ラムド様の過去
「……で、さっきの話に戻りますけど、ラムド様は幼少期に我が国の王、つまり姫様のお父上が施設から引き取ったお子なのです……もぐもぐ」
ライラが食べながら彼の過去を語る。
ラムド様からではなく、何故執事が話し始めるのか、と突っ込みたくなったが当人は気にもしていない様子だ。
というより、いつまで食べてるのよ、こいつ。
それは置いといて、思ったより複雑な環境で育ったのね、ラムド様。
「けどラムド様って、ロシタニア皇国の皇帝なわけでしょ。施設から引き取った子が、隣国の皇子になれるって変な話じゃない?」
「僕は、先代ロシタニア皇国皇帝の隠し子だったからね。父や継母や異母兄弟が相次いで亡くなって、この度晴れて皇帝となったわけさ」
「何というか……デリケートな話を色々聞いてすいません」
「大丈夫、色々言われたり思われるのには慣れているさ。君にも、この話をするのは出会った頃から数えると、十回目だしね」
ステラ姫、記憶無さすぎでしょ。
何回聞くのよ、ラムド様の辛い過去を。
「姫様は、気を遣うとかを知らないお方ですからね……もぐもぐ」
「それは、あんたもでしょ。いつまで食べてんのよ」
「あぁ、私のアーモンドクッキーがぁっ!」
隣の皿に置いてあるアーモンドクッキーにまで手を伸ばし始めているので、器ごと取り上げてやった。
「それにしても、皇帝って大変な仕事なんでしょう? しんどくないのですか?」
「弱音を吐ける仕事じゃないからね、しんどい事なんて沢山あるよ。なんたって、帝国を守れるのは僕一人だけなんだから。だけどもしステラ姫が隣にいて支えてくれたら、その苦しみは半分に出来ると思うんだけどな」
「え……」
初め何を言われているのか分からなかったが、徐々に言葉の意味を理解して、顔が熱くなる。
「む、無理です! 私にも、国を守る義務がありますから」
「ちなみに、我が国は姫様の兄君であらせられる、ロッジ様が後の王になるご予定ですから、ステラ様は隣国との関係を強めるためにラムド様との結婚は皆大賛成なのですよ」
「えっ、そうなの!? けど、結婚って本人達の意思もあるし……」
「と、国王様もおっしゃられて、ラムド様との結婚は姫様に任せるという事になってますけどね」
ライラの言葉に、ラムド様は笑う。
「そうそう。僕も国王陛下から姫に言ってもらえないかと頼んでみたけど、当人に任せると願いは聞いてもらえなかったんだよ」
良かった、グッジョブよお父様。
ごめんね、顔も知らないけれど。
とりあえず、話によると急いで結婚を進められる事は無さそうね。
政略結婚って、本人達の意思関係なく、親の都合でどんどん決められていってしまうイメージがあるから。
まだ私は会った事も無いお兄様って人が、国王を継いでくれるからかも。
妹ポジションで良かった、マジで。
「ライラ、後で私の家族構成とか、知り合いの情報とか教えなさいよ」
「了解です、姫様」
「あぁ、着いたようだ」
ラムド様が小窓の外を見て言うので、私も目線の先を追う。
赤い提灯のようなものが、柱と柱に繋がったロープに括り付けられている。
私が転生した世界だからか、西洋風の設定なのに日本っぽい物もあるようだ。
フランクフルトや、唐揚げの屋台なんか出ている。
広場の真ん中には、巨大な噴水があり色々な人がそれを囲む様に踊ったり、ベンチに座って談笑したりしている。
何故か線香花火なんか持ってヤンキー座りしている人もいて、なかなかシュールな光景だ。
「坊ちゃん、姫様、到着致しました。私はここに残りますので、どうぞお祭りを楽しんで下さい」
「ありがとう、貴方は行かないのね」
「自分はラムド様の従者ですが、だからこそ坊ちゃんのデートを邪魔する野暮な真似はしません。それに坊ちゃんは、そこそこ強いお方ですから、何があっても姫様をお守りしますよ」
「さすが、皇帝陛下の従者は優れてますね。私はステラ姫様の従者ですが、楽しそうなので二人のデートについて行きますよ」
「あんたも留守番してなさいよ」
「私は優秀ではありませんので」
威張って言うな、そんな事。
「けど、ライラも只者では無いよね。見ただけで分かるけど、相当腕が立つみたいだし」
「……さすがラムド様、一目で見抜いてしまわれるとは」
「ラムド様、ライラはそこまでの手練れじゃないと思いますよ。お菓子ばっかり食べてるし、トンチンカンな事ばかり言うし」
確か天界の人間なんだっけ?
天使が強いのかは分からないけど、少なくともライラは小柄で細身だし、戦闘には不向きな気がする。
「姫様は、何というか……分かってない感じが姫様ですね」
「意味不明だけど、馬鹿にされてるのだけは分かったわ」
「はは……二人は、仲が良いな」
何故笑われたのか不思議だけど、それよりも私はラムド様の笑顔にドキッときた。
あどけない、少年の様な笑み。
こんな顔もするんだ……。