黄泉竈食の花
「おいウィルフ!!起きろ!!」
私は管理人の怒号で目を覚ました。
私は昨日、スキル鑑定の結果をもらった後、私達の住む王国運営の居住施設(見た目は収容所のようだが)に帰った。
それ以外のことは、スキルの事のショックで泥のように眠ったので、あまり覚えていない。
「……はぁぁ〜っ……なんですか?」
「国の役人がお前をお呼びになられた!くれぐれも不敬のないように!」
私はその言葉を聞き飛び起きた。
心当たりがあるとすればただ1つ、昨日のメッセンジャーの言葉だ。
だが、昨日の今日でそんなにすぐ声が掛かるものなのか、甚だ疑問だった。
「えっ、えぇ〜、分かりましたすぐ行きます。」
「君がウィルフリード君だね?」
平民を迎えるにしては随分と煌びやかな軽装甲を纏った、身長190cmはあるであろう縦に長い大男はそう言った。
彼の後ろには馬車のドラゴンバージョン、竜車があった。
「悪いね、この竜車に乗ってくれ。ここは王都からそう遠くない。1、2時間で着く。」
私はこの言葉を聞いた時、意外かもしれないがとても希望に胸が膨らんでいた。
もしこれで王国のもと働けるという事にでもなれば、最高と言わざるを得ない。
まず、王都に行って働くことは、日本で言う上京の様なものだ。
ましてや、王国の直属で働けることは東京人の中でも高給取り、俗な言い方をすれば勝ち組になれるということだ。
意気揚々と竜車に乗り込む。
「発進!」
1時間とちょっとして、煌びやかな王宮が見えてきた。
いつかもしかしたらあんな所で働くことが出来るようになるかもしれない、吟遊詩人という夢をすっかり忘れそんな事に想いを馳せていた。
「ウィルフリード君、着いたよ」
そこは、思っていた程豪華では無い、と言うよりセキュリティに全振りの無骨な見た目をした大きな建物だった。
「アルカンだ!例の植物マイスターを連れてきた!開けてくれ!」
重々しい音と共に、入口が開く。
私は、自動ドアみたいだと少し関心した。
「アルカン……さん?ここは何の建物なんですか?」
恐る恐る尋ねる。
「ここは新種の植物に関する研究所だよ。」
私は内心、研究に協力しろと言われても、昨日自分のスキルが判明したばかりの私には何も出来ないと思った。
建物の中に入ると、とても清潔で中世くらいの時代感のこの世界では信じられないほど進歩した空間があった。
「着いてきて。研究所長に会わせる。」
研究者と思わしき人が沢山いる。
そして、なにやら怪しげな扉の前に着く。
「アルカンです。例の少年を連れてきました。入ります。」
ウィーンと、音を立てて扉が開く。完全に自動ドアだ。
部屋を見て、まず目が行ったのは奥にある巨大な培養槽の様な物の中にある、神々しく光る花だった。
妙に暗い部屋の中で、目に映るソレは異様だった。
「……君がウィルフリード君だね?」
そう声をかけられて初めて、白衣の、小太りの男に気がついた。
「私の名はドストフ。ここの所長をやっている者だ。早速だが君に頼み事ぉ〜……というのも不適切だが話があるんだ聴いてくれるかい?」
随分と飄々とした話し方に面食らって変な声が出てしまった。
「えぁっ、は、はい。」
「ありがとう、というか君自分のスキルの詳しい分析結果見た?あれね、国の人も目を通してるんだけど君のスキルがウチで凄く役に立つんだ何故か分かるかい?」
ドストフの話はとどまるところを知らず、マシンガンのように言葉が紡がれていく。
「はい、植物を育てる魔法に特化してるからですよね?」
「ン素晴らしい!そうそうその通り。何よりここに来る道中にここで何をやってるか察せる洞察力が素晴らしいね。だってさぁ、いくら魔法が凄くても馬鹿を雇いたくないだろう?」
質問でピタっと話が止まるから一瞬ビクッとなる。
「ま、まぁそうですね、ここ研究所ですし。」
ドストフはじわじわこちらに近づいてくる。
私はドストフが、苦手な「奇人タイプ」だと直感する。
「まぁとは言ってもすぐに雇う訳じゃ無いんだけどねぇだって君まだスキル判明してから丸一日も経ってないでしょ?」
「そうです……ね?」
「だからさぁこれから言うことは提案……という体なんだけど、この研究所で魔法の訓練を受けて欲しいんだ。まぁ国の意向だから君に拒否権があるとは言いづらいけど。どう?」
私はあまり迷わなかった。
と、言うのも今居る居住施設で無償で暮らしていけるのはスキル判明の1年後、つまり今からちょうど1年間の間だけなのだ。
早いうちに働き口を探したい私にとって良い提案だった。
ただ、すぐに食いつくほど、私の思考は短絡的ではない。
「詳細を聞かせてください。」
「……君イイねぇ、詳細ね、ええと……確かこっちに書類があったと思……あぁ、ええとね、住み込みか家から通うか選べるよ、住み込みなら衣食住は着いてくる、家から通うなら移動費は出る。期間は4年間で卒業までに規定のレベルをクリアできたら研究所の方で正式に雇うって感じかな。もっと詳しい事知りたいならこれ読んで。」
そう言ってドストフは1枚の書類を手渡してきた。
「……少し考えてもいいですか?」
「もちろんだとも!どの道研究所を見て回ってもらった後、今日は一旦帰ってもらう。親御さんとゆっくり相談しなさい。」
「……はい」
親はいません。とは流石に言えなかった。
「最後に1つ、回答次第では2つ、質問いいですか?」
蛇足な質問かとも思ったが、何かが引っかかった。
「なんだね?」
「数年前、国が総力を上げて植物マイスターを探したと聞きました。それは本当ですか?」
「本当だよ。正確に言うと、植物系のスキル持ち全般だがね」
「なら、何故そんなことをしたんでしょう?そんなに大量に人員が必要とは思えません。」
「……君を少し気に入ったから教えてあげよう。私の後ろの大きなカプセルの中にある花が見えるかい?」
「……はい」
「あれは『黄泉竈食の花』といってね、開花に1000年かかると言われてる。でも、それじゃあ研究がちっとも進まない。だからね、膨大な魔力を注いで強制的に開花させて研究しようって試みなのよ。」
「黄泉竈食……その花にそんな事をしてまで研究する価値があるんですか?」
「……質問は2つだったね?まぁ君はどのみち知ることになるさ。君には野心を感じる、同僚になれることを期待しているよぉ。」
「そうですか……ありがとうございました。」
「いいんだ。まぁ研究所見学を楽しみなさい。」
そう言って私はアルカンに連れられてその部屋を出た。
研究所見学を終え、空は赤くなってきていた。
「アルカンさん、黄泉竈食の意味って知ってます?」
そう聞くと、アルカンさんは困った顔をした。
「いやー、俺はただ国にここの騎士として雇われてるだけだから何とも……研究所の人達みたいに頭は良くないんだ。」
私は「ここに雇われてる騎士なのか……」と内心思いつつ、こう言った。
「黄泉竈食とは簡単に言えば、あの世の物を食べてしまうと二度とこっちの世界に戻って来れなくなる、という理の事なんです。」
「へぇ〜、てか知ってたんだ。君は君で賢いんだね。」
アルカンさんはそう言いつつ、訝しげな目をした。
そんな話をしていると、竜車が到着した。
私は帰りの竜車で少し眠った。




