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幕間

 現実へ逃避。

 またも体を激しく揺さぶられた的場薫は、弾けるように飛び起きた。

 同時に、警戒するように周囲を見渡す。

 安っぽい壁紙の貼られたくすんだ壁。

 狭苦しい部屋の大部分を占めるベッドだけは清潔に整えられた基地宿舎の一室。

 寝る前となんら変わることの無い風景に、薫は安堵の吐息を吐き出した。


「夢、だったよね…………」


 薫は呟きながら、深く息を吐き上がった呼吸を整える。


「的場、大丈夫か?」


 動揺する薫に優しい言葉を投げ掛けてくれたのは、『咲浪銃器学園』二学年の学年主任を勤める雨竜毬耶だった。

 彼女はベッドの端に腰を下ろし、薫を見下ろしていた。

 言っておくが、これはロマンスでも何でもない。就寝時は一人であったことを、雨竜女史の為にもここに保証しておこう。


「水でも飲め」


「ありがとうございます。戴きます」


 薫は雨竜女史が差し出してくれたコップを受け取り、中身を一息に飲み干した。

 夢だったのか。

 薫は空になったグラスを眺めながら、安堵するように溜め息を吐いた。

 夢にしては、泥濘の感触や硝煙の臭い何かはやけにリアルだったが。


「酷くうなされていたな。何の夢を見ていた?」


 余程の様相だったのか、雨竜女史は心配そうに問い掛ける。

 薫はどう説明すべきか迷った。

 あの、凄惨な夢の様子をどう言葉に顕すべきか。


「戦争、を、見ました」


「戦争だと?」


「はい、血と泥濘の戦場の直中に、僕は立っていました。ゾンビ化した『アンデッド』の軍勢に囲まれて、機関銃の乱射も効果がなくて、その…………」


 口にしながら、薫は何だか滑稽なように思えてきた。

 ただ悪夢を見ただけだというのに、まるで戦争から帰って来た帰還兵のように怯えて戦いている。本当の戦場に立ったことの無い分際で、何様のつもりだというものだ。

 しかし、雨竜女史は馬鹿にすることも無く、薫の言葉に耳を傾けてくれている。その態度に心を許してしまったのか、薫は夢で見た光景を洗いざらい話した。


「馬鹿げてますよね? 僕は戦争なんか体験したことなど無いのに」


 話の締め括りに、薫は自嘲して見せた。

 それに対して雨竜女史は、真面目な表情で首を横に振った。


「お前は確かに戦争に参加していないだろう。けど、似たような経験はしてきている。きっと過去の記録と自分の記憶が混同して、悪夢として現れたのだろう。何も馬鹿げてなどいないさ。疲れているんだ、きっと」


 そう優しく告げながら、薫の頬に指を這わせる。

 女性らしい細い指なのに、女性とは思えないほど硬質な感触をしていた。


「先生…………」


「何せグレネードの衝撃を真正面から受けたんだからな。妙な夢も見るだろう」


 そう語る時は、申し訳なさそうな表情をしていた。

 そう言えば、今回の任務ではその様な事もあった。あれは確か、二階から転がり落ちてきたフラググレネードの爆発から、雨竜女史を守ろうとしての事だったか。


「お前のお陰で私は今、こうして生きている。ありがとう」


「いえ、そんな…………」


 素直にお礼を言われると、どうにもこそばゆい。

 薫は照れて顔を背けようとするが、雨竜女史がそれを許さなかった。彼女は両手で薫の顔を包み込むと、くいっと自分の顔と対峙させる。


「お前には礼をしなければならないな。嗚呼、助けてくれた事もそうだが、今回の作戦を決行してくれた事についてもだ」


 ふわりと香る心地好い香りに、薫は頭の芯が痺れるような感覚に囚われた。

 そのまま二人の距離は近付いていきーーーー





「薫ーーーー!」





 刹那、ノックも無しに部屋のドアが唐突に開け放たれ、薫と雨竜女史は慌てて距離を離した。

 何事かと入り口の方を振り向くと、そこには“『新撰組』の三人娘”の一人、天真時雨が仁王立ちしていた。


「し、時雨、どうした?」


 驚きのあまりに声が裏返る薫を他所に、時雨はズカズカと大股で近寄って来た。

 何やらただ事ではない様子だ。

 しかし、表情は嬉々としている。

 やがてベッドまで歩み来た彼女は、薫の胸ぐらを掴み上げるようにして詰め寄った。


「今すぐ、出撃命令を出せ! イチが単独で『フリークス』の拠点に向かって飛び出して行ったぞ!」


 さも愉しげに伝えられた衝撃的な内容に、薫は言葉を失った。

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