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Outlaw Gunners ーハーレム小隊の憂鬱な日々ー  作者: 梨乃 二朱
第二章:カウボーイ&カウガール
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第零話

 待機、『新撰組』。

 『Re.C96』と名付けた拳銃を弄びながら、天真時雨はデスクに突っ伏していた。

 これは『マウザー社』から販売された大型の自動拳銃『マウザーC96』、別名『モーゼルミリタリー』をリファインした拳銃。

 給弾の際にトリガー前部にある固定弾倉に一発ずつ装填するなどの独特な構造を受け継いでおり、シングルアクションのリボルバーに代わる的場薫専用に設計開発した拳銃である。


 結局、彼に渡すことはできなかった。

 開発が終了したのが作戦を終えた後だったからだ。


「あの馬鹿め…………」


 呟き、涙が滲み出る。










 的場薫が居なくなっても、特に変わり無く日常は過ぎていく。

 一ノ瀬優は『6.8mm MASADA』突撃銃のトリガーに指を掛け、ドアに掛けたダーツの的のど真ん中を狙う。距離は五メートル、スコープはACOGを使用している。

 普通なら外しはしないだろう。


 『6.8mm MASADA』突撃銃は、かつては次世代型と謳われた高性能ポリマーフレームライフル、『Magpull MASADA ACR』を基礎(ベース)に造られた『適性銃器』だ。

 イスラエルの難攻不落と言われた要塞があった山の名を冠したこのライフルは、当時のライフルの良いとこ取りして造られた。『M16』や『SCAR』と言った有名なライフルの構造も含まれている。

 コンセプトは“変貌できる戦闘銃”であり、各パーツを工具無しで交換出来る。

 優のものは特に特殊で、10.5インチのCQBモデルでありながら、ハンドガードの下部に『XM25』ブルパップ式グレネードランチャーを備えている。


 悪いことに優は自他共に認める“射撃狂”だ。

 そんな面白そうな物を渡されれば、必然的に撃ちたくなる。

 けど、グレネードランチャーの試射を小隊待機室で行いドアを吹き飛ばし、怒鳴られ謹慎処分を下された時は流石に反省した。それ以来、試射はライフル弾のみとしている。


 今日もまた、試射をする。

 セミオートに設定した突撃銃を構え、標的を狙いトリガーを弾く。破裂音と衝撃が全身に走ると同時に、『6.8mm対不死人弾』が撃ち放たれた。

 銃弾は的のど真ん中を、僅かに逸れて目標の上に当たった。


「調子悪いね」


 右手の壁際、定位置でサツマイモチップスを食べていたクララ・クラーク・クランが、無感動に呟いた。

 優は少し間を置いてから、苛立ちげに「んあぁ」と呻く。


「やっぱ、隊長居ないと調子出ないや」


 的場薫が居なくなって、特に変わり無い日常を過ごせていない人間は少なからず存在した。

 第05銃器小隊『新撰組』の面々だ。


 一ノ瀬優は射撃の腕が鈍った。

 天真時雨は研究室籠ったまま出てこない。

 クララ・クラーク・クランは、食事の量が減った。

 皆、一様に悪い方向へ転がっていっている。


 あの作戦から一週間が経つ。

 クララの怪我は、最新の医療法により完治した。後はリハビリを残すのみだ。

 優の怪我も治った。

 傷跡も残っていない。


 全て元通り。

 その筈なのに、三人の中に出来た違和感は日に日に大きくなる。

 優の銃撃の腕も、クララの食欲も日に日に悪くなる。


 理由は明白だ。

 的場薫である。

 いつも居て当たり前だった我らが隊長の不在は、三人に多分な影響を与えていた。


「…………俺ら、何やってんだろうな」


 暫くの沈黙の後、優はぼんやりと呟いた。

 その意味は自分でもよく分からなかった。胸が締め付けられるような思いにかられ、口にした言葉だ。

 しかし、クララは優の言葉にならない想いを汲み取ってくれた。


「私は、無様に寝てて何も出来なかった…………」


 チップスを握り潰し、無表情ながら悔しげに呟くクララ。


「俺は起きてて何も出来なかった。のうのうと、安全に脱出しちまった。のうのうとッ!」


 優は応えながら、苛立ち紛れにライフルを床に叩き付けた。

 安全装置を掛けているとは言え、実弾の入ったライフルを叩き付けるなどご法度だが、『適性銃器』は床にぶつかるや光の粒子となって消え去った。が、優の憂鬱な想いを消すには至らなかった。


「何が最強だ、チクショウ! 自分の身一つしか守ることしか出来ねぇ! アイツ、アイツは、俺ら三人を守ったってのにッ!」


 勢いに任せ、傍にあった椅子を蹴り倒す。

 この一週間の自分自身の不甲斐なさに、やり場の無い怒りを蓄え続けていた。それが一手に爆発したのだ。


 その後は一頻り喚き散らして暴れた。

 机を倒したり壁を殴ったり、窓ガラスを割ったり一通りの物を壊した。そして最後に手に取ったものは、『新撰組』の四人が写ったアナログ写真の入った写真楯だった。


 優はそれを放り投げようとして、手を大きく振り上げた。が、それが振り下ろされる事は無かった。

 それだけは、投げる事が出来なかった。


「あの馬鹿……馬鹿野郎め…………」


 写真に写った的場薫の顔を撫でながら、優はポツリと呟く。

 しんみりした感じ、出てれば良いな。

 次回、新展開です。


 因みに『XM25』は単独運用するグレネードランチャーだそうですが、一ノ瀬優の為に特注でアクセサリにしました。

 近代化っぽく見せたかったもので。

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