お祭りにて
「ラムド様カッコいい……惚れちゃいそう!」
「……耳元で私の心の声を代弁する真似はやめなさい、ライラ」
「そんな顔をしておりましたので」
澄ました顔でライラは言う。
ラムド様に惚れそう、なんて思っちゃいないし!
「ステラ姫、折角だし何か食べないかい?」
慌てふためく私をよそに、ラムド様が話しかけてきた。
「もしかして、お腹空いて無い?」
「い、いえ……お腹は空いてますけど……」
「なら丁度良かった。何でも好きなのを言ってくれ。買ってくるよ」
「……じゃあ、ちょっとだけ見て回ります」
「うん、そうしよう」
ラムド様は、にっこり笑ってさりげなく私の手を握った。
「えっ、あの……ラムド様っ!」
「ん?」
「その……手が……」
「人がとても多いから、はぐれたりしたら大変だろ? ここは、大人しく繋がれててくれ」
「えぇ……」
前世で、男の人と手を繋いだ事なんて一回も無い。
恥ずかしくて仕方がない。
けれど、恥ずかしいから離して下さい、なんて言えない。
されるがまま、ラムド様に繋がれている。
私、汗かいてないかな。
手が湿ってるね、なんて言われた日にはもうラムド様の事を見ていられない。
「今出てる店は、フランクフルト、ポップコーンに綿菓子、ベビーカステラ、唐揚げくらいだね。どうする?」
「フランクフルトに唐揚げって……」
本当に、日本で馴染みのあるやつばかりだ。
それを言い出したら、ヨーロッパ風の世界観なのに私の日本語が通じてる時点でおかしいけど。
脱線したが、とりあえず私は早速ラムド様の好感度を下げる作戦を開始する。
「そうですね……じゃあ、全部食べます」
「全部!?」
ふふふ……名付けて、ドン引き作戦よ。
彼は王族だし、少しずつお上品に食べる、お淑やかな姫を好むはず。
好いている姫が、大食い女子だと分かれば、自然と離れるに決まってるわ。
「食べれるのかい、ステラ姫」
「食べれるか食べれないか、やってみないと分かりませんから」
威張って言ってみる。
どうよ、この不思議ちゃん感は。
食べられるか分からないのに、大食いチャレンジをしようとしているのよ。
やってる事意味不明すぎるでしょ?
こんな女の子、さすがにちょっと避けたくなるでしょ。
「姫って、面白いな。幼い頃は、姫は何を考えているかまるで分からなかったけど、今は凄く分かる。貴女は、人に笑いを届けたい。その為なら、どんな無謀なチャレンジも全力で体を張ろうと頑張る。そうだね?」
「いえ、違います……」
あれ、何か思ってた反応と違うのだが。
しかも笑いを届ける為に全力で体を張るって、私お笑い芸人か何かと勘違いされてるんだけど。
「照れなくて良いよ。王族の地位より、人を笑わせる事が好きなんて、僕も色々考えさせられるよ。半分、僕の人生は皇帝として国を守る運命なのだと、諦めていた。君みたいに、王族でありながら好きな事をするという人生も素晴らしいよね」
「ラムド様は、皇帝なので国を守って下さい。好きな事しないで下さい」
何か、ラムド様が公務を放棄するきっかけを与えたみたいで、恐怖する。
私が余計な事をしたせいで、彼が皇帝を辞めてニートに。
結果帝国が滅びました、なんてシャレにならない。
「はは、姫は厳しいね。けど最近自分の政治に自信を無くしてたから、現実逃避したかったのかもしれない。君みたいな自由が羨ましいよ」
いや、知らんがな。
私だって実は自由なんかじゃないのだ。
乙女ゲームのノーマルエンドを目指す為、色々考えないといけない事もある。
頭を使うって、結構しんどいんだから。
「あ、ちょっと待ってて」
「ちょっと……!」
はぐれたらダメだ、とか言っておきながらラムド様は何かを見つけて走っていく。
けれど、それは短時間ですぐに食べ物を沢山持ってやってきた。
「とりあえず、言ってた食べ物全部買ってきたのと、このリンゴ飴、姫が好きそうだなと思って」
急に走って行ったのは、リンゴ飴を見つけたからなのか。
かなりでかいリンゴ飴で、美味しそうだ。
「もしかして、好きじゃなかった? 小さい頃、大好きだった気がしたんだけど」
「好き……です」
「なら良かった」
笑顔が素敵なラムド様を凝視出来ず、目を逸らしてリンゴ飴を受け取り、一口食べる。
飴の甘さと、リンゴの酸っぱさが絶妙にマッチしていて、かなり美味しい!
人生で初めてハマりそうな食べ物見つけたかも。
「顔が幸せそうだけど、そんなに美味しいんだ。僕にも一口頂戴」
「え……えっ!?」
急にラムド様の顔が近くなり、私が持っているリンゴ飴に齧り付いた。
彼は知っているのか。
これって、間接キスってやつなんですけど!?