第三話
出撃、『新撰組』!
誓いも虚しく、結局はぶっつけ本番となってしまった。
会議を行おうにも皆勝手な行動ばかりして纏まらず、気が付けば夜になり、『RED SHOT』の取り引き時間まで後三十分という時間になっていた。
現在、薫ら『新撰組』は、学園都市外の港湾地区にて作戦の準備を進めていた。
各々、それぞれの役割に沿った装備を手にして、偽装貨物車の荷台で待機している。
薫はパワードスーツの電源を入れ、準備を整える。
今回は破壊を主目標としているので、隠密装備は全てオミットされている。代わりに“フラググレネード”や“テルミット爆弾”等の成形爆薬を多く所持していた。
他の三人は任務内容などお構い無しに、お気に入りの装備で身を固めている。
一ノ瀬優は突撃銃にグレネードランチャーを備えた軽装備。
天真時雨は強化装甲を備えた防衛装備。
クララ・クラーク・クランは“クローキングデバイス”を備えた隠密装備。
毎度の事ながら、全く統率がなってない。
薫は今日だけで何度めかとなる溜め息を吐くと、傍らに置いていた古めかしいライフルを手に取った。
『Outlaw M1894』レバーアクションライフルが、薫の『適性銃器』である。
『ウィンチェスターM94』を基礎に産み出されたこの『適性銃器』は、鋼の銃身を木製のストックやハンドガードで覆ったアンティークな見た目のライフルとなっている。銃先に専用の銃剣を備えた近接戦闘仕様だ。銃身には狼の紋様と、“Outlaw Gunner”の文字が彫られている。
専用弾の『.45口径 対不死人弾』は、錬金術で造られた特殊合金を鋳融かして製造した拳銃弾で、口径も大きいことから強力な弾丸だ。
街のチンピラが誤って『不死人』と化した程度の相手には、十分に役立つ。
「隊長、取り引きが始まるようだ」
小型ドローンを操作し、倉庫内の様子を監視していた時雨が声を上げた。
同時にHUD(Head Up Display)に動画情報が共有され、ドローンに積まれたカメラが映し出す内部映像が表示された。
典型的な麻薬取引の模様だ。
強面の男が十数人、派手な格好のリーダー格が二人。
上手く偽装しているようだが、肌の色の、その血色の悪さから『不死人』だと分かる。まるで死人のそれだ。
瞬間、頭に鋭痛が走る。
いつもの幻痛と分かっていても、痛みに動作が鈍るのは困る。
薫は他の三人にバレないよう、ポケットの中からピルケースを探り出し、中から白い錠剤を一粒取り出した。それを口に放り込むと、水無しに飲み込んだ。
水無し一錠。
速効性の鎮痛剤である。
その効能に恥じない働きで、直ぐに頭の痛みは治まった。余韻は残ったが、問題になる程ではない。
「薫、大丈夫?」
ふとクララが、無表情だが瞳は心配げに問い掛けてきた。
どうやら見られていたようだが、他の二人には気付かれないよう声を潜めてくれている。
薫はその気遣いに笑顔で答え、監視映像に意識を戻した。
素人丸出しのザルな警備だ。
自分の周りに人を置いていれば安全、とでも思っているのだろう。
それにしても、と薫は一考する。
警察機関が破壊を命じるような代物が、この倉庫内に存在するとは思えなかった。
強いて言うなら、強面の一人が持つ『RED SHOT』の詰まったアタッシュケースだろう。
『RED SHOT』とは、最近になって民間で大流行している『不死人化(アンデッド化)』する為の薬品だ。
その名の通り赤色透明の液体で、経口接種や皮下注射等で手軽に『不死人』になれると、反政府組織等で人気の代物だ。
効果の割りに安価である為、ふざけたディーラーが学生相手に取り引きを行い社会問題にまで発展した。
正しく“悪魔の薬品”である。
これの蔓延を防ぐことも、『ガンスリンガー』の仕事である。
薫は左腕に巻き付けたコンソールを操作し、監視映像の隣に港湾地区の監視カメラの映像や倉庫内の地図を表示する。
周囲に民間人は居らず、誤射の心配は要らないだろうと予測する。
「よし、イチと時雨は正面から突破。僕は裏口、クララは外から援護してくれ」
「よし来た。ところで隊長、皆殺しで良いんだよな?」
「全員、バイタル反応が無いことから『アンデッド』である可能性が高い。殲滅戦だ。存分に暴れてくれ」
イチこと一ノ瀬優は、突撃銃のコッキングハンドルを引き薫の言葉に答えた。
『新撰組』一番の問題児だが、『新撰組』で一番の腕利きは彼女である。彼女が暴れるなら、倉庫内は血の海となる事は必須だろう。
「総員、位置に着け。全員が配置に着き次第、状況開始だ」
「アイサー!」
一ノ瀬優が意気揚々と応える。
「ヤー」
クララ・クラーク・クランは無感動に呟く。
「了解!」
天真時雨が憮然として突撃銃を構える。
相変わらずバラバラな了承の言葉を口にして、『新撰組』は偽装貨物車の後部ハッチを開き駆け出した。
薫は倉庫の裏口に到着した。
戸口の前で煙草を吹かしていた暴力団組員が居たが、背後から近付き後頭部から『コア』へ向け六インチのナイフの切っ先を突き刺し処分した。
『コア』とは『不死人』の動力源であり弱点だ。
人間で言うところの心臓や脳に値する。『コア』さえ破壊すれば簡単に撃破出来るのだが、逆に『コア』以外を攻撃しても殺すことは出来ない。例え重傷であろうと、たちまち治ってしまうのだ。
その理を覆すのが、『適性銃器』である。
『適性銃器』から放たれる特殊錬金素材で造られた『対不死人弾』は、『不死人』をただの人間も同然にしてしまう。
つまり、『コア』を破壊しなくとも、ダメージを与え続ければ倒せるという事だ。
「こちら“アストレイ”、持ち場に着いた」
死体を蹴り飛ばし、無線機に声を吹き込む。
「“ライトニング”準備良し」
クララが応える。
「“イージス”突入準備完了」
時雨が応える。
「“インパルス”、いつでも行けるぜ」
一ノ瀬優が応えた。
総員が持ち場に着いた事を確認した薫は、内部に固定カメラとして置いているドローンの映像を確認する。
中の連中は、未だにこちらの存在を把握していないようだ。
好機、と薫は舌なめずりをする。
今、飛び込めば完全に不意を突ける。この機会を逃す手は無い。
ならば、と戸口を破壊すべく、掌サイズの“ブリーチングチャージ”を設置する。
「ブリーチングチャージ設置。爆発と共に突入するぞ」
無線機にそう吹き込みながら、起爆装置のスイッチに親指を置く。
「3、2、1、ブリーチング!」
声を張り上げると共にスイッチを押し込む。
刹那、成形爆薬が点火し、派手な爆発音と共に戸口を吹き飛ばした。と、その爆発に被さるように、倉庫正面の方でも爆発がした。
あの二人、ブリーチングチャージを設置した事を報告しなかったのだろう。
薫は突入早々、小さく溜め息を吐いた。
銃器は見た目などが同じなだけで、あくまで別物です。
自分が想像しやすいように、勝手にこんな方法を取らせて貰いました。




