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第3話 勇者、妹に気持ち悪いと言われる

 今日は日曜日。

 普段、日中は家で高卒認定試験のための勉強、夕方からはBeeマートのアルバイトという生活サイクルなのだが、今日はバイトが休みである。

 日曜日だし、久しぶりに友人と遊ぼうかな。

 俺は高校に入学してすぐに異世界に勇者として召喚され、魔王討伐に青春を捧げたため高校の友人はいない。

 仲良くなる前に異世界に飛ばされてしまったので高校の同級生で俺のことを覚えている奴はいないだろう。

 そんな訳で中学時代の友人を遊びに誘うことにした。


「もしもし、俺だけど久しぶりに遊ばないか?」

「すまん、大学のサークルで合宿中なんだ」


 そうか、サークルの合宿か。楽しそうだな。

 別の友人を誘うことにしよう。


「もしもし、俺だけど」

「今日は彼女とデートなんだ」


 彼女か。まさかあのアニオタの二次元にしか興味がないと言っていた友人に彼女が出来ているとは……

 時の流れを感じる。


「もしもし」

「無理」


 まだ用件を何も言ってないんだが?

 おい。


 この後も別の友人を遊びに誘ってみたが結果は同じだった。

 皆、大学のサークル、大学の友人との先約、デートなどの用事があると言って断られてしまった。


 リア充どもめ、死ね!


 いや、いきなり連絡した俺も悪いか……

 日曜日に何かしらの予定を立てているのは当たり前である。


 家のリビングでぼーっとしながらテレビを点けると女児向けアニメのプリ◯ュアが映った。

 へぇ、このアニメまだ続いていたのか。

 昔は妹と一緒に見たものだ……

 今のプリ◯ュアは人数が多いな。十人もいるのか。昔は二人くらいだったのに。

 それに歌って踊ってアイドルみたいなことをしている。

 時の流れを感じながら感慨に耽っていると高校一年生の妹の咲良がリビングにやって来た。


「兄さん、何を見ているの?」

「何ってプリ◯ュアだ。咲良も好きだろ?」

「私のこと何歳だと思っているの?」

「以外と面白いぞ。咲良も一緒に見るか?」

「見るわけないじゃない……」

「そうか」


 咲良に冷たく拒絶されてしまった。

 俺は一人でプリ◯ュアを見ることにする。

 プリ◯ュアを見終わり、ストレートティーを飲みながらゆったりしていると咲良がポツリと言う。


「兄さん、気持ち悪い」

「!?」


 聞き間違いかと思い、俺はもう一度聞き直す。


「何だって?」

「兄さん、気持ち悪い」


 今度ははっきりと聞こえた。

 咲良はゴキブリでも見るかのように俺を見ている。

 効果は抜群だ。

 俺のMPはガリガリと削れている。

 MPとはマジックポイントもしくはマインドポイントの略で魔力とも言う。

 ゲームでは魔法を使うと消費され、ゼロになると使えなくなるだけなのだが、現実だとゼロになると死ぬ。

 妹よ。兄をそういう目で見るな。

 お兄ちゃん、MPが枯渇して死にそうだ。


 昔は「お兄ちゃん大好き。お兄ちゃんのお嫁さんになる」と俺にべったりで、ヒヨコのように俺の後をついて歩いていたというのに……

 妹よ、俺のいない三年の間に何があった?

 あれか、思春期か? 反抗期か?

 そのうち俺のことを臭いとか、私の服と一緒に洗濯しないでとか、私がお風呂に入るより先にお風呂に入らないでとか言い出すのか?


「妹よ。この兄のどこが気持ち悪いというのかな?」

「日曜の朝に女児向けアニメを見ているところ。あと服装がダサい」

「ぐはっ!」


 咲良に無表情でダサいと言われて俺の心はナイフで抉られたかのように傷ついた。


 プリ◯ュアはテレビを点けたらたまたまやっていたので見ていただけだ。

 しかし、服装か……

 今の俺の服装はジャージにTシャツ姿だ。

 言い訳するなら、こっちに帰って来てから服をちゃんと買いに行っていなかった。

 異世界に飛ばされる前に着ていた服は身長が伸びたせいでほとんど着られなくなっていたため、数少ない着られそうなサイズの服で間に合わせていた。

 それでも三年間の魔物との戦いで身体が鍛えられ筋肉がついたため、Tシャツはパッツンパッツンである。


 俺は三年間行方不明で、高校は中退扱い。

 今の俺の社会的身分は中卒フリーターで朝から女児向けアニメを見ており、服装はダサい。

 妹からしたら俺は恥ずかしい存在なのかもしれない。

 しかし、俺は兄として、勇者として、妹から尊敬される存在でありたい。


 そのために俺はまず服を買いに行くことにした。

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