表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/14

第6話 勇者、戦う

 俺の住む街からしま○らの店舗が一つ消滅した。

 突如として空中に現れた黒い巨大な穴から白い巨大な何かが落下してしま○らを潰し、吹き飛ばしたのだ。


「し、しま○らが……街のファッション○ンターが……」


 店舗の残骸を前にして俺は茫然と呟いた。

 しま○らの店舗は店の四割を潰され、辛うじて骨組みが残っているような状態だ。

 破壊された店舗周辺では人々が呻き声を上げて倒れている。

 負傷者多数。店内にいた客、従業員は無事だろうか?

 助けに行かなければ。

 俺は破壊された店舗に向かって歩いていく。


「兄さん、何してるの? 危ない。逃げよう……」

「怪我人を助けないと」


 妹の咲良が震えた声で俺を呼び止めるが無視して進む。


「人のことより自分の命優先。今はここから離れないと……」

「咲良、お前はここから離れていろ」

「あの落ちてきたアレ。爆弾、ミサイルかも?」


 咲良は俺の腕を掴み、瓦礫となったしま○らに行くのを邪魔した。


「俺は行かなければならない」

「どうして?」


 どうして、か……

 決まっている


「それは俺が勇者だからだ!」


 俺が異世界で得た勇者の力。

 平和な日本では使う機会など滅多にないが……今が使う時だ。


「こんな時にまで勇者とかふざけないで!」


 咲良が珍しく声を荒げて怒った。

 ふざけてなどいないのだが妹は俺のことを勇者だと信じていないので俺の行動を心配しているのだ。

 しかし、今は言い争いをしている場合ではない。


「お兄ちゃん、行っちゃやだ……」


 咲良は目から涙を流して俺の腕にしがみついた。

 お兄ちゃんか……

 異世界からの帰って来たら妹の俺の呼び方が「お兄ちゃん」から「兄さん」に変わっており、何となく距離を感じていた。

 再びお兄ちゃんと呼ばれて俺は嬉しく思う。

 俺は咲良の頭の上に手を乗せて優しく撫でた。


「ごめんな。でも俺が行かないと」


 妹を泣かせてしまった。

 俺は兄失格だ。

 救助が終わったら俺の異世界でのことをきちんと説明しようと思う。


「行ってくる」

「兄さん、待って!」


 俺は咲良の掴んだ手を振りほどき、買い物袋を無理やり押し付けて瓦礫に向かう。

 背後から咲良の声がしたが無視して走った。


 店内は衣類と瓦礫が散乱している。

 瓦礫をどかしながら進むと、この破壊をもたらした物体が店の中央に見えた。

 白い巨大な卵型の物体が店の屋根を突き破り、床にめり込んでいた。

 表面は陶器のようにツルツルしていてあの落下の衝撃でも傷一つついていない。


 これはいったい何だろうか?


 一瞬、俺が飛ばされた異世界から来た物かと思ったが、こんなものは異世界でも見たことがない。

 不気味な気配を感じるが動いたりする様子はない。


「…………」


 今はいったん放置で怪我人を探そう。

 しかし、この店舗の破壊は凄まじく、果たして生存者はいるだろうか……

 俺は魔力で聴覚を強化して耳を澄ます。


「うう……」


 瓦礫の下から呻き声がした。

 生存者だ。

 俺は声のしたところの瓦礫をどけると、下敷きになっていたしま◯らの店員を発見した。


「あ、ありがとうございます。もう駄目かと」

「大丈夫ですか?」

「はい……でも足が折れてしまったみたいで動けません……」


 店員の意識ははっきりしており、苦痛を必死に耐えながら答えた。


「店内に他に人は?」

「お客様と従業員は店外に避難させましたので店内は私だけのはずです」

「そうですか」


 この人は店の責任者だった。

 あの状況下でいち早く異変に気づいて避難誘導の指示を出したらしい。

 店内に人がいないか最後まで確認していたせいで逃げ遅れたそうだ。

 大した店員だ。

 この人のおかげで被害を最小限で抑えられた。


 店員を抱えて外の安全なところまで運ぼう。

 そう思ったその時だ。


 ドクン、ドクン、ドクン


 鼓動のような音がしたかと思うと、店の中央にめり込んでいる白い巨大な卵型の物体から強烈な殺気が放たれた。

 視線を向けると、白い巨大な何かの表面に爬虫類のような大きな目玉が一つ生まれていた。


 何だ、こいつは。生物なのか?


 目玉はギョロギョロと周りを見渡したあと、俺にピントを合わせた。


 ギュイイイイイィン、ジジジジジジジジ


 白い巨大な何かは異音を発し、目玉から火花を散らしている。

 何をする気なのかは分からないが、ヤバイ感じだ。

 俺は咄嗟に手を前方に突き出して魔法でシールドを張った。


 目玉はバチバチと放電現象を起こし、ピカッと光ったかと思うと俺めがけて高熱を帯びた光線を放った。

 俺のシールドに光線が着弾し爆炎が生じる。


 ドォオオオン!


 轟音が響き、大気がビリビリと振動する。


「くそっ! 何だアレ!?」


 シールドは破られこそしなかったものの光線の衝撃がシールド越しに伝わり腕が痺れた。

 今、俺はしま○らの店員を脇に抱えている。

 この状態で戦闘は出来ない。

 俺は店員を抱え、シールドを張った状態のまま爆発炎上する店から離脱した。

 店の外に出るとサイレンを鳴らした救急車、消防車、パトカーがしま○らの周囲に集まって来ていた。


「すいません。この人をお願いします」


 俺は救急隊員の人にしま○らの店員を預けた。


「君は怪我をしていないのか?」

「俺は大丈夫です」


 救急隊員と受け答えしながら、俺は先ほどの単眼の化け物を思い出していた。

 あの化け物からは魔力を全く感じなかった。

 ということはあれは俺が飛ばされた異世界の生物ではない。

 得体が知れないがあれを放置することは出来ない。

 警察ではおそらくあれの対処は出来ないだろう。

 俺があれを倒す。

 覚悟を決め、俺は黒煙の立ち上るしま○らに目を向けた。


「兄さん!」


 俺のことを兄さんと呼ぶのはこの世界でただ一人、妹の咲良だけだ。


「咲良、まだ避難していなかったのか。ここは危ない。早くここから離れるんだ」

「それはこっちの台詞。店が爆発して死んだかと思って心配した。兄さんが避難しないなら私も避難しない……」


 咲良は目に涙をためながら避難を拒否した。

 俺から離れるつもりはないようだ。

 俺はこれからあの化け物を倒しに行かなければならないというのに……

 くそっ

 いったん、咲良を抱えて安全なところまで運ぶか?


「君たち、ここは危ない。早く離れなさい」


 パトカーから降りた警官が避難するように俺たちに警告した。


「いや、俺は――」


 あいつを倒さないと、そう言おうとしたその時。


 ピカッ


 しま○らから閃光とともに光線が放たれ、パトカーと警官に直撃した。

 高熱の光線によってパトカーは爆発し、警官は焼かれて蒸発した。

 何てことだ。警官があの化け物の光線で殺されてしまった。


「きゃあああああああああああああ!」


 咲良が恐怖で悲鳴を上げる。

 無理もない。人間が蒸発するというショッキングな光景を目の当たりにしたらそれが普通の反応だ。


「咲良、俺の後ろにいろ!」


 俺は咲良を背後にかばった状態で、両手を前に突き出して魔法で巨大なシールドを張る。


「兄さん、これは……」

「魔法だ。お兄ちゃんの後ろにいれば安全だ」


 咲良は目を丸くして驚いている。

 化け物の光線がシールドに直撃して爆発するが、防御を貫くことが出来ずにいる。

 連射は出来ないようだが、光線が一定の間隔で放たれ俺のシールドより前にあるパトカーや建物が爆破され吹き飛んでいく。

 このまま防御しているだけでは被害が広がる一方だ。

 反撃しなければ。


 俺は前方に巨大な魔法陣を展開させる。


「破っ!」


 魔法陣から巨大な火球が発射され、しま○らの店舗もろとも化け物を爆風で吹き飛ばす。


 ドォオオオオン!


 轟音が響き、黒煙がもうもうと立ち込める。


「やったか?」


 俺は油断せず、シールドを張りながら煙がおさまるのを待つ。

 煙が薄れ、俺の魔法による破壊の跡が見えて来た。

 しま○らの店舗は完全に吹き飛び、瓦礫と化している。

 化け物はというと……


「何だと……」


 黒煙が晴れるとしま○らのあった場所に白い色をした単眼の巨人が立っていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ