第七話
三人娘は永遠に。
アレーネ・ザミュは焦燥に駆られていた。
被験者に『RED SHOT+』を注入し、強制的に変異させたところまでは良かったのだが、完全に制御を離れ独自に行動を始めてしまっていた。
どうやら侵入者の一人を始末出来たようだが、もう一人の追撃を行う様子もなく、ただその場に佇むのみで行動を停止してしまっている。
「これだから変異種は制御が面倒なのよね」
呆れ半分に呟きながら、アレーネは自身の手のひらを赤黒い触手の塊と化した『不死人』に触れさせる。
刹那、触手に走る赤い筋が反応するように脈動した。
「逃したもう一人を確実に殺しなさい。その後は、好きにすれば良いわ」
アレーネの言葉に触手は微かに頷くような素振りを見せ、おぞましく蠢きながらゆっくりと移動を始めた。
亀のように鈍重な動きであるが、攻撃の瞬間は素早い事は先程で実証出来ている。
如何に『ガンスリンガー』と言えど、これに勝てる見込みは無いだろう。
「さて、もう一体の方はちゃんと言うこと聞いてくれるといいのだけど」
アレーネは溜め息混じりに呟き、その場を後にした。
「イチ、おいイチ! しっかりしろ!」
薫は一ノ瀬優の体を壁に凭れ掛けさせ、傷口に簡易救急キットから取り出した粉末状の止血剤を振り掛ける。
銃弾の擦過傷や銃創等はそれで塞がるのだが、内蔵が飛び出ている程の怪我を負った彼女の傷は酷く、傷口が塞がるどころか血が止まる様子すら見せなかった。
幸か不幸か、一ノ瀬優の意識はハッキリとしていた。
彼女はじっと自分の傷を見下ろすと、「こりゃ、ダメだな…………」と呟いた。
「薫、俺はもうダメだ…………」
「馬鹿言うな! 頑丈が取り柄の君が、君がこんな傷で死ぬわけ無いだろ!」
「約束守んなくて、ごめんな…………」
「やめろ、謝るな! 絶対助かるから、助けるから!」
そうは言っても手持ちの救急キットでは、彼女の出血を止める事すら叶わない。
焦燥ばかりが薫を責め立てる。
止血の為に傷口を抑えていた両手は、彼女の血で真っ赤に染まり、指の間から更に鮮血が吹き出るように流れ出る。
「最後に、一つ良いか…………」
「最後とか言うなって…………」
「いいから、ちょっとこっち見ろよ…………」
次の瞬間、薫の首に彼女の腕がくるりと回り、そして力任せに引き寄せられた。
「ん」
「…………!?」
唇と唇が触れ合う。
吐血したせいか、鉄の味が口腔内を広がった。
数秒後、永遠にも思える程の数秒後、二人の唇はゆっくりと離れていった。
「へへッ、最後のキスくらいはさ……独り占めしてぇってもんよ…………」
「イチ…………」
「行けよ、“隊長”」
一ノ瀬優は薫の瞳をじっと見詰める。
「俺の代わりに、ここの施設をぶっ壊してくれや…………」
「だから、代わりとか言うなって…………お別れみたいなこと、言わないでくれ…………」
薫の声は聞こえているのかいないのか、彼女は虚ろとなった瞳を何処かへ向ける。
「嗚呼……“アタシ”はきっと…………幸せ……な…………」
その言葉を最後に、一ノ瀬優は二度と声を発する事は無くなった。
「イチ?」
呼び掛けるが返事は無い。
瞼を薄く開けたまま、彼女の体はだらりと床に転がり落ちた。
「イチ? ーーーーイチ! おい、冗談とかやめろよ! 笑えないんだよ! 起きろ! 起きてくれ、イチ!」
何度も体を揺さぶり呼び起こそうとするが、彼女は二度と目覚める事は無かった。
彼女は、完全に事切れていたのだった。
「ああ……あぁ…………うあぁぁああぁぁぁぁーーーー!」
的場薫の悲痛な叫び声が、薄暗い通路に木霊した。
こういうシーンは書き慣れてないので、ほぼ勢いで書きました。
如何でしたでしょうか?
次回は地上組に焦点を当てて見ようと思います。




