ラムド様の好感度はカンストしていた!
普通の神経じゃない。
そう思って、ライラの方を振り返ってみると、彼女はあさっての方向を向いて口笛なんか吹いている。
これは、絶対何か仕組んでる顔だ。
「ちょっと失礼しますね」
とりあえず、ラムド様に一礼してからライラの腕を掴み彼から距離を取る。
そして、右腕でライラの首を軽く締め上げ、左手は彼女の左手を持ったまま固定し、小声で質問する。
「どういう事? ラムド様って、神経おかしいキャラ設定なの? 私の格好普通じゃないでしょ。なのに可愛いって言った上に、このままデートに行こうとしてるんだけど」
「……ひ、姫様。苦しいので、とりあえず腕を離して下さい」
「……ちゃんと質問の答えを返すなら良いわよ」
「わ、分かりました、答えますっ!」
彼女の拘束を解くと、ライラは軽く咳き込んだ。
そして、静かに息を整えて私に真顔で言う。
「実は、姫様には黙っていた事があるんですが」
「あんた、黙っている事多すぎない?」
「姫様が、乙女ゲームの主人公に転生したのを嫌がったら困るなぁと思って、不都合な事を隠してたっていうか……」
いや、もうすでにかなり嫌気がさしてるけどね。
「それで?」
「この世界は乙女ゲームなんで、各攻略対象者に好感度ってのがあるじゃないですか。十段階あって、ゲーム進行役の私が確認出来るシステムなんですけど、ラムド様だけ今好感度十になってます」
「は? 何で? 私今日、初対面なんだけど」
「一応ラムド様とステラ姫は両家が決めた婚約者なんですが、姫様が一度婚約破棄されてる設定ですね。まぁあれだけ好意を寄せてきているとなると、ラムド様はまだ結婚を諦めていないって事なんでしょうけど」
「そんな……」
だが、おかしい話だ。
二人にどんな過去があったにしろ、ゲーム開始時の好感度は全員ゼロの状態からスタートするのがスタンダードのはずなのに。
すでに初めからラムド様を攻略しやすい状況になっているなんて。
「あ、それはですね。姫様が乙女ゲームの主人公を嫌がらないように、超イージーモードに私が設定しておりまして」
「あんたの仕業かい!」
「だって、まさかノーマルエンドを目指すとおっしゃるとは思わなかったんですもん! 普通は恋愛を楽しむものだと思うじゃないですかっ」
「知らないわよ! とにかく、初期設定に戻して頂戴」
「む、無理ですよ! 設定を決めて転生したら、もうリセットなんて出来ません。人生って、リセット不可じゃないですか」
「名言みたいに言うな」
「いだっ……!」
ライラの額に、軽くデコピンを喰らわした。
「と、とにかくラムド様の好感度はカンスト状態のまま、変更なく行かせて頂きます。ノーマルエンドを目指すとおっしゃるなら、彼の好感度を下げる事をおすすめします」
「何を勝手な……」
しかし、ライラに文句を言ったところで、システムは変わらないのだろう。
いまいち納得はいかないが、仕方ない。
こうなったら、とことんラムド様の好感度を下げてやる。
「お待たせしました」
相変わらず、ジャージとパーカー、髪を後ろに一つ括りという芋娘の様な姿で、ラムド様に再び近付く。
「忙しい時にお邪魔しちゃったのかな?」
だが、私の姿に幻滅する事なく変わらない態度で接してくる。
それどころか、私やライラに気遣う様子も見られる。
彼氏だったら、完璧すぎる方ね。
「気にしないで下さい。それより、私……デートとかした事ないですから、ラムド様に恥をかかせる事になるかもしれませんよ?」
「大丈夫だよ。君に恥をかかされるのは、小さい頃から慣れているさ」
どういう意味よ。
ってか、どんなお姫様なのよステラ。
「じゃあ、早速行こうか。外に馬車を待たせてある」
そう言って、ラムド様は手を差し伸べてくれる。
けれど、ここは好感度を下げる作戦。
当然手を取らず、それどころか思い切り払いのけてみる。
「結構よ。ラムド様の手は取らないわ」
ふふん、どうよ。
乱暴に手を振り払われて、不快に思わない人間なんていないでしょ。
好感度なんて、下がっていく一方でしょ。
「あぁ、失礼。君は昔から、触れられるのを嫌がったよね。すっかり忘れていたよ」
「怒らないの……ですか?」
「怒る? まさか、こんな事くらいで怒ったりしないよ。君が僕の事を嫌がっているとしても、僕は君の事を好いているんだ。今も昔も、それは変わらない。君が僕にどんな事をしてきても、それで嫌いになったりしないよ」
「何それ……」
どうしてそこまで、ステラ姫の事を好きでいられるの。
「私の……どこが好きなんですか」
「そんなの、全部だよ」
言い方がズルい。
しかも、キザで気持ち悪い。
はずなのに、行こうか、と言ってきた彼の手を取っている自分がいた。
いや、ダメじゃん!
ストレートな好きの気持ちに、あやうくコロッとラムド様に恋してしまう所だった!!