日常の範疇の日
「僕はどうすべきだろうか」
私は親友、シアに尋ねる。
「そういうのはよぉ、お前で考えた方がきっと上手くいくぜ」
シアは晩御飯の、油っこいチキンナゲットのような料理を頬張りながらそう言った。
「つーかもう割と考えまとまってるんじゃねぇの?」
「今考えているのは、ここで暮らせる1年間は通って、その後住み込みでやっていくっていうのはどうかなって。」
私は先刻、ドストフさんから受けた提案(強制)について悩んでいた。
「別にいーんじゃねぇの?つか、その話受ける前提なんだな」
「断る権利があるか定かじゃないけど、あったとしても受けるつもりだよ。今の僕にとってこんなに魅力的な提案は無い。」
1年後には帰る場所もなくなる1文無しにとっては、働き口は必須だ。
「ふーん。まあ心変わりもあるよな。こっから先は全部自分で選択しなくちゃいけないんだ。俺にばっか頼ってんなよ〜?」
これはシアの言う通りではあった。
しかし、住み込みの難点は寮制である事だ。
シアとは生まれたばかりの頃からの友人で、転生してから長らく友達を作ったことが無かった。
そのせいで私の初対面の相手に対するコミニュケーション能力は著しく低くなっていた。
「まぁ、苦手な事は克服しなくちゃね」
まだ考える時間は丸1日ある、そう思いながら床に就いた。
朝起きると、いつもなら隣のベッドで寝てるシアがいない。
施設の他の友達に尋ねる。
「シアどこに行ったか知らない?」
「シアならさっき「この街一番の鍛治職人の所へ行く」って言って出て行ったよ。なんでも、弟子入りするんだとか。」
ほぉ、と思いつつ、その行動力には感心した。
一昨日スキルが判明したばかりなのに、少し行動を起こすのがお互いに早すぎる気がする。私は受動的だが。
「シアが居ないんなら、今日はアレをしようかな。」
そう言い、私は施設の共有倉庫を開いた。
「今日は……この子にしよう。」
倉庫の中からフルートを1本手に取り、私はスキップでとある場所へと向かった。
がやがやと、騒がしい音がする。
そこには、甲冑を纏った大男や、立派な杖を携えたウィッチ、さながら聖女のような格好をした者まで居た。
そう、ここは冒険者ギルド。
基本的にクエストの受け付けなんかをしてくれる場所取りだが、今日来た理由は違う。
ここの冒険者ギルドには無償で使える訓練施設がある。
何も無い日にはギルドに許可をとり、その空間で楽器を弾かせてもらっているのだ。
今日はそれだけでは無い。
明日から魔法の訓練に入るのだから、魔法に体を慣らしておきたい。
幸い、魔法は得意な方である。
出力を出しすぎる癖があるが、甘く見ても人並み以上に使える。
「よぉウィル坊!今日はフルートか?」
冒険者ギルドに通う中でできた、知り合いの魔法使いのおっちゃんだ。
こっちの施設に越してきてすぐに仲良くなったから、もう6年の付き合いにもなる。
「今日はそれだけじゃない。魔法の練習をしようと思ってね、今日からはちょっと真剣にやろうと思うんだ。」
「おお!それならおっちゃん教えられることあるで!」
「あぁ、演奏が一通り終わったら指導役をお願いしてもいいかな?」
「ガッテン承知や!ついにウィル坊が魔法に本腰を入れる気になったか!」
とりあえず椅子に座り、演奏を始める。
「さすがやなウィル坊!」
「まぁ物心つく前からやってるから。それで、魔法の指導をお願いしたいんだけど、頼める?」
「ウィル坊が俺になにか頼むなんてここに初めて来た時以来やな!」
魔法訓練場に移動する。
「とりあえず1発、なんでもいいから魔法撃ってみ。」
私は火炎魔法の構えをとる。
「〈火炎球〉!!」
目の前を覆い尽くすほど大きい火炎の球が現れる。
「おい!魔力操作雑すぎやろ!そんなん数発撃ったらぶっ倒れるで!」
そんな事言われても出来ない事はすぐには出来るようにならない、これでも必死に抑えたつもりなのだ。
「てかこれ、どっかに当てるまで消えないんだよな」
「ちょっと待ってろ……〈消失魔法〉!」
バシュッ!!
……火炎球が一瞬にして消える。
「あー……これは結構訓練が必要そうやな……」
「……頑張る」
……4時間後
「まぁこんなもんやろ。あの出来からなら随分上手くなった方や。」
4時間も魔法を打ちっぱなしだと流石にヘトヘトになる。
ただでさえ出力に抑えが効かないのだから、当然普通の人間より疲れるのは早い。
「いや本当に感謝してる……おっちゃんも疲れたでしょ」
「いいってことよ!もうあんま声張り上げる力も残ってへんけどな!」
と、そんな会話をしていると
「おい魔法使いのおっさん!ちょっと来て!」
と、ギルドの方から呼ぶ声がした。
「なんや!」
呼ばれた方に行ってみると、そこには捕縛されたアルマジロのような魔物がいた。
「コイツさっき人里に降りてきた魔物なんだけど、皮膚が硬くて捕らえたは良いものの、トドメがさせないんだよ。」
「なるほどね〜、ウィル坊、何かいい案あるか?」
おっちゃんは高出力の攻撃魔法が得意ではない。
それに今は私の訓練で消失魔法を多様したせいで、残存魔力がほとんどない。
今なら私の方がまだ威力の高い魔法を使えるだろう。
「分かりました。殺せばいいんですよね?」
「おお、妙案でもあるんか?」
幸いまだ1発分くらいの魔力は残っている。
「えっと、こいつの口を僕の方に向けてくれませんか?」
「いいけど……こいつ口を硬く閉じてるぞ」
「大丈夫です。じゃあ……」
魔物の口に手のひらを当てる
〈火炎球〉!!!
グチャッ!!
魔物の穴という穴から血肉が飛び散る。
「おっ!おまっ!アホぉ〜、、」
「ほら、こうすれば魔物の体内に魔法を撃ち込める。」
「こんなっ……掃除誰がすると思ってんねん……ギルドの人に迷惑やろがぁ……」
まぁ……それは申し訳ないが中級クラスの魔物だったし、殺せって他の条件言われなかったから……というのはいい訳だろう。
「ご、ごめん。僕も掃除手伝ってから帰るよ。」
「お前冷静に見えてそういう節あるでな」
「はぁ〜、今日は疲れたよ。最後のは自分で作った仕事だったけど。」
なんて呟きながら晩御飯のトマトスープのような料理を啜る。
食堂の入口からカツカツと足音がする。
「ウィルフ、お前も随分疲れてんな。」
そう言ってシアは私の向かいに座った。
「シア、君の方はどうだったんだ?」
「いやーもう大変!門下に入れてもらおうとおもったんだけど、門下生の人も師の人も全員気が強いのよ!こりゃ俺みたいな繊細ボーイには難しいかもねぇ」
「アホ言うな、職人志望なら決めた事はやり遂げろ。」
そう発破をかけて、私は飯を口に運ぶ。
「とりあえずメシとってこい。」
食べ終わった私達は自分の部屋に戻る。
明日は研究所にもう一度行ってどうするか伝える。
迎えの竜車が朝に来る予定なので、早めに床に就く。
「なぁウィルフ、俺上手くやって行けると思うか?」
「少なくとも僕よりは上手くやるだろ。もっとダメなやつに意見を仰ぐなよ。」
ドッドッドッド
ドラゴンが走ってくる音がする。
「来たかな、」
王都行きの竜車停の前で待つ。
竜車が到着した。
緊張を抑え、竜車に乗り込む。




