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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

幽樂蝶夢雨怪異譚

河童

作者: 舞空エコル

お蔭さまで皆様から大変ご好評?をいただいております

『幽樂蝶夢雨怪奇譚』も記念すべき第10回を迎えました。

ありがとうございます感謝しますグラッチェグラッチェ♪

さて記念回ですからね、ここはやはり妖怪モノでご機嫌

を伺うべきであろうと考え(←何でやねん)満を持して

お待ちかね、河童の登場ですよ。やはり、本邦で妖怪の

代表格といえば、何はさておきまずは河童でございます。

頭には皿、背中には甲羅があり、胡瓜が大好物。子供を

水中に引きずり込み、尻子玉を抜いて溺れ死にさせると

いういかにも妖怪っぽい邪悪な面を持ちつつも、頭の皿

の水が乾くとシオシオノパアで弱ってしまい、捕まって

雨乞いをさせられたり、意外と人懐っこくて人間と相撲

を取って楽しんだり、普通に諺にもなっているし、芥川

龍之介の代表作にも出てくるし、水木しげる先生が漫画

の主人公にしてたり、さらに日本酒のCMキャラクター

としても、あまりに有名な…… そう、あの河童ですね! 

しかし、本当に架空の存在なのかしらん? 日本各地の

お寺に全身や腕のミイラが所蔵されてたり、女性が和式

トイレで用を足していると下から手が伸びてきてお尻を

触ったというエッチな話もあるし、何よりも東スポでは、

河童の目撃情報が、頻繁に一面で記事になっております。

回転寿司の全国チェーン店も経営しているくらいだしさ、

もしかして本当にいるんジャマイカ? いるな、これは。


というわけで河童のお話ですが、皆さんが河童の存在を

強く信じて心から祈ったら、河童さんが本当に出てきて

尻子玉を抜いてくれるかもです。しかし何なんだ尻子玉

って? その答えは本編にあるかもだ!(ないかもだ!)

では読んでくださいね。カッパッパ~、ルンパッパ~♪

 私が小学生の頃の話です。当時住んでいた、田舎の

 の小学校の裏山に、大きな溜池がありました。子供

 は絶対に近づいてはいけないと言われていましたが、

 その池は春から夏にかけて、鮒や鯉やザリガニなど

 の宝庫になるので、放課後になると釣り竿やタモ網

 を持ってこっそりと出かけ、日が暮れるまで夢中に

 なって遊んでいました。ある日の夕暮れ、私と友人

 が釣り糸を垂れていると、突然ザボンと大きな水音

 がして、目の前の水面がゴボゴボと泡立ちました。

 私たちは息を呑んで、顔を見合わせました。


「鯉…… かなあ?」

「いや、あんなでかい鯉はいないだろう」

「じゃあ…… 何だよう?」


 二人とも怖くなってきました。というのも、最近の

 学校では、この溜池に河童が住み着いているという

 噂が流れていたからです。子供を池に引きずり込み、

 尻子玉を抜いて、溺れ死にさせてしまうとか……


「も、もしかしたら、河童…… ?」

「いくら何でも、河童なんていないよ!」

「…… いないっていう証拠は?」

「…… じゃ、いるっていう証拠は?」


 その言葉に応えるかのように、再びザボンと水音が

 しました。悲鳴をあげて逃げ出す私たちの目の前に、

 汗を滴らせた、筋骨隆々の河童が立ち塞がりました。


「ここには来るなと、あれだけ何度も言うておるのに、

 また性懲りもなく釣りをしにきたか。バカモーン!」


 学年主任、体育担当の川端でした…… いつも緑色の    

 ジャージを着ていて、しかも頭のてっぺんが円形に

 禿げているため、生徒たちからは河童とかザビエル

 とか、言い得て妙だけれどさすがにちょっと気の毒

 かもと思われる陰口を叩かれていました。


「せ、先生…… か、河童! 河童! 河童、先生!」

「何ぃ、わしが河童だと? もう一度言ってみろぉ!」


 川端先生の怒りの鉄拳が、躊躇なく飛んできました。

 今と違って、体罰が普通に罷り通っていた時代です。

 私と友人は殴られ、こっぴどく叱られ、泣きながら

 帰宅しました。河童の恐怖も、河童もとい川端先生

 に殴られた痛みですっかり忘れてしまいました。

 

 ところが翌日、大騒動が持ち上がりました。同級生

 の女の子が、昨日から行方不明だというのです……

 やれ神隠しだ誘拐だと、先生も生徒も浮き足立って

 囁き合う中、私と友人は黙って顔を見合わせました。

 恐ろしい想像が、脳裏をよぎります。


(もしかしたら、河童が池に引きずり込んだのでは?)


 誘拐の線で捜査している警察が、あの池に注目する

 のは、もう少し先の話でしょう…… 私と友人は自分

 たちで調べに行くことにしました。夕食後、雨の中

 を自転車で溜池に向かいました。懐中電灯で水面を

 照らすと、雨滴が作るいくつもの波紋が見えました。

 思い切って水際まで近づくと、それを待っていたか

 のように水面がゴボゴボと泡立ち始めました。懐中

 電灯の黄色い光が、水面で揺れるおかっぱの髪の毛

 を捉えます。行方不明だった同級生の女の子の体が、

 俯せでゆらりと浮き上がってきました。衝撃と恐怖

 に凍り付いていると、死体がゆっくりと持ち上がり、

 その下から、濡れた緑色の全身が水面に現れました。

 河童は死体を抱えたまま、シュノーケルと水中眼鏡

 を外すと、私たちをギロリと睨みつけてきました。


「またおまえらかあ!? 何をしている!?」


 禿げ頭で緑色のウェットスーツを着た川端先生は、

 誰がどう見ても、不気味な河童そのものでした。


「せ、先生が殺したんだ…… 」

「殺して、沈めたんだ…… 」

「な、何を言っている!? そんな訳ないだろう!」


 しかし、川端は、目に見えて焦っていました。


「それで昨日、ここにいたんだ…… 」

「ぼくたちに見られたと思って、死体の回収を…… 」

「か、かか、か…… 勝手な想像でものを言うなあ!」


 川端は女子の死体を無造作に投げ捨てると、長い腕

 を伸ばし私の襟首を掴みました。そして、そのまま

 私を強引に、池の中へ引きずり込もうとしました。

 このままでは、自分たちも口封じで殺されてしまう!

 そうはさせじと必死で私の体を抱き止め、踏ん張る

 友人の助けも空しく、川端の怪力に負けて、二人共

 池に転がり落ちました…… 川端がニヤリと笑うのが

 見えました。私と友人を有無を言わさず押さえつけ、

 水中に沈めます。苦しくて、もがけばもがくほど、

 喉に水が流れ込んできて…… ダメだ、もう限界だ……

 意識が遠のきかけた、そのときです…… 川端の背後

 の水面がボコボコと泡立つと、水中からぬめぬめと

 した緑色の何かがすうっと伸びてきて、川端の首に

 巻き付きました。斑模様になった緑色の、細長い腕。

 鋭い爪が伸びた指の間に、薄い水かきが見えました。

 川端の表情が恐怖に歪みました。


「や、やめろ、離せ…… 離してくれ…… 助けて!」


 緑色の腕は、川端を容赦なく、濁った池の水の中に

 引きずり込みました。やがて、大きな水泡がひとつ、

 ボコリと浮かび上がってきて弾けると、川端の緑色

 のウェットスーツも、禿げた頭頂部も、完全に水没

 してしまい、何も見えなくなりました……


 私たちの通報で、警察や教師や村人たちが、溜池に

 駆け付けたときには、同級生の女子の亡骸はすでに

 水辺に揚げられ、安置されていました。いつのまに

 誰が用意したものか、寝床のように敷き詰められた

 たくさんの白い菊の花の上で、汚れと水気を丹念に

 拭き取られ、清浄な経帷子を身にまとい、死に化粧

 まで施された綺麗な顔で、目を閉じ、穏やかに永眠

 する少女の姿に、居合わせた人間の誰もが、思わず

 涙して、項垂れ、合掌していました。


「おーい! 川端もいたぞぉ!」


 引き揚げられた川端は、すでに事切れ、全裸でした。

 そしてその身体には、目を覆いたくなるほど凄惨な

 損壊が加えられていました。両腕両足の関節は全て

 逆向きに折られ、口蓋は両頬に裂傷が走る程の力で

 強引に引き裂かれていました。そして、その大きく

 開いた口に、川端の股間から捥ぎ取られた逸物が、

 陰茎も、陰嚢も、喉の奥の奥にまで、これでもかと

 容赦なく、ぎゅうぎゅうに押し込まれていました。


「此度はガタロも、さすがに頭に来たようだなあ」

「大人が子供に悪さするのを、一番嫌うからなあ」

「あれはまだ、息があるうちにやられておるなあ」

「激痛で目玉が、蛙のように飛び出しておったわい」


 年配の消防団員たちが声をひそめて、意外にも左程

 驚いてもいない様子で、言葉を交わしていました。

 しかし、すぐ傍でその話を聞いていた私と友人は、

 怖くなって顔を見合わせました。


 背後の池で、ザボンと水音がしました。    


【ネタバレを含みます。本編を読んでから閲覧してね!】







いかがでしたか? ラジオ放送時には河童が川端を水中

に引きずり込むところで話が終わったのですが、今回は

せっかくの第10回記念なんで、その後の展開も少しだけ

書き加えました。河童が少女の亡骸は丁寧に弔うけれど

川端の死体(死ぬ前かもけど)は残忍に扱うのは河童の、

妖怪というより祟り神/精霊の側面を仏法の因果応報的

に強調しようと意図したもので…… 嘘ぴょん、残酷描写

でビジュアル的にグロい恐怖を煽りたかっただけなの、

ごめんなさい。個人的にはこの河童の正体は、遥か昔に

宇宙からやってきたプ〇デター系の異星人で、初稿では

殺した川端の背骨を抜き取って、おケツの穴にその背骨

を突き刺す! という衝撃グロ描写も考えたのですが、

おケツはともかく背骨を抜き取ったら、もろプレ〇ター

じゃんよと突っ込まれるんジャマイカと思って仕方なく、

背骨ではない部位をお口に突っ込むことで妥協しました。

しかし陰部を切り取って口に突っ込むというのは、何か

似たような話が過去にあった気もする…… 何だったっけ?


あと、学校の先生がサイコパスの殺人犯という真相は、

数年前に見たミステリー映画に、そのまんまオチとして

出てきてびっくりしましたが (タイトルは書かないわよ。

自分で調べてね) 私がこの話を書いたのは20年以上も前

だから、誓ってパクリではありません。信じてください!

まあでも、教師とか警官とか聖職者とかが真犯人でした

という話は、昨今そんなに珍しくもないかもです。


個人的には妖怪とはいえ日本人には昔から親しみがあり、

民話的、寓話的に愛嬌のある滑稽なキャラクターとして

描かれることが多い河童を、ストレートに恐怖の対象と

して、ハードボイルドに描いてみようと意図した結果が

このエピソードかもしれません。実際、河童がこんなに

シリアスに河童ビジュアルのまま怪物として出てくる話

って昭和ウルトラセブンのテペト以来なんジャマイカ? 

他にもあるなら正直すまんかった。ああ、でもテペトは

怪物じゃなく怪獣か。そもそも怪物と怪獣の違いとは?

知らんがな平仮名。まことにスイマメーン♪


それにしても本当、尻子玉っていったい何なのかしらん?

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