躾は大事です。
異世界に来て、3日。
まぁ…それなりに順調な毎日です。
──────アレクのべったりが無くなれば。
「……アノデスネ、デキレバモウスコシハナレテクレマセンカ」
グイグイと抱きしめてくるアレクの顔を左手で押し離しながら、私は静かに自分に与えて貰った部屋のソファの背凭れに背中を預けた。
「………ミア」
「ハイハイ、ナンデスカァ」
「…………俺はミアと結婚したい」
「ソウデスカ……デモマダハヤイデスヨネ?」
──────わぁ…このワイン美味いわぁ…
現実逃避?
そりゃ…3日もこんな状態じゃしたくなるデショ?
「…あの、ミア様…お寛ぎのところ申し訳ありませんが…前王妃様と王女様がお会いしたいそうで…」
静かに部屋に入ってきたのは、ベルアという私付きになった侍女。
「良いよ。 入って貰って。 アンタ邪魔」
「……俺も居よう」
流石に親兄妹の前で女にくっついて居るのは気まずいらしい…。
すんなり離れたアレクに、私はホントにどうしたものかと心の中で苦笑した。
「失礼します」
「失礼しますわ」
一言で言うなら──────マリー・アントワネット的な装いの人達だった。
ベルアの後から入ってきたのは、煌びやかな赤のドレスに身を包んだ妙齢の綺麗な茶髪碧眼のマダムと、可愛らしい青いドレスに黒髪碧眼のあどけなさの残る少女。
────フランス人形みたい…
凄いとしか言いようの無い二人を一瞥し、私はソファから立ち上がった。
「初めまして、前王妃様、王女様」
この世界の挨拶なんて知らないし、覚える気はない。
だから深く頭を下げてそう言うだけ。
「初めましてミア様。 お会い出来て嬉しいですわ」
「初めましてミア様」
にっこり微笑んだ前王妃に、流れる動作でドレスのサイドから軽く摘み上げて頭を下げる少女。
「本来なら私の方から挨拶に行かなければならなかったのでしょうけど…申し訳ないね」
「いいえ、お気になさらず…リヒト様が仰っていた通り、とても綺麗な魔女様だわ。 是非仲良くして下さいませね」
「こちらこそ…お世話になります」
「義姉様になるのがこんなに綺麗なミア様だなんて…お兄様が羨ましいわ」
近寄ってきた前王妃に言葉を返していると、興味津々といった感じで少女が私の手を握ってきた。
「ミア様ミア様、私妹のセリア・オークデュレと申します。 是非一緒にお話したいわ!」
──────ヤバイ…めっちゃ可愛いっ…
ほんのりと頬を赤らめさせ、好奇心を隠さない少女────もとい、セリアの頭をそっと撫でた。
「よろしくね、セリア様」
「呼び捨てで構いませんわ。 私ずっとお姉様が欲しかったの! だから凄く嬉しいのよ」
「わかった、セリアって呼ぶね」
私の無表情にも動じずニコニコしているセリアと、前王妃に真向かいにあるソファを勧める。
座った二人に促され、私もアレクの横に座り直した。
「私はマリア・オークデュレ。 マリアで良いわ、ミア様」
「では、遠慮無くマリアと…。 私のこともミアって呼んで下さい。 様呼びは凄く違和感があるし慣れないので」
「ありがとう……本当にミアは綺麗ねぇ…アレクにはもったいないくらい」
「あ~…あははは……」
座った瞬間からアレクに腰に腕を回されて、こっそり手の甲を抓りながら私はカップを持ち上げた。
「ベルちゃん、二人にもお茶を用意してくれる?」
「ただいま。 …失礼します」
「ありがとう…ベルアったらベルちゃんなんて呼ばれているのね」
「はい。 ミア様がそっちのほうが似合うって仰って…」
はにかむベルア…めっちゃ可愛い。
──────マジで美人と可愛い子に囲まれて幸せww
あ、綺麗で可愛い女の子が好きなだけで、同性愛者ではありません。
更に言うならば、偏見もございません。
好きなら別に良いんじゃん? 誰に迷惑かける訳でもなし。
と言うのが持論です。
隣のヤンデレはこの際気に──────
「俺もアレクと呼ばれたいのだが?」
「……そのうちに、な…」
横から平坦な声でそう言われ、私はそっと身を引いた。
が、腰に回された腕が離れることは無く────更に引き寄せられてしまう。
────この馬鹿力っ!!
ここで魔術を使うのはどうなのかって思い、私は仕方なく諦めた。
「………っ…」
でも、このくらいはしてやろうと…こっそり静電気を浴びせた。
──────────躾は大事です。