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真王と盟約の戦姫  作者: ダンタリオン
プロローグ 内乱編
2/7

契約


†††八年後†††



 シオン、フラン、アリスの三人は八年間の間に、礼儀作法、英才教育、兵法、帝王学、戦術、剣術、棒術、槍術、弓術、銃術、体術、魔法、乗馬術(天馬)、一般教養を学んだ。

 ロックスに一般教養、帝王学、英才教育、礼儀作法、戦術、兵法を学び、シオンとフランはグラドス元帥に剣術、体術、弓術、槍術、棒術、銃術、乗馬術を学び、アリスはグラドス元帥ではなく、違う人に学んでいった。

 シオンとフランが七歳になった頃からアリスも魔法を城に仕える宮廷魔導師(きゅうていまどうし)に教えてもらうようになった。

 この八年間フランはロックスの授業をサボるようになっていっていた。だが、グラドス元帥との訓練と宮廷魔導師のギニアとの魔法の訓練だけはしっかりと受けていた。



†††談話室†††



「・・・今日もフラングール様はおられないのですね・・・・」


 ロックスはそう言いため息をつき、目の前に椅子に座っている、上下黒い袴に蓮華(れんげ)の刺繍が施された黒い羽織を羽織っていて、レースアップブーツを()いた、銀髪で紅色の目の中性的な容姿の少年――――シオンを見る。


「すみません。フランの分まで私が学びますよ」


「シオン様が謝ることではありませんよ。・・・さて、今日は少し聖龍皇オリフェスについて話したいと思います」


「聖龍皇オリフェスについて。ですか?」


「はい。まだ、フラングール様には話していませんが聖龍皇オリフェスが何処に住み着いているかを我々は把握しているのです」


「ですが、八年前はそのような事は教えてくれませんでしたよね?どうして急に?それにどうしてフランがいない今なのですか?」


「それはフラングール様がいないからです。この話はフラングール様には知られたくないのです」


 ロックスの言葉を聞き今まで黙っていた、純白のドレスを着た黒髪が背中のあたりまである長髪で黒目の可愛らしい容姿の女の子―――アリスが話しかける。


「フランお兄様がいると何か不味いのですか?」


「はい、フラングール様はこの頃、城下町に私の授業をサボり遊びに行っているのはご存知ですよね?」


「「はい、知っています。それが何か問題なのですか?」」


「はい、問題なのです。それはフラングール様が聖龍皇オリフェスの居場所を知ったら興味本意で勝手に聖龍皇オリフェスを見に行く恐れがあるのです。そうなれば私だけではなくこの城に仕えるグラドス元帥を始めとする兵士さん達にも多大な迷惑をかけることになります。それに何よりもフラングール様が聖龍皇オリフェスと対峙して生きて帰って来れるか心配なのです。その点、リュクシオン様とアリス様なら大丈夫だとおもったのです」


 ロックスの話を聞いてシオンとアリスは理解したのか何も言わずに黙っていた。



「話を戻しますが、聖龍皇オリフェスはこの城からみて南南西に約百キロメートルの地点にあるもう使わなくなった森の中にあるナメリナ教会の地下に聖龍皇オリフェスが住んでいます」


 断言するロックスに疑問に思いシオンが質問をする。


「どうしてそこまで断言出来るのですか?」


「それはですな、あなた方の父上――――つまり、前国王のローラン様が聖龍皇オリフェスと会った事があるのです」


「・・・・・と言うことは父上は聖龍皇オリフェスの血肉を食べたのですか?」


「いえ、聖龍皇オリフェスは自身の血肉をローラン様に捧げようとしたら断ったそうです。ローラン様ならそうするだろうと言う程度の信憑性しかありませんが、私はローラン様は聖龍皇オリフェスの血肉を食わなかったと思います」


「そうですね。父上ならきっと食わないでしょう」


 ロックスはシオンに古ぼけた地図を手渡し、シオンは手渡された古ぼけた地図を見る。


「ロックスさん、聖龍皇オリフェスはまだ、このナメリナ教会の地下にいるのでしょうか?」


「それは分かりませんが、ここ数千年は龍の目撃情報もありませんから、もしかしたらまだ、いるかもしれませんね」


「そうですか、ありがとうございます」


「いえ、私は大した事はなにもしてませんよ。リュクシオン様、アリス様。この話は誰にもしないでくださいね」


「「どうしてですか?」」


「龍王と竜将は(みな)、例外なく試練を与えると言われているのです。試練がどんなものかは分かりませんが、興味本意だけで龍王に会いに行っては試練が何か分からない分余計に危険なのです」


「そう言うことなら、分かりました。誰にも話さないようにします」


「私も誰にも言いません」


 ロックスはシオンとアリスの返事を聞き安心したような顔をしてから言う。


「では、今日も始めるとしますかな。先ずは――――――」


 シオンは今日もロックスの授業を真面目に受けている一方、フランは今日もロックスの授業をサボり城下町に来ていた。



†††城下町†††



 城下町にて、黒いTシャツにハーフジャケットとしても使える少しくすんだ赤色のロングコート、下は灰色のチノパンに白いベルトをつけ、真紅の軍靴を履いている、金髪でアメジストのような色の目の端正な顔立ちの少年――――フランは何か面白いものがないかと辺りをキョロキョロしながら暫く歩いていた。


「さてと、今日は何をしようか」


「ちょっとそこの金髪の少年君、いい情報があるんだけど聞いてかない?」


 フランは自分の事を呼んでいるか分からなかったが、一応男性の声に後ろを振り返る。すると、そこには黒髪の短髪で黒色の羽毛のコートを着て顔にはピエロのような仮面を着けた怪しげな男性が椅子に座りフランを見ていた。

 フランが黒髪のピエロ仮面の方を振り向くと、今まで賑わっていた街の声が消えていることに気がつき街の方を見る。すると、後ろには街ではなく砕けている墓や傾いている墓などが無数にあり、その墓の数個に(からす)がとまっている、墓地が街の代わりに広がっていた。

 フランは今度街から黒髪のピエロ仮面に視線を戻すと、こちらもいつの間にか街から真っ暗な荒れ果てた教会がそこにあった。


――――・・・・どうなってやがる・・・?さっきまで俺は確かに城下町にいたはずだ・・・。こいつの魔法か?つーか、こいつは何もんだ?


 フランの頭の中は目の前の黒髪のピエロ仮面に対する疑問に支配されていた。

 黒髪のピエロ仮面はフランの考えが分かっているかのように話かける。


「俺はしがないただの情報屋アイン・シークだ。それとこの荒れ果てた教会と墓地は俺の魔法だよ。どうだ?驚いたか?」


「ここから出してもらおうか」


 フランは目の前の黒髪のピエロ仮面改めアイン・シークにつかみかかる。が。アイン・シークの襟元を掴もうと伸ばしたフランの手は空気を掴むだけだった。

 アイン・シークに伸ばしたフランの手はアイン・シークをすり抜けてしまう。そんな目の前の光景にフランは少なからず驚いていた。そんなフランにアイン・シークは少しあきれたようにフランに言う。


「俺の話聞いてた?ここは俺の魔法の中だって数秒前に言ったとこじゃん。つまりここの支配権は俺にあるんだぜ?と言うわけは、ここじゃあ俺に傷を与えるのは無理ってことだ。人の話はちゃんと聞くもんだぜ?まあ、いいや。そんでさっきの話の続きなんだが、いい情報があるんだが聞かないか?」


 フランはアイン・シークと名乗った黒髪のピエロ仮面の話を聞いて心の中で舌打ちをして、嫌そうな顔をしてアインに聞く。


「・・・いい情報とはどんな情報だ」


「おっ!興味が湧いたか?」


「・・・・・いや、湧いてねえ。でも、ここから出るにはお前の話を聞けばいいと思った。だからお前の話を聞いてやる」


 それを聞いてアインはフランが強がっていると思い腹をかかえ笑う。

 フランは腹をかかえて笑うアインを見て青筋をたてていると、一通り笑ったのかアインは息を整えて話始める。


「お前も『三龍の竜王(ドライ・ヘルシャフト)』の一角『神龍王シュトラール』は知ってるよな?」


「嗚呼、確か他の龍達の元になった龍だろ?それがどうした?」


「まあ、大体は合ってるが、神龍王シュトラールは『十二竜の竜将インペリアル・ドラゴン』の元となったと云われてる、だ。まあ、そんなことはどうでもいいんだが・・・・。なんと俺はその神龍王シュトラールの居場所をつかんだんだよ!!どうだ!?凄いだろ!?」


 アインはフランに詰め寄り言う。アインはテンションが上がっていたのか少し鼻息が荒い。

 そんなアインにフランはかなりひいていた。


「・・・それで?神龍王シュトラールの居場所が分かったからって何が凄いんだよ?」


「・・・はぁ。分かってねーなぁ。いいか、よく聞け?神龍王シュトラールの居場所が分かったって事はな、その神龍王シュトラールの力を手にいれるチャンスができたって事なんだぜ!?」


「成る程な。『三人の君主ヘルシャフト・ドラグーン』になれるチャンスってことか」


「ああ、そういうことだ」


「だが、何故それを俺に言う?」


「それはな、神龍王シュトラールが認める条件についての噂を聞いたんだよ」


「条件?なんだそれは?」


 フランは訳が分からないといった風に目の前のアインを睨みつける。

 フランの質問にアインは「そんなことも知らねーの?」みたいな表情をして、説明を始めた。


「先ず、龍王と竜将達が試練をあたえてるってのは知ってるよな?条件ってのはその龍王と竜将が力をあたえるかどうかを決めるためのポイントの事だよ」


 フランは龍王と竜将が試練をあたえるなんて初めて知ったが、とりあえず頷き最後まで聞いた。


「その噂ってのが神龍王シュトラールは何かに一途な奴を認めるらしいんたが、いかんせんこの世に何か一つのことに情熱を注ぐ奴なんざ、そうはいないからな――――。だが、お前は違うと俺は思ってる。お前はただ単純に自分が楽しめることを探してる。俺にはそう見えた。だからお前にこの情報を教えたんだよ」


「・・・つまり、神龍王シュトラールは俺を認めるってことか?」


「そこまで断言は出来んが認めてもらえる可能性はあるぞ?どうだ、いい情報だろ?」


「じゃあ、話も終わったしここから出してもらおうか」


 フランがそう言うとアインは笑いながら返答した。


「まだ、話は終わってねーよ。お前には神龍王シュトラールの居場所を教えといてやるよ」


 アインはフランに紙を投げる。投げた紙は綺麗にフランの手元まで飛んできた。

 フランは飛んできた紙を見てみる。紙はフラン達が住む神聖メリア教国を中心にかかれた地図だった。

 地図の大体、神聖メリア教国から北西に数十メートルぐらいの所に赤丸がかかれていた。


「その地図にかいてある赤丸が神龍王シュトラールの居場所だ。興味が湧いたら行ってみるのもいいかもな」


 フランはその声に地図からアスレースの方を見るがそこには誰もいなかった。あるのは石の壁だけだ。

 フランが不思議に思って石の壁を見ていると徐に街に声が戻ってくる。それどころか声に振り向くと墓地ではなく、いつの間にかいつもどおりの賑わいの街に戻っていた。

 街を見てフランはとりあえず歩きだした。


「・・・・アイン・シーク・・・・か。変わった奴だったな」


ボオォォォォォォォォォッッッ!!!???


 フランの呟きに合わせるように城下町の中心に設置してある魔導具“時を告げる大鐘塔ヴリエーミァ・ガヴァリーチ・コーラカル”が十一時半を告げる鐘の音を城下町中に響かせる。

 “時を告げる大鐘塔ヴリエーミァ・ガヴァリーチ・コーラカル”の鐘の音を聞いたフランは城を抜け出す時にいつも持ってきている懐中時計に視線を向ける。


「あと少しでグラドス元帥との訓練だな。そろそろ戻るか」


 そう言いフランは急いで城に戻ろうとして不意に立ち止まる。


「・・・・・そうだ、アリスとリディアさんと、後、ついでにシオンにもお土産を買ってくか」


 フランは遅れることを覚悟でお土産を選ぼうと街にに踵を返し戻っていく。



††††††††††



†††第一訓練場†††



 シオンは今グラドス元帥との訓練を一通り終えて休憩をしていた。

 そんなとき第一訓練場の扉が開きフランが第一訓練場に入ってくる。それを確認したグラドス元帥は大声でフランに問いかける。


「ガハハハ!フラングール様が遅れるなんて初めてですなあ!何かあったのですかな!?」


 フランはグラドス元帥のもとまで来て、遅れた事情の説明を始める。


「城下町に行ったら怪しげな奴に声をかけられてそいつの話を聞いてたら予想以上に時間をとられたんだよ。その後、リディアさん達のお土産を選んでたら遅れた」


「成る程!分かりました!では、今から訓練を始めましょうか!」


 グラドス元帥はフランに木剣を投げ渡し、構える。フランも木剣を受け取り構えた――――刹那。

 グラドス元帥はフランとの距離を一気に詰め、フランの左肩口から右に振り斬る。つまり、袈裟斬りだ。

 フランはそれを後ろに飛ぶことで避ける。

 その後、フランとグラドス元帥はふたたび接近し、何度か打ち合いどちらともなく距離をとる。


「やりますな!フラングール様!初撃で討ち取るつもりでしたが、まさか避けられるとは!」


「手を抜いた奴にそれを言われても嬉しくねえな」


「ガハハハ!バレてましたか!」


「当たり前だ。手を抜かずに全力でこいよ」


 グラドス元帥は余裕そうに訓練中にわざとらしく額に手を当てながら笑い、フランの安い挑発を安く買うグラドス元帥。


「・・・・では、ほんの少し本気を出しますかな」


「「ッ!?」」


 グラドス元帥の纏う空気が一気に変わる。

 フランはグラドス元帥の纏う空気に気圧されて冷や汗をかいていた。

 グラドス元帥と対峙していないシオンもグラドス元帥の纏う空気に気圧されて息をのんでいた。


――――この迫力を発しているのが何時も馬鹿みたいに笑っているグラドス元帥とは思えませんね・・・・・流石、グラドス元帥と言ったところですか・・・


――――なんだ!?一気に空気が変わりやがった!これでも実力の『ほんの少し』かよ!?


 フランはグラドス元帥の纏う空気に気圧され、緊張で動きが鈍くなりながらも必死で打ち合い始めた。

 フランとグラドス元帥が打ち合っている時にシオンは失礼な事を心の中で思っていた。




††††††††††




†††シオンとフランの自室兼寝室†††




「痛てぇな」


 フランがそう言い服を捲りあげると、左の脇腹の辺りから胴体にかけて赤い一文字状の一本線がグラドス元帥との訓練で木剣によってつくられていた。

 余談だが、フランに傷?―――っと言っていいのか分からないが―――をつけたグラドス元帥は平謝りしていたが、フランは自分が「本気を出してくれ」っと言ったから気にするなと言い立ち去ってきた。

 徐にフランは赤くなっているところを右手で押さえていた。

 シオンはそれを見て心配そうに言う。


「大丈夫ですか?」


「ああ。・・・グラドス元帥の纏う空気が変わってら全然こっちの攻撃は当たらなねえし、グラドス元帥の攻撃は避けれなかった・・・そのせいで負けたんだよな、やっぱ」


 フランは心底悔しそうに言う。シオンは悔しそうな顔をしているフランをフォローするように言う。


「仕方ないですよ。グラドス元帥は何時も馬鹿みたいに振る舞っていますが、この神聖メリア教国の中でも最強と云われる“熾天使(セラフィム)”の一人なのですから」


「それは分かってるけどさ、やっぱり悔しいのにかわりはねえよ」


「そうですか」


「あーあ、簡単に力を手にいれる方法ねーかなぁ」


 フランはベッドに顔面からダイブしながら冗談まじりに言った。それを聞いていたシオンは昼間のロックスの話を思い出す。


――――聖龍皇オリフェスの加護を得られれば強くなれるかも知れませんね。ですが、それをフランに教えるのは危険とロックスさんも言っていましたし・・・・。


「フラン、力が欲しいなら龍王の加護を得る。と言う方法もありますよ」


 シオンの言葉にフランはベッドから頭だけをシオンの方へ向け言う。


「・・・・そうか。そうだよな。その方法があったな。ありがとなシオン、参考になったわ」


「どういたしまして。でも、フラン。龍王の居場所は分からないのでその案は実行出来ませんよ」


「・・・・そうだな。まあ、地道に力をしようとつけていくことにするよ。じゃあ、おやすみ」


 フランはそう言うとベッドに潜り込む。シオンもベッドに入り寝始める。


――――シオンが寝たら神龍王シュトラールに会いに行くとするか



†††その日の深夜†††



 フランは誰にもバレないようにこっそりと城を抜け出していた。


 フランは今アスレースに貰った地図を頼りに神龍王シュトラールがいるだろうという場所に飛んで向かっていた。

 数時間とんだ後やっと目的の場所についた。


「地図どおりならここのはずなんだが・・・・・なにもないな」


 フランは回りに草の子一本生えていない広大な荒れ地に立っていた。だが、周りに障害物がなにもないのにも関わらずなにも見えず、生き物の気配を感じなかった。


――――夜だから見えないのか?それとも、がせネタか?・・・まあ、どっちにしろ、ここに長居してても何も得しねえな。まあ、明日出直せばいいか。


 フランは明日出直そうと翼を羽ばたかせた時に荒野全体に響くぐらいの大きさの鳴き声がフランの後ろの方から聞こえた。

 フランは慌てて後ろを振り返ると、そこにはネービーブルー色の巨大なドラゴンいた。


――――・・・・さっき見たときはいなかったのに・・・・。どうやってこんなデカいドラゴンが現れたんだ?


『貴様は此処に何をしに来た』


 突然現れたネービーブルー色のドラゴンを見て驚いているフランにネービーブルー色のドラゴンは問いかけた。


「・・・・お前がシュトラールか?」


『そうだ。吾が輩が神龍王と呼ばれているシュトラールだ。もう一度問うぞ。貴様は此処に何をしに来た?』


「それはアンタに加護を貰うために会いに来たに決まってんだろ?」


『貴様が吾が輩の加護を貰うに相応しいとでも言うつもりか?』


 神龍王シュトラールは威圧するように低い声で言った。だが、フランは臆することなくシュトラールに向かって言う。


「あぁ、あると思うね。・・・・なんなら試してみるか?聖龍皇オリフェスさんよ」


 フランの言葉を聞き神龍王シュトラールは無言のままでジーっとフランを見定めるように見ている。


『・・・いいだろう。貴様に試練を与えてやる』


 シュトラールが言い終わると虚空からフランと同じ体格の全身真っ黒なヒトガタのモノが現れる。

 フランが不信そうにゆっくりと空中から降りて来ている、全身真っ黒なモノを見ているとシュトラールが話しかける。


『それは貴様自身の影だ。体格、力、頭の良さ、どれをとっても貴様と全く同じの人形だ』


「こいつを倒せってことか?」


『嗚呼、そうだ。自分自身の影を倒すことが出来たら貴様を認めてやろう』


「上等じゃねえか」


 フランは好戦的な笑みを浮かべ影に向かっていった。



††††††††††



†††同日の明け方†††



 シオンとフランの部屋兼寝室で、シオンは何時も通りの時間に目が覚め、何時も通りにフランを起こそうとフランのベッドに近づく。そして、シオンは呆然とフランのベッドを眺めていた。


――――・・・・・・どうしていないんですか?まだ、城下町に行くような時間でもないのに・・・・・一体何処へ・・・。


 シオンがそんな事を考えているとドアを叩く音がしてから女性の声が聞こえてくる。


「リュクシオン様、フラングール様。お目覚めでしょうか?」


「はい、私は起きています。用件は何でしょうか」


 シオンはドアのむこうの女性に話しかける。


「はい。グラドス元帥に『大事な話があるから起き次第、至急、会議室まで来てほしい』とリュクシオン様にお伝えするよう言われましたのでお伝えしに参りました」


「そうですか、わかりました。用意が出来次第向かうとグラドス元帥に伝えてください」


「わかりました、伝えておきます。では、リュクシオン様失礼します」


 女性はそう言いドアに向かって一礼してからシオンの言伝てをグラドス元帥に伝えてにいった。

 シオンは服を着替え終わったあとにフランのベッドに視線をやって思案する。


「フランはいったいどこに行ったんでしょう?………まさか!いえ、そんなはずは……。今は、あまり深く考えるのはよしましょう。それより、グラドス元帥のもとに行かなくては」


 シオンはフランの事が気になってしょうがなかったが女性が至急と言っていたことを思いだし、会議室に急いだ。



†††会議室†††



 シオンは会議室の前まで来ていた。すると、中からグラドス元帥と聞き覚えのない男性の声が数名聞こえる。

 グラドス元帥はいつもどおりの大きな声で話しているため、会議室の外まで声が丸聞こえしている。

 シオンはノックをしようとしたが、『フラングール』っと言う単語を聞き、中に入るかをしばらく考えたが、結局ノックはせずに部屋の中の会話を静かに聞くことにした。


「グラドス元帥、急いで捜索隊を出すべきでは?」


「そんなものとっくに出しておるわ!だが、この神聖メリア教国だけでもかなりの大きさがある!それにまだこの浮遊島にいるとは限らんだろう!」


「では、捜索隊を増やしてはどうです?」


「今の十人一組の二十三部隊でも、かなり無理をしている!それにあまり人数を導入してこの国の守りが甘くなっては、他の国に攻められる可能性があるのだ!」


「では、どうするおつもりですか?」


「うむ!それは――――」


「私に心当たりがあります」


 グラドス元帥は相当切羽詰まってシオンの気配に気づけなかったのか、少し驚いたように突然のシオンの声にグラドス元帥以下余名は驚きながらも会議室の入口の辺りにいるシオンを見る。


「リュクシオン様!お見えでしたか!して、『心当たりがある』とは、もしかしてフラングール様の居場所のですかな!?」


「はい」


「リュクシオン様、それは何処ですか?」


「はい、恐らく南南西に約百キロメートルの地点にいると思います」


「そこに何があるんでしょうか?」


「それは話せませんが、フランはそこにいると思います」


「ふむ。では、ここはリュクシオン様を南南西に百キロメートルの地点に捜索隊を向かわせましょう」


「いえ、捜索隊は出さないでください。私が一人で向かいます」


『なっ!?お一人で行くなんて危険です!せめて一個中隊を連れていかれては!』


 会議室にいるシオンとグラドス元帥をのぞいた男性達はきれいにハモりながら言う。だが、シオンはキッパリと断った。


「・・・・・グラドス元帥は、知っていたのですか!?」


「リュクシオン様が私と同じことを考えているのなら・・・・はい、知っています」


 暫く考え、グラドス元帥に言う。


「・・・・分かりました。では、私とグラドス元帥の二人で行きましょう」


 その言葉に今まで、黙ってシオンとグラドス元帥の会話を見守っていた男性達の一人が代表して言う。


「まっ、待ってください!リュクシオン様、グラドス元帥!二人だけでも十分危険です!それに二人供この国にはなくてはならない存在!その二人を危険な地へと赴くのを黙って見送れと言うのですか!?」


 男性の言うことは正しいとシオンもグラドス元帥も思うのだが、シオンもグラドス元帥もその言葉に従う気は毛頭なかった。


「すいません。危険なのは十二分に分かっています。ですが、これだけは譲れないのです。私はフランを助けにいきたい。それに私もグラドス元帥も死にに行くのではありません。ただ、フランを捜しに行くだけです」


「そうだぞ!そう、心配するな!私を誰だと思っている!リュクシオン様は絶対に死なせんよ!それに私もな!」


 シオンとグラドス元帥の自信に満ちた目と言い方に男性達は何も言わなくなった――――いや、言えなくなってしまった。の方がか適切かもしれない。

 男性達の中の初老の男性が男性達を代表して、シオンとグラドス元帥に真剣な表情で言う。


「・・・・・・分かりました。必ず生きて帰ってきてくださいね」


「はい」


「勿論だ!」


 シオンとグラドス元帥はそれだけを言うと会議室を出ていった。




††††††††††



†††ナメリナ教会†††



 シオンとグラドス元帥は天馬に乗ってナメリナ教会まで来ていた。

 ナメリナ教会には蔓が張り巡らされている。大きさは約五十メートル四方の大きさだ。


「ここにくるまでにフラングール様は見ませんでした。つまり、我々と同じルートを通ったとしたら、すでに教会に入っているか、それともここにはいないかのどちらかですな」


 グラドス元帥は何時もの大きな声ではなく普通の

ボリュームで話していた。グラドス元帥も聖龍皇オリフェスを警戒しているからかもしれない。


「とりあえず教会の中に入ってみましょう」


 天馬達を近くの木に手綱をくくりつけて、シオンとグラドス元帥はシオンが先に進み、グラドス元帥がその後を追うような形で教会の中へ入っていく。

 教会の中は外装に比べて、窓をつけてホコリをなくし長椅子を置けばまだ、普通に教会として使えるぐらいちゃんとしているが、そこら中にあるシミのようなものがある。


「使わなくなったわりにはシミをのぞけば意外に綺麗なものですね。まだ、使わなくなって日が浅いのでしょうか?」


「いえ、この教会はもう十年は経っているはずです」


「どうしてこの教会は使わなくなったのでしょうか?」


「確証はないの噂なのですが、神父の一人が突然『神は我々を見捨てた!』と言い、発狂して同僚の神父達を全員斬り捨てた。という噂なら聞いたことがありますな」


「となると、あのシミは恐らく血でしょうね」


 グラドス元帥は「そうでしょうな」とだけ言いシオンの後を追いかけるようについていく。

 シオン達は地下への入口を見つけ地下へ向かっていた。

 地下につくとシオンとグラドス元帥は少し驚いていた。


「まさか、上の教会と大きさがここまで変わるとは思いませんでした。これも魔法でしょうか?」


 地下室は地上にあるナメリナ教会の三倍はありそうな大きさで、何も置いていないただ単純にだだっ広いとしか言い様のないところだった。

シオンが地下室を見渡しながら発した言葉をグラドス元帥はわざわざ、拾い上げて返す。


「これは魔法でしょうな。それもかなり強力な」


『余の会いに来たのか。それとも迷った子等(こら)か』


 突然シオンとグラドス元帥の前に純白の巨大なドラゴンが現れた。

 だが、シオンとグラドス元帥は動じず目の前のドラゴンに問いかける。


「あなたが聖龍皇オリフェスですか?」


『そうだ。余が聖龍皇オリフェスだ。して、ここに何をしに来た?』


「私達はフラングールと言う金髪の少年を捜しているだけです。ここに来てませんか?」


『そのような髪の色と名の少年は来ておらんな』


「・・・・そうですか。失礼しました」


 聖龍皇オリフェスと名乗った純白のドラゴンにシオンは一礼しているときにグラドス元帥が呼びかける。


「リュクシオン様、ここにはいないみたいですから一旦城に戻りましょう」


「・・・・そうですね。もう一度フランが行きそうな場所を考えますか・・・・」


 シオンが肩を落として、もうここに用はないとばかりに帰ろうと、来た道を戻って地上につながる階段に向かおうとした時、不意に聖龍皇オリフェスが呼び止める。


『何処へ行くつもりだ?余はまだ、試練を与えてはおらんぞ?』


――――ロックスさんの言う通り試練を与えて来ましたか。さて、どんな試練がくるのでしょうか?


 試練と言う言葉にシオンは身構えながらも聞くべきことは聞こうとオリフェスに問いかける。


「・・・・試練とはどの様なものですか?」


『簡単なものだ。余の質問に答えればよいだけだ。だが、その前にお前らのどちらが私の質問に答えるかを決めてもらおうか』


「私があなたの質問に答えます。・・・それで?どんな質問ですか?」


 オリフェスの言葉に即答で返したシオンにグラドス元帥は詰め寄ろうとするが、シオンはグラドス元帥を手で制して「心配しないでください。たかが質問ですよ」っと言いグラドス元帥を黙らせる。


『うむ、それはな。・・・・・お前は力が欲しいか?』


「はい」


 シオンはオリフェスの質問にまたも即答した。即答したシオンにオリフェスは少し表情を歪め低い声で言う。


『・・・何故、力が欲しい?』


「それは簡単ですよ。私はこの大陸を統一したい。その為には『力』がいるんです」


『大陸を統一するのなら『力』は必ずしもいるというわけではなかろう?『力』有るものを使えばいいだけなのだから』


「そうですね。ですから私は『敵を打ち倒す力』より『(みな)を統率する力』が欲しいのです」


 シオンの答えにオリフェスは暫く黙って昔の思い出――――ローランと初めて会った日の事――――を掘り起こしていた。

 その間シオンとグラドス元帥は顔を見合わせていた。


――――此奴、ローランと似たようなことを言いよるな・・・・・。流石、親子と言うわけか


 オリフェスがローランと初めて出会った日の事を思い出している時にシオンは「急いでいるのでそろそろ帰りますね」と言いグラドス元帥と共に帰ろうとしていた。


『・・・お前に我が加護を与えよう』


 オリフェスはシオンを呼び止めるようにそう言った。シオンはオリフェスに振り返り驚いた表情で言う。


「・・・今、なんと仰いましたか?」


『余の加護をお前に与える。と言ったんだ。要らんか?』


 シオンは驚いた表情から一転して嬉しそうにオリフェスに頭を下げ言う。


「慎んでお受けします」


『ふむ』


 オリフェスは満足そうな顔をすると、突然オリフェスの体が光に包まれ始めた。

 シオンとグラドス元帥はわけがわからず呆然と光に包まれたオリフェスを眩しそうに見ていると、光の中から声がする。


『シオン、お前に一つ聞きたいことがある』


「何でしょう?」


『貴様の父―――ローランは元気か?』


 シオンはオリフェスの問いに気まずそうに言う。


「・・・・・私が物心つく頃にはもういませんでした。母上を庇い亡くなったそうです」


 シオンの言葉を聞きオリフェスは呆れたような、自分の子供を褒められた親のような誇らしいそうな声音で短く「そうか。ローランらしい最後だな」と言う。

 シオン達は光に包まれたオリフェスの表情は分からないが、その表情は何処か友を思って優しく笑っているような感じがしていた。

 やがて、オリフェスを包み込む光が消えるとそこにはビー玉ぐらいの大きさの純白の水晶が浮かんでいた。

 それを見たシオンは何故かその水晶のもとへ行かなければならないと思いゆったりとした動作で水晶に近づいて行く。


「・・・グラドス元帥。これは一体どう言うことでしょうか」


 今まで、状況を見守っていたグラドス元帥にシオンは水晶玉のところまで行き、振り返りながら話しかける。


「・・・なにがなんだか。私にはさっぱり分かりません・・・ですが、その水晶玉はあの聖龍皇オリフェスに認められたリュクシオン様の物だということは私にも分かります」


「そうですか」


 シオンはそう言いビー玉ぐらいの水晶玉を手に取ると、シオンは徐に水晶玉を口に含み―――飲み込んだ。

 すると、シオンはその場に倒れ徐に夢を見る。

 グラドス元帥は慌てて倒れたシオンに駆け寄る。


「大丈夫ですか!?リュクシオン様!?リュク・・・・」


 シオンは薄れてゆく意識のなかでグラドス元帥の心配して呼びかける声を聞きながら意識を手放し夢の中へと誘われる。



††††††††††



 シオンが目を覚まし辺りを見回すと、何処までも真っ白な部屋にいる事が分かった。


「ここは何処でしょう?」


『ここは余の魂の中だ。精神世界と言った方が分かりやすいかもしれんな』


 シオンは突然の声に振り返る。そこには先程と変わらない姿のオリフェスがいた。


「どうして私はオリフェスの精神世界にいるんですか?」


『それはお前と少し話がしたくてな。まあ、話と言うよりは“三人の君主ヘルシャフト・ドラグーン”について説明を少々だがな。まあ、少し話がしたかったのは本当だ』


「説明と話、ですか?」


『ああ、そうだ。先ずはお前が触ったあの水晶だが、あれは余の魂の塊――――つまり、余の力そのもなのだ』


「つまり、あの水晶玉を呑み込まないと聖龍皇オリフェスの力を得られないと言うことですね」


『そういうことだ。お前は確か、フラングールと言う金髪の少年捜していると言っていたな?そいつはお前の友か?』


「いえ、フラングールは私の双子の弟です。どうして今、フランの名前を?・・・もしかして、フラングールについて何か分かったのですか!?」


 シオンがオリフェスに詰め寄りながら言う。オリフェスはそんなシオンに巨体を少し後ろにさがらせながら言う。


『まあ、落ち着け。余が知っているのは『居場所』ではなく『いるかもしれない場所』だ。・・・・・それより、そうか弟か。つまりローランの息子と言うことか』


 オリフェスは最後の辺りを独り言のように呟いたため、シオンには聞こえなかった。

 シオンが黙ってオリフェスを見つめているとオリフェスは説明を始める。


『我々、龍王は互いに場所が分かる。誰かを認め加護を与えたということもな。八年前に魔龍帝ゼフォンがこの世を去った。そして今、神龍王シュトラールが何者かに試練を与えている。シュトラールが試練を与えているのがお前の捜している人物かは知らんが・・・シュトラールの試練を受けているのなら急いだ方がよいぞ』


「そんなに神龍王シュトラールの試練は厳しいのですか?」


『ああ、厳しいと言うよりは危険だな。ゼフォンとシュトラールは余と違って殺しや戦いが好きな奴等だからな。奴等の出す試練も相当危険なものであろうな。まあ、余はゼフォンとシュトラールの試練はどんなものかは知らんがな』


「そうだとしたら、急がないといけませんね」


『ここから北西に進んでいれば何もない荒れ果てた平地があるはずだ。そこにシュトラールがいる。達者でな、ローランの息子よ』


 オリフェスは言い終わると同時にだんだんと光の粒子となり消滅していった。シオンもまたオリフェス同様に光の粒子となり消えていく。



††††††††††



 シオンは目を開けて辺りを確認するとナメリナ教会と木々が生い茂っていて、空が見えた。

 空を見ると、グラドス元帥が心配そうな表情でシオンの顔を覗きこんでいた。その時、シオンは自分を心配してずっと側にいただろうグラドス元帥の近すぎた距離と顔を覗きこんできたのを見て、正直「気持ち悪いな」っと失礼ながら思ってしまっていた。


「リュクシオン様!?目を覚ましましたか!」


 グラドス元帥はシオンを上半身だけを起き上がらせる。


「な、何をしているんですか、リュクシオン様!?そんなものを呑み込んでのどに詰まらせたらどうするおつもりだったんです!?」


 シオンはゆっくりとグラドス元帥の顔を見て真剣な面持ちでいった。


「グラドス元帥。あの水晶は聖龍皇オリフェスの魂の塊です。それを呑み込んでも害はありません。むしろ、あの水晶を飲み込まなければ聖龍皇オリフェスの加護は得られないそうですよ」


 シオンの断言した言い方にグラドス元帥は疑問に思う。


「何故、そこまで言いきれるのです!?もしかして、知っていたのですか!?」


「いえ、あの水晶に触れたら頭に直接流れてきたのです」


 本当は流れてきたのではオリフェスの精神世界とやらで直接オリフェスから説明を受けたのだが、シオンは今は説明している手間も惜しいと思い、頭に直接流れてきたっと言った。

 グラドス元帥はシオンが説明を省いたのが分かった上でシオンに返事を返す。


「そうですか」


「そんなことより、急ぎましょう。恐らくフランは危険なところにいます」


「フラングール様の居場所が分かったのですか!?」


 驚いた声を出すグラドス元帥とは裏腹にシオンは落ち着いた声で答える。


「はい。オリフェスが教えてくれました。急ぎましょう。雲行きも怪しくなってきました」


 シオンは空を見ていた。グラドス元帥も空を見上げると、空には雨雲が分厚い壁を作り昼間だと言うのに暗かった。

 シオンとグラドス元帥は立ち上がり、木にくくりつけた天馬達のところに行き、天馬に跨がり急いでフランがいるかもしれない場所に飛んでいった。



††††††††††



†††とある荒野†††



 とある荒野には一匹の巨大なネービーブルー色のドラゴンと同じ体格のヒトガタが二人いる。


ザァァァァアア。


 とうとう、雨が降りだしてきた。

 同じ体格の二人の片方はボロボロの状態で地面に突っ伏すしていて、もう片方が拳を真っ赤に染め地面に突っ伏している奴を見ている。


『もう終わりか、小僧?あれだけ大口をたたいておいてこの程度とは全くもってお笑い草だな。小僧、もう諦めるか?』


 シュトラールは地面に突っ伏している金髪の少年――――フランに見下すように嘲笑しながら問いかける。


「・・・・ふざ・・・っけんなァ!俺は絶対に諦めねえ!テメェに認められて力を手に入れるんだ!」


 フランは雨によって体の体温と体力が奪われていくような感じがしていた。

 だが、フランは雨に濡れて重くなった服でふらふらしながらも立ち上がりシュトラールを睨み付ける。


――――・・・・シュトラールの野郎。何が俺とどれをとっても同じだ!全然、違うじゃねえか!あの影のスピードを捉えられねえし、攻撃が当たったとしても全然怯まねえ。それに加え影の攻撃はバカみてえにいてえしよ!


 フランは愚痴を(こぼ)しながらも影に向かって駆け出して行く。


――――何でこの小僧は諦めない?何故、何度も立ち上がれる?何がこの小僧の原動力になっている?


 シュトラールは何度地面に倒れこもうと何度も立ち上がり影に向かっていくフランを見て、頭のなかを疑問だらけにしていた。

 フランがどんなに立ち上がり向かおうと影は疲れも痛みも感情もない。容赦なくフランをいたぶるだけだと言うのに。

 だが、影は倒れたフランには決して追撃を加えなかった。

 それは影にも良心があるとか何度も倒れているフランを哀れんで情けをかけたわけではない。ただ単にシュトラールがそう命令しているから、影は忠実にその命令を守っているにすぎないわけだ。

 それでもフランは何度倒れようが、地面を無様に這いつくばりようが、何度も何度も影を倒ために立ち上がり続ける。

 だが、フランも悲しいかな、不死身ではない。何度も殴られれば当然死ぬ。

 既にボロボロの状態のフランが影に向かって殴りかかろうとするが、影にカウンターの鳩尾を蹴りあげられて後ろに体が傾き、仰向けに倒れる。


『・・・・貴様は何故、そこまでして吾が輩の加護が欲しい?このまま、続ければ貴様は加護を得る前に死ぬぞ?』


 シュトラールは仰向けに倒れたまま動かないフランに話しかける。

 「何故?」「どうして?」の疑問ばかりがシュトラールの頭のなかを支配していく。

 シュトラールもフランからの返事は期待していない。たが、返事がこないと分かっていてもシュトラールは問わずにはいられなかったのだ。


『普通なら(みな)勝てないと分かった時点で助けを呼んだり、その場から逃げたりして結局は一人で向かうのを諦めるだろう?なのに何故貴様は何度も何度も自分より強い相手に一人で向かっていける?何故逃げ出さない。何故助けを呼ばない』


「・・・・・そんなの・・・・決まってん・・・だろうが?・・・力が・・・・力がいるんだよ!どんな奴にでも勝てる力がよォォ!!そのためには目の前の影を一人で倒さねえと意味ねえだろうがよ!!」


 フランはそう言いまた、満身創痍な体に無理矢理鞭を打って立たせようとする。


「・・・・俺は強くなんねぇといけねぇんだよ!」


ガッ!


影から鋭い右ストレートを顔面にもらうが、フランはしゃべり続ける。


「俺はシオンみたいに上に立つような器じゃねぇからさ!それに、俺は戦術とかは苦手だしよ!」


ドガッ!!


影はしゃべっているフランに容赦なく顔面ばかりを狙って殴ってくる。フランは避ける体力もなくもろにくらう。


「それでも!俺は誰かの役に立ちたくてえんだよ!俺みたいな奴でも『居ていい』って思われてえんだよ!」


バキッ!!!


 影の肘打ちがフランの顔面を打ち抜いた。フランは一瞬意識が飛んだが、なんとか意識を保ちまたしゃべりだす。


「でもォ!俺は人の上に立つ器じゃねえからァ!俺はバカだからさァ!誰かの役に立つには敵を討つことぐらいしか思いつかねえから!だからァ!その為には力がいるんだよ!!」


ゴキュッ!!!!


 影にアッパーカットをくらいフランはついに仰向けに倒れようとする。


フラン「ゴポッ!」


 だが、フランが仰向けに倒れそうになったときに、影が倒れる寸前でフランを抱き止める。


『まさか、貴様がそこまで一つの事に『一途な思い』を持っていたとはな・・・・。くくく、吾が輩もついにゼフォンとオリフェスの後を追うことになってしまったか』


 シュトラールは満足げな表情で笑いながら、光に包まれていく。影はフランを地面に仰向けに寝かせると静かに消えていた。

 光はやみ、今まで神龍王シュトラールがいた場所にはビー玉ぐらいの大きさの水晶が浮かんでいた。

 フランは薄れ行く意識のなかで、空中に浮かんでいる水晶に届くはずもないのに水晶を取ろうと手をのばす。

 だが、フランの手は予想と反して空気を掴まずしっかりと水晶を掴んだ。そして、触れた瞬間におもむろに水晶を飲み込む。

 フランは薄れゆく意識の中で走馬灯のように二年前の事を思い出していた。



††††††††††



†††二年前†††



 フランは今日もシオンと共にロックスの授業を受ける為に談話室に向かっていたとき、フランはペンを忘れた事に気づき一人で自室に戻る。


「ペンを忘れたから取りに行ってくるね。シオンは先に行ってて」


「はい。遅れないようにしてくださいよ」


 シオンの冗談まじりの声にフランは笑いながらペンを取りに自室に向かう。

 自室の前までくると自室から二人のメイドの女性の年老いた声がする。


――――部屋を掃除に来たメイドさんでしょうか?


 フランはそう思いドアノブに手をかけたとき、フランは中の女性二人の会話が聞こえ、ドアノブに手をかけたまま中の会話を静かに聞く。


後で後悔するとも知れずに――――。


「また、リュクシオン様は毎年行われる国をあげての国立記念日で三年に一度開催されるチェス大会で大人にまざって見事に優勝されたんですって」


「流石、リュクシオン様ね。この国もリュクシオン様が国王になったらきっと先代国王のローラン様みたいな立派な王になるわね」


「本当、兄のリュクシオン様は聡明でいらっしゃるわ。それに比べてフラングール様はチェス大会では初戦でまさかの敗退。本当『リュクシオン様(才能のある兄)』を持つと『フラングール様(才能のない弟)』の才能の無さが目立つわね」


「本当、リュクシオン様も可哀想よね。何せデキの悪い弟を持っちゃったんだから。あ、でもデキの悪い弟のフラングール様のお陰でリュクシオン様もさらに輝いて見えるし、むしろ幸運なのかしらね?」


「そうかもね。だから、リュクシオン様もデキの悪いフラングール様に何も言わないのよ。きっと、リュクシオン様は優しいから思っているけど言わないんでしょうね」


「そうね。でも、リュクシオン様も何時か「デキの悪い弟を側に置いときたくない!」って言い出すかもしれないわね。やっぱり、今のうちはいいけどそのうち『才能のない者』より『才能のある者』を側におきたくなるでしょうね」


「そうなったら、フラングール様もお払い箱ね」


「本当にそうね」


 などと女性二人はフランが『デキの悪い』と言う事を殊更強調して、嘲笑しながら話していた。

 フランはそんな女性二人の会話を聞き、ゆっくりとドアノブにかけていた手を放す。

 その場から逃げるようにフランは静かな図書室へと向かって走って行った。


――――・・・・デキの悪い弟?シオンが可哀想?僕のせいで?僕がチェス大会で初戦で敗退したから?僕が才能がないから?


 フランは混乱していて上手くメイドの女性二人の話 を整理できずにいた。

 フランは図書室につくなり、誰も来ないような(すみ)に向かい、そこで頭を抱えてうずくまる。


―――・・・僕はいない方がいいの?僕は誰の役にもたたないってこと?・・・・。ッッ!!


 フランは思わず、図書室の壁をおもいっきり殴っていた。


――――クソッ!クソッ!クソッ!クソッ!クソッ!クソッ!クソッ!クソッ!クソッ!クソッ!クソッ!クソッ!クソッ!クソッ!クソッ!クソッ!クソッ!クソッ!クソッ!クソッ!クソッ!クソッ!クソッ!クソッ!クソッ!クソッ!クソッ!クソッ!クソッ!クソッ!クソッ!クソッ!クソッ!クソッ!クソッ!クソッ!クソッ!クソッ!クソッ!クソッ!クソッ!クソッ!クソッ!クソッ!クソガッ!クソガッ!クソガッ!クソガッ!クソガッ!クソガッ!クソガッ!クソガッ!クソガッ!クソガッ!クソガッ!クソガッ!クソガッ!クソガッ!クソガッ!クソガッ!クソガッ!クソガッ!クソガッ!クソガッ!クソガッ!クソガァァァァァァッッッ!!!


 フランは心の中で叫びながら図書室の壁を殴り続けていた。手がジンジンと痛むレベルを越えて、拳からは血が出てもフランは壁を殴り続けた。まるで、自分が今ここにいるんだっと実感したいように。

 この日、この時に、この出来事でフラングールと言う少年の性格はガラリと変貌してしまった。

 今までの不満を感じながらもしっかりとやっていた事――――グラドス元帥との訓練以外――――を全てしなくなり、代わりに自分のしたいことや楽しいことを求めるようになっていった。

 一方、シオンはシオンで苦労をしていた。

 シオンは周りから『才児』だのともてはやされて、その期待に応えようとシオンは常に気を張り頑張っていた。

 それに加え王位継承権第一位は当然兄のシオンだ。なので、シオンは普段から王であることを自覚し、常に王らしくあろうと努めていた。



††††††††††



――――・・・これが俺の最後かよ・・・・。・・・みっともなさ過ぎて笑えねえよな・・・・・。


 少しずつ確実に死神の鎌はフランの首を斬っていた。フランには最早、死神の鎌に対抗出来るほどの力は残っておらず、着実に自分の首を斬っている鎌を見届ける事しか出来なかった。

 フランはそんなとき、聞き覚えのある声が途切れ途切れで聞こえて、そちらを見る。


「フラン!・・・頼はむは・・・・死・・・・な・・れ!」


――――・・・シオン・・・か?・・・いや、そんなはずは・・・ねぇよな。だって、シオンは・・・・今頃はロックスの・・・・授業を受けてるはずだから・・・・。


 シオンは天馬から降りて、倒れているフランに駆け寄り、抱き起こし呼びかける。


「しっかりしてください!フラン!」


 グラドス元帥も天馬から降りてシオンとフランのもとに駆け寄ってくる。


「リュクシオン様!一旦、城に戻りましょう!そうすれば、治療専門の魔法使いもいます!早くしなければフラングール様のお命が危ないです!」


 グラドス元帥の必死の訴えに、シオンはハッ!と我に帰りフランを天馬に乗せ急いで城に向かった。


――――頑張ってください、フラン!貴方は絶対に死なせません!



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