惨劇
フラン達は大砦シーワントの所につくなり目の前の光景を見て驚いていた。
「どうなってんだ? 門が開いてねェじゃねェかよ」
フランは目の前の光景を見て呟く。シルヴィアとアリスも同じことを思ったのか目の前の門を凝視していた。
「なァ、どう言うことだ? 確かに合図はあったよな? まさか、あれじゃなかったのか?」
疑問ばかりを口にするフランにシルヴィアも同意するような言い方をする。
「・・・・確かにおかしいですね。・・・・ここは一旦、森に戻りましょう。敵の罠の可能性もあります」
兵士の方を向き、もといた場所まで引き返そうとする。だが、フランは引き返そうとしているシルヴィア達とは逆に、赤星から降りて大砦シーワントの門に向かって歩いていく。
そんなフランに、アリスは天馬を止め、大砦シーワントの門に向かって歩いていくフランを見る。
「フラン兄様、何処に行くんですか?そちらは門ですよ」
「やっぱ、ダメだな、俺。じっとはしてらんねェわ」
ゆっくりと門に向かって歩いていくフランにシルヴィアは眉を潜め怪訝そうな声で問いかける。
「・・・何をするつもりですか?フラングール様」
シルヴィアの問いかけを無視して門まで行く。
大砦シーワントの門まで行くと、おもむろに片手を後ろにひく。
アリス、シルヴィア、そして兵士達は「何をする気だ?」っと言いたげな表情で片手をひいているフランを見みつめている。
フランはアリス達が見つめるなか、片手を真っ直ぐに門に向かって突き出す。その瞬間、その場の全員が誰一人例外無くフランの拳が砕けると思っていた。だが――――
バコォォォォォンッッ!?
その場の全員の予想を裏切りフランの放った、魔法も何も使っていないただのパンチは、自らの拳を痛めることなく門を易々と打ち砕く。
「『なっ!?』」
「開いたことだし、中にお邪魔しますかねェ」
フランは自分で開けた門の大穴からシーワント内に侵入する。
「・・・・・ッ!?」
「・・・・・フラン兄様、今の凄いですね!? それがフラン兄様の魔法ですか?」
「・・・・なんという威力・・・・。シーワントの門は並みの威力では壊れないくらいの厚さと硬度はある筈なのですが・・・・・」
アリス達は天馬を下り、自ら開けた穴から内部に侵入し、シーワント内を見つめ、呆然と立ち尽くしているフランに話かけながらシーワント内に入り、寄っていく。
「フラン兄様、どうしたんですか? そんなところで立ち尽くして。敵に狙い撃ちにされます・・・・よ・・・・・っっ!?」
「・・・アリス様? どうかしましたか?・・・・・ッッ!?」
シルヴィアはフラン同様にシーワント内を見つめ固まっているアリスに近寄り話しかけた。
そして、フランとアリスが見つめている方向を見る。
視界に飛び込んできた光景はまさに惨状と言っていい程の光景だった。
門を抜けたそこには、反乱軍と思われる天族や魔族の血が辺り一面に広がり、死体もバラバラのモノから上半身と下半身に別れて、そこから内臓がハミ出している者、巨大な何かに食い千切られた様な死体まで、百や二百を軽く越える量の死体たちが犇めきあい、まさに死屍累累と言っても過言ではない光景を作り上げていた。
その光景を見たアリスは顔を元々白い肌がより白くなり、辛そうな表情をする。が、必死に目の前の光景に慣れようと努力したが、初めて見る死体や血で思わず悲鳴みたいな声をあげてしまう。
「・・・・あっ、あぁぁっ!?・・・」
「アリス様!? 大丈夫ですか!」
目の前の異様な光景を見て、膝から崩れ落ちたアリスに駆け寄り必死に呼びかけるが、目の前の異様な光景を目の当たりにして堪えられず両手で頭をかかえ、地面にへたり込んだまま歔欷している。
「アリス。目の前の光景から目を背けるな。これからもお前が俺達と同じ戦場に立ちたいなら、目の前の光景から目を背けるな。これが俺とシオンがこれから立ち続ける戦場だ」
フランはアリスに強い口調で言い、顔を無理矢理に目の前の異様な光景を見えるようにする。
無理矢理にも血溜りを見せようとするフランにシルヴィアは王族という事も忘れて、強い口調で咎める。
「フラングール様! 実の妹になんて酷い事をするんですか!? アリス様にとって目の前の光景は辛い筈なのに・・・・・。平気でアリス様の気持ちを無視し、目の前の異様な光景を見るように強要するような貴方は人として、とても酷い人だ!・・・・・」
「アァ? これぐらいの事で何言ってんだ、オマエ。アリスがこれからも戦争に関わるなら、アリスには今のうちからこういう光景に慣れてもらった方がいいだろォがよ・・・・・・。っつーかさ、オマエ、もしかして、俺がアンタとシオンの命令を無視して撤退せずに門を壊したから怒ってんのか?」
「・・・・・いえ、その様なことは。私が怒っているのはアリス様の気持ちも考えていないフラングール様に怒っているのです。決して命令違反したからではありません・・・・・絶対に違います」
シルヴィアは殊更怒っているのは『命令違反』ではなく『アリスの気持ちも考えていないフラングール』っと言い張る。そんなシルヴィアの様子を見たフランと兵士達は同じことを思う。『図星だな』と。
「ン?・・・・・あっちの方で人の声がするな。行ってみるか」
呟くように言い、大砦シーワントの広場に続く道の方を見るフラン。
大砦シーワントの広場に通じている道にも血が付着している部分がある。
フランは立ち上がり、アリスの頭に手を置きながら、優しい声音で声をかけるフランを、アリスは赤くなった目で立ち上がったフランを地面にへたり込んだままの状態で見つめる。
「悪かったな、アリス。いきなりイヤなもん見せてよ」
「・・・・・・・気にしないでください、フラン兄様。私が無理を言ってついてきたんですから・・・・。それに、私はこれからもシオン兄様やフラン兄様達と同じ戦場に立ちたいですから・・・・」
「・・・そうか」
短く答えると、広場に向かって歩いていく。兵士達はフランの後についていく。
フランが歩いていると、アリスとシルヴィアが横に並行してくる。
シルヴィアはフランを追い越し、目の前に立つと頭を下げる。
「・・・フラングール様、先程は申し訳ございませんでした」
「アァ? 最初から謝るなら私情で文句を言うんじゃねェよ。っつーかよぉ、そんなことどうでもいいだろォが。今はそんなことより広間に急がなきゃなんねェ」
「そ、そんなこと? そんなことではありませんよ。私は一兵士なのに王族に私情で暴言を吐きました。それは『どうでもいいこと』でも『そんなこと』程度で済ませていいレベルではありません。私は然るべき罰を受けるべきです」
「ハァ? 本人が『どうでもいい』って言ってんだからそれでいいだろ。それに一々そんなの気にしてねェよ」
「しかし!」
なおも食い下がり、フランの目の前に立ち、必死に自らの罪を分からせようとするシルヴィアにフランは鬱陶しそうに頭をかきながら言う。
「しつこい野郎だな。・・・・じゃあ、王族からの命令だ。そこをどけ」
その言葉にシルヴィアは苦渋の決断みたいな表情をして、渋々フランの目の前から退き、再び横に並行する。
アリスはフラン達二人のそんな様子を終始無言で見ていた。
アリスの様子に気づいたのかフランとシルヴィアは「まだ、さっきの光景のショックが抜けていないのかな」っと思いその後は二人とも無言で広場に急いだ。
広場に着くと、シーワントの広場内は反乱軍と思われる天族や魔族の兵士達の血で埋め尽くされている。
『死体』ではなく『血』で埋め尽くされている。
本来なら在るべき『モノ』が存在せずに。
そう、本来なら在るべき存在――――『死体』。それがこの大砦シーワント広場内には一切存在していないのだ。あるのはただただ、赤色の液体――――『血』のみだ。
死体がなく血だけというのがまた目の前の光景を異様な雰囲気にしていた。
その光景を見て、アリスは今度は辛そうな顔をしながらも頑張って堪えている。
「あんまり無理すんなよ。門の所の光景を見た後だから多少は平気かも知んねェが、無理して精神に異常をきたしてもらっても厄介だ」
気を使っているのかどうかも怪しい物言いのフランにアリスは微笑むと、短く「ありがとうございます。フラン兄様」と不器用なフランに微笑みながら言うと、目をつぶり深呼吸をし始める。
「・・・・一体これは誰がやったのでしょうか?・・・・」
「・・・“ ”だろ」
「えっ?」
シルヴィアはフランの言葉が、聞き取れなかったのかフランの方を向く。すると、フランは広場の中央を凝視していた。
シルヴィアもフランが見ている広場のほぼ中央を視線で追い、確かめる。
広場のほぼ中央には、上下黒い袴に、蓮華の刺繍が施された黒い羽織をはおっていて、レースアップブーツを履いた、透き通るような銀髪で紅色の目の中性的な容姿の少年と、色褪せた黒色の貴族のような服を着て、黒髪を肩の下まで伸ばした灰色の目の、三十代中半の男性が五メートルぐらいの間隔を開け対峙している。
少年と男性はそれぞれ、大鎌と剣を手に持っている。
フラン達はその透き通るような銀髪に紅目の少年――――シオンに近づいていく。
「よォ、シオン。随分と派手に暴れたじゃねェか」
「遅かったですね、フラン」
挑発するような口調のシオンにフランは少し頭にきたのか強めの口調で答える。
「うっせェ! っつーかよォ、シオン。オマエどうやって砦内に入ったんだ?」
「簡単ですよ。黒天に砦の中まで送ってもらいました」
「リュクシオン様がその男を倒したのですか?」
シルヴィアはシオンの傍らに氷漬けの肉片を視界の端に入れながら問いかける。
「ええ。そこの氷漬けになっている男だった『モノ』の魔法の能力が『音』に関係があるみたいだったので早めに殺しました」
「『音』となると、最初の音もそこで氷漬けになっている人がやったと考えると門が開いてなかった事も理解できますね」
「シオン。何でオマエは砦内にいたのに門を開けなかったんだァ?」
「すみません。私一人でも片付けられると思ったので。それより、フラン達はよく砦内に入って来れましたね」
「フラン兄様が門を殴って壊したから入って来れたんです」
大分落ち着いてしゃべれるようになったのか今までしゃべらずに事の成り行きを見ていたアリスがシオンの疑問に答えた。
「成る程。つまりフランは―――」
シオンがフランに確認を執ろうとすると、その言葉を遮って男が話しかけた。
「お喋りはそこまでにしろ」
「そういえば、シオン。誰だこいつ?」
「フラングール様、その男は私と同じ“熾天使”が一人、カルロス・マッケン・ブレアです」
「へぇ、“熾天使”って事はコイツが裏切り者の主犯か?」
「ええ、その通りですよ、フラン。じゃあ、後は任せます」
そう言うとフランの肩をポンっと叩くと、フランから少し離れたところに立つ。すると、黒髪の男――――カルロスが挑発するように言う。
「おい、どうした、“偽王”さま。私と戦わないのか? それとも、臆病風にでも吹かれたか?」
――――“偽王”? リュクシオン様の事でしょうか? そうだとしたら、なんたる無礼! かくなる上はこの私の剣の錆にしてくれる!
シルヴィアが腰に下げてある剣に手をかけようとしたところをシオンが手で制して、カルロスを見る。
「クフフフ。私が貴方に負けるとでも? それに貴方ではフランに勝つ事はできませんよ」
「ハハハハ! この国最強と云われる“熾天使”に“王族の恥さらし”のフラングールごときが勝てるとでも思っているのか? ハハハハ、そう考えているのなら、とんだお笑い草よ! ・・・・ミクトを殺ったからといって図に乗るなよ、小僧・・・」
高笑いしていたカルロスは最後の辺りをドスのきいた声で言うが、シオンは特に気にした様子がなかった。
シオンはフラン達が広場に来るまでにカルロスの“影”とも言える存在の“ミクト”と言う男性を大鎌:翠月で斬り伏せている。
ミクトはシオン達で言う“騎士の死影”達の事。
貴族の位になると必ずと言っても過言ではないくらい普通に裏の仕事である、諜報、諜略、暗殺をこなしてくれるミクトみたいな人達が存在する。
シルヴィアはカルロスの言葉を聞き激昂する。
「今度はフラングール様を侮辱したな! 貴様、それでもローラン様の前で“誓い”を立てた“熾天使”か! それに、ローラン様のご厚意で『裏切り者』の貴様を“熾天使”に入れてもらえたのを忘れたとは言わさんぞ!」
――――カルロスは前にも一回裏切ったことがあんのか? まあ、今は別にどうでもいいか。後でシオンかシルヴィアに聞けばいいしな。
「ふん、確かにローラン様には感謝しているよ。何せ、今もこうして生きていられるのだからな。それにあんな誓いを守ってる奴は王族が絶対と思っているお前とグラドスの馬鹿ぐらいだろうよ、シルヴィア・リーズベルト」
激昂してたいるシルヴィアにカルロスは嘲笑しながら言う。そんなカルロスに今度こそ斬りかかろうとするが、またしてもシオンに手で制される。
「・・・・・どうして止めるのですか?」
シルヴィアは何故止められたのか分からない。っと言いたげな表情でシオンを見る。
「シルヴィア、カルロスはフランの獲物ですよ。それに、今カルロスに手を出したら貴女から先にフランに食われます。今はフランを信じてこの戦いの行く末を静かに見守りましょう」
っと言うシオン。
シルヴィアはいまいちシオンが言った言葉の意味を全部は分からなかったが、最後の辺りの事は理解でき、一応シオンの命令と判断し、剣を収め目の前の状況を静観しようと努める姿勢をつくる。
フランは自分を無視してシオンに話しかけるカルロスにこちらは心底愉しそうな声で、興奮したように歓喜の表情を浮かべ、両の手を横に広げながらカルロスに問いかける。
カルロスはそんなフランを汚物でも見るような目と表情で見る。
「おい、カルロスとか言ったかァ? そんなことはどォでもいい。早く始めようぜ。血沸き肉踊る戦いってヤツをよォ!」
「自分の欲を満たそうと求めているような表情だな。やはり、貴様には何の価値もないと言うわけだ。そんな王族などこの国には要らん。やはり、貴様は“王様の恥さらし”と言うことだ。生きていても意味も価値もない、よし、ここでこの私が始末してやろう」
「おいおい、勝手に人の値打ちを決めてんじゃねェよ、クソ野郎がァ。自分の値打ちは自分で決めんだよ。カルロスにとやかく言われる筋合いはねェな。なァ、そうだろ? 裏切り者さんよォ」
「ふん。それは違うな。何故ならこの世界には“身分”がある。そして、“身分”によって王族、貴族、平民と分けられる。つまり、この世界では人の価値は生まれた時点で決まっていると言う事だ」
カルロスはフランの話を聞くたびに何故か額に青筋を立てていく。
カルロスはまるで、自分の意見を正当化して、フランの意見は間違っていると自分に言い聞かせているかの様にフランの言葉を全て否定する。
余談だが王族、貴族、平民を決める一番のポイントは名前だ。
名前は、王族が『ファーストネーム』・『ミドルネーム』・『カントリーネーム』・『ファミリーネーム』・『セカンドネーム』と言う風になっている。
貴族は王族の『カントリーネーム』と『セカンドネーム』をなくした感じだ。
平民は言わずもがな。当然『ファーストネーム』と『ファミリーネーム』しかない。
「確かに生まれによって王族にはなれねェよ。だがなァ、平民でも努力次第では貴族にはなれる。っつーかよ、『ブレア家』って確か没落したんじゃなかったかァ? そうなると、オマエも貴族じゃねェだろ? カルロス風に言うなら、テメェも何の価値もねェ“貴族の恥さらし”って事になるよなァ?」
「黙れェェェェッッ!! “王族の恥さらし”が図に乗るんじゃねぇぇぇっ!!」
憤怒の形相で、激怒して頭に血が登り、理性が働かなかったせいか魔法も何も使わずにフランに、手に持っている剣で一気に数メートルの距離を詰め斬りかかる。
斬りかかって来たカルロスを見てフランは誰にも聞こえないような小さな声で言う。
「やっと、やる気になったか・・・・・」
バチチチッ。
白雷がフランの周りに一瞬だけだが出現したのをシオン達は見た。
小さな声で言ったフランの顔には隠そうともしないで、獰猛な笑みを浮かべ、今まさに降り下ろされようとしている剣を――――いや、カルロスの憤怒の形相を見ている。
フランは降り下ろされた剣を左腕を前に出し、ガードしようとする。そんな、フランにアリスが叫ぶ。
「フラン兄様、危険です! 避けてください!」
だが、時既に遅し。アリスの叫びも虚しくもう、カルロスが眼前で剣を降り下ろしていた。
後数秒後にはフランの左腕――――運が悪ければそのまま肩の辺り――――から切断され、辺りに血を撒き散らしながら無様にもフランは地面を転げ回るとその場の誰もが思った。
バキィィィィンッ!
しかし、蓋を開ければ、フランは地面を転げ回るどころか左腕の切断はおろか左腕を傷つける事すら出来ずにカルロスの降り下ろした剣は真ん中辺りから堅いものにでも当てたかのように砕けていた。
「なっ!? そんな馬鹿な! ただの腕で防いで無傷だと!」
「バカかテメェは? そんな、鈍で俺を傷つける事なんか出来るわけねェだろ」
挑発するように、カルロスの感情を逆撫でするように言うフラン。
カルロスは気づいていないがフランは剣が腕に当たる前から魔法を発動させていた。
フランは魔法によって左腕が切断されずにすんだのだ。
カルロスは一旦距離を取るために後方に大きく飛んだ。そして、早々に折れた剣を投げ捨て、フランに向けて右手を突きだす。
――――アイツの魔法は中距離型の魔法なのか? それとも他に距離を取った理由が何かあんのか?
「チッ! こうなったら、これで殺してやる!」
ドオォォォォォンッッ!?
――――・・・・・ッッ!?
カルロスがそう言うと、突如フランの右側頭部の辺りを衝撃が襲う。
フランの体は衝撃で左方向に吹っ飛ぶ。その吹っ飛んだ拍子に受け身も取れずに地面に叩きつけられるように、頭から仰向けの形で地面に倒れこむ。
そんなフランにアリスとシルヴィアは悲鳴じみた声音で叫びながらフランに駆け寄ろうとする。
「「フラン(兄様)(グール様)!!」」
だが、シオンはそんなアリスとシルヴィアの二人の手を掴み止める。そんなシオンにアリスとシルヴィアは何故止めたのか分からず、疑問の声を上げる。
「「(リュク)シオン(兄様)(様)!! どうして止めるんですか!?」」
だが、シオンは二人に少し語気を強めて注意するように言う。
「さっきも言いましたが、今はフランを信じてこの戦いの行く末を静かに見守りましょう。そうすればフランは必ず私達の期待に応えてくれるでしょう」
「ハハハハ! 何を言っている? いくら、フラングールの魔法が防御型だからと言って、もう立てるわけがないだろ。私の魔法を諸に頭に食らったのだからな。それに、立てたとしても頭が揺さぶられたのだから、無事ではすまないだろうな!」
自慢気に高笑いしながら話すカルロスにアリスとシルヴィアは悔しそうに睨む。
シオンはカルロスに注告する。
「貴方はフランを甘く見ているようですね。それじゃ、足下を掬われますよ」
「ふん、負け惜しみか? 見苦し・・・・ッ!?」
「・・・・・痛ってェな・・・・。一瞬意識が飛んだぞ?」
カルロスは声に驚いて、言葉を最後まで言えずに自分でぶっ飛ばしたフランを慌てた様子で見ると、そこにはフランが右手で頭を押さえながらゆっくりとした動作で立ち上がろうとしていた。カルロスはそれを見て目を見開いて驚く。
アリスとシルヴィアはカルロスとは違い安堵の表情を浮かべている。
――――ば、馬鹿な! 何故、頭に諸に食らったのに普通に立てるんだ!? 有り得ん! いくら、防御型でも脳を揺さぶったのだから暫くは気絶していてもおかしくないのだぞ!・・・・・。
「・・・・・さてと、第二ラウンドといきますかァ」
そう言うとフランは足の爪先を地面にコツコツっと二~三回当てると、カルロスの瞬きの一瞬に視界から消える。
フランが踏み抜いた地面は小さなクレーターが出来ていた。クレーターを見てシオン、アリス、シルヴィア、それと兵士達は首を傾げ、何故クレーターが出来ているのかを考えていた。
―――これは・・・・身体能力を強化でもしているのでしょうか?
―――フラン兄様が、き、消えた?・・・・・フラン兄様が消えた理由とあのクレーターは何か関係があるのでしょうか? フラン兄様の魔法は雷系なのは分かるのですが・・・・・。
兵士達は当然として、アリスも目で追えずに辺りにフランがいないかを確認している。
「ふん、小賢しい小僧だ。こう言うのは大抵後ろだ」
そう言って、カルロスが後ろ向くが―――そこに、フランはいなかった。
「チッ! どこだ!」
カルロスは前後左右を確認するがどこにもいない。焦るカルロスだが、冷静にフランの気配を探る。 そして、フランの気配を見つけ、気配がした方を慌てて向く。
「クソッ! 上か!」
「遅せェよ」
カルロスが上を向いた頃にはフランは頭からカルロスに向かって落ちてきていて、既に手が届く距離まで迫っていた。
だが、流石“熾天使”と言うべきか、カルロスは素早く魔法を発動させる。カルロスの魔法を空中にいるフランが避けれるわけもなくまたしても諸に今度は腹に三発も衝撃が襲う。
フランは三発の衝撃をくらいカルロスから少し離れたところに着地――――もとい、落下した。
そんなフランにカルロスは嘲笑しながら言う。
「ハハハハ! 何が『遅い』だ。貴様の攻撃など、私にくらうはずがないだろう。それに、フラングール。貴様の魔法は恐らく身体強化の魔法か自らの体を硬化させる魔法だろう? だから、さっきから貴様はワンパターンの打撃しかしようとしないのではないのか?」
「確かに俺の魔法は近距離でしか役に立たねェよ。だがなァ、俺の魔法が近距離だからって、別にテメェに攻撃が絶対に当てられねェなんて事はねェだろォがよ。それに、テメェの魔法じゃあ絶対に俺は倒れねェ」
「ふん、強がりを言いおって。見苦しいぞ小僧。それに、貴様の攻撃は絶対に私には届かんよ」
フランとカルロスの意見は平行線と同じで絶対に分かり合えそうにないようだ。
フランとカルロスはお互いに構えをとる。構えと言ってもフランは何時でも走り出せるように腰を少し下げるだけ。カルロスもすぐに魔法が発動できるように肩の力を抜きリラックスするだけだ。
今度もまた、フランから仕掛ける。フランはまた、カルロスの視界から消える。
「ふん、同じ手を何度も食らうわけがないだろう!」
カルロスは叫び、フランの気配を探る。
「後ろか!」
そう言い勢いよく後ろを振り返り、振り返りざまに魔法を発動させる。だが、振り返るとそこには誰もいない代わりに小さめのクレーターがポツンと鎮座している。
――――ば、馬鹿な! 確かに気配は後ろからしたはずだ!・・・・・まさか!?
カルロスが目を見開いて驚いていると後ろから声がする。
「いい反応だったぜ。並みの魔導師なら今の一撃を諸に食らってたよ。だが、残念だったなァ。俺は並みの魔導師じゃねェ」
カルロスは後ろに振り向くと右手を固く握りしめたフランの右手拳が眼前に迫っていた。その時カルロスは普段より頭が冴え渡り、世界の全てがスローモーションで流れ、明瞭に自分がこの後どうなるかを理解することができた。
カルロスは諸に顔面パンチを食らい、地面に凄い威力で叩きつけられる。
「カハッ!?」
「オイ、立てよ。こんなもんじゃ終わらせねェぞ。全然俺は満たされてねェからなァ」
地面で寝返りの要領で俯せになり血を吐きながら、咳き込むカルロスにフランは心底詰まらなさそうな目で見下す形で見ている。
カルロスは自分が見下されている事も気づかずに、あることを考えていた。
――――また、俺は阻まれるのか。王家に。・・・・・ふん、私は反逆しても上手くいかないみたいよの。
シオン達の位置からだとフラン達の会話は大声で話さないと聞こえない。それは、フラン達も同じだが。
シオン達はフラン達の戦闘?を見てカルロスの魔法について話し合っていた。
「シオン兄様はどう思いますか? カルロスさんの魔法を」
「そうですね。予想の域を出ませんが、恐らく『水』が関係していると思います」
「風ではなく水・・・ですか? どうして?」
「さっかきから見ているとカルロスの攻撃の際、何か透明なものが光を反射していました。なので、『水』に関係のある魔法と思ったんですが。私も確証は持てていません。シルヴィアはカルロスの魔法を知らないのですか?」
「私も詳しくは知りません。すいません、リュクシオン様」
「いえ、気にしないでください。同じ“熾天使”でも普通は魔法名なんて教えませんから」
シオン達が話しているといつの間にかカルロスが立っていた。カルロスはフランの顔面パンチが脳にきたのか、ふらふらしながら立ち上がっていた。
フランはふらふらしているカルロスを無表情で見ている。
「お前、本当に“熾天使”か?・・・呆気ねェな」
「・・・ふん。・・・・図に乗るなよ・・・・小僧ゥゥゥゥッ!?」
カルロスは吠えながらフランに殴りかかる。フランは全く威力のない、カルロスのパンチを顔面に食らう。だが、フランは気にも留めずにカルロスの顔面を殴り、また地面に殴り伏せる。
「カ・・・ハッ!?」
今度はピクリとも動かなくなった。
「チッ! 詰まんねェな。オマエ。ガッカリだぜ」
シオン達は動かないカルロスとそんなカルロスを見下す様にそれを見ているフランのもとに近づいていく。
「片がついたみたいですね、フラン」
「“熾天使”の一人を倒しちゃうなんて凄いですね! フラン兄様!」
「・・・まさか、本当にカルロスに勝てるなんて・・・」
声に振り返りかける。
「なんだ。オマエらか」
フランは覇気の無い声でシオン達に答える。
「どうしました? フラン」
フランはシオンの言葉に「大したことねェよ」っとだけ言いカルロスを担ぎ、広場を出ていこうと門に繋がる道に歩いて行く。
「さてと、帰るとしますかねェ」
「カルロスは当然生かしてますよね?」
シオン達もフランに追いつき横に平行し話しかける。フランは「アア」と言い歩き続ける。兵士達も同じ様にシオン達についていく。
門に繋がる道を歩いている時にフランは思い出したようにシオンに問いかける。
「そういやァよ、シオン。門の前の死体あれは酷かったぞ。せめて、広場のみたいに死体も凍らせとけよな」
「はい? 私は直接この広場に来ましたよ。門の前は行ってもいないし、通ってもいません」
「ハッ?・・・マジかよ? じゃあ、門の前の死体は誰が殺ったんだ?」
フランだけではなくシオン、アリス、シルヴィアも疑問に思い四人で首を傾げてお互いに顔を見ていると突然広場の方から兵士達の悲鳴が聞こえる。
『ギィヤアアアアアアアアッッッ!!??』
「た、助けてくれぇぇぇぇっ!?」
シオン達とシオン達について来ていた兵士達は悲鳴を聞き急いで広場に戻るために走っていく。
フランは広場に向かう前にカルロスを門に繋がる道に置いてから広場に向かっていく。
シオン達が広場につくと、そこには、門の前の光景と同じような死体が数十体転がっている。門の前と違うのはこの光景を作り上げた張本人が数匹いることだ。
今、目の前にいる数匹のこの光景を作り上げた張本人達を一言で表すなら―――――
「・・・“ドラゴン”・・・か?」
フランはその場の全員を代表して目の前にいる四匹の事を一言で表す。