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第5話 勇者、妹と買い物をする

 今、俺は妹の咲良と服を買いに駅前に来ている。

 ちなみに「ジャージにTシャツの服装で外出はありえない」と妹に言われてしまったので黒のTシャツと黒のジーンズに着替えた。

 そういえばこうやって妹と二人で買い物に出かけるのは俺が帰ってきてから初めてだ。

 俺は妹との間にやや心の距離を感じていたので、これを機会に再び仲良くなれたらと思う。


「へぇ、いろんな店があるな」

「兄さんがいなくなってから増えた」


 俺が異世界で勇者をやっている間に駅前の開発がされていたらしい。

 駅前には様々な店があり、衣料品を販売する店もいくつも並んでいる。

 俺が行こうとしていたしま○らもあった。

 しかし、こうもたくさんあるとどの店に入ればいいか分からなくなる。


「咲良、どの店で服を買うんだ?」

「いろんなところ……」

「いろんなところって、一ヶ所で買わないのか」

「手を出しやすい手頃な値段の店に行くけど、ブランドによって良いところと悪いところがある。例えばあっちの店はボトムスがおすすめ。あっちの店は若い人向けのデザインのシャツが多い」

「なるほど」


 咲良は店を指差しながら店ごとの長所と短所を教えてくれた。

 俺はめんどうなので一つの店で衣服を全て揃えてしまうのだが、こうやって話を聞くと店にはそれぞれ特徴があるようだ。

 女性のショッピングに時間がかかる理由も分かった。

 色々な店で値段とデザインを見比べて選んでいるのだろう。

 時間がかかるわけだ。


「ところで、しま○らの良いところは?」

「ない」

「ないんだ!?」


 咲良は無表情のままきっぱりと言った。

 そこまで断言されてしまうと逆に行ってみたくなってくる。

 しま○らにだって良いところの一つくらいはあるだろう。

 あとでしま○らにも寄ってみることにする。


「兄さん、こっち」


 咲良に腕を引かれて俺は最初の店に入る。

 ここはボトムスがおすすめと言っていた店だ。


「ここでズボンを買うんだな」

「そう。兄さんは粗暴……じゃなくてワイルド系だからカーゴパンツが似合うと思う」


 今、言い直したけど粗暴って言った。

 粗暴という言葉は山賊や盗賊に相応しい言葉であって、勇者の俺を表す言葉ではない。

 妹の中での俺のイメージはどうなっているのだろうか。

 しかし、思い返してみると俺が異世界から戻ってきてからやったことと言えば、強盗を叩きのめして警察署で事情聴取されたり、小学生を泣かせたりと粗暴と言えなくもない。

 自分の行動を振り返り少しだけ落ち込んだ。


 売り場に移動して咲良はカーゴパンツを選んでいる。

 それを眺めながら俺は将来について考えていた。

 悪ガキを魔法でこらしめるだけで満足していてはいけない。

 この力はもっと大きなことに使うべきだ。

 俺が異世界で得た力と経験を活かした仕事はないものだろうか……

 俺の力は戦う力。この力を活かすとなると警察、消防隊、自衛隊辺りだろうか。


「これなんかどうかな?」


 咲良はベージュのカーゴパンツを俺に見せた。


「いいんじゃないか。でも俺は色は黒いほうがいいな」

「兄さんの服って黒ばかり。たまには黒以外も着たほうがいい」

「咲良がそういうなら……その色にしようかな」


 俺が服を選ぶとどうしても暗い色ばかりになってしまう。

 暗い色の服であれば魔物に見つかりにくくなるとか、夜の闇に身を隠して先制攻撃出来るなどと考えてしまう。

 職業病というやつだ。

 ここはもう地球であって魔物のいる異世界ではない。

 戦うことを考える必要はもうないのだ。

 異世界のことは忘れて普通の人として暮らすというのも悪くないかもしれない。

 服のコーディネートは咲良にお任せすることにする。

 その方が咲良も満足するだろう。


「すいません、試着をお願いします」


 店員に声をかけてカーゴパンツを試着する。

 試着室で着替えた姿を咲良に見せる。


「咲良、どうだ」

「似合ってる」


 咲良は口の端を少し上げている。

 分かりにくいが笑っているようだ。

 なんとなく楽しげに見える。

 買い物を楽しんでもらえているのなら何よりだ。


「今日は彼氏とデートですか?」


 店員がそんなことを咲良に聞いた。

 俺たちは兄妹だが店員の目にはカップルに見えるのか。


「はい」


 店員に咲良は予想外の返事を返した。

 はい、じゃないんだが。

 咲良は何を言っているんだ。


「店員さん、冗談です。こいつは俺の妹です」

「あはは。そうなんですか。仲がいいんですね」


 俺が訂正すると店員は笑った。

 咲良のほうを見ると目を細めてジト目で俺を睨んでいる。

 どうやら話を合わせなかったことが不満らしい。


 店員に丈の長さを調整してもらい、また別のボトムスを探す。

 最終的にこの店ではボトムスを2本購入した。

 すそ上げには30分ほど時間がかかるということだったので別の店に行くことにした。


 次の店ではシャツとカットソー、さらに次の店ではTシャツ、七分袖シャツを数枚購入した。

 俺だったら絶対に選ばないような明るい柄と色だったが、咲良は上機嫌だったので口出ししない。

 母から借りていた金も尽きてしまいもうこれ以上買うことが出来ない。

 最初の店ですそ上げしてもらっていたボトムスを受け取り、俺の買い物はこれで終了だ。


「そういえば、咲良も母さんから小遣いをもらっていただろ。今度は俺が咲良の買い物に付き合うぞ」

「次は靴を買いに行く」

「靴?」


 咲良はこくりと頷き、靴屋に向かった。

 靴屋に入ると咲良は何故か男物の靴のコーナーに向かった。

 俺は首を傾げながら咲良に声をかける。


「咲良、女物の靴のコーナーはあっちだぞ」

「大丈夫。間違ってない」


 咲良は男物のブーツを手に取って見ている。

 もしかして……


「もしかして俺の靴を選んでいるのか?」

「うん」


 咲良はこくりと頷いた。

 何て優しい妹なのだろうか。

 しかし、母からもらった小遣いは自分のために使って欲しいと思う。


「咲良、気持ちは嬉しいが母さんからもらった小遣いは自分の欲しい物を買うのに使ってくれ」

「私は兄さんの靴が欲しい。靴がないと服装はダサいまま。兄さんがカッコよくなってくれたら私も嬉しい」

「咲良……」


 俺は感激のあまり咲良をガバッと抱きしめた。

 咲良の身長は低く、そして軽い。

 強く抱きしめたせいで足は地面から離れて浮いてしまっている。


「咲良、ありがとな。バイトの給料が入ったら何でも買ってやるから」

「兄さん、苦しい」


 咲良を放してやると、顔を耳まで真っ赤にして赤くなっていた。

 照れている妹は可愛い。

 買い物が終わり店の外に出た。


 今日の買い物は楽しかった。

 兄妹の絆も深まり大成功だったと言えるだろう。

 今日購入した服を着れば妹も俺を見直すに違いない。


「そういえば」

「何?」


 何か忘れているなと思ったらしま◯らに行くのを忘れていた。

 しま◯らも一応見てみよう。

 そう言おうとして、しま◯らの店舗に目を向けたその時だ。

 しま◯らの店舗上空に黒い大きな穴が浮かんでいた。

 人々は空を見上げて騒いでいる。


「兄さん、あれは何だろう?」

「分からない。しかし嫌な気配がする……」


 しま◯ら周囲に集まった人たちは黒い穴を見て「ブラックホールだ!」「国の何かの実験じゃないか?」と騒ぎながら、携帯のカメラで写真や動画を撮ったりしている。


「あっ、何か出てきた」


 咲良が言うのとほぼ同時に黒い穴から白い巨大な何かが落下した。


 ズドオオオン!


 轟音が響き、黒い穴の真下にあったしま◯らは白い巨大な何かに潰され、吹き飛んだ。


 俺の住む街からしま◯らの店舗が一つ消滅した。

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