ノ瀬優は的場薫を捜して、学園中をうろうろと歩き回っていた。

 先程、生徒会長にかっさらわれてから二時間以上の時間が経過したというのに、的場薫は一向に姿を現さなかった。それどころか連絡の一つも無い。

 もしかすると避けられているのか、と一瞬考えたが、それは無いなと自らを納得させた。嫌われているなら、二人きりで話したいなんて言わない筈だ。


「気は進まねぇが、生徒会室に行ってみっかな」


 本当に気は進まないが、もしかすると三科凛子ならば居場所を知っているかもしれない。彼女を頼るのは何よりも嫌だが、背に腹は代えられない。

 いや、もう一人頼れそうな人物が居たな。

 クララ・クラーク・クランだ。

 いつも的場薫に付きまとっている彼女なら、居場所を知っている可能性は高い。


 そう理解するや、優は携帯端末を取り出してクララへ電話を掛ける。

 すると、真後ろから通知音が聞こえてきた。何気無く振り返ると、驚くことに直ぐ後ろにクララの姿があった。


「くノ一かお前は」


「どっちかと言うとスパイだと思う。ーーーーそれで、何か用?」


 クララは無表情に問い掛ける。

 優は端末をポケットにしまうと、彼女へ向き直った。


「薫の居場所知らねぇか? 見当たらないんだが」


「薫なら雨竜先生の家に行った」


 的場薫の思わぬ行動に、優は不機嫌に溜め息を吐く。

 完全にこっちの事を忘れてやがる。


「何で雨竜ちゃんの所に行く必要があるんだよ? こちとら楽しみにして待ってたってのに」


「知らない」


 苛立ち紛れにクララに噛み付くが、彼女は何食わぬ顔であしらった。

 そう言えば、いつもベッタリな彼女が的場薫の元を離れているのは珍しい。離れていたとしても、何処からか監視しているというのに。


「お前は行かなくて良かったのか?」


「あの人、説教ばっかで苦手。小言は薫の分野」


「あぁ、成る程な」


 雨竜毬耶は優やクララといった“『新撰組』の三人娘”を見付けると、直ぐに説教を垂れ流してくる。

 三人の間では三科凛子に次ぐ要注意人物として警戒されていた。故にクララが苦手意識を持っていても可笑しくは無い。


「イチは薫に何の用があるの?」


「ん? まぁ、ちょっとした内緒話をだな」


 優の答えにクララは問い掛けておいて興味無さげに「あっそ」と言った。


「薫は夕方まで帰らないと思う 。それまで時間潰してたら?」


「四時間近くあるじゃねぇかよ。雨竜ちゃんにそんな用はねぇだろ」


「でも、薫が夕方まで帰らないって言ってた」


「何であの鉄仮面にそんな時間割くんだよ! 俺を優先しろよ!」


「それは知らない。まぁ、薫の動向は常にトレースしてるから、帰ってきたら知らせるね」


 憤る優とは相反するように、クララは冷徹なまでに無感情であった。

 伝える事だけ伝えたと言わんばかりのクララは、くるりと踵を返して立ち去ろうとする。


「おい、お前は何処に行くんだよ?」


「時雨の所」


 クララは足を止める気配すら無く、スタスタと歩いて行く。その後を優は追った。


「何しに行くんだよ?」


「新しい装備を開発したらしいから、それを受け取りに」


「へぇ、面白そうじゃん。俺も行って良いか?」


「うん、別に良い」


 時雨の研究室なら良い暇潰しになるだろう。

 そう考えた優は、クララと共に時雨のもとへと足を運ぶのであった。











 一ノ瀬優は天真時雨が取り出したライフルに釘付けとなっていた。

 クララの『適性銃器』に合わせたライフルは、『スプリングフィールド造兵廠』が開発した『M14』自動小銃に似た様相をしていた。というより、『M14』を『対不死人弾』に対応させる為に改修したと言った方が良いかも知れない。

 特殊錬金素材の鋼鉄とポリマー素材で設えられたライフルを、クララはいつもの無感情で無表情なまま受け取った。


「重たい」


「『適性銃器』に比べれば重たくなるものだ。その代わり、フルオートとバースト射撃が出来るように改造しておいたからな。二十発マガジンで対応出来るだろう」


「別に連射出来なくても良いのに…………」


 嬉々として説明する時雨に対して、クララは何処か不服そうに銃身を撫でる。

 全く、面白そうな代物である。是非とも撃ってみたい。


「クララ、試射しようぜ、試射! あの辺の壁に向かって」


 優は適当な広さの壁を指差して、クララに射撃を迫る。


「おいおい、こんなところで撃つのは止めてくれ。ここには高い機器やら精密な機械が沢山あるんだからな」


「別にここで撃つ気は無い」


「ちぇっ、何だよ面白くねぇなぁ」


 結局、クララはライフルを試射することは無かった。優なら一も二も無くぶっ放つというものを。

 因みにこの研究室は、元は何かの準備室だった教室を時雨専用の部屋に改造したものである。他に生徒は居らず、勿論、教師も居ない。

 この研究室の存在は、雨竜女史も黙認する所にある。


「ところで、何でイチが居るんだ? 私はクララだけを呼んだのだが?」


「薫にフラれて暇らしい」


「フラれてねぇしっ!」


 時雨の問い掛けにクララが不名誉な説明をした。

 別にフラれたわけではない。後回しにされただけである。不本意ではあるが。


「薫は? 何処に行ったんだ?」


「雨竜ちゃんの所だってよ。ったく、俺をほったらかして何であの年増の所に行くのかね?」


 愚痴る優に対して、時雨は「あぁ、雨竜女史の所ね」と何か得心したように呟いた。


「仕方無いんじゃないか? 何たって薫は、雨竜女史にゾッコンだからな」


「はぁ⁉」


「え?」


 そして衝撃的な発言を放った。

 これに驚いたのは優だけでなく、クララも同じようだった。


「何だ貴様ら、気付いて無かったのか?」


 時雨は楽しそうに笑むと、腕を組んで語り始めた。


「考えてもみろ。怒られる事が苦手な奴が、常に怒っているような女と何の感情も無しに親しくすると思うか? この前の任務だって、無茶な作戦を引き受けたのは雨竜女史の頼みだったからという可能性が高い。それに奴は、雨竜女史と連絡先を交換している」


「いや、けどさ。雨竜ちゃんだぜ? 一回りも年齢違うんだぜ?」


「年齢など恋愛の障害としては些末なものさ。特に奴は、年齢やら身分差やらで差別するような小心者でも無かろう」


 時雨の言葉を聞いても、優には俄に信じられなかった。

 的場薫が雨竜女史に好意を抱いているなど、いや、彼が異性に好意を抱く事に驚きを隠せない。何と言っても、優がどれだけアピールしても気付かないような唐変木だ。そういう思考があるとは、思えなかった。


「まぁ、告白するなら止めはしない。当たって砕けるだけだがな」


「な、何だよ! 砕ける前提かよ!」


「そりゃそうだ。まぁ、寝取るくらいの気概を持たなければ、奴は落とせないだろうな。いっそ、強引にヤってしまえば良いんじゃないか?」


 からかうような時雨の言葉に、優は苛立ちを覚えた。

 それにしても的場薫が好意を抱く人物が居るとは。的場薫に好意を抱く人物は多いというのに、最大のライバルが出来てしまった。

 それが雨竜女史とは、何とも皮肉な。


「まぁ、仮に薫が告白したとしても、雨竜女史は断るだろうさ。何たって学年主任だ。生徒とふしだらな関係を持つような真似は出来ないだろう」


 話しを締め括るように、時雨はそう語った。

 急な展開に、君は付いて来れるかな?

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