弟が現れた
お祭りにて、ラムド様の好感度を下げようと頑張っていたら、突然見知らぬ少年に誘拐されてしまうというハプニングに遭った。
彼に話を伺うと、どうやら不審者では無く私の弟らしい。
「えーと、実はこないだ寝ぼけてベッドから落ちてしまって、それ以降一部記憶が欠損したみたいなの。だから貴方の事を教えて?」
「え、まじかよ……」
弟さんが、かなりドン引きしている。
まぁそらそうだ。
実の姉に名前教えて、なんて言われたら誰だって妙な顔になるに決まってる。
しかも、記憶欠損の理由も何だかバカっぽいし。
だって、仕方がなかったのよ。
咄嗟に理由が思い付かなくて、ライラが考えた言い訳を言ってしまったの。
だけど、言ってしまったからには仕方がない。
このまま突き通すしかないわ。
「お願い、弟くん」
「……意味不明だけど、姉様が僕に嘘をつくわけが無いし、信じるよ」
滅茶苦茶素直で良い子だった。
「僕は、レイ。姉様の弟で……って言っても、僕達は母が違うから異母姉弟だけど」
「異母……ラムド様もそんな事言ってたわ」
「王族や皇族に生まれた者達は、血を絶やさない様に本妻以外にも沢山の女性と結婚して子どもを産んでるからね。僕もその一人で、6歳の時に母に連れられて王城に来たんだ。そのまま母と別れて暮らしてるけど、ロッジ兄様と姉様が優しくしてくれたから、別に苦では無かったな」
「側室って歴史の教科書とか、大河ドラマしか観たことないけど、本妻の他に女がいて子どもまでって、今の日本なら裁判沙汰になってるわね」
「ニホン?」
「あ、いえ……こっちの話。そのレイ君は、本当のお母さんに会いたくないの?」
「その呼び方気持ち悪いからレイ、で良いよ。僕も一応王族として教育を受けてきて6年経つし、12歳なんてもう立派な大人だよ。今は、兄様と姉様を、お支えするのが僕の使命だ」
「何ていうか……レイって、可愛いっ!!」
「うわ……はへっ!?」
目の前の少年が、あまりにも可愛い事を言うので、思わず抱きついてみる。
突然の姉の抱擁に、戸惑っているのか照れているのか、顔を真っ赤にして暴れる。
「ね、姉様、やめて下さいっ!」
「あ、ごめんごめん。弟が可愛くて、つい……」
「……全く、可愛いのは姉様の方だってば……」
「ん? 何か言った?」
「な、何でも無いよ!?」
レイの体から離れた後、彼が何やらごにょごにょ言っている。
やっぱり照れてるみたいだ。
「そ、それより姉様。さっき一緒にいたのって、ラムド皇帝陛下だよね?」
「そうだ、どうしてレイは私を連れ去ったの?」
「……姉様を、あの男から助けるためさ」
「助ける?」
レイが頷いた。
「そうだよ。姉様は、ラムド皇帝陛下の事を幼い頃から慕ってた。婚約が決まって、とても喜んでいたのに、破棄したのはあいつなんだ。姉様は、毎晩泣いていたけど、あいつは何も言ってこなくて、お可哀想だった。なのに、何で今日一緒に祭りなんか楽しんでたんだ?」
「それはおかしいわ。婚約破棄したのは、私の方だもの」
「えっ!?」
確か、ライラの話だとそうだったはず。
両家が決めた婚約を、私が破棄したって。
弟のレイは、その事を知らなかったみたいだけど。
「で、でも……姉様はあの日皇帝陛下とデートした帰り、凄く悲しい顔して部屋に閉じこもってたし、大好きなご飯だって八割くらいしか食べてなかったし。てっきり僕、あの男の仕業だと思って……」
「うん、めっちゃご飯食べれてるねステラ姫。普通悲しみでご飯八割なんて食べれないから」
「じゃあ、どうしてあの日泣いてたんだ?」
「えーと……」
そんな事言われても、私はステラ姫じゃないんだし、近くにライラもいないからどんな状況かなんて分からないわよ。
とりあえず、うまい言い訳を考えないと。
「あの時は……その……そう! 別の人の事を考えていていたの」
「別の人……もしかしてラウール様の事?」
「ラウール……」
うわぁ、ややこしくなってきた。
また私の知らない名前が出てきたじゃない。
「そ、そうそう! そのラウール様! その人の事を想っていて、泣けてきたっていうか」
「まだ諦めて無かったのか。姉様、前からずっと言ってるけどさー、ラウール様を好きになるのは不毛なんだよ? あの人って、公爵令嬢3人と付き合ってるって言うし」
「最低じゃん、そいつ!」
「だから最初からそう言ってるじゃん」
「あ、そうなんだけどね……」
とりあえず、レイの話を総合してみて分かった事は、ステラ姫はある日ラムド様との婚約破棄を申し出た。
それは、彼女が不毛な恋をしてるからで、相手は公爵令嬢3人と付き合う女たらし。
振られたラムド様は、イケメンだし自分がまさか婚約破棄されると思ってなかったので、ステラ姫を手に入れたい、と意地になってるって事か。
……最後の推理は憶測で、定かではないけど。