猛獣使いになった気分。
──────────それは一瞬の出来事だった。
「きゃああああああああああああああっ!」
ベルアと一緒に書庫に向かっている途中…
背中が物凄く熱くなった。
「ミア様っ! ミア様ぁぁぁっ!! 誰かっ! 早く医療師をっ────!」
斬りつけられたのだ────と気づいた時には、背中側の細胞が一瞬で蠢き出し傷すらも残らずに治ってしまった。
「この野郎っ────! 『拘束 浮け』っ」
「────っ?!」
私の血で染まった剣を持った犯人の身体を、人差し指で空に浮かせ意識して微笑んだ。
「『落ちろ 浮け 落ちろ 浮け』」
空中で上下に浮いたり床ぎりぎりに落としたりしていると、ベルアが呼んだのであろう警備兵と医療師がやってきた。
「『拘束 凍れ』」
一瞬で氷漬けにされた犯人を見つめ、息を呑む警備兵に医療師。
ベルアはこちらに寄ってきて、私の背中を見つめた。
「ミア様っ! 大丈夫ですかっ?!」
「ったく……最近平和だったから忘れてた…アレクに《ヴァルト伯爵》の刺客だって言って来てくれる?」
「はいっ!」
「警備兵はコレをアレクの執務室に運んで。 医療師は…すまないが、血液を増幅させる薬をくれ」
「はい…お身体の方は大丈夫でしょうか…?」
「あぁ…もう傷は治っている。 それ、氷漬けだが…冷たくはないし筈だし、浮遊を付けてるから重くない筈だ。 よろしくな」
「はっ!」
慌てた様に走り出したベルアを一瞥して、私はのんびりと指示を出す。
運び始めた警備兵を横目に、私は医療師の方へ歩み寄った。
「大丈夫ですか?」
「あぁ…さすがに避けられなかった…湯浴みをして着替えてから行くとアレクに言っておいてくれ」
医療師に背中を見せると、彼は小さく頷き小瓶を渡してきた。
近くに居た別の侍女にそう告げると、私はメンドクサイ…と呟きながら、私室へ向かった。
「すまん、待たせたな」
「ミアっ!! 大丈夫かっ?!」
「あぁ…」
アレクが心配していると解っていたので、あえて背中が開いたドレスを身に纏い、私は彼の前に立った。
「良かった…」
「すまないな…油断してしまった…」
「ミアが無事で良かった…」
「ふふふ…」
アレクに抱き寄せられて、私はゆったりと身を任せる。
「魔女で良かった…でなければ助からないほど深かったからな…」
「ミアっ…」
「だが…血が流れ過ぎた…座りたい…」
「あぁっ…」
アレクに引き寄せられて、彼の足の上に横抱きにされる。
皆が見ている前で何をする! と怒鳴りたかったが、アレクの青白い顔を見てしまい…やめた。
「大丈夫だ…心配かけてごめん…」
「ミアっ……命が縮まった…」
「アレク……そろそろ話を始めようか」
「っ…あ、あぁ…」
私がキスをして黙らせると、アレクは真っ赤になりながらも無表情に頷いた。
──────────猛獣使いになった気分。




