実に良い笑顔でした。
「つまり────ヴァルト伯爵は…私がこの前見つけた不正の中心人物だったってことね」
「あぁ…それで暗殺者を雇って…ミアを狙ったらしい」
「ほうほう……ねぇアレク…私、今結構苛ついてるんだが…こうゆう感じで奴を誘き出すのはどうだろう…」
私が出した提案に楽しそうに頷いたのは、アレクではなく何故か前皇帝のリヒトと宰相のユーグだった。
「失礼しますっ! 皇帝閣下…お久し振りでございます」
「あぁ…急に呼び出してすまないな…どうしてもヴァルト公にしか頼めない事案だったからな」
「いえっ…そんなっ…私でよければいつでも皇帝閣下の役に立ちたいのですっ…」
「頼もしくて助かるぞ、ヴァルト公…」
勢い良く謁見の間に現れたヴァルト伯爵に、衝立の奥に隠れていた前皇帝と私はこの茶番劇に笑いが抑えきれない。
「実は…先日私の大事な王妃が暗殺者に狙われてな…犯人は捕まえたんだが…その…」
「っ王妃様がですか?! 王妃様はご無事なのですかっ?!」
──────おお…ヴァルト伯爵演技上手いなぁ…
「それがな…どうやら意識を失う前に犯人を雇った相手に向けて呪いをかけたらしい…」
「────────ぇ?」
「侍女や医療師が見ていた前で…その…っうぅ……」
「こ、皇帝閣下っ…その呪いとはいったいどんな…」
「……………私なら、……一生外に出れないなっ…男として…あんなっ────」
────────アレクも演技上手すぎるっ…
常に無表情だけれども、顔を背けてるのは多分笑いを堪えて居るのだろう。
きっと想像しちゃったんだね、解ります。
呪いは『頭の毛が全部無くなって、更に女性から相手にされない』と言いました。
「こ、皇帝閣下っ…そ、そんなに辛い呪いなのですか?!」
「あぁ…ミアならでは、のな……私ですら、ミアの魔力は恐ろしいものがある…きっと一生…」
「そ、そんなに……の、呪いは解けないのですか…?」
真っ青になってるヴァルトに、アレクは小さく頷いた。
「まぁ…私の王妃に暗殺などしたのだからな…きっと今頃雇い主は笑っているのだろうが……まぁ最終的には呪いで勝手に死ぬことになるだろうしな。 皇族に手を出すのだ。 反逆罪で絞首になるのも当然だしな…それでだ、公を呼んだのはその反逆者を見つけて欲しいのだ…どうやら…大臣の中に居るらしいのは解っているのだが、ミアが名前までは言わずに意識を失ったらしい…」
「────────っ…」
息を呑み真っ青のヴァルトに、アレクはゆっくりと視線を向けた。
「どうだ…ヴァルト伯爵やってくれるか?」
「は…はい…」
皇帝に頼まれては否とは言えないだろう。
真っ青から真っ白になったヴァルト伯爵がふらふらと謁見の間を出て行くのを見届けて、アレクがこちらにやってきた。
「ぶっ…くっくっく…あの男の顔…やばかったな」
「ふっ…はははっ…腹筋痛いっ…」
「ミアのことより先に呪いの方を聞いてきたのがムカついたからな…最後まで教えなかった」
「ナイスっ…アレク最高だった」
「だろうっ…俺も良く出来たと思う」
三人で笑っていると、ユーグがやってきた。
「伯爵の家の方は第2騎士団が包囲しています」
「そうか、ありがとう…ユーグ」
「いえいえ…乙女で内気なアレク様を受け入れてくれた大事なミア様に傷をつけたのはヴァルト伯爵ですから。 それに私も少々腹立たしく思っていましたから…」
「そうなの?」
「無能な癖に領主になれたからとすぐさまその無能さぶりを発揮した大馬鹿者には、お灸が必要でしょう?」
「「「…………………………」」」
実は一番怒っているのは、ユーグだと思う。
宰相として、部下の悪巧みに気付かなかったことも悔しいのだと…。
「なので…私もすれ違い様、一言『呪いは怖いですよね…だって一生…』と呪いの説明はせず、顔を背けて言っておきました」
────────────実に良い笑顔でした。




