表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Outlaw Gunners ーハーレム小隊の憂鬱な日々ー  作者: 梨乃 二朱
第二章:カウボーイ&カウガール
17/63

第一話

 イマジンワールド。

 何かの狭間に的場薫は漂っていた。

 それが“生と死“の狭間なのか、はたまた“現実と仮想”の狭間なのかは分からない。

 けれども、決して心地好い場所ではなかった。


 全てが曖昧だった。

 壁も床も天井も、机も椅子も、人も動物も、何もかもが曖昧で薄気味悪い。

 自分自身も曖昧で、立っているのか座っているのか、生きているのか死んでいるのかさえ分からない。

 確かな事は、この場に的場薫が存在しているという事だけだ。


「ようやくお目覚めですか?」


 声が聞こえた。

 聞き慣れた優しい声音。

 薫は視線だけを動かし、声のした方向を向く。


 天女が迎えに来た。

 そう錯覚してしまう程に美しい少女が、曖昧な狭間の中に存在を確かに立っていた。


 天鵞絨のように艶やかな黒髪を腰まで垂らし、真珠のような白い肌をした黄金比を体現したような絶世の美少女。

 白い紬を着込み、腰に刀を提げた武道少女。

 三科凛子がそこに居た。


「三科さん? これは何です? 夢?」


「夢。だったら目覚めて終了ですね」


 凛子は困惑する薫を嘲笑うでも無くくすりと微笑む。


「けど、貴方はこのまま目覚めてはなりません。そうしてしまうと、私は貴方を殺さなければならなくなります」


「どういう事ですか?」


「百聞は一見にしかず、ご自分の目で確かめて見て下さい」


 刹那、曖昧だった空間に色が滲み出した。

 白い部屋。

 白いカーテンに、白いベッド。

 白い防護服を着込んだ男性や女性がベッドを取り囲んで居る。


 その一団に混ざり、雨竜毬耶の苦渋に満ちた表情が合った。

 彼女もまた、防護服を着込みベッドの脇に待機していた。

 皆、忙しなく作業に没頭している。


「ここは? 隔離病棟?」


「ベッドに眠る方をご覧下さい」


 薫は凛子に言われるがまま、ベッドに近付きその人物の顔を拝見した。

 瞬間、まるで稲妻が体を直撃したような衝撃が走った。


 何とベッドには、的場薫の姿があるではないか。

 更によく観察すると左腕が付け根から無くなり、断面には何かのチューブが伸びてベッド脇の機械に繋がっていた。

 これだけの情報で、薫は全てを悟った。信じたくない現実を理解してしまった。

 何度と無く目の当たりにしてきた光景だけに、直ぐ様に理解出来てしまった。


「僕は、『アンデット化』し始めているの……か…………?」


 戦場から後送されてくる負傷者は、こうして隔離病棟に閉じ込められて治療に当たる。

 通常、『不死人(アンデット)』に攻撃されても、人間に怪我をさせられる程度の問題しか無い。


 しかし、それがゾンビ化した『不死人』なら話は別だ。

 ゾンビ化した『不死人』に噛まれる又は引っ掻かれる等の傷を負わされた人間は、早ければ数分以内に『不死人』と化してしまう。

 治療法は傷口を切除するが最も効果的とされている。それが出来なくても、専用のナノマシンによる『不死人化』の原因となる因子の除去という方法もある。

 けれど、どちらも速度が重要で、『不死人化』が進んでしまっていては手遅れとなってしまう。


「貴方を救助した『ワイルドカリス』の衛生兵は、貴方の腕が吹き飛ばされた直後に即座に処置を取ってくれましたが、貴方は奴等の返り血を浴びていました。それが患部に接触し、因子が体内に入り込んでしまいました。粘液感染、というのでしょう。通常では起こり得ないのですがーーーー」


「変異種だったが為に特例が出た、というところですか?」


「その通り。しかもナノマシン技術の対応も遅々としており、このままでは貴方は九割の確率で『不死人』と化してしまうでしょう」


 凛子は淡々と告げる。

 絶望的な状況報告であった。


 しかし、ふと思った。

 今、この起こり得ている現象が、本当に現実なのか、と。

 いや、有り得ない。

 ここに的場薫が居るのに、どうしてベッドに寝ている的場薫を客観的に観察出来ようか。それに三科凛子の存在も可笑しい。何故、彼女がここに居て、薫と話しているのか常識的に説明出来ない。


 全てに納得がいく説明を求めるとするならば、答えは一つしか無い。


「こんなの、夢に決まってる…………!」


「はい?」


「だってそうでしょ? 三科さんがここに居る理由も、僕がここに居る理由も、夢としか説明出来ないじゃないか! これは夢だ! そうに違いない!」


 頑なに夢だと主張する薫。

 そうでもしないと、可笑しくなりそうだったからだ。

 信じられる筈が無い。

 まさか自分が、『不死人』になろうとしているなんて。


「気持ちは分かります。が、これは夢でも何でもありません。現実に起こり得ている現象なのです」


「嘘だ! だったら、貴女はどうしてここに居るのですか!?」


「私は少し特異な体質をしていまして。今、貴方の精神に入り込んで直接語り掛けて居るのです。説明すると長くなるので、細かいことは省略しますが」


 何の根拠があるものか。

 しかし、凛子の言葉には言い表しようの無い説得力があった。

 薫は自ずと知れず、納得してしまった。


「じゃあ、どうすれば…………? 貴女はこんなものを見せて、どうしたいのですか…………?」


 絶望のあまり膝を着く薫。


「抗うのです」


 凛子は厳かに告げる。


「まだ希望はあります。貴方は自らの内に入り込んだ『不死人』に抗い、人として勝利を納めるのです。それが唯一、貴方に出来る方法です」


「そんなの、どうやって…………?」


「かつて癌を患った少年が、想像力で癌細胞を駆除したという事例があります。それを貴方が行うのです」


「そんな、一朝一夕にいかないでしょう?」


「だから、私が居るのです」


 凛子は薫の肩に優しく触れた。

 刹那、また空間に別の色が滲み始めた。


 今度は煉瓦造りの家が何軒も現れた。

 草木の生えた地面に、木製の門戸もある。

 何処か中世のヨーロッパを思わせる村が、薫の視界を埋め尽くす。

 不気味なのは村に濃厚な霧が掛かっている事と、人が一人も居ないという事だ。


「何だここは?」


 薫は村の入り口に立っているようだった。


「これから貴方には戦場を駆けて貰います」


「戦場?」


「えぇ、ここがその戦地です」


 凛子は霞の掛かった村を手のひらで指し示す。


「■■■■■ーーーー!」


 刹那、あの地獄の底から聞こえるような唸り声が耳朶を打った。

 こういうの、近未来っぽくもファンタスティックで結構好きだったりします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ