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Outlaw Gunners ーハーレム小隊の憂鬱な日々ー  作者: 梨乃 二朱
第四章:一ノ瀬優の暴走
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第五話

 台風の行進。

 的場薫は不安に苛まれていた。

 オープンにしていた通信に耳を傾けてみれば、クララと時雨が雨竜女史を困らせている様子が手に取るように分かるし、つい先程から戦闘に入った事も確認出来た。

 いつも通りの作戦も何も無い、行き当たりばったりの戦闘スタイル。

 よく生き残れているものだ、と感心半分呆れ半分の心境だった。


 斯く言う薫も大して変わりはしない。

 地下通路に落ちた薫は、暗視装置を頼りに真っ暗な空間を一人で歩いていた。

 先に何が待ち受けているのか、敵が潜んでいるのかさえも分からずに、たった一人で得体の知れない恐怖に戦きながら西の方角へ進んでいる。そもそも病院に通じているのかすら分からない。


 耳が痛くなる程の静寂の中に聞こえるのは、己の息遣いと水を跳ねる足音のみ。

 それ以外に音は本当に聞こえず、ただすえた臭いだけがはっきりと鼻腔を突くのだった。

 やはり誰か、クララに着いてきて貰った方が良かったか。などと後悔しながら、一歩ずつ奥へと進んで行く。


 因みに一ノ瀬優のパワードスーツの反応だが、地図上では病院の少し前で止まっている。足止めを食らっている可能性が高い。

 薫との距離は平面上は近い事になっているが、バッタリ出会う事は無いだろう。

 あちらは地上、こちらは地下だ。

 合流するならば、雨竜女史らが先だろう。

 詰まる所、薫は今暫く単独行動をせねばならないのだ。


 やがて四十メートルほど進んだ薫は、ふと物音がする事に気が付いた。

 自分の放つ音ではない。

 コツ、コツ、と足音のような音が暗闇の向こう側から聞こえてくる。

 音は、徐々に大きくなっている。


 薫は生唾を飲み下し、レバーアクションライフルを構えた。

 照門、照星を結んだ先は、全くの重く垂れ込むような闇が広がっている。


「誰だ…………」


 掠れたような声が、喉を震わせた。

 恐怖と緊張に強張った喉はカラカラに渇いており、逆に額や背中は嫌な汗でじっとりと濡れていた。

 音は依然として暗闇に響いている。


「構えたら直ぐ撃てよ」


 不意にそんな声が聞こえてきた。

 そして暗闇から姿を現す人影。

 その人影を確認した瞬間、薫の胸中に蟠っていた恐怖は掻き消え、代わりに安堵が広がっていった。


「今の一瞬で、お前は死んでるぜ」


「イチ、なのか?」


「あぁ、一ノ瀬優様だぜ、隊長」


「イチ、ーーーーイチ!」


 薫は喜びのあまりライフルから手を放し、その人影、一ノ瀬優の元に駆け寄り体に抱き着いた。

 一ノ瀬優は「おっと」と僅かに後退りするが、薫を真正面から受け止めてくれた。

 お互いの装備がガチャガチャと擦れる音が、地下通路内を木霊する。


「何だ何だ? そんなに俺に会いたかったって? ん? 何か湿ってるけど、転んだのか?」


「この暗闇の中で一人きりだったからね。不安で不安で仕方無かったんだ」


 薫は涙が出そうな程に思わぬ再開を喜んだ。

 まさか一ノ瀬優がこんな所に居るとは、夢にも思わなかった。てっきり地上を行っていると思ったのだが、どうやら何の気紛れか地下道を選んだようだった。


 抱き締める感覚が彼女を彼女と理解する。

 鼻腔をくすぐる甘い香り。

 男勝りの口調とは裏腹に、女性的なプロポーション。

 全て一ノ瀬優本人である事を、薫に教えてくれる。


「全く、暗闇が怖いとかガキじゃあるまいし。ほら、そろそろ離れろよ。それとも、再開を祝うキスでもしようってのか?」


 冗談混じりにそう言われ、薫は慌てて身を離した。

 よくよく考えれば、十代とは言え男女が暗闇で抱き合うのは健全では無いだろう。それが見知った仲とは言え、妙な誤解を生むこととなる。

 そう考えて、果たして誰に誤解を生むことになるのか疑問が生まれた。この場には二人しか居ないと言うのに。


「他の連中はどうした? はぐれたのか?」


「ちょっと、僕だけ穴に落ちちゃって。皆は地上で戦闘してる」


 状況を簡単に説明して、ふとこんな事をしてる場合ではない事に気が付いた。

 早く皆と合流しなければ、流石に三人だけで拠点を攻略するのは厳しい。今頃は苦戦を強いられている事だろう。


「イチ、皆に無事を伝える必要があるから、無線の周波数を合わせてくれ」


「あぁ、けど、その前に一ついいか?」


 一ノ瀬優は人差し指を立て、そしてそれを背後へと向けた。

 薫は指先が示す方向を見て、今度は違った意味の恐怖が込み上げてきた。


「何で早く言わなかったの…………?」


「言う暇が無かった、からかな」


 薫は慌てないよう、しかし早急にレバーアクションライフルを構え直し、アイアンサイトを覗き込んだ。

 その照準が捉えるモノは、“生きる屍”だった。

 爛れた皮膚に腐った肉体。土気色の肌をして、眼球ばかりが赤く光るモンスター。

 それは一体や二体ではなく、両手で数え切れない程の屍が、暗闇の中からおぞましい呻き声を上げながら迫って来ていた。

 まるでスプラッタ映画の一コマだ。


 それにしても何故、もっと早く報告しなかったのか。

 いや、それよりも何故、こんなに近付くまで『不死人』の存在に気が付かなかったのか。

 疑問は尽きないが、そんな場合ではない。


「こちらアストレイ。インパルスと合流も『アンデッド』と遭遇。これより交戦に入る」


 手早くインカムに息を吹き込んだ薫は、初弾を撃ち放った。

 弾丸はゾンビ化した『不死人』の頭部を貫き、そして地獄のような戦いの火蓋が切って落とされた。











 地上。

 病院の東側緊急搬送口から侵入した『新撰組』の二人と雨竜毬耶は、破竹の快進撃を見せていた。

 敵は『不死人化』した『フリークス』残党の兵士。

 決して日本で対峙するようなチンピラ連中とは違い、錬度も高ければ扱う銃器の火力も違う。

 化け物が隊伍を組んで銃撃してくる中を、まだ十代の少女らがたった二人で尽くを撃破していっている。


 そう、たった二人で化け物共を相手取っているのだ。

 クララ・クラーク・クランと天真時雨は、毬耶が一体を倒している間にそれぞれ三体の『不死人』を撃破していっている。


 クララは卓越した狙撃で。

 天真は研ぎ澄まされた銃剣術をもって。

 各々、狭い通路を器用に行き来し敵を撃破していく。

 毬耶など舌を巻くばかりで、ほとんど出番など無かった。


「オオォォォオオオォォォーーーー!」


 天真時雨が咆哮する。

 建物が震撼するかのような雄叫びである。

 その勢い、銃剣突撃を行い『不死人』の心臓を抉り取った。


「何て声を出しやがる。とても女の子とは思えない」


 弾倉を取り替えながら、毬耶は苦笑を浮かべる。

 その内、こちら側へ戻ってきた天真が毬耶とクララに向かって、こう語った。


「この事は薫には内緒にしてくれ。その、あいつには、女の子として見て欲しいから…………」


 語尾は消え入りそうな程に小さなかった。

 頬を赤らめ俯く様は、普通の女の子のようである。こんな無茶苦茶な奴にも、一応は恥じらいと言うものがあるのだな、と意外な一面に毬耶は教師心をくすぐられた。


「こちらアストレイ」


 そんな中、的場薫から通信が入った。


「インパルスと合流も『アンデッド』と遭遇。これより交戦に入る」


 淡々としているようで、切羽詰まった様子が声色から窺い知れた。

 その後は銃声が鳴り響き、通信が途切れた。


「聞こえたか?」


「聞こえた。やっぱり私が飛び降りるべきだった」


「イチめ。地下を進んでいたな?」


 各々、感想は違うようだが目的は一致していた。


「直ぐに薫と合流すべき」


「そうだな。イチと一緒と言えども、あいつらだけで『不死人』を複数相手にするのはキツいだろう」


 どうやら二人は的場薫と合流したいらしい。

 毬耶とて気持ちは同じだった。


「天真、偵察ドローンで地下への入り口を探してくれ」


「私に命令するな。私に命令出来るのは、この世に的場薫ただ一人だけだ」


 そう言いつつも、天真は偵察ドローンを操作し探索を始めた。

 自分のやるべき事は分かっている様子だ。

 その間、クララと毬耶は天真の援護に回る。


 銃撃をしながら、毬耶は密かに按じていた。

 それは教師らしくない心配の仕方であったが、それでも思わずにはいられなかった。

 どうか的場薫だけでも無事に合流してくれ、と。

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