第五話
戦火報告。
受話器を置いた『咲浪銃器学園』学園長、咲浪霧也は、深く溜め息を吐いて、豪奢な椅子に腰掛けた。
「任務失敗、だそうだ」
うんざりするような、あるいは安堵するような声音でそう言った。
雨竜毬耶は執務机に詰め寄り、「あの子達は!?」と問い質す。
「無事、島を脱出したそうだ。敵方が残した有力な情報を持って」
「そ、そうですか…………」
毬耶はホッと胸を撫で下ろした。
この際、任務の成否などどうでも良い。大切なのは、子供達が無事に帰還出来るか否かである。
『咲浪銃器学園』の『ガンスリンガー』は、中等部から訓練をきちんとしているが故に生還率は高い。
高等部からの入学組も、特別訓練のお陰で中等部組と拮抗出来るだけのスキルを持たせる事が出来ている。
『新撰組』は中等部からの入学組が多く、唯一高等部からの入学組である的場薫も、上手く部隊を纏めるだけの才覚を見せていた。
それに三人娘は学年最強と謳われ、的場薫に至ってはは入学こそ高等部からだが戦闘経験は豊富な兵士だ。
そんな連中が死ぬわけ無い。
取り越し苦労で何よりだ。
「ただ、残念な事に的場薫くんは、島に残っているそうだ」
「…………え?」
「彼だけ、逃げ遅れたらしい」
毬耶は、咲浪学園長の言葉を理解するのに酷く時間を要した。
退路を確保させる為に先を急がせた一ノ瀬優とクララに合流した時雨は、泣き出したい思いを必死に堪え、「撤退するぞ」と告げる。
既に一ノ瀬優らは敵のVTOL機を奪取しており、後は操縦権を奪うだけであった。
時雨は素早く、その作業に取り掛かる。
「おい、隊長はどうした?」
操縦権をハックするのに、さほどの時間は要らなかった。
権利を獲得すると、エンジンを始動させる。程無くしてモーターの回転音が機内に響き始めた。
「まさか、置いてきたのか!? ナァ、おい!」
「隊長は自ら殿を勝手出、我々に撤退を命ぜられた! それに従うんだ!」
一ノ瀬優が掴み掛かってくるが、構わず機体を離陸させる。
「冗談じゃ無いぜ! 連れ戻してくる!」
彼女はライフルを片手に、既に上昇を始めた機体から飛び降りようとする。が、時雨はハッチをロックしてそれを防いだ。
戸口を開けようと四苦八苦する彼女を尻目に、操縦を続ける。
「時雨! ふざけてんじゃネェぞ!」
一ノ瀬優は再度、時雨に掴み掛かって来る。
時雨は操縦に集中しながら、口だけを動かして伝えるべき事を伝えた。
「貴様らを先に行かせた後、『フリークス』の連中が、揃いも揃って変異しやがった。ゾンビ化したのだ。私達だけではどうにもならないと判断した隊長は、自ら囮となって私達だけでも撤退させようと…………」
「それを、それを許したのか! お前は!?」
「仕方無かったのだ! 情報を学園へ無事に届ける事が最優先事項だと判断したから、だから…………!」
「お前――――ッ!」
時雨をコクピットから引き摺り下ろし、拳を握り締めた一ノ瀬優だったが、それが振り下ろされる事は無かった。
二人の視線がかち合った瞬間、時雨の瞳から大粒の涙が零れ落ちたからだ。
この時、一ノ瀬優は悟った。
苦渋の決断だったのだろう、と。仕方無く、しょうがなく、的場薫を置き去りにしなければならなかったのだろう。
それについて、彼女を責めるのはおかと違いなのだ。誰も、彼女を責めることなど出来ないのだ。
「仕方無かったんだ…………」
時雨はか細い声で呟きながら、コクピットに戻る。
「クララも限界だ。貴様だって、脇腹をヤられてるだろう? 留まったところで、じり貧だったんだ…………」
確かに、クララは出血多量で意識不明の重体だ。
一ノ瀬優も腹部左を弾丸が貫通している。そして全員が、『適性銃器』以外の武装を使いきってしまっていた。
そんな状態でゾンビ化した『不死人』と戦って、どうするものか。
全滅するのが関の山だ。
“Dead or Alive”
どの道、死ぬならば少なくとも時雨らを生きて帰そうと考えたのだろう。
「チ…………」
「…………」
「チクショウ…………」
一ノ瀬優はその場でくず折れ、大声を上げて泣き出した。
次は明るい感じにしたいですね。
今のところ、ノープランですが。
誤字、脱字を改善しまして、少し内容が変わっちゃいました。ストーリー進行に関わりは無いのですが、暇があればどうぞ読み直して下さい。
それでまだ問題があれば、一報の方よろしくお願いします。