第二話
ゲートの向こう。
曇天の空の下。
ウォビエラ都市外『フリークス』占拠区域に聳え立つ軍事基地には、数多の『不死人』が我が物顔で闊歩している。
元は戦争により破壊された赤十字病院だったのだが、薬品や設備を目当てに『フリークス』が略奪し軍事拠点に改造したのである。
拠点と言っても粗末なものだ。
ターレットやトーチカに見立てた防衛装置はあるものの、外観はほとんど無防備な様相を晒している。故に病院まで近付くのは容易だ。
しかし、その前にゲートを通り抜けなければならない。
ゲートは高さ十メートル、厚さ二十センチの堅牢なもので、唯一の出入口では常に連邦政府軍の兵士が見張りとして立っており、厳しい検閲をしている。出るも入るも容易には行かない。普通ならば。
「待て! 名前と指令ナンバーを明かせ!」
ゲート前まで辿り着いた的場薫らは、案の定見張りの兵士に呼び止められた。
雨竜女史が応対しようとするが、すかさず天真時雨が声を発した。
「『新撰組』、作戦番号4996」
「確認する。少し待て」
訝しむ雨竜女史の視線を物ともせず、時雨はさらりと薫も知らない作戦番号を口にした。
数秒後、兵士は「承認、通って良いぞ」と門番に手信号で開門を促す。堅牢な門が、観音開きに開かれていく。
巨大なゲートだけに開放には時間が掛かるらしい。その動きは遅々としていた。
「ここを女の子が通った筈だ。知らないか?」
「女の子? 知らないが、バイクが一台、強引に通り抜けていったよ。物凄い速さで、威嚇射撃にも反応しなかった」
時間を無駄にしまいとする時雨の問い掛けに、兵士は肩を竦める。
どうやら検閲の程はずさんらしい。
バイク一台、まともに止められないとは。
「そうか。情報、感謝する」
と、丁度、ゲートが開ききった。
雨竜女史がジープを発進させる。
ここからは『フリークス』の領分だ。
薫は『適性銃器』であるレバーアクションライフルを手中に呼び出し、交戦に備える。他の三人も同様に、銃器を展開していた。
「どういう事だ、天真?」
暫く道なりにジープを走らせていた雨竜女史は、時雨に視線だけを向け問い質す。
「ゲートを通り抜けたバイクはイチで間違いないだろう。全く、よく強引な手で罷り通るものーーーー」
「そうじゃ無い! 指令ナンバーの件だ!」
「嗚呼、そっち」
「まさかハッキングじゃ無いだろうな?」
「まさか。この程度、ハッキングと言うほどの手間では無い」
何の悪びれもしないで、時雨はハッキングを認めた。
詳しくは知らないし知りたくもないが、恐らくゲートに辿り着く前に軍事作戦をでっち上げたのだろう。完全に違法な手段である事は、言うまでも無い。
薫の胃に深刻なダメージがあった事も、また然り。クララが優しく肩に触れてくれた。
「けど、作戦を捏造したという点では先生も同じでは?」
時雨の言葉に、雨竜女史は口をつぐんだ。
先日のカーチャ・ザレコフ確保作戦のことだ。
同意の上とは言え、雨竜女史も作戦を捏造していた事には変わり無い。気の毒に、時雨に弱味を握られてしまったようだ。
「…………的場、ルートを算出しておけ」
「り、了解」
答えに窮した雨竜女史は、薫へと話を投げ掛けるのだった。
日は高いが雲が日差しを遮り始めた。
これから雨が振り掛けるかも知れない。
そんな曇天の空の下、ジープは目的地である病院よりも少し離れた倒壊したビルの前に到着した。
腐っても『フリークス』の軍事拠点に、たった四人で真正面から馬鹿正直に攻め込むような愚かな真似はしない。
そもそも特殊部隊でも無い限り、いや、特殊部隊でもたった四人で拠点に乗り込むような真似はしないだろう。
拠点攻略ならば、通常は『デッドキラー』全部隊を召集してしかるべき事だ。例えそれが雑多な拠点であっても。
そんな大事に四人で挑むには、搦め手が必要となる。
薫は無い知恵を必死に絞り出し、この倒壊したビルに目を付けた。
このビルは元は何処かの大企業が有していたオフィスビルなのだが、戦争中に根っ子から爆破され、連邦政府軍に対しての“質量爆弾”に利用された。今でもこのビルの下には、戦闘車両や兵士の残骸が埋もれていると言われている。
では、何故、そんなビルに目を付けたのか。
簡単な話が、倒れたビルの屋上付近が目的の病院の方向を向いているからだ。
内部を通り抜ける事が出来れば、敵に気付かれる事無く病院へ接近出来る。それが如何に浅はかな考えかは、勿論、薫自身も理解している。
「けど、このルート以外だと敵に脇腹を晒すはめになるし、狭い空間だと少数精鋭のこちらが優位に立てると思うんだ」
薫はHUDに表示した地図を眺めながら、自信なさげに考察を口にした。
三人の女性兵士は、特に異論は無いという風に頷いた。
「イチもここを通った可能性は高い。まだ銃声も聞こえないし」
「ジープ単機で機銃の嵐に飛び込むよりは、マシだと思う」
「援護も無いしな」
どうやら作戦は決まったようだ。
薫はパワードスーツの電源を入れ、『Outlaw M1894』を腰だめに構える。
他の三人も同じ様に準備を済ませ、それぞれジープを降りた。
町は閑散としている。
不気味なほどに静寂が周囲を包み込んでおり、時折吹き荒ぶ突風の音だけが鼓膜を震わせた。
嵐の前の静けさ、というには表現が良すぎた。
「嵐で済めば良いものだけど………」
「ぼざっとするなよ、的場。行くぞ」
「り、了解」
薫らは時雨を戦闘に隊列を組みながら、倒壊したビルの玄関へと足を踏み入れた。
可愛らしい女の子が書きたくなる。
三人娘は癖が強すぎて。




