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第2話 勇者、小学生に馬鹿にされる

 俺がアルバイトをしているコンビニの名前は「Beeマート」と言ってミツバチのロゴマークのフランチャイズのコンビニだ。

 ユニフォームは黒のワイシャツに黄色のエプロンというミツバチをイメージしたカラーになっている。

 俺が異世界に飛ばされる前はあまり見かけなかったが、今では街のいたる所で店舗を見かけるようになっていた。

 聞いた所によると俺の住む街を中心にチェーン展開しているらしい。


 勇者の俺がコンビニでアルバイトを始めてから数日が経過した。

 コンビニの業務は意外と覚えることが多くて思ったより大変だったが、だいぶ仕事にも慣れてきた。


「勇者さん、私はFF作ってますからレジが混んだら呼んで下さいー」

「分かった。俺はここでレジを守っている」


 俺にレジを見ているようにお願いしたのは同じアルバイトの東雲真帆さんだ。

 東雲さんは高校一年生で四月からBeeマートでバイトを始めており、俺よりも少しだけバイト暦が長い先輩だ。

 17時から22時のシフトで東雲さんは週に三日ほど勤務しており、俺と一緒に働くことが多いのですぐに仲良くなった。


「数千の魔物の軍勢を相手に一人で戦ったこともある。客が何人来ようが安心してレジを任せて欲しい」

「あはは、お願いしますねー」


 東雲さんは冗談だと思ったのか笑いながらフライヤーのある厨房に消えた。

 冗談ではなく本当のことなのだが。

 俺がレジで客を数人さばき終わると東雲さんが厨房から戻って来た。

 FFとはフライドフーズの略で出来上がるまでに少しだけ時間がかかる。

 出来上がるのをじっと見ていてもしょうがないのでレジまで戻って来たのだ。


「勇者さん、レジ大丈夫でしたー?」

「何人か来たけど問題なかった」


 俺は店長を始めとする店員全員からニックネームの「勇者君」「勇者さん」と呼ばれており、ネームプレートにまで「勇者」とふざけて記入されている。

 俺は別に何と呼ばれようと構わないのだが、店長はBeeマート本社の人から怒られたりしないのだろうか?

 その店長はというと現在発注業務に追われているようでバックルームでPCとにらめっこしている。

 真剣な表情をしていて質問出来るような雰囲気ではない。


「ふーむ」


 ちらりと東雲さんのエプロンについたネームプレートを見ると「MAHO」と記入されていた。


「どうかしました?」

「東雲さんのネームプレートのそれもニックネームだよね?」

「そうなんですよー。店長がつけてくれたんですー」


 東雲さんはホワホワと嬉しそうに言った。

 本名をローマ字にしただけのMAHOというニックネームを気に入っているらしい。


「ふざけているとお客様に怒られないかと思ってね」

「ああ、これですかー。なんでもお客様との距離を身近にしたいということでBeeマート本社がネームプレートの名前をニックネームにするのを推奨しているそうですー」

「へぇ」


 店長の独断ではなくBeeマート本社の意向だったのか。

 なら店長が怒られる心配はないな。

 というか名札がニックネームとかノリが居酒屋みたいだ。

 まぁ、未成年で居酒屋に行ったことがないのでよく知らないが。

 俺が勝手に納得していると東雲さんが上目がちに俺の顔を見ていた。

 東雲さんは俺よりも背が低いのでどうしても俺を見上げるような形になってしまう。

 何か言いたいことがあるようだ。


「ところで勇者さんって格闘技の経験者なんですか? 強盗を倒した時すごかったですー」


 東雲さんはこの店が強盗に襲われた時に働いていたので、俺が強盗を叩きのめすのを見ている。


「格闘技っていうか……じいちゃんが古武術の道場をやっていて俺もよく稽古をつけてもらっていたんだ」


 異世界で魔王の軍勢を相手にしていたので強盗程度では相手にならない。

 そう言おうとしたが、店長からあまりにもおかしなことばかり言ってると採用した私の信用に関わると釘を刺されているので無難に説明しておいた。

 ちなみに、祖父から古武術の稽古をつけてもらっていたのは本当のことなので嘘ではない。


「やっぱり。そうだと思いましたー。古武術ってすごいですねー。私でも出来ますか?」

「えっ? 東雲さん古武術に興味があるの?」

「興味というか護身術を学びたいと最近思っているんですよー」

「それは、どうして?」

「何だか携帯に無言電話が多くて……それに何だか最近ストーキングされてる気がするんですよー」


 東雲さんは笑顔で言ったが困っているように見えた。

 ストーカーか。

 東雲さんの見た目は可愛く、ホワホワしている雰囲気があるのでストーカーの一人や二人いてもおかしくはなさそうだ。


「誰がストーカーなのか分からないの?」

「はい。それで護身術を学ぼうかと。」

「そうなんだ。危ないな。一応、じいちゃんに女性向けの護身術コースがあるかどうか聞いてみる」

「ありがとうございますー」


 ピピピピピ


 厨房からFFの出来上がりを告げる音がした。


「勇者さん、私は厨房に行ってきます。レジお願いしますねー」

「分かった。俺はここでレジを守っている」


 東雲さんが厨房に行ってからすぐに自動ドアが開いて客が三人入って来た。

 塾帰りの小学生だ。

 店の近くに学校や小中学生向けの塾があるため、この店は子供の客が多い。


「いらっしゃいませー」


 俺は入店時挨拶をして小学生の方を見る。


「いらっしゃいまっせー。ビーチクいかがでしょうかー?」

「やっ君、まじウケる」

「ギャハハ」


 糞ガキどもは店員の物真似をしてふざけている。

 ちなみにBeeチキというFFはあるがビーチクなんてものはない。

 たしかにビーチクに聞こえなくもないが店員の聞こえる所で馬鹿にしすぎだろう。

 しばらくして、東雲さんがバットにBeeチキをのせて厨房から戻って来た。


「Beeチキレッド出来立てですー。いかがでしょうかー」


 東雲さんはセールストークをしながらBeeチキをホットケースに並べていく。

 糞ガキどもは「ビーチクいかがでしょうかー」とセールストークの物真似をしてゲラゲラ笑っている。

 Beeチキを並べ終わり、東雲さんは俺の隣に立った。


「気にしたら負けです。気にせず仕事をしましょう」


 俺がイライラしているのが分かったのか東雲さんはニコニコしながら静かに言った。

 高校一年生なのに大人である。

 早く糞ガキどもが店を出て行かないかなと思っていると、糞ガキ三人組がニヤニヤしながらレジまでやって来た。

 一人は少し後ろから携帯を構えていて、どうやら動画を撮っているようだ。

 どういうつもりだ?


「お姉さん、ビーチクピンク下さい」

「ぷっ」


 糞ガキは東雲さんに胸を寄せて上げるポーズを見せる。

 東雲さんはというと顔を真っ赤にして恥ずかしそうにしている。


「お客様、Beeチキレッドでよろしいですか?」

「お前には言ってねーよ。向こうに行けよ」


 俺はさっさと会計を済ませたいと思って笑顔で間に割って入ったのだが向こうに行けと言われてしまった。

 糞ガキどもが。殺すぞ?


「おい、糞ガキどもいい加減にしろよ? 買う気がないなら帰れ」

「何だよ。お前、それがお客様に対する態度かよ。本社にクレーム入れるからな」

「あと、今の動画に撮ってるからな。動画サイトにアップしてやる」


 ああ、こいつらは店員の対応を動画に撮って面白がっているのか。

 本当にどうしようもない糞ガキだ。

 俺は勇者なのでこういう姑息なことをするやつが嫌いだ。


「やって良いことと悪いことの区別もつかないのか? 動画を削除して、東雲さんに謝れ」

「お前、ふっざけんな。名前、勇者? まじウケる」

「おい、勇者、イ◯ナズンやってみろよ。イ◯ナズン」


 イ◯ナズンは某有名RPGの大爆発を起こしてダメージを与える魔法だ。

 魔法でイ◯ナズンを再現出来るがここで使えば店が木っ端微塵に吹っ飛んでしまう。


「ここでは使えない」

「何だよ偽者かよ。偽勇者」

「俺は本物の勇者だ」

「本物なら魔法を見せてみろよ」


 所詮はガキだ。相手にしてはいけないと思いつつも糞ガキどもに偽勇者と馬鹿にされてつい頭に血が昇ってしまう。

 それに、こういうガキは一度痛い目を見た方がいい。


「いいぜ、そんなに見たいなら見せてやるよ」


 俺はニヤニヤしている糞ガキどもの方に手のひらを向ける。


「勇者さん、駄目です」


 東雲さんは俺が暴力をふるうと思ったのか制止した。

 流石にガキ相手に暴力をふるうつもりはない。

 俺が手のひらのすぐ前に魔法陣を浮かび上がらせると、糞ガキどもは驚愕に目を見開いた。

 東雲さんからは死角になっているため手のひらの魔法陣は見えておらず、キョトンとした表情をしている。


「いくぞ?」

「ちょ……ま……」

「イ◯!」


 俺は某有名RPGの魔法名を唱えた

 すると、後ろで動画を撮っていたガキの携帯が爆発した。


 ボンッ!


「熱っ……お、俺のスマホが爆発した」

「ま、魔法だ……」

「こいつ本物だ……」


 糞ガキどもは顔面を蒼白にして、まるで蛇に睨まれた蛙だ。


「5秒以内に店を出て行かないと、次はお前らの頭を吹っ飛ばす。5……4……3……」


 俺がカウントを始めると糞ガキどもは我に返り焦り始める。


「ひっ……こ、殺される!」


 そう言って糞ガキどもは店から走って逃げていった。

 糞ガキどもが。二度と店に来るな。


「今、爆発音がしたけど何かあったの?」


 店長がバックルームから売り場に出てきて俺たちに何があったのか聞いて来た。


「て、店長、勇者さんが魔法で携帯を爆発させましたーっ!」

「どういうこと!?」


 東雲さんは混乱しながら店長に説明するが上手く説明出来ていない。

 俺は糞ガキどもの東雲さんへの行動を説明し、俺が魔法でスマホを爆発させたのだと説明した。


「魔法って……監視カメラの録画を再生して見てみるか……」


 俺の魔法を信じていない店長はバックルームに戻り、監視カメラの録画を確認してから売り場に戻って来た。


「録画を確認したけど確かにガキの携帯が爆発していたよ」

「店長、これで俺の魔法を信じてくれましたか?」

「確かに携帯が爆発していたけれど、偶然の一致だよ。爆発した携帯は中国製だったんじゃないかな?」


 店長は中国に対して失礼なことを言っている。

 中国製の携帯ってカメラ機能を使うと爆発するの?

 何それ、怖い。

 そもそも携帯が中国製かどうかなんて監視カメラの映像では分からないじゃないか。


「な、なるほど、流石店長ですー。中国製だから携帯が爆発したんですねー。あやうく魔法なんて非現実的なことを信じてしまうところでしたー」


 彼女たちにとっては中国製が爆発するほうが現実的らしい。

 東雲さんは店長の言葉を真に受けて携帯が中国製だということに納得してしまった。

 まぁいい。俺が魔法で携帯を壊したとなると弁償などで色々面倒なことになりそうだ。携帯が中国製で爆発したということにしておこう。


「とりあえず、あの糞ガキどもは二度と店に来ないようにあいつらの通う塾に連絡しておくよ」

「ありがとうございますー」

「偶然が重なったとはいえ、勇者君もよくやった。あの糞ガキどもには私も手を焼いていたんだ」

「勇者さん、ありがとうございました」

「いえ、俺は勇者として当然のことをしたまでです」


 店長に褒められ、東雲さんには感謝された。

 魔法は信じてもらえなかったが悪い気はしない。


 しばらくして、先ほどの糞ガキが塾の講師と保護者に連れられて謝罪しにやって来た。

 糞ガキは「あの店員が魔法を使って携帯を爆発させた」「店に入ったら頭を吹っ飛ばされる」と泣き喚いていた。

 俺は「魔法なんて使えるわけないじゃないですか」としらばっくれつつ、手のひらの魔法陣を糞ガキどもにだけ見える角度で何度もチラチラと見せ、糞ガキの鼓膜のすぐ近くで音魔法の爆発音を響かせてやった。

 糞ガキどもはその度にビクンと仰け反り、泣き喚くので保護者に「いいかげんにしろ」と拳骨を落とされるのであった。


Beeマートに、なにかピンと来るものを感じてくださった人に、是非オススメの連載は特にありません。

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