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真王と盟約の戦姫  作者: ダンタリオン
プロローグ 内乱編
6/7

初陣



「それでは、皆さん。出発しましょう!天井を開けてください!」


 シオンの言葉で第二訓練場の天井が開く。シオン達と二千六百五人の兵士は第二訓練場を天馬に跨がり飛び立っていく。当然、先頭はシオンだ。


「なァ、シオン」


「なんですか?フラン」


「俺は敵の勢力が五千ってことしか知らねェんだが。敵の首領(しゅはん)とかって分かんねェのか?」


「それは、私も詳しく聞きたいです」


 フランの言葉にアリスが同意を示しシオンの言葉に聞き耳をたてていた。


「それが、私も詳しくは分からないのですが……………。敵の首領は不明。そして、敵の勢力ですが主力は天族ですが、魔族もまざっているそうです」


「シーワントを守護していたカーマ・イング准将はどうされたのですか?」


「………カーマ・イング准将からの連絡が途絶えたので、敵に討たれた。と思うのが妥当でしょう……」


「魔族もまざってるってことはよ。その謎の軍勢の首領は魔族ともつながってるってことかァ?」


 フランの問いにアリス達は緊張した面持ちでシオンの解答を待っていた。


「恐らく、そうでしょうね」


 フラン達は個人個人で驚き具合は違ったが、少なからず今の話を聞いていた全員が驚いていた。


「でも、シオン兄様。天族と魔族は元々仲が悪いのにどうやって兵を貸してもらえたのでしょうか?」


「どうやったのかは私にも分かりません――――が、一つだけ分かることがあります。それは、魔族がこの戦争に関わっているということは近々アッシュテール皇国と揉めることになるでしょうね」


「ヘェ、そいつは楽しみだな……」


「フラン兄様は不謹慎ですね。戦争を楽しいなんて………」


「……………う、うるせェよ……。冗談に決まってんだろ………?」


「冗談が言えるなんて、今から戦争をしに行くのに暢気ですね。フランは」


「当たり前だ。俺の初陣だからな。それに、俺は俺なりにこの場の空気を和ませようとしたんだろうがよォ」


 シオンのからかうような口調にフランも少しふざけた声音で答える。


「そう言えば、アリス」


 シオンは思い出したかのように言う。


「??なんですか??」


「帰ったら私とアリス、それからフランの三人でお茶会をしましょうか」


「……いいんですか?シオン兄様」


「当然ですよ。フランも勿論OKですよね?」


「アア。OKに決まってんだろ」


「フランもOKだそうですよ」


「ありがとうございます。シオン兄様、フラン兄様」


 アリスは余程嬉しかったのかシオンとフランに向けた笑顔も嬉しそうだと分かるほどの表情をしていた。

 シルヴィア元帥も喜んでいるアリスを見てどこか表情が緩み微笑を浮かべていた。

 シオン達がお茶会の事を話しているとゴーグルとヘッドホンを着けた兵士の一人がシオンの天馬に並べるようにくっつける。


「報告します。熾天使の残り二人に連絡がとれました」


 兵士の言葉を聞くと、今までの表情とは一転して真剣な表情を浮かべる。


「……お二人はなんと?」


「はっ!マクガァーン元帥は『私は『ヴァルハラ』を守ります。陛下は安心してシーワントを攻められよ』とのことです」


――――《ヴァルハラ》って確か俺達の住んでるグラッツヘル城がある王都の名前だよな?


――――はい、そうですよ。フラン兄様がよく遊びに城下町ですよ。あれが王都です


――――そうか。ありがとよ


 フランはわざわざアリスの横に行き小さい声で話しかけていた。

 話が終わるとフランはまたもとの位置まで戻る。

 フラン達が話している間もシオンと兵士は話していた。


「分かりました。では、もう一人の元帥はなんと?」


「ブレア元帥は『私もアクゾナでの用事が済み次第、直ぐにシーワントに兵を従えて向かいましょう』とのことです」


 兵士の報告を聞いていてアリスは疑問に思ったことを聞く。


「その『ブレアさん』って元帥は城にいるんじゃないんですか?」


 兵士は質問をしたアリスの方を向き、説明を始めた。


「今、ブレア元帥は東の都市アクゾナに、とある用事で二~三日前から滞在しています」


「成る程、分かりました。ありがとうございます」


「いえ。では、これで失礼します」


 兵士はそう言い列に戻っていく。


 兵士が列に戻ってからフランはシオンに話しかける。


「いつの間にあんな命令をしてたんだ?」


「第二訓練場に行く途中で今報告をしに来てくれた兵士に偶然会ったので、その時に頼んでおいたんですよ」


「やっぱり、戦力が欲しいからですか?」


「いえ。違いますよ。私が欲しかったのは情報です」


「情報?それが熾天使達に連絡を執る事となんか関係あんのかよ」


「リュクシオン様は我々熾天使の中に裏切者がいるとお考えなんですね」


 シルヴィアの言葉にフランとアリスは驚きシオンを見つめる。


「本気かァ?シオン」


「はい、本気ですよ。ですが、私は“熾天使(セラフィム)”か“七聖守護(セレスティア)”のどちらかに…………あるいは“熾天使”と“七聖守護”の数名が手を組んでやったのではないかと思ってます」


「もしも“熾天使”と“七聖守護”の数名が手を組んで裏切ってたらヤバくないか?」


「かなりヤバイでしょうね。我々神聖メリア教国の存続の危機かも知れませんから」


「どういうことだよ」


「簡単に説明をすると、“熾天使”と“七聖守護”はそれぞれ“元帥”と“将軍”の位についています。なので将軍の位になると必ず一つの街を我々()から守護するように任されるのです。まあ、他にも貴族が治めている土地もありますが………。今は関係ないですね。話を戻しますが、つまり――――」


「つまり?」


「つまり、“熾天使”か“七聖守護”が裏切るとその裏切った者の守護する街を王都までの足掛かりにすることも出来るのです」


 シオンの説明にシルヴィアが続いて説明をする。フランはシオンとシルヴィアの説明を聞く。


「つまりは、俺らの国に魔族や他の種族が居座れる場所が出来るってことか?」


「はい。その解釈で間違ってはいないです」


「となると、“熾天使”より“七聖守護”の方が怪しいんじゃねェか?」


「どうしてですか?」


「そんなの決まってんだろ。俺は“七聖守護”を誰一人として知らないからだ!」


 フランの自信満々の言い草にシオン、アリス、シルヴィアは呆れを通り越し哀れみの眼でフランを見ていた。


「…………なんだァその視線は?………ふざけんじゃねェよ。冗談に決まってんだろォがよ」


「……そうですね。“冗談”に決まってますよね。いくらなんでも自分が知らないと言う理由だけで犯人を決めるなんて………」


「……い、いくらフラン兄様でも“冗談”に決まってますよね


 シオンとアリスは“冗談”を強調して言う。そんな二人にシルヴィアは同意するかのように、コクコクと頷いていた。

 フランはそんな三人を見て青筋をたてていた。


「…………お前ら……俺を舐めてんのか………?」


「いえ、フランの思考能力と知識量を正確に把握していると自負しています」


「………オーケイ。そんなに――――」


「リュクシオン様、フラングール様、アリス様。見えました。あれが南の大砦シーワントです」


 シルヴィアはフランの言葉を遮るように少し声を大きくしてしゃべっていた。

 シルヴィアの言葉にシオン、フラン、アリスが話を辞め真剣な顔で南の大砦シーワントを見つめる。


「あれが南の大砦シーワントですか。思ったより砦も壊れていませんね」


「そのようですね。もしかするとあの砦には内通者がいたのかもしれません」


「確かに、そうすれば簡単に中へ入ることもできますし、砦もほぼ無傷で獲ることができますね」


「降りますよ」


 シオンは手綱を握っていない方の手で後ろの兵士達に降りるように手を上げゆっくりと下ろした。

 シオン達は南の大砦シーワントの近くの森に一旦降り陣を敷く。天馬たちを休めさせるために。


「では、皆さん。これからシーワントを攻略します。詳しい作戦を今から説明します」


 シオンは兵士達の前で黒天に乗ったまま話始める。フランやアリス、それにシルヴィアも天馬から降りていない。


「作戦は至ってシンプルです。先ず始めに、私が先行して敵を薙ぎ払っていきます。そして、私が中に侵入して門を開けます。門を開けたら何か音をたてて合図を送ります。そしたら、皆さんが砦の中へ入ることがでる。と言う合図です。シーワントの中では乱戦が予想されます。私が敵の大将を討つまでなんとか持ちこたえてください」


「オイ、待てよ、シオン。それだとお前が一番危険じゃねェか。そんなんより、手っ取り早く門を魔法でぶっ壊せばいいんじゃねェの?」


「そうですよ!シオン兄様!フラン兄様の言う通りですよ!」


「私は大丈夫です。それになるべくシーワントは無傷で取り返したいので」


「………じゃあ、俺もシオンについていく」


 シオンはフランの発言に驚きながらも語気を強め反論する。


「いけません!私には“翠月(すいげつ)”がありますが貴方には何もないでしょ!?危険です!フラン!貴方の同行を認めるわけにはいきません!」


「オイ、シオン。何度も言うが……………お前は俺を舐めてんのか?」


 フランは殺気を込めてシオンに問いかけるが、シオンはまったくフランの殺気にビビらずに何時もの表情を浮かべている。


「俺は死なねェよ。それにシオンだけじゃ行かせられねェな。どうしても一人で行きたきゃ・・・俺を倒してから行きな―――」


 フランはシオンに凄んでみる。だが、やはりシオンは何時もの表情でフランを見つめていた。


「――――っとは言わねェよ」


「相変わらず貴方は嘘が下手ですね。思ってもないことは言わない方がいいですよ」


 シオンは最初からフランが言おうとしていたことが分かっていたかのように落ち着いていた。


「シオンが一人で行くってんなら止めねェよ。でもなァ、一つだけお願いがある」


 フランの真剣な様子と声音にシオンも真剣な表情になる。


「・・・必ず生きて帰ってこい。ですか?」


「それもあるが、俺が言いたかったのとは違う。俺が言いたかったのは『俺に敵の大将を討たせてくれ』だ」


「フラン兄様は手柄が欲しいのですか?」


「アア、欲しいね。手柄が。それも大きな手柄がな」


「手柄をたてて何をするつもりですか?私たちは王族ですから手柄をとってもとらなくてもあまり変わらないと思うんですが」


「何故手柄が欲しいかは今は言えないが必ず教えてやる。それで、さっきの話だが、いいか?」


「・・・・分かりました。いいでしょう。ですが、貴方が敵の大将に負けそうになったら手助けします」


「アア。それで、かまわねェよ」


「では、シーワント奪還作戦を開始しましょう!私がシーワントに向かったらこの部隊の指揮はシルヴィア元帥に任せます!誰か質問はありますか?」


 シオンの問いかけに兵士達は何も言わずただただシオンの言葉を聞いていた。


「シオン兄様。死なないでくださいね」


「ええ、分かっています」


 シオンはそれだけを言うと黒天が空高く舞い上がる。そして、一直線に大砦シーワントに向かっていく。


「では、リュクシオン様の合図を待ちましょう」


「イヤ、待つ必要はねェよ。俺達も俺達で動こうぜ」


「………お言葉ですが、フラングール様。この部隊の隊長は私です。私の指示に従ってください」


「・・・・分かってるよ。ちょっと提案をしようとしただけじゃねェかよ」


 フランはシルヴィアに首を横に振りながら「ハァー」っとため息を吐き出しながら言う。そんなフランに一瞬、ほんの一瞬だが、イラッ!とした。


「………その提案とは?」


「シーワントの門を俺がぶっ壊してやるよ。それで中へ入ってシオンの加勢をしようぜェ」


「フラン兄様。あんな分厚い門を壊せるんですか?」


 アリスは半信半疑でフランに問いかけた。


「アア。間違いなく壊せると思うぞ」


「例え門が破れたとしても、私はその案に反対です」


「アァ?まさかお前…………。シオンがなるべく壊すな。って言ったからか?」


「はい。リュクシオン様からの直接受けた命令ですので違反する気は毛頭ありません」


 シルヴィアはフランを真剣な顔で眼光を鋭くする。そんなシルヴィアをフランは「ハァー」とため息をつき、睨み返す。


「上の言ったことしかできない部隊の指揮官なんざ、三流以下だなァ。そんな指揮官の言うことを聞いてたら兵士だってそのうち嫌気が差すぞ」


 シルヴィアはフランの言葉を聞き黙ってしまう。


――――私が指揮官として三流以下?そんなことはない……………と思います。この前グラドス殿との軍隊演習の時も部下の人から「シルヴィア元帥の指示通りに動いたら上手く敵に斬り込むことが出来ました!」とお礼を言われましたし…………。あれは私が元帥だから気を使って言ったことなのでしょうか?


 などとシルヴィアが考えているとアリスが心配して話しかける。


「シルヴィアさん?大丈夫ですか?」


「えっ?あ、はい。大丈夫です。心配させて申し訳ありません」


「いえ、いいですよ。そんなの気にしなくて。それにフラン兄様の言葉も気にしなくていいですよ。どうせフラン兄様はシオン兄様が単騎で向かったので少し苛ついているだけですから」


「オイ、誰がイラついてるって?俺は別にイラついてなんかいねェよ。ただ合図がくるのが遅ェからよ、暇潰しにシルヴィアに話しかけただけじゃねェか」


「フラン兄様は何時からそんなに口が悪くなったんですか?」


「生まれつきだ」


「嘘はつかないで下さい。フラン兄様の小さい頃は誰に大しても年相応の言葉遣いでした。決して今のような乱暴な口調と性格はしてませんでした」


「アァ?んなわけねェだろうが。この口の悪さももともとだよ」


 フランとアリスがそんな言い合いをシルヴィアは微笑ましそうに見ていた。


――――アリス様。よかったですね。兄妹仲が良くて


バァンッッ!!


 シルヴィアがそんな事を考えていると大砦シーワントの方から何かが爆発したような音が聞こえる。


「皆さん、リュクシオン様からの合図です!行きますよ!」


『『『おおッッ!!』』』


 その場の全員が一斉にシーワントを目指して走る。天馬がいるのに何故か兵士全員は自らの足で走った。


 シーワントの門前まで行き、思い思いの言葉を門へと投げ掛けた。


「…………これは、どういうことでしょうか………?」


「………何…………これは?」


「どうなってんだ?」


 フラン達は大砦シーワントの所につくなり目の前の光景に驚いていた。



―――――――――――――――――――――――――――――



 時は少々遡る。


 シオンは一人で大砦シーワントに向かっていた。

 シーワントには直ぐについた。

 シーワントについたシオンはゆっくりとシーワントの門の近くの広間に下り立つ。

 黒天はシオンを下ろすとゆっくりとした動作で飛び立っていく。あらかじめシオンが「私を門の近くで下ろしたら直ぐに避難してください」と命令していたからだ。


「誰もいませんね。これは最悪のパターンかも知れません」


 シオンが考える最悪のパターンとは、ここ―――南の大砦シーワントが獲られた。っと言う情報をわざとシオン達に掴ませ、シオンをわざわざこの南の大砦シーワントに呼び寄せ、そして謎の軍勢は一直線に王都を落としにかかる。と言うものだ。

 そうすれば、敵は王都グラッツヘルにいる兵士だけを相手にすればいいだけなのだから。


――――そう考えれば、簡単にここまで来れたのも頷けますし、カーマ・イング准将が私達に連絡をとれたのも頷けます。何故なら普通は敵である私達に少しでも情報が渡らないように“通信用魔導具”の通信を少しでも妨害したりする筈です。そう言う魔導具もありますから。なのに敵はそれをしなかった。やはり、何かが引っかかります。


 シオンが考え事をしていると門の前に着く。シオンは門を翠月を振りかぶり、そのまま振り下ろし斬りつける。すると、門に触れた翠月の切っ先が、バチっ!っと音と火花を散らして、弾かれる。


「……“自動迎撃魔法”ですか。小賢しい真似をしますね」


 シオンはそう言い何やら呪文の様なものを唱えた。


 “自動迎撃魔法”とは、あらかじめ紙に迎撃用の魔方陣を書き記しておき、発動条件を決めてから者や物に貼る御札のようなもの。

 発動条件はただ触れるだけでいいものから、決まった動作をして発動するものまで、発動条件は様々。


パリィィンッッ!!


 シオンが最後まで唱え終わるとガラスの割れたような音が辺り一面に鳴り響く。


――――ふぅー。初めて“解除魔法”をやりましたが成功したようですね。まあ、下級の“自動迎撃防御魔法”だったので私の“解除魔法”が成功したのかもしれませんが……。


 “解除魔法”とは自動迎撃魔法の魔方陣を解読し、魔方陣を書き換えて、自動迎撃魔法を発動させずに消滅させる事ができる魔技。ただし、自動迎撃魔法の魔方陣が解読できるかはその人の腕次第。


 シオンが門を開けようとしたら突然足を掴まれる。シオンは冷静に自分の足を掴むモノを見る。


――――これは手ですか?魔法の一種でしょうか?


 シオンの足を掴んでいる手は地面から生えているんじゃなく、まるで地面そのものが手の形を為しているみたいな感じだ。

 シオンは翠月で足を掴んでいる手を斬り離す。シオンの足を掴んでいた手は血も出ずにあっさりと斬れる。


「…………これは、もしかして『土人形』?それにこの砦何かが変ですね………………」


「アッタリー!まさか、こんなに早く見破られるとはな~」


 声はシオンが斬ろうとしていた門から男性の声が聞こえた。シオンが門を凝視していると門の所から顔にも見えなくはないモノが形作られる。


「………貴方は誰ですか?」


「俺か?俺の名前はサンド・ウィッチ。宜しくな」


――――サンド・ウィッチ?聞いたことがありませんね。天族でしょうか?それとも魔族でしょうか?まあ、どちらでもここで討ち取りますが。


「辞めとけよ。絶対に俺は討ち取れねーよ」


 サンドはシオンの考えていることが読めているかのように言う。


「………その安い挑発を安く買いましょうか?」


「クカカ。挑発じゃねーよ、バーカ。俺は事実しか言わねーの」


――――サンド・ウィッチ。この人の自信はどこから来るのでしょうか?少し試してみますか


 シオンは翠月を振りかぶりそのまま顔にも見えなくはないモノに振り下ろす。


「ピギャァァッッ!!」


 サンドは変な絶叫を挙げ呆気なく斬り裂かれる。


――――随分と呆気ないですね。それとも…………


「なーんてな!嘘だヨーン!」


ヒューッッ!


 シオンはサンドを無視して口笛を吹く。サンドはシオンの行動に不思議そうな表情をしていた。


「お前何やってんの?誰もここに来れる分けねーじゃん」


 サンドは馬鹿にするようにシオンに言うが、シオンは至って冷静に周りを見て、状況を分析していた。


――――やはり、おかしいですね。何故、サンド・ウィッチは私に攻撃をしてこないのでしょうか?それに何故、シーワントにサンド・ウィッチ以外の気配を感じないのでしょうか?それに黒天が呼んでも来ないのも引っかかりますね…………………まさかッッ!?


 シオンは慌てて空を見る。


「ッッ!?」


 シオンは空を見て言葉を失う。


――――やはり!空が()()()()!どうやら、サンド・ウィッチは自らの魔法を発動させるために私に攻撃をせず、話しかけたていたというわけですか………………クフフフ、まんまとサンド・ウィッチの策略に嵌まってしまったようですね。


 空には天幕のように土が覆い被さっていた。シオンはそれを見て思考に没頭している。っと、シオンの様子を見ていたサンドの声がそこら中から聞こえる。


「これも貴方の魔法ですか?貴方の無駄な問いかけの目的はこの魔法を発動させるための時間稼ぎだったんですね・・・・・・。シーワントをまるまる土で造るなんて、貴方かなりの腕ですね」


「ご明察!・・・・でも、まあ。まさか、こんなにも早くバレるとは思わなかったぜ?だが、気づくのが少々遅かったなー!もう、俺の魔法は発動しちまったよ!」


 サンドが言い終わると、土人形が門、地面、城壁、大砦シーワントの至る所から現れる。

 そして、門から現れた土人形サンド(仮)の一人が声を発する。


「どうだ?俺の最大にして最強魔法の“土人形劇団による演劇ソイル・パペットショー”は気にってくれたか?」


「………本当に、それが貴方の“最強魔法”なんですか?」


「あー、そのとーりだ。それがどうした?」


「自分から“最強魔法”を明かすとは愚かですね。私に自らの限界を言っている様なものですよ」


 シオンはサンド(仮)の言動に呆れながら言う。

 シオンの言葉にサンド(仮)は高笑いしながら言う。


「クカカ。俺の限界が分かってもお前じゃどっち道俺の限界にも達せねーよ。バーカ」


――――このサンド・ウィッチと言う男は自らの魔法の力に溺れているみたいですね。魔法も()()と言うわけではないのに。愚かな人ですね―――――――


「It's the beginning of the Festival《さあ!祭りの始まりだ》!!」


 サンド(仮)は盛大に両手を広げ宣言するように言う。

 すると。大砦シーワント全体が揺れ始める。


――――…………次はどんな小細工をするつもりでしょうか?


 シオンが土人形達を見ていると、大砦シーワントの形が変わっていく。門は無くなり、周りを分厚い城壁が囲んでいき、空の天幕も分厚くなっていく。

 しばらくすると、大砦シーワントはただの四角形の形になる。


――――サンド・ウィッチの魔法は規模が大きいですね。“広範囲殲滅型”の魔導師ですかね


 シオンが考えていると後ろから土人形が土で作った剣で斬りかかる。だが、シオンはまったく動こうとしなかった。ついに土の剣がシオンの頭めがけ振り下ろされる。


ガキィンッ!


 金属同士がぶつかったかのような音が辺りに響く。


「なっ!?そんな馬鹿な!剣が折れただと!?これはスチール並みの硬さだぞ!?それにどうやって防ぎやがった!まさか、これがお前の魔法か!?」


 シオンに斬りかかった土人形が叫ぶ。

 シオンはゆっくりと叫んでいる土人形の方を向く。


「いえ、私は魔法なんて使ってませんよ。何せ『スチール』ごときでは私の翠月との『硬度』が違いますから」


「…………すいげつ?……………っ!?まさか、その大鎌は『九呪刀(くずとう)』か!?」


「気づくのが遅かったですね」


 シオンは土人形に挑発するように言う。


「く、九呪刀がどうした!?この数を相手にできるのかよ!?クカカカカカカッッ!?」


 土人形は高笑いしながら今度は大群で襲いかかる。


――――この数を相手にしていると少々時間がかかりますね。それにサンド・ウィッチの目的は恐らく私をここで足止めすることでしょう……………。仕方ない、魔法で一掃しますか


Absolute(アブソリュート)Zero(ゼロ)…………」


 シオンは静かに告げる。すると、辺りの気温が急激に下がる。


ブルッ!?


「…………なんだ?一気に寒くなったが………。まあ、気にするほどでもねーな。それ以外に特に変わったところはねーしな………クカカ!ただ周囲の温度を下げる魔法か?さしずめこの魔法は“温度調節テンペラチュア・コントロール”ってところか?そんなんじゃ俺の魔法“土人形劇団による演劇”には勝てねーよ!」


 土人形サンドがそう言うと一斉に全方位から剣が振り下ろされる。


「貴方の魔法は確かに凄いです。規模は広く、土の硬度も中々のものだ。これだけの物を造るには相当な魔力が必要でしょう」


ガキィンッッ!?


 シオンに振り下ろされた土の剣はシオンに届く前に空中で何か硬いものに当たったかのような衝撃と音を辺りに振り撒く。


「………チッ。厄介だな。九呪刀ってのはよー。だが、まあ、九呪刀も絶対ってわけじゃねー。この数でずーっと攻撃を加えてりゃどうにかなんだろ」


 土人形サンドは舌打ちしてから文句を言う。だが、シオンは土人形サンドを見て説明するように言う。


「貴方は魔道士としては、確かに腕はいいです。ですが、貴方は分析力が明らかに欠如しているようですね」


「クカカカ!そんなもんなくても俺の魔法は相手に勝てるんだよ」


 土人形サンドは自分の魔法に絶対の自信があるのかシオンの話を無視して高笑いする。

 シオンはそんな土人形サンドを見て冷たい視線で土人形サンドを見る。そして、寒気さえ感じるような冷たい声音で言う。


「貴方は所詮咬ませ犬と言うわけですね」


「………クッ………ホザケェェェェッッ!?」


 土人形サンドは激昂してシオンに突撃しようとした。だが、土人形サンドは途中で体勢をくずし、突撃ができなかった。

 サンドは何事かと思い足元を見る。


――――な、なんだと!?俺の足が()()()()だとォォゥゥッッッ!?


 土人形サンドの足は足首あたりから取れていた。


「…………痛覚がない………凍ってる…………のか?」


 土人形サンドの足は足首あたりから地面に凍りついていた。


「ええ。その通りです」


「でも、残念だったなー!どうせ俺は土でできてんだよ!すぐにこの足も直るさ!」


 土人形サンドはそう言い足に土を集めようとする。


 ―――――だが、土人形サンドの足はいっこうにもとに戻らない。


――――な、なぜだ!?なぜ直らない!あいつの魔法か?いや、そんなはずはねー!


 土人形サンドはシオンを睨みつける。だが、シオンはそんなもの気にしていないようで、いつも通りの表情で土人形サンドを見ていた。


「もう何をやっても無駄ですよ。貴方の負けはどうしたって覆りませんから」


「なに言っ――――」


 土人形サンドが最後まで言う前に土人形サンドは周りを見て黙り混んでしまう。


「ッッ!!??」


パキィィーンッ!?


 土人形サンドは全員がいつのまにか凍りついていた。

 シオンは全員が凍りついたのを確認し、大砦シーワントのかつて門だった場所に行き、大鎌“翠月”をかつて門だった場所に思いっきり振り下ろす。すると、門だった――――今はただの平らな壁――――はあっさりと斬れる。


「なっ!?どうして、ここが分かった!?」


 シオンが斬った壁からサンドが驚愕しながら出てくる。


――――やはり、私の前に現れていたのは全て土でできた()()だったと言うわけですか。


 シオンは壁から出てきたサンドに驚きもせずに冷静だった。


「簡単な事ですよ。貴方の気配を探り当てたまでです。本当に貴方は魔法以外は三流以下の実力と言うわけですよ」


「ふ、ふざけんな!それに、な、なんだよこれは!?お前の魔法か!?お前の魔法は“温度調節”のはずだろ!!答えろ!」


 サンドはそうシオンに吠える。


「私は一度もそんなことは言ってませんよ?それに…………貴方はもうじき死ぬのですから教えても意味はありませんしね」


「ッッ!?」


 サンドの体も徐々にだか凍りついていた。


「私は先を急ぐのでこれで失礼します」


 シオンはそう言い立ち去ろうとするがサンドに引き止められる。


「ちょ、ちょっと待ってくれ!話を聞いてくれ!」


「ハァー、なんですか?私は急いでいるので手短に言ってください」


「ボスのことや反乱軍のことを教えるから、命だけは助けてくれ!!た、頼む!そ、それに、もう、あんたに逆らわないからさー!」


サンドは惨めにもシオンに命乞いをするがシオンは―――。


「ダメですね。私は裏切り者は絶対に赦しませんし、あなた方のボスについてはある程度は予想がついてますので…………それに、貴方はもう手遅れです」


「な、なにを言っ―――」


 サンドは最後まで言う前に全身を凍りつかせて、周りの土人形達と同じ氷像の一体になった。


「力を過信していなければもう少しは生きていられたでしょうに……………」


 シオンはそう言い指を鳴らして氷像を砕き、歩いていくが、不意に後ろを向き、氷像が崩れ行く光景を見て―――。


「Requiescat in Pace《安らかに眠れ》……………」


 静かな声で言うが、その声は氷像が崩れる音によって掻き消された。


「先を急ぎましょう…………」


 シオンはゆっくりと歩いていく。




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