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第1話 勇者、コンビニでアルバイトを始める

短編「異世界で勇者をやっていたが今はニートをしている」の続編です。

 異世界から三年かかって帰って来た俺の社会的身分は中卒ニートだった。

 このままではまずいと思った俺はコンビニアルバイトの面接を受けることにした。

 勇者の力はこの世界では必要とされない。

 面接での俺の印象は散々なもので、不採用は間違いないと思われた。

 がっくりと肩を落として店を出ようとしたその時、強盗が店内に入って来たので、俺は勇者の力を思う存分発揮し強盗をぶちのめした。

 しかし、警察には危ないから今後はこのような行動は控えるようにと注意されてしまう。

 誰も俺が勇者だと信じてくれない。

 皆は俺のことを自分のことを勇者だと思い込んでいるちょっと頭がアレな人だと思っている。

 何故だ。俺は本当に勇者なのに。

 親から自宅謹慎命令が出され、俺は自分の部屋で悶々とした日々を過ごした。

 謹慎が明けたある日のこと、面接を受けたコンビニから連絡があり俺はアルバイトとして採用された。


 マジか!?

 絶対に不採用だと思っていたのに。


 こうして俺は勇者の中卒ニートから中卒フリーターにレベルアップした。

 頭の中でファンファーレが鳴り響いた気がした。


 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


 コンビニアルバイト初日。


「いらっしゃいませー。2点で460円でございます」

「1000円お預かりします。540円のお返しでございます」

「ありがとうございます。またおこし下さいませー」


 今、俺はレジ打ちのトレーニングを受けている。

 トレーニングと言っても本物のお客様を相手にした本番だ。


「うん。いいね。アルバイトが初めてとは思えないくらい飲み込みが早くて助かるよー」


 そう言って俺を褒めたのは店長の霧島優花さんだ。

 髪の毛は短めでメガネをかけている。

 年齢はよく分からないが二十代前半くらいだろうか。

 面接の時とは違い、くだけた話し方になっている。


「ありがとうございます。ところで店長、どうして俺をバイトに採用してくれたんですか?」


 俺は疑問に思っていたことを質問してみた。


「うーん、最初は採用するつもりなかったんだけどねー」

「やっぱり。なら何故?」

「君は面接の時に自分のことを勇者だと言った。最初はふざけているのかと思ったんだよ。でも店に強盗が来た時の君はまるで勇者みたいに堂々としていて覚悟を決めた人間の目をしていた」

「みたいじゃなくて、本当に勇者なんです」

「はいはい。君はあれだよね。オンラインRPGプレイヤーで空白の三年間は家に引きこもってネトゲで遊んでたとかそんな感じ?」

「俺はそういう遊びはやったことないです」

「ああ、ネトゲは遊びじゃないってやつか。私も一時期ネトゲにハマったことがあってね、アライアンス組んで大規模レイドに挑戦したり。いつの間にかリアルが疎かになってネトゲ中心の生活になって、あやうく大学の単位を落としそうになったよ」


 駄目だ。店長と話が噛み合わない。

 俺はネトゲ廃人だと思われている。


「いえ、俺は本当に異世界で魔王を倒したんですが」

「たかがゲームではあるけれど画面の向こう側にいるのは感情のある人間。泣いたり笑ったり、人間関係に悩んだりね。私も仲間とレイドを攻略した時は嬉しくて思わず叫んだよ。君のネトゲでの三年間は確かに現実で三年間があって君は今ここにいる。どんな心境の変化があったのかは分からないけれど君はアルバイトの面接に来た。私は少しだけ君の気持ちが分かるから君の社会復帰の手助けをしたいと思って採用したんだよ」


 店長と話は噛み合わないが、分かる部分もあった。

 俺は異世界に行ったことで高校三年間を過ごせなかった。

 しかし、その代わりに、普通の高校生ではあり得ない貴重な体験をすることが出来た。

 店長の話を聞きながら俺は異世界で出会ったハーフエルフの少女の顔を思い出していた。

 あいつ、元気にしているかな?


「店長ありがとうございます」

「えっ?」

「俺はこっちに戻って来たら三年経っていて、同級生は皆卒業していて、俺だけ置いてきぼりにされたような気になっていました。でも店長の言葉で目が覚めました。俺はあっちでいろんな人に出会ってたくさんの思い出を貰って、こっちに戻って来る時はいろんな人に引き止められました。だけど俺は家族が心配して待っているからとこっちに帰って来たんです」


 惜しみつつも最後は笑顔で送り出してくれた人たちのためにも俺は前に進まないといけない。

 何故なら勇者だからだ。


「うん、何にせよ君はこっち側に戻って来た。君はまだ若い。人生はいくらでも修正可能だよ」

「はい。ありがとうございます」

「じゃあ、そろそろ雑談はやめてトレーニングに戻ろうか、勇者君!」

「はい!」


 俺と店長はレジ打ちのトレーニングに戻った。


「ところで、勇者君って何ですか?」

「君のニックネームだよ。私は君の個性を尊重したいと思う」


 こうして俺のバイト初日は問題なく終わった。

 中卒ニートでしかない俺を採用してくれた店長のためにも俺はこのバイトを頑張ろうと思う。



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