即位
「・・・・ここは俺とシオンの部屋かァ?俺はどうやって部屋まで戻ってきたんだァ?」
フランは上半身だけを起こし、辺りを見渡した。すると、シオンとアリスがベッドに寄り添う形で寝息をたてていた。
近くには椅子もあり、そこには見知らぬオジサンが座っている。
「誰だ、このジジイはァ?」
フランがそんなことを考えていると部屋のドアが開き、リディアが部屋に入ってくる。
「ッ!」
リディアは上半身を起こしているフランを見て、口に両手をあてて、目には涙を溜める。
「フラン!目が覚めたのね!・・・もう、心配したじゃない!」
リディアは捲し立てるようにそう言い、フランに駆け寄り抱きしめる。
「・・・・・すいません。心配かけて・・・」
フランはリディアの涙をみて、素直にリディアに謝る。
そんなフランの反応をみて、リディアは優しい微笑みをフランに向ける。
「本当に無事でよかった。シオンが全身を鈍器で殴られたように腫れ上がっているフランを背負って帰ってきた時は、フランがこのまま目を覚まさないんじゃないかと心配したのよ?」
「すいませんでしたァ。・・・あの、リディアさん。ところで俺は何日ぐらい寝てたんですかァ?」
「丸5日は寝てたわね。そこの椅子に座ってる、メリア教国一と治癒魔法の使い手と評判のアスレース・ピクスさんが貴方を治療してくれたのよ。でも、傷は治したんだけど貴方の目が覚めなかったの」
「・・・そうですか」
「ピクスさんが目を覚ましたらちゃんとお礼を言わなくちゃね。後、シオンとアリスにもお礼を言わないとね。シオンとアリスは貴方が目を覚ますまで交替で看病をしていたのよ」
「そうですねェ。後で言いますよォ」
フランとリディアが話しているとシオン、アリス、アスレースの三人が目を覚ます。そして、フランをみてシオンとアリスは心配そうに問いかけ、アスレースは安堵の表情を浮かべる。
「!!目を覚ましましたか!フラン!」
「良かった!フラン兄様が目を覚まして!」
シオンとアリスの目に光るものが溜まっていた。そんな時、アスレースは椅子から立ち上がり、フランの診察をするために近づいていき、フランの体を凝視して、アスレースは驚いていた。
フランの体を診ているアスレースの目は薄緑色に淡く発光している。
アスレースの目が発光しているのを隣に立っているシオンやアリスも見えた。
「ッ!!・・・し、信じられん・・・。たったの五日で骨がまるで最初から折れていなかったかのように全部治ってるなんて・・・」
――――これが治癒魔法(かァ)(なの)?初めて(みました)(みたなァ)(みたわ)。
シオン達はそんなことを思いながらアスレースを見ていた。
「・・・骨折も内蔵の損傷もありませんが、一応、二~三日は安静にしていてください。それでは私はこれで失礼します」
アスレースはそう言い椅子の横に置いてあった大きめの鞄を持ち、部屋を立ち去ろうとする。そんな、アスレースにリディアは立ち上がり、頭を下げてお礼を言った。
フランもベッドからだが、お礼を言い頭を下げた。
「ピクスさん、ありがとうございました」
「ピクスのおかげで一命を取り留められたァ。ありがとう」
アスレースはフランとリディアのお礼を聞き、振り返って、お辞儀をしてから退室していった。
アスレースが退室してからシオンは真剣な表情でフランを見る。
「・・・フラン。私はまだ、貴方に聞いていませんでしたね」
「何をだ?」
「どうして貴方はあんな荒野にいたのですか?」
「・・・それは――――」
フランは「隠す程の事でもないか」と思い、素直に神龍王シュトラールの居場所がかかれた地図の事やそれをくれた怪しい黒髪のピエロ仮面の事を話した。
「それが確かなら、そのピエロ仮面はフランを殺す気だったのでしょうか?それとも、本当にピエロ仮面の言うようにフランが神龍王シュトラールに、恐らく、認められると思ってやったのでしょうか?或いはまったく違う企みがあったのか・・・・。今のところはピエロ仮面の真意は分かりませんね」
「そのピエロ仮面って何者なんだろう」
「さあなァ。確かに分かることはピエロ仮面のせいで俺は死にかけたが、その代わりに神龍王シュトラールの加護を得るのに成功したって事だけだなァ」
フランの発言にその場の全員が驚きフランを信じられないといった風に見つめていた。
「フラン兄様は神龍王シュトラールに認められたの!?」
「凄いわね、フラン!龍王の加護を得られるなんて!」
「いや、そうでもねェよォ。俺の前に魔龍帝ゼフォンと聖龍皇オリフェスは誰かを認めてたみたいだしなァ」
「そうなの?魔龍帝ゼフォンと聖龍皇オリフェスは誰を認めたんだろう?かなり気になるかも」
「聖龍皇オリフェスの加護を得たのは私ですよ。フランを捜しに聖龍皇オリフェスの住むと云われていた場所に向かったんです。まあ、そこには結局フランはいませんでしたが、私は聖龍皇オリフェスの加護を得ることが出来ました」
その話を聞いて今度はシオン以外の全員が驚きシオンを凝視した。特に驚いていたのはフランだった。
「つうことはシオンは自分自身の影に勝てたのかァ!?」
「影?なんの事ですか?」
「ハっ?」
「えっ?」
シオンとフランがお互いに疑問に思いながらお互いを見ていると第三者の声が聞こえ、シオンとフランは声のした方を向く。
「それって、お互いが受けた試練が違うんじゃないの?」
アリスの声でシオンとフランは「何でそんなことも思いつかなかったんだ!」と頭をかかえながら、アリスを見つめていた。
「因みにシオンとフランはどんな試練を受けたの?」
「私は聖龍皇オリフェスの質問に答えただけですよ」
「俺は自分自身の影と戦っただけだなァ。まあ、その影が強すぎて結局は勝てなかったけどなァ・・・・。そういやあよう、俺は影に勝てなかったのに何でシュトラールの加護を得られたんだァ?まあ、今となっちゃ、どうでもいいことだかなァ」
フランは最後の辺りを独り言のように呟いていると、アリスがシオンに問いかけていだ。フランはアリスの問いかけを聞いて一旦はどうして加護を得られたのかを考えるのをやめた。
「ねぇ、シオン兄様。シオン兄様は聖龍皇オリフェスになんて質問されたの?」
「確か『お前は力が欲しいか?』と聞かれ、「はい」と答えたら『何故、力が欲しい?』かを問われました」
「シオン兄様はその質問になんて答えたんですか?」
アリスに聞かれシオンは少し迷ったあと言う。
「『何故、力が欲しい?』という質問には『この大陸を統一したいから』と答えました」
「立派な目標ね。その目標が叶うといいわね」
リディアは微笑みながらシオンに言と、シオンは「ありがとうございます」とリディアに言いフランの方を向く。
「ところで、フラン」
シオンに呼ばれ返事をしようと口を開きかけた時――――。
ボコッ!
フランは顔面を殴られる。
シオンの突然の行動にフランだけではなくリディアとアリスも驚いていた。
「・・・な、何しやがる!」
フランは鼻を殴られたせいか涙を目に溜めながら抗議する。が、シオンは気にかけずに、当然の報いです。とでも言いたげな表情で言う。
シこれは黙っていなくなった罰です」
「ハァ?ふざけんなァ!痛ェだろうがよォ!つうかよォ、俺は一応病人なんだけどォ!?」
「大丈夫ですよ。そこまで、しゃべれる元気があれば。それにフランは言っても聞きませんから」
「そうだね。フラン兄様は言葉で言っても聞いてくれないもんね」
「ふふふ。そうかもしれないわね」
シオンの意見にアリスとリディアが賛同する。
フランは三人に言われぐうの音も出ないのか、黙ったままだ。
「アァ~、そうかよォ。どうせ俺は口で言っても聞かねェんだよォ」
フランはそう言いイジケたように布団を顔のところまで引き上げる。そんなフランを見てシオン、アリス、リディアの三人は笑っていた。
「「相変わらず、フラン(兄様)は子供みたい(ですね)(だね)」」
シオンとアリスはそう言い笑っていた。フランはそんな二人に布団から顔だけ出して、文句を言っている。
リディアはそんな三人を微笑みながら見ていた。
そんな時、ドアをノックする音がする。三人は話をやめて、ドアの方を向く。
ドアの向こうからは聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「失礼しても宜しいでしょうか?」
「はい。いいですよ」
ロックスはリディアの返事を聞き、「失礼します」と言い中へ入ってくる。そして、フランのベッドの近くまで来て言う。
「リュクシオン様、フラングール様。偶然、通りかかったときに聞こえたのですが、龍王の加護を得られたと言うのは本当でしょうか?」
シオンとフランはロックスの言葉に首肯するように頷き、質問をする。
「「それがどうかした(んですか)(のかァ)??」」
「いえ、たいした事ではないのですが、龍王と竜将の加護について少し説明しようと思いましてな」
「龍王と竜将の加護はそのドラゴンが司る能力だけではないのですか?」
「はい。確かに、龍王と竜将の司る能力は得られるのですが、他にも龍王と竜将の加護を得たものは魔力量、身体能力、動体視力、そして自己治癒能力が加護は与えたドラゴンと同等になると聞きます」
「「「ドラゴンと同等になるんですか!?」」」
シオン達は驚いていたがフランは何故シオン達が驚いているのか分からなかった。
「ドラゴンと同等になるってそんなにスゴいのか?」
「はい。ドラゴンにもよりますが、龍王ともなれば魔力量、動体視力、身体能力、自己治癒能力どれもをとっても、この大陸を遥か昔に支配していた竜人族をも越えるかもしれない程のレベルだと思います」
「ホゥ、龍王の加護ってのはそんなにスゴいのかァ」
「先に言っておきますが、フランは二~三日は安静にしなくてはいけませんよ」
「・・・・分かってるよォ」
フランはシオン達がいなくなったら、とれだけ身体能力が凄いのかを試しに行こうと考えていたのをシオンに見透かされたように言われ拗ねたように言う。
そんな様子を見てアリスとリディアは笑っていた。
「では、今日はフラングール様も受けれるようにここで授業をすると言うのはどうでしょうか?」
ロックスは悪戯っぽい笑みを浮かべ、シオンとアリスに問いかける。
シオンとアリスの二人はロックスの意図を理解し悪戯っぽい笑みを浮かべロックスの意見に合意する。
因みにフランはロックスの意図に気づいていなかった。
「いい考えですね。私は賛成です」
「私もいいですよ」
「では、始めますか。今日は基礎的な事を教えましょう」
ロックスの授業はフランだけ日没まで続いた。途中でシオンはグラドス将軍のもとへ訓練を受けに行った。
シオンがグラドス将軍のもとへ向かおうとしたときと同じタイミングでアリスはアスレースのもとへ向かっていった。リディアもアリスについていくために退室していった。
フランは後で知ることになるが、アリスはどうやらフランがボロボロで帰ってきた時に治癒魔法を覚えよう決心したらしく、アスレースのもとへ教えてもらうために通っているらしい。
まあ、フランはアスレースのところに教えてもらうために通っていることは知らされなかったが。
フランは後日、シオン、アリス、リディアの三人にこう語った。
『影に身体的にボコボコにされるよりロックスの授業で精神的にボコボコにされる方がよっぽど死を覚悟した』
と。
††††††††††
フランが安静にしてくたさい。とアスレースに言われてから二日後。
今、シオンとフランはグラドス元帥との訓練―――筋トレだが――――をしていた。
「234!235!236!237!238!237!239!240!242!243!244!246!247!248!249!250!・・・・・300!。では、今日はここまでにしましょう!また、長引くとギニア殿に怒られますからな!ガハハハハ!それでは、お先に失礼します!」
シオンとフランはグラドス元帥の言う数字に合わせ腹筋をしていた。
グラドス元帥は大声で笑いながらシオンとフランに挨拶をしてから、先に第一訓練場を出ていった。
シオンとフランは一旦夕食を食べるために第一訓練場をあとにしたが、食べ終わってからまた、第一訓練場に戻ってきていた。
「なあ、シオン。さっき、グラドスって数字の数えかたまちがえてなかったかァ?238の次に237とかって言ってたしなァ」
「はい、確かに言ってましたね。それに241を数えてませんでした」
「だよなァ!」
フランがそう言い笑っていると、第一訓練場の扉が開く音が聞こえる。その音にシオンとフランは振り返ると、そこには長い髭に禿頭で床につくほど長いローブを引きずっている年老いた男性が入ってきていた。
シオンとフランは第一訓練場に入ってきた年老いた男性に挨拶をする。
「ギニア、こんばんわ。今日も宜しくお願いします」
「ギニア、今日もよろしくなァ」
シオン達にギニアと呼ばれたシワだらけの顔の老人がゆっくりとシオン達にふらついた足取りで近づいてくる。
「さて、先ずは基礎の基礎―――属性なしの魔力の玉を掌の上につくってくだされ。大きさは、掌に収まるぐらいじゃ」
シオンとフランは言われた通りに掌の上に魔力の玉をつくる。
そして、その魔力の玉をギニアに見せようとギニアの方に手をつきだす。だが、ギニアは虚空をボーッと見つめ、誰かに話しかけるように話していた。
「魔法と言うのは知略神オルズ様が我々に与えてくださった力でのう。魔法は自身の『想造力』次第で何でもできるんじゃよ。例えば『誰にも会いたくない』と想造すれば『姿を消す』魔法を覚えたり、『殴られても痛くない』と想造すれば『皮膚を鋼鉄に変える』事も出来るのじゃ。このように魔法とは自分の想造力次第で強さが決まってしまうのじゃよ。じゃから、夢想家はある意味最強の魔法使いと言えるかもしれんのう」
「・・・・・オイ。また始まったぞ、シオン。ギニアのジイさんがこうなると暫く続くんだよなァ。しかも、決まって同じことしか言わねェしよォ」
「そう言わないで。ギニアさんはあの『竜人族』との戦争の生き残りですよ?これでも一応は」
「いや、ギニアのジイさんがスゲェのは分かるがよォ、絶対にあれはイカレてるぞォ」
フランはそう言い虚空に話かけているギニアを見る。
「私たちが知らないだけで、目には見えない妖精とかがいるかもしれませんよ?それともギニアは死者と交信ができる死霊使いかもしれません」
「・・・そうかもな。とりあえず魔力でも使って修行をすっかァ。ギニアのジイさんが現実に戻ってくるまでよォ」
「・・・・そうですね」
シオンとフランはギニアが回復するまで自分達で属性のない魔力を使い魔力の練りかたを練習をしていた。
因みにアリスはシオン達がギニアと修行しているときシルヴィア・リーズべルトと言うグラドス元帥と同じ“熾天使”の一人でこの国唯一の女熾天使に魔法の稽古ををつけてもらっている。
「魔法とは大きく分けて『炎熱属性』『風雷属性』『水氷属性』『樹地属性』『聖邪属性』『時空属性』の六つがある。そして、魔導師になりたいものは、この六つの中から一つを選び、自らが選んだ属性で何をしたいかと言うことを考えて自らの魔法の『方向性』を決める。それで、やっと属性のある魔法が使えるようになるんじゃよ」
ギニアはシオン達が魔法の練りかたを練習しているときもずっと、虚空に話しかけていた。
††††††††††
†††一年後†††
肩にかかる程度の長さの銀髪をもつ白皙の中性的な容姿の男性――――シオンは自分の部屋の屋根に上り、座って日の出を見ていすると、突然後ろから声をかけられる。
シオンが振り返るとそこには、金髪の端正な顔立ちの男性――――フランがシオンに近づいてきていた。
「よォ、シオン。随分と早起きじゃねェかァ。どうしたァ?緊張でもしてんのかァ?らしくねェなァ」
フランはそう言いシオンの隣まで来る。そして、シオンと同じように日の出を眺める。
「緊張なんかしていませんよ。ただ、日の出を無性に見たくなっただけです」
「俺はテッキリ今日は『戴冠式』があるから緊張でもしてんのかと思ったんだがァ・・・・。どうやら見当違いだったようだなァ」
「ええ」
二人の間に沈黙がうまれる。その沈黙を破ったのはシオンの方だった。
「・・・フラン」
「なんだよォ」
「私は父上のような立派な国王になれるでしょうか?」
「ハァ?なに言ってんだァ。シオンだからこの国は任せられるんだろうがよォ。アリスもリディアさんもきっとそう思ってると思うぞォ。だから、胸張って堂々としてろよォ。じゃねェとお前についてく俺たちが不安になるだろうがよォ」
フランの答えにシオンは短く笑い言う。
「クフフフ、フランらしいですね」
「ケッ!悪かったなァ、気の利いた事言えなくてよォ」
「気にしないでください。もとから求めてませんよ。フランに気の利いた台詞なんてね」
「ナァ、シオンって、いつからだァ?」
シオンは急に真面目な声で聞いてきたフランに、シオンはフランの言っていることが理解できず、隣に立っているフランの方を見上げる。
フランもシオンが理解できていないことが分かったのか、補足説明をした。
「だからァ。その『クフフフ』って笑い方だよォ。いつからだ、シオンがそう笑うようになったのはァ。って聞いてんだよォ」
「産まれたときからですが?」
「ハァ?嘘つけェ。産まれたときから結構長い間過ごしてるけどそんな風に笑ったとこ見たことねェぞォ」
「当然ですよ。だって、私はフランの前で声を出して笑ったのはこれが初めてですから」
「・・・・そう言われればそうかもなァ」
フランは疑いもせずシオンの言葉を信じていた。
――――クフフフ、やはりフランは単純ですね
「つうかさ、今日ってメリア教国の同盟国もお祝いに来るんだよなァ?」
「いえ。私たちの国には同盟国はいませんよ。勿論、大国だけではなく、中国や小国もいませんが」
「この国って大国なのに同盟国もいねェんだなァ。初耳だァ」
シオンは呆れながら隣のフランを見上げすると、フランも視線に気づいたのかシオンを見下ろす形で視線が合う。
「なんだよォ?なんか言いたそうだなァ」
「大したことではありませんが・・・・。フランが知らないのは当然ですよね。ロックスさんの授業をサボり城下町に遊びに行っていたのですから」
「楽しくなかったからなァ。ロックスの授業はよォ」
「そうですか」
シオンとフランはその後、暫く話してから自分達の部屋に戻っていった。
シオンとフランは部屋に戻ってくるなり着替えを始める。
「戴冠式って面倒だなァ。しかもこんな服着ないといけないしよォ」
「文句ばかり言ってないで早く着替えたらどうです?」
「分かってるよォ。しっかし、着なれてないものを着ようとすると意外に難しいなァ」
「・・・・そうですね」
シオンとフランは普段は着替えをメイドや執事に手伝ってもらっているが、今日は気まぐれで、自分達で戴冠式用の服を着ようとしていた。
結局、戴冠式用の服を着るのに時間が結構かかってしまったがなんとか着替えることに成功していた。
シオン達が着替え終わり、部屋に備え付けてあるソファに座っているとドアをノックする音が聞こえた後に女性の声が聞こえてきた。
「リュクシオン様とフラングール様の着付けに参りました。入っても宜しいでしょうか?」
「ええ、いいですよ」
「有り難う御座います。失礼します」
メイドの女性は一人ではなく二人いた。メイドの二人がドアを開けて入ってくる。そして、メイドの女性二人は既に着替え終わっているシオンとフランを見て驚く。
「あ、あの。着替え終わったんですか?」
メイドの女性二人は既に着替え終わっているシオン達を見て、どうしていいか分からずにいた。それをみかねたシオンは助け船を出す事にした。
「すいません。着替え終わってしまったので軽い朝食を持ってきてくれませんか?」
「えっ?・・・あ、はい!」
メイドの女性は最初、自分が呼ばれたことに気づいていなかったが、シオンがメイドの女性を見ていたので、メイドの女性はハッ!となり、慌てて返事をした。
メイドの女性二人は急ぎ足でシオン達にお辞儀をして「失礼しました」と二人で言ってから退室していく。
「フン。自分達で着替えただけであそこまで意外そうな顔をするなんてなァ。今の奴等首にするかァ?」
フランは冗談まじりにシオンに提案するが、あっさりと断られてしまう。
「いや、しませんよ。それに私達はこう言うしっかりとした服を今まで一人で着替えた事がありませんからね。それで、あのメイドさん達はあんなにも意外そうな顔をしたんでしょう」
シオンはフランの言葉に苦笑しながら答える。フランはそれを聞いて「そうかよ」とだけ言いソファに深く座る。
シオンもフランと向かい合う形で座わっている。
暫くしてらさっきのメイドの女性二人が軽い朝食を運んでくる。
シオンとフランは無言でそれを食べていた。フランは食べ終わると、徐に立ち上がり座っているシオンを見る。
「そろそろ時間になるし、行くとするか戴冠式によォ」
「・・・そうですね」
その言葉を最後にシオンとフランは自室から退室して戴冠式をやる大聖堂に向かう。
†††大広間前†††
大広間には神聖メリア教国の貴族達や“熾天使”や“七聖守護”の元帥と将軍達、それからリディアとアリスが集まっていた。
静まりかえっている大聖堂のなか、老人の教皇が本日の主役の名をを高らかと呼んだ。
「神聖メリア教国、新国王!リュクシオン・セイス・メリア・オリフェス・クロムウェル・リード様!」
名を呼ばれたシオンは今、大聖堂の入り口でフランと並んで立っていた。
「名前呼ばれてるぜェ?」
「では、行きましょうか」
シオンの代わりにフランが扉を開けて大聖堂内へと足を踏み入れた。
シオンは大聖堂を左右に分断している真っ赤な絨毯をゆっくりと歩いていく。
真っ赤な絨毯の両脇には長椅子があり、その長椅子にアリスとリディア、それから元帥と将軍達と貴族達が座っている。
シオンはその間に敷かれている真っ赤な絨毯でつくられた道を縦断するように二段高くなっている所に登り、教皇の隣までいく。
フランはシオンが二段高くなっている場所につく前にシオンと別れ、最前列のアリスとリディアの隣の席に座った。
シオンは教皇の隣まで来て、フラン達や元帥と将軍達、それから貴族達の方を振り返る。シオンが振り返ると、フラン達や元帥と将軍達、それから貴族達はシオンに一礼をした。
シオンは全員が頭を上げるのを見届けてから、教皇の方を見る。
「では、リュクシオン国王。これを」
教皇は鞘に入った装飾が施された豪華な剣をシオンに方膝をつき、頭も下げて渡す。
シオンはそれを受け取り、フラン達の方を向き高々と掲げた。すると、フラン達から盛大な拍手が贈られた。
シオン大聖堂での戴冠式は何事もなく無事に終わり、戴冠式が終わった後、その場の全員がシオンを筆頭にして、大広間に向かった。
大広間では今、シオンの即位を祝って盛大なパーティーが開かれた。
シオンはいろんな貴族達から祝辞をもらっており、フランは隅の方で壁に背中を預けて腕を組みながら退屈そうに欠伸をしていた。リディアはそんな、フランに飲み物を持っていき話をしていた。
アリスはと言うと初めてのパーティーでずっと緊張をしていたのか、具合が悪くなり、パーティーの途中で抜け出してきて、気分転換に風にでも当たろうとバルコニーに向かっていた。
――――ふぅ、パーティーって意外に疲れるのね
「まったく、何故あんな庶民がまだこの城にいるんだ?まさか、本気であの庶民は自分が王家の人間だとでも思っているのか?」
「あの庶民?それって誰の事ですか?」
バルコニーには貴族らしい格好の中年の男性とまだ若いので恐らく中年の男性の息子だろう男性の二人がお酒を手に話をしていた。
――――先客?じゃあ、私は違うところに行こうかな
アリスはそう言い踵を返そうとしたとき――――次に貴族が発した言葉で足を止める。
「この城にいる庶民と言えば『リディア』しかいないだろう?」
――――・・・お母様の名前?それともたまたま同じ名前?どう言うこと?
「でも、『リディア』って確か、先代の国王様ローラン様の妃でしたよね?なのに、なんで―――――。まさか!?」
――――シオン兄様やフラン兄様は純血の王家。なら、その母親のお母様も王家のはずだし・・・・・。きっと、あの貴族の人達が話してる『リディア』はお母様とは別人ね。
アリスはそう考えて、この場から立ち去ろうと考えている間にも貴族とその息子の会話は続いていた。
「ああ。あの庶民―――『リディア・メアリー』はどうやったのかローラン様に取り入ったんだよ。まあ、どうせ体でもローラン様に売ったんだろうがな。庶民のくせに図々しい事この上ないな」
――――っっ!?・・・そんな!嘘よ!お母様が庶民だなんて!
「リディア様がもと庶民なら、リュクシオン様とフラングール様は『誰の子供』なんです?王位継承権があると言うことはリュクシオン様とフラングール様は純血の王家のはず。となれば、その妹のアリス様も純血と言うことになりませんか?それにローラン様の子供でないかどうかなど大臣達が知らないはずはないですよね?」
「いや、アリス様はリュクシオン様とフラングール様とは異母兄妹なんだよ。リュクシオン様とフラングール様の母親の名前は『アリシア・クラベル・メリア・クロムウェル』と言う正真正銘の貴族の出――――と言うよりはこの国の王族なんだが、アリス様はあの『リディア・メアリー』の子だからな」
――――っ!?・・・・そんな・・・。シオン兄様やフラン兄様が本当の兄じゃないなんて・・・。それに、お兄様達は私に『本当の母親』の事を一回も私にしてくれませんでした・・・・・。
「しかし、一応ローラン様の妃だからってあんな庶民の出の女を『様付け』で呼ばないといけないんだからな。それにあの女、リュクシオン様達が王位なさるまで王がやるべき仕事を大臣達と一緒にやっていたらしぞ。お前がいると逆に邪魔だってのに、気づかずにな。笑える話だろ?」
貴族は高笑いしながら話していたが、息子は一切笑みを浮かべずに父親の話を聞いていた。
アリスは無言でその場から走り去っていく。アリスの目からは一滴の涙が流れていた。
††††††††††
今、大広間ではパーティーが続いているが、シオンは一通り挨拶をし終わり、談話室で休憩をしていた。フランもシオン同様に疲れたのか談話室で休憩をしている。
「あら?貴方達もここにいたのね」
「ええ、ここなら、パーティーをしている今ならほとんど誰も来ませんからね。休憩をするには結構いい場所なんですよ」
「確かになァ。ダルくて仕方がないなァ。このパーティーはよォ」
リディアもシオン達の向かいのソファに座る。そして、三人が話していると談話室に勢いよく誰かが入ってくる。
三人は何事かと思い談話室の入り口を見つめる。すると、そこには目を赤くしたアリスが息をきらせて立っていた。
「・・・・お母様、シオン兄様、フラン兄様。どうして私に黙ってたんですか?」
突然のアリス登場とアリスの質問にシオン、フラン、リディアの三人は目をむきながらアリスを見る。そんな、三人の中で最初に声を発したのシオンだった。
シオン「落ち着いてください、アリス。急にどうしたのですか?それに、黙っていたとはどういうことですか?」
アリスはシオンに言われた通り、一旦落ち着こうと深呼吸を数回して落ち着けてからシオン達に言う。
「お母様、シオン兄様、フラン兄様。・・・・どうして、お母様達は私と兄様達が異母兄妹だって事を私に黙っていたんですか・・・・・?」
「「「ッッッ!!!」」」
シオン達は驚愕の表情を浮かべアリスを凝視していた。驚愕しているシオンとフランをみてアリスは「その反応からして、お兄様達も知っていたんですね」っと悲しそうな表情をして見てくる。
シオンとフランはアリスの表情を見て、罪悪感を感じて黙ってしまう。だが、リディアはアリスの顔を真っ直ぐ見つめ謝罪をする。
「・・・・ごめんなさい・・・アリス」
「お母様・・・。じゃあ、本当に私はお兄様達とは異母兄妹なんですね・・・?どうして黙っていたんですか・・・?」
「それは、貴女がシオン達と異母兄妹と知ったらショックを受けると思って隠してたの。本当にごめんなさい・・・」
リディアは本当に申し訳なさそうにアリスに頭を下げる。
アリスはリディアからシオン達に視線を向け、目に涙を溜めながら言う。
「どうしてお兄様達まで私を黙っていたんですか?」
「すみません。もう少し早めに言っておくべきでした」
シオンの言葉を最後にその場の全員が黙ってしまう。
暫くしてアリスはポツポツと話始める。
「・・・すみません。お母様、シオン兄様、フラン兄様。私はお母様達に八つ当たりをしてました・・・・・」
「どう言うことですか?」
突然のアリスの発言にシオン達はわけが分からなかったが、アリスが「自分はそれを聞いて、自分が知らない事を他人の貴族の人が知っていたと言うことに腹をたててお母様やお兄様達に八つ当たりをしてしまいました」っと頭を下げながら謝り、シオン達も漸く理解できたのか、シオン達は「そんな事、気にするな」っとアリスに言った。
アリスの言葉を聞いたシオンは「ところで何処でその話を聞いたんですか?」っとシオンが言ったので、アリスはバルコニーでの話をしておこうと、貴族達の会話を覚えている限り話す。
「・・・リディアさんの事を知らないクセに好き勝手言いやがってよォ。・・・・その貴族共をブッ殺すかァ・・・・」
フランがそう言いバルコニーに向かおうとしたときシオンがフランを呼び止める。
「落ち着いてください、フラン。貴方の気持ちはよく分かります。ですが、その貴族を殺したところで何も変わりません」
「・・・・分かってるよォ・・・そんなことはよォ。でも、そんなの気がすまねェだろうがよォ。リディアさんの事をよくも知らない貴族共がリディアさんの事を悪く言うなんてなァ」
フランの顔をシオンは真っ直ぐ見つめる。フランはシオンの目を見て気づいたが、シオンも静かな怒りを目に燃え上がらせていた。フランは今にでも飛び出していきそうな勢いだったが、シオンもフランとあまり変わらない程の勢いを必死で抑制していた。そんなフランとシオンを止めたのは意外にもリディアだった。
「いいのよ、フラン。ありがとうね、私のために怒ってくれて。シオン、貴方もよ」
リディアはそう言いシオンとフランを強く抱きしめる。
「アリスもありがとね」
「えっ?」
キョトンとするアリス。だが、リディアはアリスに微笑みながら言う。
「貴女は私の名誉のために貴族達の話が真実かどうかを確かめに来てくれたんでしょ?」
――――・・・・バレてたんだ・・・。さすが、お母様ね・・・・・・・・
そう、アリスは自分に隠し事をしていた事をリディア達に文句を言いに来たわけでもなく、貴族が自分の知らない事を知っていたことに怒っていたわけでもない。
アリスはただ単純に自分の母親の悪口を言っていた貴族達に一言でも言ってやりたくてリディアに真相を確かめに来たのだ。
その結果、貴族達の話していたことはほとんどが本当の事だったので逆にリディア達に突っかかるように八つ当たりをしてしまったと言うわけだ。
それをリディアはアリスの最初の一言で理解していた。理解した上でアリスに謝っていたのだ。
「お、お母様・・・。ごめんなさい・・・。何も言えなかった・・・それどころか最後まで聞く前に逃げちゃった・・・・・本当にごめんなさい・・・」
「いいのよ、気にしなくても」
泣きながら謝るアリスにリディアも涙ぐみなが近づいていき抱きしめる。
シオンとフランは少しリディア達から離れ二人を見守っていた。
その後、リディアとアリスは暫く泣きながら抱き合っていた。
「・・・ごめんなさい。シオン兄様、フラン兄様。嫌なこと言ったよね」
「気にすんなァ。俺も気にしてない」
「そうですよ。私たちが隠し事をしていたのは事実ですから」
「シオン兄様、フラン兄様。ありがとう」
アリスは屈託のない笑顔をシオンとフランに向ける。シオンとフランは不覚にもアリスの屈託のない笑顔にドキッとしてしまった。
シオン達がアリスの笑顔にドキッとしているときドアをノックする音と老人の声が聞こえる。
「入っても宜しいですかな?」
「ええ」
シオンの返事にドアをノックした男性―――教皇は「失礼します」といい中に入ってくる。
「これは教皇のリッツさんじゃないですか。どうかしましたか?」
「リュクシオン様。見せたいものがあるので私についてきてくれますか?」
「見せたいものォ?なんだそれはァ?俺達には見せれねェもんなのかァ?」
「いえ、そうではなく、リュクシオン様には代々国王が受け継いできた『モノ』をこれからお渡ししたいと思いましてな」
「国王が代々受け継いできたモノ?なんですかそれは・・・」
「それは見てからのお楽しみでございます。では、ついてきてくれますね?」
「はい。分かりました」
シオンはそう言いリッツの後を追い談話室を後にする。フラン達はシオンを見送ってから談笑をし始めた。
†††宝物庫前†††
「つきました。ここです」
「ここですか?代々受け継いできたモノと言うのは杖か何かでしょうか?」
「いえ、杖ではないです。もっと実用性があるものですよ」
シオンはとりあえずリッツについていくと、リッツは宝物庫を開けて中に入り一番奥に置いてある、かなり縦に長い、長方形のケースの前で立ち止まる。
「これが、代々国王が受け継いできたモノです。さあ、リュクシオン様。このケースに触れてください。そうすればケースが開くはずですから」
シオンはリッツに言われた通りにケースに触る。すると、突然ケースが光だしバラバラとパズルでも崩すようにケースが消えていく。
ケースが完全に消えると中には二メートルぐらいの大きめの大鎌がはいっていた。
シオンはその大鎌を手に取りリッツに見せながら言う。
リッツはシオンが大鎌を手に持っているのを見て驚いていた。
「ッ!」
「リッツ、これは何ですか?」
「・・・・それは、刀匠【立花 秀遂】と魔法使い【セフィーロ・フォレス】が協同で造りし【九呪刀】が一本。守刀【翠月】です」
シオンはリッツの言葉で、息をするのも一瞬忘れ、驚きを顔に見せる。
「この王家には【九呪刀】が受け継がれてきたんですか!?」
「ええ。他の大国にも一本は必ずあるかと思います」
――――まさか、『九呪刀』がこんな身近に存在しているとは驚きましたね。
シオンはそんな事を考えていると、ふと、思い出したようにリッツに問いかける。
「この『翠月』の特殊能力は何ですか?」
「いえ、それが分からないんです」
「えっ?でも、歴代の国王達はこれを受け継いできたんですよね?なら、能力ぐらい分かっても不思議ではないと思いますが」
「その『翠月』を歴代の国王の中で使った人は誰もいないのです」
「認められなかったのですか?」
「はい。その『翠月』をしまっていたケースは実は魔法でつくった物なのです。そのケースに触れ、ケースが消えたら九呪刀に認めてもらえるかも知れないと言うレベルですが、分かるんです」
――――つまり、歴代の国王達はこのケースを開くことも出来なかった―――と言うことですね。父上でも開けなかったのは意外でしたね。
シオンは『翠月』を見つめ、あるものがないことに気づく。
「リッツ。『翠月』をしまっておける鞘みたいな物はないのですか?これでは持ち運びが難しそう何ですが」
「すいません。残念ながら今まで使える物がいなかったので、持ち運びの際の対策はできていないんです」
「そうですか。では、とりあえず誰にも触れられないようにしないといけませんね」
「そうですね」
シオンとリッツは宝物庫にあった大きめの宝箱に『翠月』をしまうと宝物庫を後にする。
宝物庫前でリッツと分かれたシオンは談話室に戻っていた。
そこで宝物庫での出来事をフラン、アリス、リディアの三人に話していた。
「『九呪刀』がこの城にあったなんてなァ。驚きだなァ」
「確かにそうね。それに大国には一本は必ずあるとしたら、大国が五つあるから、見つかってないのはあと四本だけってことになるわね」
「はい。そうなりますね。ですが、『九呪刀』の形状は一応『刀』とは名前にはいっていますが、実際の形状は誰も知らないので見つけるのは困難でしょうね」
「ねぇ、シオン兄様」
「なんですか?」
シオンはアリスに服を引っ張られアリスの方に振り向く。
アリスは談話室に備え付けてある時計を指差し言う。
「もう、一時間以上もここにいるけど、パーティーに戻らなくてもいいの?」
「・・・・すっかり忘れてました。では、フラン。そろそろ戻りましょうか」
「俺もかァ?ハァ、ダルいなァ。・・・・・割りとマジで」
フランの愚痴にシオンも「本当ですね」と相づちをうちながら大広間に向かっていった。
シオン達がいなくなって、暫くしてからリディアとアリスも大広間に向かうのだった。