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小さなカフェと男子高校生  作者: 夕月 陽奈
俺とあの人達との出会い
3/3

松井君、腹の虫を殴りたくなる

結構良い空気(?)な中、俺は喜んで飛び跳ねる卯木さんに、話しかけようと口を開いた…ら。




《ぐぅぅぅうぅぅううぅ》




腹の虫が、勢いよく空腹を知らせた。


「クッハハハ!!坊主!腹減ってんのか!」

「そう言えば、三日飲まず食わずと言っていたからな…。ックク、それにしても中々の音だった」

「忍さん、律さん!笑わない!昴の顔赤くなってるよ!」


大爆笑する二人を注意する結さん。

俺の顔は、驚くほど熱い。何でこのタイミングで空腹を知らせた!!腹の虫!!


「しょうがねぇ!坊主!オレが作ってやるよ!」

「やめて下さいっス!!!人が死ぬっスから!!!」


威勢良く立ち上がった明石さん。お礼を言おうと思ったら、卯木さんが必死の形相で明石さんを止めた。

結さんも、「良くやった…!」と呟いてることから、明石さんはそこまで料理が上手くないのだろう。

それより、料理で人死に………?


「なんだ!司、たった一回の失敗でオレに料理を作るなと言うのか?」

「一度?!忍さんなに言ってるんっスか?!四回っスよ!よ、ん、か、い!!そんでもって、全員それで死にかけてるんっスよ?!」

「そうだったか?」

「そうっス!!俺が作りますから、他の用意お願いするっス。あ、和は俺の手伝いをお願い」


畑本さんは、小さく頷くとゲーム機を鈴ちゃんに無言で手渡した。


鈴ちゃんも無言でそれを受け取ることから、このやりとりは何度かあったのだろう。


フラフラと、幽鬼のように畑本さんは、卯木さんを追いかけて行った。


「律さんよ、オレの手料理はそんなに不味いか?」

「そうだなぁ、大食い大会で食べ過ぎたら意識不明の人が出るレベルだと思うかな」


明石さんの問いかけに、真面目に答えたらしい律さんの言葉。


流石の明石さんも、心にグサリと来たのか、大きく溜め息を吐いて椅子に座った。


しばらくすると、料理の良い匂いが鼻をついた。


一ノ瀬さんが立ち上がり、厨房の方へ向かって行ってしまう。


それを見た琴ちゃんが、一ノ瀬さんの後ろへ着いて行った。


それを奇妙な目で見つめていると、先ほど料理を作りに行った、卯木さんが料理を…、その後について行った、畑本さんが飲み物らしきものが入ったコップを…、一ノ瀬さんと琴ちゃんがその両方を持ってきていた。


卯木さんと畑本さんは、危なげなく運ぶが、一ノ瀬さんと琴ちゃんは、僅かによろめきながら運んでいる。見ているだけで、ハラハラさせられる。


立ち上がり、四人の手伝いをしようとすると、


「昴君。君は、野垂れ死ぬ寸前だったのだから、大人しく座っていたまえ。第一、手伝わずとも彼らは大丈夫さ」


律さんの白くて綺麗な腕に止められた。


危なっかしく運ぶ二人に気付いた卯木君。

さり気なく自分が持てる分だけ、二人から受け取った。

畑本さんは、そんな卯木君を支えるかのように寄り添っている。


「全員、しっかりと相手のことを見る目と言うのを、持ち合わせているからね」


クスリと笑う律さん。彼女の悪戯っ子のような笑みに目を奪われた。


「今日は、和のリクエストで、茄子と牛肉のボロネーゼっス!忍さんのはちゃあんと、特盛っス〜」

「おお!気が利くじゃねえか!!相変わらず、旨そうだな…!司の飯はハズレ無しだからな!」

「そりゃそうっス!律さんに雇ってもらった以上、しっかりと仕事しますから!」


全員、結さんの持ってきたフォークを手に取り、頂きますと口にした。

そしてふと気づく。

………俺の飯がない。


「あ、あの…、卯木さん…」

「司でいいっス!どうかしたっスか?」

「お、俺の飯が…」


無いと言いかけたところで、目の前に他とは違う料理を置かれる。

………卵粥だ。


それと同時に、ふわりと甘い花の香りがした。


「司も抜けているところがあるな。まさか、昴君のだけ忘れるとは…」

「えぇ?!あぁ!!悪い!!」


うつ…、司君…の大きな声に、忍さんが豪快に笑う。


「やっぱまだまだだな!司!」

「あぁ!!俺の茄子!!忍さんにはたくさん入ってるんっスよ?!」


まるで兄弟の喧嘩のような二人に、俺は思わず笑ってしまう。


「司…、あげ、る…」

「えぇ?!…ありがと…、和」

「もぉ〜!!ボクに見せつけないでよ!!このバカップル!!」

「琴…、ご飯は座って………」

「!!鈴が喋った!!ふふっ!はぁい♪」

「落ち着きがねぇなぁ!ハハッ」

「忍さんもだがね…。ッフフフ」

「誰も、言えないからね〜、それ」


俺は、家族同然のように笑う全員に、わずかに羨ましいなと考えてしまう。

その時、肩を軽く叩かれた。


「ふふっ、騒がしいところですけども、とっても楽しいところでしょう?毎日がこうなのですよ?」


一ノ瀬さんだった。


「昴さん…、ですよね?」

「はぇっ?!…はい」


一ノ瀬さんは、にこりと微笑む。


「貴方も、家族です。私達の家族なんですよ?ほら、早く言わないと、悪戯好きの琴にお粥、取られますよ?」


俺は、大急ぎで口に卵粥を運ぶ。ほんのりと優しい味がする、とても美味しいご飯だった。


「あ!!昴!!アレルギーとか持ってないっスよね?!卵大丈夫っスか?!」

「平気だよ、ありがとう…、司君」

「三日飲まず食わずだって聞いたんで、お粥にしたんっスよ!残さず食べてほしいっス!」


一ノ瀬さんは、司君を見て微笑む。


「あぁ、私は食べ終えたので、作曲に戻ります。昴さん。私のことは、一ノ瀬でなく歌音で良いですよ?」


…歌音さんは、俺の頭を優しく撫でると、厨房の奥に行ってしまった。


彼女、俺より年下のはずじゃ…。


ぼんやりと、歌音さんの消えた厨房の方を見ていると、隣に誰が座った。


律さんだ。


「見たかい?ここの騒ぎよう」

「…はい。全員、家族みたいです…」

「みたいではないよ。家族なんだ」


律さんは、俺の方を見つめて言った。


「そして、君ももう既にciel blueと言う家族の一人だよ」


ハッと、俺は律さんを強く見つめた。

律さんは、読みにくい笑顔を浮かべている。


「君は、私達の家族さ」


ポンッと肩を優しく叩かれ、ふと自分の目に何かが溜まっていることに気付く。


瞬きすれば、その何かは俺の頬を伝い、今来ている服のズボンに落ちた。


「っ……、ぁ…」


産まれた時から、〝忌子〟と呼ばれ続けた俺。そんな俺に、普通の人だ…と、そう言ってくれた気がして、涙が後から後から止まらなかった。


「わぁぁぁああ?!泣いてる!!?どこか痛いんっスか?!不味かったっスか!?」


驚いて、騒ぐ司君。

誰かが、頭を撫でてくれた。それは、とても優しく心地よいものだ。


「全く、泣く程とは驚いたよ。…今は泣きたまえ。明日からは、営業スタートだからね」


律さんは、優しい声音でそう言った。


「ぁ、ぅ、あ…、ああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」


気付けば、子供のように、俺は泣いていた。

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