第一話
熾烈な聞き込み調査。
聞き込み任務は忍耐勝負。
的場薫は、ずっとそう思っていた。
関係各所を一ヶ所ずつ地道に回ったり、ちょっとした会話術で情報を聞き出したりする、派手さは無いが堅実な仕事だと想像していた。
まぁ、我等『新撰組』には不向きな任務である事は間違いない。
それは周知が認める事実であり、間違っても回される任務では無い筈だった。
「『新撰組』だ! カーチャ・ザレコフって女は居るか!」
薫は胃痛に苛まれた。
パートナーを務める一ノ瀬優が、銃器の無法地帯で、その筋の危ない輩が出入りするチャイニーズレストランのドアを蹴破り、店内に響き渡るように怒鳴り散らした日には、胃潰瘍を覚悟した事だろう。
見よ。
スキンヘッドだったり刺青だったり、兎に角その筋の人間ですよと自己主張しているお兄さんとお姉さん連中が、「何だテメェは!?」とか「ヤんのかクソガキ!」と口々に言いながら物凄い形相でこちらを睨み付けている。
手に手に凶悪な武器を備えて、今にもはっちゃけそうな剣幕である。
しかし、先に弾いたのは一ノ瀬優の方だった。
手中に一瞬で『6.8mm MASADA』突撃銃を呼び出した彼女は、横薙ぎにするように掃射を掛けたのだ。
凄まじい銃声が店内に轟き、テーブルに着いていた“人間”が鮮血を迸らせながら倒れていった。
「あ、な……に……何、何やってんの!? “穏便”な聞き込みって約束だったでしょ!?」
「だから、“穏便”だったろ?」
「何処が!?」
思わぬ行動に胃を庇う薫を尻目に、一ノ瀬優は空となったマガジンを排出する。
彼女なりに“穏便”にしてくれたようだが、状況は完全に討ち入りである。
何より問題は、彼女が撃ち殺した連中は、武装していても”ただの人間“であるという事だ。
「どうすんのさ! 幾ら僕らでも、人殺しは御法度だぞ!」
「へッ、問題ねぇよ」
狼狽する薫に、一ノ瀬優は不適な笑みを見せた。
ゾッとするような笑みだ。
「こいつらは人間の糞だ。クズ、いや、害虫以下。『アンデッド』に成ってないだけで、その場に居るだけで迷惑な隣人共さ。俺とおんなじでな。殺したところで誰からも文句は出ねぇよ」
「イチ、君はーーーー」
「おら、気張れよ隊長! デストロイが始まるぜ!」
マガジンリロードを終えた一ノ瀬優が、まるで水を得た魚のように生き生きとした表情となった。
これが『ガンスリンガー』、一ノ瀬優である。
自らの全ては闘争にのみと律した少女。
戦こそ我が進むべき道とした彼女は、他の才能を全て殺した結果、全知全能を戦の為に用いるよう己を構築したのだろう。
「嗚呼、クソ! ーーーーコンディション、レッド! 総員、戦闘配置!」
薫は無線機に怒声を吹き込みつつ、サイドアーム『Re.SAA』回転式拳銃を抜き放つ。
『コルトSAA』回転式拳銃を『対不死人弾』仕様に天真時雨が改修した拳銃で、シリンダーは脱着不可となっているのが特徴。シリンダー上部にも一体のフレームを通したソリッドフレームを採用して、強度を確保している。
これにより強力な銃弾の発射にも耐えられるようになり、更に特殊錬金素材を採用した事で『対不死人弾』が使用出来るようになっている。
因みに『Re.Mau』自動拳銃は調整中で、天真時雨に預けている。
「テメェら!」
「この野郎!」
その間にも奥に潜んでいた厳つい組員が、各々“弾き”を持ってぞろぞろと出てきた。
刹那、一ノ瀬優の『XM25』グレネードランチャーが炸裂し、一団を纏めて排除した。
「ここは俺に任せな! 隊長は二階のカバー、ヨロシク!」
「ーーーーそうさせて貰う」
破片と爆風にバラバラとなる人間を目の当たりにした薫は、形容しがたい感情に見回れた。
しかし、構っている暇はない。
撃鉄を起こし、拳銃を構える。
「二分で応援が来る! それまで持ちこたえろ!」
「二分も要らねぇよ!」
言葉を交わしつつ薫は彼女から離れる。
刹那、銃声が轟いた。
忍耐もクソもないな、と薫は苦虫を噛み潰した表情を浮かべた。
『適性銃器』である『SIGUMA.45』ポリマーフレーム製自動拳銃を両手に一挺ずつ備えた雨竜毬耶は、すえた臭いが立ち込める路地を必死に駆けていた。
何らかの問題を起こすことは覚悟していたが、まさかここまで酷い事になるとは夢にも思わなかった。
「聞き込み始めて五秒で銃撃戦だと⁉ ふざけてるだろ!?」
毬耶は無線機に怒鳴り付けながら、店の裏口へ回る。
既に一ノ瀬優は無線に答えず、小隊は的場薫の命によりいち早く次の行動に移っている。結果的に毬耶は取り残される形となってしまった。
一度展開が始まってしまった後は、行動が早いのは『新撰組』の数少ない良いところだ。
的場薫もクララ・クラーク・クランも天真時雨も、一ノ瀬優に合わせるように行動を開始していた。
毬耶が動き出したのは、彼女らより一拍遅れての事だった。
「減点してやる! もう!」
憤慨しながらも実戦慣れした身体は店へ急ぐ。
やがて路地裏に面した中華店の裏口へ辿り着いた。その直ぐ隣には、的場薫が回転式拳銃を構えたまま二階へ上がる階段の前で立ち止まっていた。
毬耶は彼の元へ駆け寄る。店内では銃撃戦が繰り広げられているのか、銃声が路地にまで木霊していた。
「お前、何をしている⁉」
「狭い階段、上階に敵複数。自分だけでは危険と判断し援軍を待っていました」
的確な状況分析に、毬耶は舌を巻くと共に怒りを沈めた。
どうやら憤りに毬耶の方が判断力を欠いてしまっていたようだ。
「どうしますか?」
的場薫は上官とも言える毬耶に判断を仰ぐ。
先程までの取り乱し様に赤面した毬耶だが、やはり慣れた身体が先発して行動を起こした。
「私が先に行く。制圧力なら、私の『SIGUMA』の方が有利だ。お前はその虎の子のリボルバーで援護を頼む」
「了解」
指示を下し階段を登ろうと足を掛けたその時、カランコロンと何かが転がり落ちてきた。
刹那、何か物凄い力で襟首を引っ張られた。
「『Seald ON』ーーーー!」
毬耶がコンクリートの地面に腰を強かに打ち据えたと同時に、激しい爆発と衝撃が路地裏に広がった。
銃弾が迫り来る。
全てが一人の少女を殺害せんとして、確かな殺意を込めて殺到する。
しかし、どれも止まっているかのようにゆっくりと進んでいた。
「ド素人共めーーーー」
一ノ瀬優は呟くと、床を蹴り跳躍する。
一息に天井近くまで飛び上がった優は、そのまま天井を足場にして『6.8mm MASADA』突撃銃を構える。
撃発。
フルオートにセレクトされた銃身から『6.8mm対不死人弾』が矢継ぎ早に撃ち放たれる。が、全てがゆっくりとした動作で、煩わしくなるほどに緩慢であった。
数発撃ち終えた優は、敵の射線から逃れるように場所を選び天井を蹴った。
そして着地すると同時に、緩慢だった時間が元の速度を取り戻す。刹那、けたたましい銃声に混じり、幾つもの悲鳴が上がる。
「何だこいつ!?」
「速すぎて見えねぇ!」
拳銃を水平に構えていたりと素人丸出しのギャング共が、口々に驚愕の声を上げる。
違うな、と優は嗤う。
「このクソ女がぁ!」
再度銃撃が始まるが、次の瞬間には優の姿は掻き消え銃弾は虚しく豪奢な壁や窓に風穴を空けていく。
「ど、何処に行きやがった!?」
「こっちだぜ」
優はギャング共の後ろを取っていた。
そして驚きながら振り返るバカ共よりも早く、『XM25』グレネードランチャーのトリガーを弾く。一発の擲弾が放たれ、集団のど真ん中に着弾、爆発した。
爆発と破片に複数の人体が引き千切られ、血飛沫や肉片が店内に散らばった。
その一撃で勝敗は決した。
勝てないと見込んだギャング共は次々に武器を放り出し、店の外へと駆け出して行った。
「何だよ、お前ら? 口ほどにもネェな?」
折角の銃撃戦は、ものの一分も掛からずに終わってしまった。深追いはしない。
別に殺人を拒否しての事ではない。敵が『不死人』でない限り、無抵抗な人間を殺すことは『ガンスリンガー』には許されていないというだけだ。
優は口惜しげにグレネードランチャーのマガジンを交換し、「これだから人間相手は」と吐き捨てる。
人間は脆い。
その脆さ故に臆病だ。
臆病風に吹かれた人間は、直ぐに闘争を止め逃走を取る。
それは面白くない。
とても面白くない。
とてもとても面白くない。
ならば『不死人』のような命の無い化け物を殺す方が、余程楽しいというものだ。
「やっぱ、うちの隊長みたいな大馬鹿野郎はそうそう居ないか」
思い出されるのは半年前の出来事。
自らの命を惜しまず、馬鹿みたいな曲芸をやってのけた野郎の馬鹿みたいな笑顔。
何の事は無い。
ただ敵陣に飛び込んで返り討ちにあった女と、共に傷だらけとなった男が居たというだけの話だ。
優は肩をすくめ的場薫に終了を伝えようとインカムに手を伸ばし掛けたその時、路地裏の方で爆発音が鳴り響いた。衝撃で店が揺れた。
瞬間、即座に身体を反転させ、路地裏へ続く戸口へ駆け出した。
的場薫が路地裏へ向かったのは、つい先程の事である。
これ元ネタあるんですが、分かりますか?
分からなくても大して問題は無いのですが。




