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幕間

 悪い夢物語。

 新品同様の真っ白なシーツ。

 洗濯仕立ての布団。

 ふかふかのベッド。

 それらに包まれながら、的場薫は眠っていた。

 さぞや心地好いだろう。

 小春日和の日差しが部屋を明るく照らし出す中、何もかも関係無いと言わんばかりに眠るというのは、何にも増して至福の一時だろう。


 しかし、ベッドの上に横たわる的場薫の表情は、とても至福の様相を呈していなかった。

 どちらかと言えば、苦悶。

 眉間に皺を寄せ、額に汗を垂らし、苦し気に全身を身動ぎする様子は、見ているだけでも辛そうだった。

 恐らく悪夢を見ているのだろう。

 時折、呻くような声を出す様だけでも、よほどの辛い夢なのだろうと予想が付いた。


 野暮かと思ったが、起こして上げるべきだろう。

 そう思い立ち、彼の肩に手を置いた。










 肩を激しく揺さぶられた的場薫は、驚きのあまり飛び起きた。


「寝ている場合じゃ無いぞ、的場!」


「東出軍曹?」


「ぼさっとするな! 銃を持て!」


 薫を揺り起こしたのは、『ワイルドカリス』の部隊長を勤める東出満二等軍曹だった。

 何故、軍曹がここに居て自分に指示を下しているのか。分からない事だらけだが、薫は急かされるままに飛び起き武器を取った。


 目の当たりにした光景は、この世の地獄だった。

 空は重く黒い雨雲に覆われ、そこから降り頻る大粒の雨が泥にぬかるんだ地面を更に緩ませる。

 その湿地に満ちた大地を、数多の『不死人(アンデッド)』が闊歩し、数多の人間がそれを迎え撃つ。両者は入り乱れ、交じり、鮮血がそれを赤く彩っていた。


 ある兵士は機銃に取り付き稜線の向こう側から現れる化け物を薙ぎ払い。

 ある兵士は最新鋭の戦車を駆使して化け物を打ち砕き。

 ある兵士は接近してきた化け物を銃床で殴り付け。

 そして、ある兵士は化け物に銃座ごと破壊され挽き肉となり。

 ある兵士は化け物の砲撃に戦車と共に命運を共にし。

 ある兵士は化け物の集団に為す術も無く食い殺され。


 人間と化け物が入り雑じる戦場のただ中に、的場薫はポツンと立ち尽くしていた。

 正確には、地獄の様相を呈するこの戦場に、呆然としてしまっていた。


「何だこれは…………? 悪夢…………?」


「■■■■■ーーーー!」


 突如、間近で化け物の声が轟き驚いた。

 慌てて振り返りながら銃剣を振るい、『不死人』の首を切り落とす。

 肉、骨を切り裂く感覚。

 間違いなく現実のものだ。

 これは夢なんかではなく、現実に起こっている事なのだ。


「こんなの、戦争じゃないか…………」


「何をしている、貴様!」


 状況が丸っきり読めない薫に、『人類統一連邦政府軍』の士官服を身に纏った男性が怒鳴り付ける。


「銃座に着け! ここを死守しろ!」


「は、はい!」


 薫は慌てて泥濘の中を走り、半壊した家屋の窓辺に備えられた機銃に取り付いた。傍らに倒れた下士官の遺体は、出来るだけ見ないよう心掛けて。

 『キャリバーM22』重機関銃。

 『ブローニング M2 キャリバー』重機関銃の改修型で、見た目こそ似ているが銃身が特殊錬金素材で設えられている為、『13mm対不死人弾』という大口径の銃弾を連続して撃ち出せる。区分としては対物兵器だが、戦場では主に対人兵器として扱われている。


 薫はコッキングハンドルを引き射撃準備を整えると、照準もそこそこに機関銃後部のグリップを握りトリガーとなるスイッチを押し込んだ。

 元より照準の必要など無かった。

 眼前は化け物の群れ。

 状況は一刻を争っていた。


「Fireeeeeーーーー!」


 怒号と共に『13mm対不死人弾』を怒涛の如く撃ち放ち、『不死人』の群衆を横薙ぎにしていく。

 しかし、『不死人』の数に比較するべくもなく、ベルトリンクされた銃弾は容赦なく減って行き、あっという間に全弾を撃ち切ってしまった。


「リ、リロードはーーーー!?」


 薫は予備弾薬を探して周囲を漁って見るが、空薬莢と空っぽの弾薬箱が山のように在るだけだった。

 そうこうしている内にも、『不死人』の大群は大波のように迫り来る。


「何をしている⁉ 撃ちまくれ!」


 先程、薫に機銃に着くよう命令を下した士官が、怒り顔で近寄って来た。薫はすがるように「予備の弾薬が無いんです!」と叫ぶ。


「なら『適性銃器』を使え! 貴様、『ガンスリンガー』だろう!」


 この言葉に薫はハッとした。

 何故、今まで失念していたのだろうか。

 薫には『ガンスリンガー』としての特別な武器、『適性銃器』があるではないか。


 慌てて相棒とも言える『Outlaw M1894』レバーアクションライフルを手中に呼び出す薫。

 士官は連邦政府軍の制式採用ライフルである『M8A3』アサルトライフルで、重機関銃の抜けた穴を埋めるべく窓辺に立ち弾幕を張る。


「急げ! 完全に囲まれる前にーーーー」


「■■■■■ーー!」


 士官がこちらを振り返った一瞬の隙を狙ったかのように、ゾンビ化した『不死人』が窓の外から腐蝕に肉の爛れた腕を伸ばしてきた。

 醜い腕は士官を捉え、廃墟から引き摺り出す。


「やめ、やめろ、やめてーー! ひぃぁぁぁぁーーーー!」


 後にはあれだけ勇ましかった士官の泣き叫ぶような恐ろしい悲鳴と、おぞましい咀嚼音が嫌に鮮明に響き渡った。


「ーーーーっ!」


 薫は恐ろしさのあまり、声になら無い悲鳴を上げた。

 ゾンビものってこんな感じでしたっけ?

 何か迷走してる感が否めないですね。いや、今のところは大丈夫ですよ。多分。

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