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Outlaw Gunners ーハーレム小隊の憂鬱な日々ー  作者: 梨乃 二朱
第五章:『新撰組』のデストロイヤー
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第二話

 クララの切り札。

 処刑人の巨大な肉切り包丁が、体を掠める。

 紙一重でかわしすれ違い様に背中に二発の銃弾を撃ち込むが、やはり効果が無い。

 雨竜毬耶は後方に大きく飛び退き、処刑人から距離を取った。


「この野郎、不死身なのか?」


 口にしてみて、否と胸中で唱える。

 この世に不死身の化け物など存在しない。万象はいずれ滅びるものだ。

 殺せないものなど無い。

 必ず何処かに弱点がある筈だ。

 しかし、天真時雨の予想した眼球が弱点という仮説は、見事に的を外した。

 確かに脆い部分ではあるようだが、『コア』は他の場所にあるようで、今では天真が抉った眼球は元通りになっている。

 普通、『適性銃器』での攻撃は如何に『不死人』と言えど回復する事は出来ない筈だが、あの変異種は違うようだ。これは、『コア』を破壊するしか倒す方法は無い。


 ふと、視界の端に天真時雨の姿が見えた。

 処刑人の蹴りを喰らい柱に叩き付けられた彼女の生命反応は、微弱なものとなっていた。

 目の前で生徒を瀕死に追い込んでしまった。

 教師として、教官として、何という失態か。

 滑稽なまでに無力な自分に、嫌気が差す。


 更に先程のオープン回線での会話。

 的場薫がもたらした訃報。

 一ノ瀬優の戦死。

 あの戦闘狂が死んだ事への信じられない思いの半面に、的場薫が無事である事への安堵がある自分が、本当に嫌になる。

 本来なら亡き生徒の為に敵討ちを誓うべきなのだろうが、それよりも先に彼の無事を願ってしまった。


 教師、教官を名乗る資格など無い。

 最低で最悪な女だ。

 この期に及んで、責任よりも欲求に負けてしまうなど、人としても失格なのかも知れない。


 長考している内に、処刑人がまた戦闘態勢に入った。

 肉切り包丁を肩に担ぎ、凄まじい瞬発力で距離を詰めてくる。

 強烈な踏み込み。

 しかし、これで数度目となる攻撃に、毬耶の目は完全に慣れてしまっていた。伊達に戦争を生き抜いては来ていない。


「これならーーーー!」


 斬撃を紙一重でかわした毬耶は、銃口を処刑人の赤い眼球へ向ける。

 刹那、撃発。

 『.45口径対不死人弾』が撃ち放たれ、処刑人の右目を貫いた。


 処刑人の体が大きく揺れる。

 毬耶はしかし、撃破出来たと思わなかった。

 眼球が弱いという事は証明済みだが、急所というわけでは無い。怯ませただけだ。

 その隙に距離を取り、敵の出方を伺う。


 やはり、効果は無かったらしい。

 撃ち貫いた眼球は、まるで時間を戻すように急速に再生を始めた。あっという間に元通りだ。

 処刑人は何事も無かったかのような佇んでいる。


「どうすべきか…………」


 毬耶は弾倉を入れ替え、次の攻撃に備える。

 今のところ支障は無いが、このままでは体力的にこちらが不利だ。『不死人』の変異種は、原則的に肉体疲労を感じない。

 しかし、こちらはパワードスーツの恩恵があっても疲労が溜まれば肉体に影響が出てくる。

 そうなれば一貫の終わりだ。

 早急に打開策を模索せねばならない。


 ともあれ、銃撃も爆撃も斬撃も駄目となると、残るはーーーー


「ーーーーん?」


 不意に処刑人の後方に蠢く影を見た。

 それがクララ・クラーク・クランである事に気付くのに、然程の時間を要さなかった。

 クララは狙撃ポイントを変えようとしての事か、二階から階段を使って降りてきて来ていた。


 しかし、彼女は毬耶の予想を簡単に裏切った。

 彼女は処刑人の背後を取ると、事もあろうに「Hey Butcher!」と声を掛けたのだ。


 処刑人は声に答えるように、ゆっくりと振り返る。

 クララは無防備な姿を曝している。

 『適性銃器』である『M14 DMR』自動小銃は背中に回しており、両手にはナイフ一本持たずに大男と対峙する。


 まさか、徒手空拳で立ち向かおうとでもいうのか。

 先程からクララの様子が可笑しくなっている事には気が付いていたが、発狂でもしたか。それにしては落ち着いている。


「小隊長からの命令。『アンデッド』は皆殺しーーーー」


 クララは自分に言い聞かせるように呟いている。

 毬耶にその声が聞こえたのは、通信回線が開いていたからだ。

 それは的場薫が下した命令であった。

 彼女はその命令を原動力に、この奇行を演じているようだった。


 処刑人はというと、格好の獲物を見付けたと言わんばかりにクララの方へ体を向けた。

 毬耶は不味いと思い、慌てて『SIGUMA.45』自動拳銃を構えて銃爪を弾く。


「クララ、何をしてる! 逃げろ!」


 銃撃を加えながら声を大にして叫ぶ。

 しかし、クララは一向に動こうとしない。処刑人も先程と同じように包丁を肩に担ぎ、攻撃態勢を整え始めた。

 毬耶は必死に注意をこちらに逸らそうと銃撃を加え続けるが、ダメージを与えられないだけに効果は無い。

 毬耶が全力で走ったところで、処刑人の瞬発力には間に合わない。


 やがて、処刑人が突進を始めた。

 一歩の内に距離を詰めた処刑人は、クララの眼前に迫り肉切り包丁を振り下ろす。

 クララは動かない。

 恐怖で身がすくんでいるという様子ではなく、いつもの無表情で処刑人を見上げていた。


「クララーーーー!」


 毬耶が叫んだ刹那、落雷が走った。

 ロビーが眩しい程に明るく照らされ、鼓膜をつんざく程の轟音が鳴り響く。

 同時に、処刑人の巨体が吹き飛んだ。

 処刑人はその巨大な体に似合わず、大きく弧を描きながらロビーの端から端にまで飛んで行った。そのまま柱の一本を破壊し、その拍子に崩れた二階フロアの瓦礫に埋もれてしまったのだった。

 暫く様子を見ていたが、処刑人は瓦礫の山から出てくる事は無かった。


「ーーーー何なんだ?」


 驚愕する毬耶。

 何が起こったのか、毬耶には分からなかった。

 落雷が処刑人に命中したのかと一瞬思ったが、ここは屋内だ。ピンポイントに雷が落ちるには、屋根もあるし高さも足りない。


 驚いたまま視線をクララの方へ向けると、彼女は先程と変わりなく無表情のまま佇んでいた。

 唯一違ったのは、その右手に一挺の自動拳銃が握られていた事であった。












 見たことの無い自動拳銃だ。

 メタリックブルーの銃身に黄色のグリップをした拳銃からは、ゆらゆらと湯気のような白い煙が立ち上っていた。


「クララ、大丈夫か?」


 毬耶は瓦礫の方を警戒しながら、クララの元へ駆け寄る。

 彼女は「問題無い」と告げると、拳銃をヒップホルスターへ納めた。


「今の、お前がやったのか? 何だその銃は?」


「“単発式のレールガン”。私の切り札」


 “レールガン”という単語を聞いて、毬耶は度肝を抜きそうになった。

 確かにレールガンの歩兵運用実用化に成功したというニュースは聞いたことがあるが、拳銃サイズの物は初めて見た。

 毬耶がニュースで見たものは、小さくても重機関銃程のサイズだった。

 ここまでのダウンサイジングは、最早学会で発表出来るレベルだろう。


「一発切りなんだけど」


「そんなもの、何処で手に入れた?」


「時雨が開発した」


 そう言ってクララは何処かへ歩み始めた。

 天真時雨が開発したという言葉に、毬耶はまたも愕然とした。例え一発限りのものでも、彼女の腕前には感心せざるを得ない。


「そうだ、天真!」


 ふと天真が瀕死の重症を負っている事を思い出した。

 毬耶は慌てて天真の所へ駆け寄る。

 彼女は支柱の影に死んだように倒れていたが、手首の脈を取り呼吸を確認すると、生きている事が確認出来た。

 一先ず胸を撫で下ろす。


「よし、クララ、お前は天真を連れてーーーー」


 指示を下す毬耶だが、クララの姿は当に無くなっていた。

 跡形もなく消えていたのだ。


「クララ?」


 毬耶は周囲を見渡すが、クララの姿を見付ける事は出来なかった。


「あいつ、まさか的場の所に…………」


 毬耶が予想した通り、クララは的場薫の元へ向かったのだった。

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