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彼女のとんでもない秘密

 



 私が怒りながら言うが、相変わらずライラは平気な顔だ。

 何度も繰り返された対応なので、今更気にもならない。


 だが、どうしても解決しておかなければならない疑問が一つ。


「なんで、水着なの?」


「はい、姫様ならそう聞かれると思っておりました。実はですね、執事服が紛失する事態が起きてまして。手元にあるのが、この衣装なわけですね」


 ライラが、水着のフリル部分を両手で摘んで言う。

 水色と白色のチェック柄の水着で、胸元と腰から下に分かれている。


 スタイルが良いので、腰部分はきちんとくびれているし、意外と巨乳だったんだと知る。


「……姫様、私を凝視しても巨乳にはなりませんよ?」


「う、うるさいっ! そんな事より、説明しなさいよ。どうやったら、執事服みたいな大きな物を紛失する事になるわけ?」


「アップデートに向けてのメンテナンスなんですよ」


「何か急にゲームっぽいワード出てきたわね」


 乙女ゲームの世界の中だから、仕方ないんだけど。

 最近、ゲームの世界って事忘れそうになる時あるのよねぇ。


「何故かメンテナンス中は、私の仕事着が消滅するみたいで。起床したら何も着てなかったんで、衣装棚探したら水着しかなかったんですよね。あ、ちなみにメンテナンスなんで、私と姫様以外のキャラクターは時間停止しておりまして、会話も出来ません。もちろん、ラムド様との楽しい通話や、デートも出来ませんので、ご了承下さい」


「でっ、デートなんてしないわ!」


「はいはい、今日も姫様は通常運転ですね」


 何故かバカにされている気がする。

 だけど、とふと考える。

 ライラが言った言葉に、何かが引っかかったのだ。

 何だろう。


『ステラ様、何の話しとるん?』


「ポンボには難しいってゆーか……あ、分かった」


 違和感の正体だ。

 メンテナンスなのに、ポンボが喋ってる。


「ライラ、これどゆこと?」


「いやいや、どゆこと!?」


 何で、あんたがびっくりしてんのよ。


「ポンさんが喋ってるなんて! メンテナンスなのに、バグ? そんなまさか。やっぱり、この間から変なのは、雪菜様……」


「ゆきな様?」


「いえ、姫様。失礼しました。今の話はお忘れ下さい」


「あんたねぇー、隠したいなら度々変なワード発するのやめなさいよ。もう登場キャラの名前まで喋っちゃってるんだから」


「……まぁ、そうですね」


 ふぅ、とライラは息を吐く。

 何かを諦めた表情だ。


「雪菜様……相田雪菜(あいだゆきな)様は、この乙女ゲームの初代ステラ姫でした」


「え、このゲームってニ周目なの!?」


「ニ周目……まぁ言うなれば、そうなりますか。雪菜様は、主人公として攻略対象者達と順調に好感度を高めていきました。そして、ラムド様と相思相愛直前といった所で、最後の彼のイベントが起きて……私が……その、失態をおかしました」


「失態って?」


「ラウール様が呼んでいると、嘘をついてラムド様とのイベントをあえて回避したんです。雪菜様の、サポート役である私が」


『よう分からんけど、ライラの姉ちゃんが、その雪菜って女の恋路を邪魔したって事か?』


 ポンボが言うと、ライラは頷いた。


「どうして? あんたは、ただのサポートキャラでしょ。邪魔するんじゃなくて、フォローに回るのが役目じゃない」


「はい、本当に……その通りですね。だから、私は天界でポンコツと呼ばれました。今も、ステラ姫のお役に立てていません。いつまでも半人前……そう思っています、自分でも」


 珍しい事もあるもんだ。

 あのライラが、本気で反省している。


 いつも茶化したり、誤魔化したりして反省なんて無縁みたいなやつが。


 相変わらず、核心的な話をしそうでしないけれど。


 結局、失態っていうのが何なのか分からずじまいだし。


『もしかして……いや、そんなわけないか』


「何よ、ポンボ。気になるじゃない」


『えぇ、めっちゃアホな考えやから、多分合ってないと思うし……。合ってたら合ってたで、どう対応したら良いか困るっちゅーか』


 一体、何なの二人して。

 私だけ分かってないみたいじゃない。


「良いから言いなさい。ご飯抜きにするわよ」


『わ、分かったってステラ様。いや、そのな……ライラ姉ちゃんがさ、ラムドの事、男として好きやったんちゃうかって……思ったり』


「え……」


 ポンボのセリフに、一瞬ドキッとする。

 いや、モヤっと?

 何故だろう、こんな気持ち。意味不明だ。


 じゃない、落ち着け私。

 そもそも前提が間違えてるんだ。


 あのライラが、無表情で何考えてるか分からなくて、バカばっかりやってるサポート役が、ゲームのキャラに恋するなんて、そんな馬鹿な話があるわけないんだから。


「な、何言ってんのよ、ポンボ。そんな事絶対ありえないわ。だって、あのライラよ?」


『せやんな……オレどうかしてたわ。今の想像は、忘れてくれてえぇから』


「そうそう。ねぇ、ライラ。あんたも、しっかり否定しない……から……」


 そう言って、彼女の顔を見て絶句する。

 真っ赤な顔をして、少し俯いて、何かモジモジして。まるで、恋する乙女みたいな姿のライラに。


「ライラ……まさか、あんた」


「すいません、姫様。正確には、一周目のラムド様の事ですが。私、あの方をお慕いしてました」


 開いた口が塞がらない、とはきっと今みたいな状況の事を指すのだ。

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