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第三話

 拐かす言葉。

 この学園で、的場薫をファーストネームで呼ぶ人物は何人か存在する。けど、大抵は呼び捨てで、ましてや“くん”付けで呼ぶ人物は一人しか居ない。

 その人物は天鵞絨のように艶やかな黒髪をたなびかせ、女神か天女の如く穏やかであり神々しい微笑を浮かべながら駆け寄って来る。

 誰もが思わずうっとりと眺めてしまう美貌を惜しむことなくさらけ出し、花も恥じらうような愛嬌を振り撒く彼女は他の誰でも無い。

 この『咲浪銃器学園』生徒会会長であり学園最強の『ガンスリンガー』、三科凛子である。


「うわっ、生徒会長だ」


 一ノ瀬優がひきつった表情を作る。

 余談だが、まだ薫が一ノ瀬優から信頼されていなかった頃、無作為に暴れまわっていた彼女は愚かにも三科凛子に喧嘩を売った事があった。結果的に返り討ちに合い、完膚なきまでに叩きのめされたのであったのだが、それだけならまだしも、二時間に及ぶ説教を叩き込まれていたのだ。

 それ以来、彼女にとって三科凛子は、少々苦手な存在となってしまっているようだ。

 自業自得と言えば、それまでなのだが。


 そんな一ノ瀬優などお構い無く、三科凛子は薫の元へ辿り着いた。

 駆けた故か若干上がった息を整えるように深呼吸をして、「久しぶりですね」と笑顔を振り撒いた。


「えっと、あの、お久し振りです、三科さん」


 薫はその笑顔に気圧されてしまった。

 一方の一ノ瀬優は、果敢にも「何か用かよ」と喧嘩腰に挑んでいた。


「フフッ、貴女に用はありませんよ? 狂犬ちゃん」


「狂犬…………ちゃん?」


 三科凛子はからかうように、一ノ瀬優の敵意を払い除ける。


「私は薫くんに用があるのです」


「僕に、ですか?」


「えぇ、そうです。大事な話しですので、二人きりになりましょうか」


「ふ、二人きり?」


「そう。誰も居ないところで、二人っきりで、秘密の話しをしましょう」


 三科凛子は口許に人差し指を当てながら、蠱惑的に言葉を紡ぐ。思わず心臓が大きく一躍し、頬が熱くなる感覚を覚えた。

 そして三科凛子は薫に話し掛けながら、暗に一ノ瀬優へ席を外せと促している。

 しかし、一ノ瀬優は「そうは行くか!」と声を上げた。


「薫は今、俺と大事な話しをしてんだ! 横取りすんじゃねぇ!」


「ちょっ、イチ!?」


 そう言って薫の腕に自分の腕を回す。先ほど掌にあった感触が、二の腕を包み込む事にドギマギしてしまう。

 対する三科凛子は、不適な笑みを薫に向ける。


「私が、優先ですよね?」


 凄みのある笑みに、薫はたじろいだ。

 薫個人としては、三科凛子よりも一ノ瀬優との会話を優先したかった。彼女が何故、蘇ったのか。その謎をどうしても解きたかった。

 しかし、三科凛子を蔑ろにするのは、後が怖かった。彼女は『咲浪銃器学園』の頂点に立つ最強の存在。機嫌を損ねる事はしたくなかった。


「イチ、悪いけど、話はまた後で…………」


「なっ!? 何でだ⁉」


 後回しにされたことが余程ショックだったのか、一ノ瀬優は見たことが無いほど悲しい表情をした。

 ここは次の発言で、彼女を酷く傷付けてしまうかも知れない。

 薫は言葉を慎重に選びつつ、彼女の耳元に口を寄せる。


「会長に邪魔されないよう、二人でゆっくり話したいんだ。こっちを手早く済ませるから、理解してくれるかい?」


 我ながら苦しい言い訳である。

 怒らせるか、と思ったが、一ノ瀬優は「何だ、そんな事かよ」と嬉々と表情を和らげた。


「そういう事なら仕方ねぇなぁ。じゃあ、また後で話そうぜ!」


 彼女は楽しげに笑うと、不意に三科凛子へ人差し指を突き立てた。


「いいか? 今回は退いてやるけど、こいつがお前のモノになることはねぇからな!」


 また分けの分からない事を口走る一ノ瀬優。

 三科凛子は朗らかに笑むと、「そうですか」と答えた。


「けっ、余裕こいてろ!」


 吐き捨てるように告げると、一ノ瀬優は薫に手を振って上機嫌に去っていった。

 残された薫は、一ノ瀬優が校舎の中へ消えていくのを見送ってから三科凛子へ視線を移した。


「それで、話しというのは何ですか?」


「まぁ、そう焦らないで下さい。先ずは二人きりになれる場所へ行きましょうか」


 薫は三科凛子に誘われる形で、校庭を後にした。











 “二人きりで話せる場所”とは、果たして生徒会室であった。

 別に何を期待していた分けでも無いのだが、少し拍子抜けではあった。別に何を期待していた分けでも無いのだが。


 生徒会室と言っても、大して他の学校と代わり映えはしない。

 生徒会メンバーが使用するであろう机が五つほど纏められて置かれているだけで、他の教室より少し手狭という以外は座学で使う教室と差異は無かった。


「他の役員は所用で出払っていて、暫くは帰ってきません。ここには私と貴方、二人きりですよ」


 三科凛子は朗らかに笑みながら言った。

 確かに教室には誰も居らず、彼女と薫との二人きりの状況であった。

 「立ち話も何ですので」と、彼女に促され、薫は適当に席に着いた。彼女は薫と対面するように腰掛けた。

 今更だが、絶世の美少女と二人きりの状況に、少し意識させられてしまった。


「早速ですが、最近の調子はどうですか?」


 今一つ掴み所の無い質問に、薫は小首を傾げた。


「いえ、孤島での任務では左腕を失い『アンデッド化』し掛け、前回の任務では『変異種』にこっぴどくヤられたようですので、体調の方が心配でして」


「あ、そういう事ですか。それなら問題ありません。左腕もこの通り義手を作って貰いましたし、戦闘での負傷も大した事はありませんでした。体は健康です」


「そう、なら良かった。貴方にもしもの事があれば、私は困るものでして」


 三科凛子は安堵の笑みを浮かべた。


「しかし、それとは別に小隊としての評価は下がって来てます」


 不意に真面目な表情をしたかと思うと、思わぬ言葉を口にした。


「原因は、偏に相次ぐ失敗です」


「え? 任務は成功させている筈ですが…………?」


「結果的には、というだけです。孤島では重要情報をもたらしたとは言え『RED SHOT+』の確保に失敗してますし、復興都市ウォビエラでは目標人物の確保に失敗しています。更に任務コードを偽造してまで強行した任務では、連邦安全保証局の特殊部隊が何年も掛けてマークし続けていた人物、アレーネ・ザミュを殺害してしまっています。貴方は知らなかったでしょうが、アレーネ・ザミュは『フリークス』の現リーダーと思しき“総督”についての情報を持っていた可能性が高いのです。それを見す見す殺害したとなれば、評価も下がると言うものです」


 次々と提示される任務結果に、薫は反論出来なかった。

 孤島では『RED SHOT+』の確保に、ウォビエラではカーチャ・ザレコフとアレーネ・ザミュという重要目標の確保に失敗している。

 カーチャ・ザレコフは敵の口封じの為に殺された。そしてアレーネ・ザミュは、後で知ったのだが一ノ瀬優が殺害していた。アレーネ・ザミュに関しては元々の目標では無いにせよ、任務自体が偽造したものだ。

 状況だけ見ると、特殊部隊が地道に積み上げてきたモノを、薫達が無為に潰してしまった事になる。


「今回の件で、雨竜毬耶教師に謹慎処分が下されました。貴殿方『新撰組』を勝手に出撃させた事と、不始末の責任を一身に被った結果です」


「雨竜先生が!?」


「えぇ、彼女なりに貴殿方を庇ったのでしょう」


 雨竜女史は最近めっきり学園に姿を現していなかった。

 体調不良で学園を休職していると聞いていたが、まさか謹慎処分を受けていたなど夢にも思わなかった。これも任務の失敗が招いた結果という事か。


「薫くん、厳しいことを言うようですが、これは全て貴方の責任なのですよ」


「はい…………」


 数々の任務失敗の原因は、的場薫にあるという事は言われなくても分かった。

 『RED SHOT+』の確保では見す見す敵の罠にはまり、カーチャ・ザレコフが殺害された時は気を失っており、アレーネ・ザミュの件では無理な任務を強行してしまった。

 全て薫の判断ミスが為した結果である。


「更に付け加えるならば、貴方も天真時雨も怪我をしました。どちらも重傷ですよ」


 そして更に付け加えるならば、一ノ瀬優を戦死させてしまった。三科凛子は知る由も無いだろうが。

 どれもこれも、薫が自ら決定し行動した結果だ。


「僕のせい、ですね…………」


 薫は泣き出しそうになるのを必死に堪えながら、三科凛子と対峙する。

 彼女は真摯な眼差しで薫を見返した。


「そう、全て貴方が弱いから。貴方の弱さが招いた結果です」


 そう告げるや、三科凛子は立ち上がり薫の背後へと歩み寄る。

 そして薫の両肩に手を置くと、耳元に口を寄せ囁くように語った。


「どうでしょう。大事になる前に、自らを鍛え直してみるというのは?」


 彼女の甘い吐息が耳をくすぐる。


「私の元へ来なさい。貴方を強くしてあげますよ」


 薫は驚き、振り返った。

 三科凛子の天女のような面持ちが、息が掛かる程の距離にあった。思わず吸い込まれそうになる。


「私達、『生徒会チーム』に編入なさい。そうすれば、私が貴方の特別コーチになってあげられます」


 三科凛子が特別コーチになってくれる。

 それは全校生徒が夢にまで見る状況だろう。彼女がコーチとなってくれるなら、薫は確実に強くなれる。


「けど、そんな事は可能では無いはずです」


 薫は引き込まれるような彼女の存在から、顔を背けて現実に目を向ける。

 『生徒会チーム』と言えば、学園最強の部隊である。それは連邦政府軍の特殊部隊にも引けを取らないほどのもので、薫のような一介の兵士が入隊出来るようなチームでは無い。


「僕にはその実力がありません」


「それならば問題ありません。私の特権で何とかしてあげましょう」


「そんな…………それに、僕には彼女達を裏切るような真似は出来ません」


 そう、『生徒会チーム』に編入するという事は、『新撰組』を抜けるという事だ。

 それ即ち、天真時雨、一ノ瀬優、クララ・クラーク・クランを裏切る事になる。そんな事は、例え天地が裂けるような事があっても出来やしない。


「フフッ、貴方ならそう言うと思いました」


 すると三科凛子は、両肩に乗せた手を滑らせた。心地好い温かく柔らかい感触が背中に覆い被さる。

 果たして抱き締められていると理解するのに、薫はどれ程の時間を要しただろうか。


「薫くんには私が必要です。そして私にも…………」


「あ、あの…………」


「よく考えるのです。私の元へ来て自らを鍛え直すか、このまま彼女達と共に居て彼女達を危険な目に合わせるか」


 それは、選ぶまでもない選択肢であった。

 普通に考えれば前者である。

 今後、今回のような判断ミスが無いようにするためには三科凛子のもとで修行を積むことが自分の為になる。それに全校生徒が憧れを抱く『生徒会チーム』への編入も魅力的だ。万年金欠の薫には、喉から手が出る程に。


「彼女達の事なら心配ありません。適切な部隊へ配置変えする事も可能ですから。ーーーーよく考える事ですね」


 彼女の言葉は、薫の奥深くに染み渡るように浸透していった。

 第五章は微妙な出来だったので、第六章はもう少し構想を練ります。

 という分けで、次回から新しい章に入ります。

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