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第4話 勇者、母に金をせびる

 妹の咲良に服装をダサいと馬鹿にされた俺は服を買いに行くことにした。

 しかし、俺の通帳の残高は底を尽きかけている。

 俺はベランダで洗濯物を干していた母に声をかける。


「母さん、服を買いに行って来るから金をくれよ」

「この前、小遣いをあげたばかりでしょう?」

「使い切った」


 中卒フリーターが母親に金をせびる姿は情けなく感じるが、Beeマートでのバイトの給料は来月に振り込まれるため、仕方がない。


「というか俺は異世界で三年間勇者やっていたんだから、その間の小遣いもまとめてくれよ。あとお年玉も」

「なんで家にいなかったあんたに三年分の小遣いをあげなきゃならないのよ。あとお年玉はお正月だけ」

「兄さんが行方不明になったせいで、探偵に捜索をお願いして費用がすごいかかった……」

「くっ……」


 母と妹に睨まれる。

 俺だって好きで異世界に飛ばされたわけじゃないと言いたかったが、家族に心配をかけたのは事実なのでぐっと堪える。


「バイトの給料が入ったら返すので、お金を貸して頂けないでしょうか?」

「しょうがないわね。これくらいでいい?」

「十分です」


 母は財布を開いて俺にお札を数枚渡した。

 服を買いに行くだけなのに借金が出来てしまった。

 まぁいい……これで服が買える。

 俺が出かける準備をしていると咲良がじーっとこっちを見ているのに気づいた。

 昔はもっと表情豊かな子だったのに、今の妹は表情の変化が少なく何を考えているのかよく分からない。


「何だ、咲良?」

「兄さん、どこで服を買うつもり?」

「お兄ちゃんは、しま○らでカジュアルな服を買うつもりだ」

「しま○らが許されるのは中学生までだよ……」


 俺がしま○らで服を買うと言ったら、咲良は可哀想な人を見るかのような目で俺を見た。

 表情の変化が少ないので分かりにくいが、これは明らかに俺のことをダサいと思っている目だ。

 しま○らは駄目なのか。ならどこで服を買えばいいんだ?


「咲良、今のはちょっとした冗談だ。しま○らなんて行く訳がないだろう」

「じゃあ、どこで服を買うつもり?」

「そ、それは……」


 俺が言葉に詰まっていると俺たちのやりとりを見ていた母がため息をついた。


「咲良、小遣いあげるからお兄ちゃんの買い物について行ってあげなさい」

「分かった」


 咲良はコクリと頷き、母からお金を受け取る。

 若干、頬が緩んでいるように見える。

 小遣いが貰えたのがそんなに嬉しかったのか。


「兄さん」

「うん?」


 咲良に呼ばれて俺は返事をした。


「兄さんの服のセンスはダサい。それに中卒フリーターの駄目人間」

「ぐはっ」


 俺のガラスのハートは妹によって粉々に破壊された。

 痛い、やめてくれ。

 昔は兄思いの優しい子だったのに……

 俺は妹に駄目人間の社会不適合者だと思われている。

 多分、そう思っているんだろうなとは感じていたが、実際に口に出して言われるとショックだ。

 俺の兄としての威厳はゼロで泣きたくなる。


「でも駄目人間でもかっこいい服を着れば、少しだけマシに見えると思う」

「…………」

「だから私が服を選んであげる」


 咲良は口の端を少しだけ上げて微笑む。

 その表情に相手を傷つける悪意は存在しない。

 異世界から帰還し、三年ぶりに再会した妹の変わりように俺は戸惑っていた。

 表情が乏しく、口数が少ないため何を考えているのか分からない。

 俺の服をダサいと言ったのも俺を馬鹿にしているのだと、そう思っていた。

 でも本当は俺を心配しているだけで、昔と変わらない兄思いの優しい妹のままだった。


「咲良、ありがとな」


 俺は感謝の気持ちを込めて咲良を抱きしめてやった。

 今の俺は中卒フリーターで服装はダサくて尊敬出来ない兄かもしれないが、妹の理想の兄になれるように努力しようと思う。


「兄さん、苦しい」

「すまん」


 俺が抱きしめていた咲良を解放してやると、呼吸が苦しかったのか頬を若干赤くしていた。


「じゃあ、服を買いに行こうか」

「うん。しま○ら以外で」


 こうして俺と妹はカジュアルな服を買いに街に出かけた。

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