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第7話 勇者、妹に牛丼屋に行こうと言う

 俺は魔法を発動させ、火球でしま○らの店舗ごと化け物を爆風で吹き飛ばした。

 着弾の手ごたえがあったので仕留めたと思ったのだが……

 黒煙が晴れるとしま○らのあった場所に白い色をした単眼の巨人が立っていた。

 全長十五メートルほどで腕は六本、足は二本、頭部には爬虫類を思わせるような黄色い目玉が一つと口が一つあり、口からはぞろりと鋭そうな牙が覗いている。

 身体の表面は陶器のようにつるつるしており地球上の生物とは思えない。

 単眼の化け物の外見は異世界の魔物のサイクロプスによく似ていた。

 これからこの化け物のことをサイクロプスもどきと呼ぶことにする。


「あの目……」


 あの爬虫類のような目には見覚えがある。

 姿形は変わってしまっているがあの黒い穴から落ちてきた謎の物体が変形したのだろう。

 俺の火魔法によって若干煤で汚れているが損傷らしきものは見当たらない。

 周囲に被害が出ないように魔法の威力を抑えたとはいえ無傷とは頑丈な奴だ。


「ぐぉおおおおおおおおおお!」


 サイクロプスもどきは咆哮を上げ、敵意を剥き出しにして俺を睨みつけた。

 どうやら俺が奴の光線を防ぎ、反撃したのだと分かっているようだ。

 サイクロプスもどきはゆっくりと歩を進めて俺たちのほうに向かって来ている。


「に、兄さん、化け物がこっちに来た……」


 妹の咲良は涙目で怯えながら言った。

 俺は咲良を安心させるために恐怖に震える体を抱きしめてやる。

 可哀相に、こんなに怯えて……

 昔、咲良と公園で遊んでいた時に野良犬に襲われたことがあったな……

 あの時は――

 咲良は野良犬が怖くて泣きじゃくり、俺が木の棒で追い払ってやったんだっけ……


「咲良、大丈夫だ。お兄ちゃんがあいつを倒してやる」

「兄さん、相手は化け物。野良犬じゃないんだよ。逃げよう」


 咲良も野良犬に襲われた時のことを思い出していたようだ。

 兄というものは妹を守らなければならない。

 俺は妹にとって頼れる兄であり、ヒーローでありたいと思った。

 それが俺の願いであり、あの人たちとの約束だったからだ。


「俺は逃げない」

「兄さん……」


 何故ならば――


「俺は勇者だからだ!」


 ドガアアアアアン!


 シールドに消防車が激突して轟音が響いた。

 サイクロプスもどきが消防車を投げつけたのだ。


「全く、空気を読めよな。妹と話をしているというのに」


 俺が手のひらを地面につけると、光り輝く幾何学模様の魔法陣が地面に浮かび上がる。

 設置型魔法でシールドと同じ強度を誇る結界だ。

 この結界の内側にいる限りあのサイクロプスもどきの攻撃は届かない。


「じゃあ、ちょっと行って来るけど、危ないからこの魔法陣の外側には絶対に出るなよ。」

「うん……」


 咲良はまだ不安そうにしているが、俺を止めることが出来ないと分かったのか首を縦に振った。


「咲良、言い忘れたことが」

「何?」


 咲良は真剣な表情で俺を見つめる。


「このあと昼飯を食べに牛丼屋に行こう」

「こんな時に何を。兄さんの馬鹿……」


 お金がないので今の俺では牛丼屋くらいにしか連れて行ってやれない。

 咲良は呆れた表情をしながら笑った。

 これでいい。

 妹には笑っていて欲しいと思う。

 俺が親指を立てて笑って見せると、咲良も親指を立てた。


 俺は結界の外に出てサイクロプスもどきと対峙する。

 サイクロプスもどきは攻撃が通じないのが分かっているせいか、俺に攻撃を仕掛けてこない。

 怪我をした人たちや警察は俺の張った結界の内側で始まるであろう俺とサイクロプスの戦いを息を殺して見守った。


「お前はいったい何なんだ? どこから来たんだ?」

「ぐあ?」

「せっかくの妹との休日を台無しにされて俺は怒っている」


 言葉は通じてなさそうだったが一言文句を言わずにはいられなかった。

 俺は戦闘態勢に入り殺気を込めてサイクロプスもどきを睨みつける。

 殺気に反応してサイクロプスもどきが動いた。


「ぐぉおおおおおおおお!」


 サイクロプスもどきは雄叫びを上げて六本の腕で殴りかかって来た。

 腕はゴムのように伸縮自在で、まるで巨大な銃弾のようだ。

 巨大な拳をかわすと地面が抉られ土煙が舞う。

 俺は攻撃を掻い潜り、猛速の蹴りをサイクロプスもどきの胴体に叩き込んだ。

 ゴムを蹴りつけたようなそんな感触が足に伝わる。

 サイクロプスもどきの身体が宙に浮かび地面をバウンドしながら転がる。

 しかし、サイクロプスもどきにダメージはないようですぐに立ち上がった。


「ふむ。打撃じゃあまり効果なさそうだな」


 効果がありそうなのは斬撃か……

 こんな時に聖剣があればと思わずにはいられないが、聖剣は異世界に置いて来てしまった。

 俺は周囲を見渡し、武器になりそうなものを探す。


「これでいいか……」


 コンクリートに突き刺さっている道路標識のポールの根元を手とうで切り裂く。

 俺はポールが地面に落ちて転がるより早く掴み、ブンブンとためし振りをする。


「意外と悪くない」


 ポールの先端には駐車禁止の円形の道路標識がついている。

 刃物としてはどうかと思うがこの円形の道路標識の金属板なら、奴を切り裂けるだろう。

 俺は道路標識に魔力を流し込み強度を高めてやる。


「ぐがあああああああ!」


 サイクロプスもどきは目玉を血走らせながら突進して来た。

 俺は道路標識を肩に担ぐようにして構えて迎え撃つ。

 サイクロプスもどきは六本の腕で拳を順番に打ち込み俺を潰そうとした。

 殴られても別にたいしたダメージはなさそうだが一応念のために、道路標識で払い落とした。


「その腕、邪魔だな」


 道路標識は俺の魔力で強化され光を放つ。

 光を纏った道路標識の斬撃を高速で打ち込み、サイクロプスもどきの六本の腕を一瞬で切断してやった。


「ぐぎゃあああああああ!」


 どうやら痛覚はあるらしく、サイクロプスもどきが叫んだ。

 切断面から青色の血がブシュッと噴き出した。青色の血なんて初めて見る。

 やはり、こいつは地球でも異世界でもない別の世界の生物なのだと確信した。


 腕を失ったサイクロプスもどきは悲鳴を上げながら、目玉を赤く発光させる。


 ギュイイイイイィン、ジジジジジジジジ


 異音を発し、目玉は火花を散らしている。

 この至近距離で光線を放つつもりだ。

 これまでで最大のエネルギーが目玉に収束しているのが直感で分かった。

 流石にこの至近距離で食らったら死ぬかもしれない。

 避けてかわすのは簡単だ。

 しかし、今ここで避けてかわしてしまえば後ろの妹がいる結界に直撃してしまう。


「撃たせない」


 光線を放つ際にエネルギーチャージのために少しだけ時間がかかるのは分かっている。


「その攻撃はもう何度も見た」


 こいつの目的が何なのかは分からない。

 しかし、こいつはしま○らを破壊し、警官を殺した。

 そして何より俺と妹の買い物に水を差した。

 生かしておくことは出来ない。


「破っ!」


 俺は魔力を純粋な破壊のエネルギーに変換して、道路標識の一撃をサイクロプスもどきの頭部に叩き込む。


 ズガアアアアアアアアアアアン!


 サイクロプスもどきは両断され、中途半端にたまっていた光線のエネルギーは行き場をなくして大爆発を起こした。

 大爆発に巻き込まれ、俺の視界は真っ白に染まった。


「お兄ちゃああああああんっ!」


 爆発の轟音が響き、聞こえる訳がないのだが妹の叫ぶ声が聞こえた気がした。

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