どうしましょう?
見切り発車です。
「──────────どちら様?」
目の前に居るキンキラ輝くオーラを放つ男達を見て出た言葉は、それだった。
私の名前は神野 美愛。表情筋は産まれた時に、母親のお腹の中に置いて来た。
なので、凄く驚いているが全く表情に出ていない上、むしろ突然現れたこちらが言われるべき言葉を発し、平然と机に近づく私に、男達が訝しげな視線を向けてきた。
───が、そんな視線如きで動じる人間性ではなかった私は、コテンと首を傾げた。
──────確か、今神社の階段を登ろうとしてた筈………
今更になって、ガタガタッと音を立てて慌てた様子で椅子から立ち上がる外国人と思わしき外見の男性3人を首が痛くなるくらい見上げ、私は冷静に自分に起きたことを分析し始めた。
──────チッ…チッ…チッ…チッ…チ-ン。
「あ、もしかして────異世界に飛んだ、のか…?」
今日、仕事の帰りに同僚の清水さん(37歳)が乙女ゲーム好きで、呑みながら話してた内容を思い出す。
──────確か…異世界に飛ばされるんだよな…
──────んで、主人公はいきなり異世界人と会話が出来て…
──────そんで主人公が全能チートな魔力とか能力とか持ってて…
──────誰かと恋愛しなきゃいけなくて……
──────────うん、めんどい。
──────こんなに豪奢な部屋なんて今の世の中金持ちだけだろうなぁ…
冷静に脳内で分析しながらぐるりと室内を見渡して、静かに一番偉そうな黒髪のダンディなおじさんに、視線を向ける。
「ここは何処?」
「ここはオークデュレ帝国の皇帝の執務室です。魔女様」
答えてくれたのは、ダンディなおじさんの横に居た、金髪で緑色の瞳を持つ柔和な笑顔の男性だった。
「魔女の方かよ…うわ~…ないわぁ」
脳内で清水さんの話してた内容を理解した瞬間───、私は思わずそう言ってしまった。
──────ゲームの中では、魔女は尊敬され慈しまれる対象だった筈…
「あ~……ごめん、ここに飛ばされちゃったみたい」
てへっ☆ と無表情にそう言うと。
「ふむ…魔女様は異世界人…つまり,【神様の御子】ですかな?」
ダンディなおじさんから、そんな言葉をかけられた。
「全能の魔力を持つ、【神様の御子】ってことですか……ベアトリーチェ様以来の大魔女様の誕生ですねぇ…」
──────ベアトリーチェ……あ~…大魔女の名前で…全能な魔力持ちで…めっちゃ美人だっけ?
「そうみたいなんですが…いまいち、受け入れられなくて……そのお水貰えます?」
「あ、…どうぞ」
「ありがとうございまーす」
ぎこちない動きで近くのグラスを渡してくれたのは、この中で異様なオーラを放つ無表情で一番身長の高い黒髪赤眼の男性だった。
──────んん? 毒…?
「皆さん、申し訳ないんですがね……この水、毒入りです」
「「「は?」」」
驚きを表すダンディと金髪、無表情の黒髪の男性。
私はすぅっと手を水の入ったピッチャーとグラスに手を翳した。
そして──────
『名も知らぬ毒の成分よ…我の前に形を織り成せ』
水と毒の成分が空中に浮き上がり、それぞれに分かれる。
水をグラスやピッチャーに戻し、石のような形になった毒を持ち上げ──────
意識して口端を上げた。
「さて────どうしましょう?」