Demiワンライ「冬の街」
「アネル君、買い物かい。」
「はい、今晩の食材を。今日はポトフですよ、コーネリウスさん、好きでしたよね?」
「ああ、その通りだよ…それで、」
「わかってます、A.Aですよね。少し探して来ますね。」
「ああ、頼んだ。」
しんしんと冷える時計通りを抜けて、シュフィルツェンの中心部の市場へと向かう。どんよりと曇った空が雪をこぼしそうだった。
キャベツ、ニンジン、ソーセージ、玉ねぎ、鳥肉…食材を買っていく。もちろん、辺りを見回すのも忘れずに。
すると、中心部から少しはずれた裏路地から見慣れた姿が俯きぎみに現れた。
「A.A!!」
A.Aは応えず、歩みを早めて、目の前からどんどん遠ざかる。
「待って!A.A!待ってくれ!!」
A.Aはそのまま走って裏路地に消えていく。
「A.A!!」
アネルは買い物かごを抱え直し、そのあとを追った。
裏路地に入ったA.Aは、その狼人自慢の脚力でアネルを突き放して行く。アネルの息はつまり、肺は押しつぶされそうにあった。
すると、ピタリとA.Aが走るのをやめ、アネルに向き直った。
「…っ!…っ、……はぁ、は…なんで逃げるんだよ…」
「…オマエがこっちに来るからだろ。」
A.Aは野生の瞳でギロリとアネルをにらんだ。
「…じゃあ…君はなんで昨日の夜も、その前も帰ってこなかったんだ。」
「…シラネ。」
「…っ、知らないって…おれは知ってるんだぞ!こっそり帰って来て、部屋に何を隠してるのか!」
「何のことだよ。」
「銃だよ!しかも、猟銃なんてかわいいもんじゃない!あれは人を殺す為の銃だ!」
「………」
「隠し場所も見たんだ!ベッドの下の床板の中!」
「……」
「あれはなんなんだよ!」
「….ッチ、ギャーギャーギャーギャーうるせぇ。なんだよ、みたんだー、しってるんだーって。ガキか?クソが。そんなに俺といるのが怖えか?それなら出てけよ。」
「コーネリウスさんが」
「…オマエ、脅しか。」
A.Aの声は微かに震えていた。
「脅しなんてするつもりないよ。君が帰って来ない理由も、部屋に銃を隠し持っている理由も、知っていても誰にも言わない。ただ、」
「コーネリウスさんがとても心配してる。夜遅くまで君の帰りを、毎回、毎回待ってる。これだけ聞いても君はまだ帰らない?」
「……」
「帰ろう、コーネリウスさんのところへ。」
「…今日は君の好きなポトフだよ。君のために少しいいソーセージを買ってみたんだ。」
「……」
「君とコーネリウスさんって好みが似てるよね…なんだか羨ましいな…」
A.Aがチッとまた舌打ちをした。
「オマエ、さっさと帰らないのかよ。」
「いやぁ、ハハ、君を追いかけてきたら帰り道がわからなくなって…」
「だーーー!もーーークソがぁああああ!」
寒空を向き、雄叫びを響きわたらせたA.Aの頬に雪が乗って溶けた。