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Outlaw Gunners ーハーレム小隊の憂鬱な日々ー  作者: 梨乃 二朱
第五章:『新撰組』のデストロイヤー
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第一話

 増加する犠牲。

 次に処刑人の標的として選ばれたのは、天真時雨であった。

 処刑人は包丁を肩に担ぐように乗せると、咆哮一つ上げる事無く時雨に向かって駆け出した。

 時雨は牽制射撃もそこそこに、地面を蹴って真横に飛び退いた。

 直後、先程まで自分の居た場所に、肉切り包丁が振り下ろされた。瞬間、床が弾け飛び小さなクレーターが生まれた。


「速い上に、何て馬鹿力だ」


 感心とも畏怖とも付かない言葉を漏らしながらも、『BADY-89』突撃銃のグロウサイトを覗き込みトリガーを弾いた。

 フルオートに設定された銃身から、矢継ぎ早に『5.56mm対不死人弾』が飛び出し処刑人に殺到する。


 出来るだけ目を狙おうと努力はするが、射撃時のリコイルにぶれる突撃銃では弱点を狙撃する事は出来なかった。その内、三十発マガジンを撃ち尽くしてしまった。

 パワードスーツを着ていても、発砲時の反動は少なからず感じる。それが連続してなると、銃口の跳ね上がりに繋がるのだ。

 生憎と時雨の突撃銃には、反動抑制用のマズルブレーキを備えていない。代わりに銃剣を備えているのだが、大して反動抑制の役割は果たしてくれていなかった。


「ヤるしか無いか…………」


 銃撃が駄目ならば、と時雨は弾倉を交換しながら決意を固める。

 先程からの攻撃パターンを見るに、奴は一つのモーションを行うとその後は暫く動かなくなる。狙うなら、そこしかない。


 と、考えている内に、処刑人は包丁を担ぎ上げ、また時雨に向かい突撃を開始した。

 正しく俊足。

 恐ろしい程の瞬発力。

 しかし、直線的過ぎる。


 時雨はまた地面を蹴り、横飛びに突撃をかわした。

 が、次の瞬間、処刑人が急激な方向転換を行ったのだ。

 そのまま真っ直ぐに時雨に迫る。


「なッ!?」


 データに無いぞ、と内心で毒づきながら、この突撃をかわすことは出来ないと判断した。

 それでも死を覚悟したわけでなく、かわせないならかわせないなりの対応をするまで、と突撃銃を構える。


 瞬間、大男が眼前に迫り、包丁を振り下ろした。

 時雨はその刀身を銃剣で受け止め、そのまま斜めへと力を流す。


「ぜぃああぁぁあああーーーー!」


 咆哮を上げ、包丁の一撃を捌き切り銃剣を袈裟斬りに斬り上げながら切っ先を処刑人の赤い眼へ突き刺す。

 銀色の刀身が眼球に突き刺さり、更に力を加えて奥へと押しやる。『コア』を狙っての事だ。

 直後、確かに銃剣の先が『コア』らしきものを斬り裂いた感覚を覚えた。


「取った!」


 時雨は勝利を確信した。

 しかし、大男は活動を止めなかった。

 ぐらりと体を揺らした処刑人は倒れる事無く片足で踏ん張り、その場に止まった。

 瞬間、空いている左手で時雨の『BADY-89』突撃銃を掴み取り、恐ろしい程の力で自らの眼球から銃剣を抜き取ったのだ。


「こいつ、不死身か!?」


 驚愕する時雨。

 確かに『コア』に切っ先を突き入れた筈なのに、処刑人は尚も健在であった。

 “真正の化け物”という単語が、脳裏に浮かび上がる。


「天真、逃げろ!」


 銃声と共に雨竜女史の怒声が響き渡る。

 時雨は咄嗟に突撃銃を手放し距離を取るべく地面を蹴るが、一瞬遅かった。

 目の端で黒い何かが持ち上がり、それが時雨の左脇を打ち据えた。大男の巨大な足だと理解するのに、そう時間は掛からなかった。

 脇腹に蹴りを入れられた衝撃で肋骨を砕かれ内蔵が損傷し、口から吐血する間に体が紙人形のように吹き飛び、ロビーの支柱に背中をぶつけて背骨を折る事となった。


 普通なら致命傷だ。

 それでも死に至らなかったのは、時雨が独自にカスタマイズしたパワードスーツの生命維持装置の恩恵によるところが大きい。

 しかし、時雨は声を出す暇さえなく、衝撃による呼吸困難と激痛により気を失った。










 時雨が倒れた。

 クララ・クラーク・クランはスコープ越しに一連の動作を眺めながら、唇を血が出る程に噛み締める。

 援護射撃の一つも出来なかった。

 照準は合っていたのだが、トリガーを弾く事が出来なかった。


 何故か。

 一度、失敗しているからだ。

 先程、クララは大男の右目を狙撃した。しかし、それは容易く弾かれてしまった。

 それがトラウマのようなものとなり、クララに狙撃を躊躇わせた。結果的に、時雨が負傷する事となった。


 クララ・クラーク・クランという少女は、失敗に弱い。

 いつも完璧に物事をこなすよう“教育”されてきたクララは、ただの一度の失敗も許されなかった。もし失敗するような事があれば、厳しい罰を下されていた。

 そんな経験が今回の援護ミスに繋がったのだ。


「また、失敗した…………」


 無表情ながら、その瞳は動揺に揺れていた。

 失敗した。

 二度も失敗した。

 完全に自己判断によるミスだ。

 怒られる。

 また“あの部屋”に入れられてしまう。

 あの混沌と暗黒が共生する部屋の中で、分けもわからないモノに凌辱されてしまう。


 この時、クララは体が震えて照準も何も無かった。

 それどころか、戦場の中に在って心ここに在らずの状況だった。

 処刑人が雨竜女史を狙い、猛威を奮っている様子すら見えていなかった。


「くッ…………」


 狙撃姿勢のまま、ガタガタと身を震わせるクララ。

 視野は狭まり、更に霞み掛かったようにボヤけてすらいる。

 既に戦闘可能な状態では無かった。


「薫、助けて…………」


 思わず呟いた愛しき人の名前。

 クララにとってのヒーロー。

 彼に助けを求めるように、名前を口にする。


「こちらアストレイ。『新撰組』、総員聞こえるか…………?」


「薫?」


 不意にインカムから声が響いた。

 今、一番に聞きたかった声。

 クララは飛び付くように、インカムに手を伸ばした。


「薫、ーーーー薫!」


「クララか。時雨はどうした?」


 待ち望んだ声は、しかし何処か様子が可笑しかった。

 いつにも増して、声が暗い。

 それにいつもならコードネームで呼び合うところを、個人名で呼んでいるところも変だ。


「時雨は、私のミスで負傷した…………戦闘不能で…………」


「そうか。ーーーークララ、よく聞いてくれ」


 そして的場薫は、思いもよらぬ言葉を告げた。


「一ノ瀬優が、戦死した…………」


「え?」


 クララは何を言われたのか分からなかった。


「どういう事…………?」


「僕の油断が彼女を殺した…………!」


 何があったのか、クララには想像も付かない。

 けれど、的場薫が後悔のあまりに涙ぐんでいる事は声色で理解出来た。

 何と声を掛けるべきか分からなかった。

 クララ自身、味方の、一ノ瀬優の死を受け入れられていなかった故に、余計に言葉に詰まった。


「クララ、弔い合戦だ」


 閉口していると、的場薫が言葉を紡いだ。


「イチはこの施設の破壊を望み、僕に託した。ならば、それを叶えてやるのが小隊長としての務めというもの」


「薫…………」


「小隊長として命令する。この施設に居る『アンデッド』を、皆殺しにしろ」


 的場薫は厳かに命令を下した。

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