ポンボは見つかった
「す、ステラ姫まで何を……」
「それでは、失礼します!」
ラウール様が、何かを言いたそうにしていたが、今は無視して一礼し、その場を離れようとする。
「お待ち下さい! 姫様、どこに行かれるつもりですか!?」
私が、いきなり去ろうとした事に驚いたのだろう。
コマキさんが、驚いた声を出して止めようとする。
「当然、ポンボを探しに行くのよ」
「ポンボを!? 姫様は、あの子の事をあまり気に入って無かった様に見えましたが……」
「気に入っては無いけど、ラウール様の態度があんまりだったから可哀想に思えてきたの。長年ここで暮らしてきたんなら、外の世界ってポンボにとって恐怖だと思うし、とりあえず探して連れて来るわ」
「そうですか……申し訳ありません。私はまだ仕事が残っているので、失礼だとは思いますが姫様お願い出来ますか?」
コマキさんの言葉に、私は頷いた。
「任せて! 私には、ライラがいるし! 二人で探せばきっと見つかるわ」
「すいません、姫様。突然の腹痛で、私はお役に立てないかもしれません。トイレに行きたいのですが」
「はいはい、仮病を使わない。専属執事でしょ。ちょっとは働きなさい」
「鬼畜ー!」
行きたく無い、と駄々をこねるライラの首根っこを掴み、引きずって歩き出す。
「ステラ姫!」
突然、背後から声がかかり振り返る。
声の主は、どうやらラウール様だったようだ。
「ポンボは、水飲み場がある所か日が当たる所が好きだ。探すなら、参考にすると良い」
一瞬、ラウール様が何を言ってるのかわからなかった。
だけど、ポンボを探す手掛かりを教えてくれたのだと、すぐに気付く。
「ラウール様……」
「別にあいつの事など、どうなっても良いんだがな。ただ……姫に言われた事が、胸に刺さっただけだ。ペットショップの店長として、ポンボに対する配慮が無かった、と。この店を立派にしたい、という想いはずっと変わらないからな」
「そうなのね……。ラウール様、あなたって実は優しいんですね!」
「や、優しくなど……」
笑顔で言ってみると、あの無表情が通常運転のラウール様の顔が、一瞬赤くなったような気がした。
私の言葉に、照れたのかしら?
だとしたら、可愛い所もあるじゃない。
「大丈夫ですよ、ラウール様。私が、必ずポンボを連れて帰るから。そうしたら、今度はあの子に謝ってあげて下さいね。ポンボも、きっとそれを望んでますから」
私は、深々と一礼する。
「じゃあ、行ってきます!」
コマキさん達に手を振って挨拶し、その場を後にする。
私達が店から出て行き、扉が閉まったところで、ラウール様がぽつりと、
「ステラ姫って……あんなに可愛かったか?」
と言った事は、私は知らない。
同時に、メイさんやカーラさん達がそれを聞いてニヤニヤしていた事も。
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とりあえず、目標はポンボを探す事だけど、彼がどこかへ行ってから少し時間が経っている。
喋るという奇妙な鳩ではあるけれど、一応鳥類には違いない。
だから、この街から出てしまって、どこか遠くに行ってしまったらもう見つからないかもしれない。
「見込みは無いかもしれないけど、ラウール様が教えてくれた情報を頼りに、まずは水飲み場か日当たりの良い場所を探すしかないわね」
「……姫様」
「何?」
「ポンボ、見つかりました」
「早っ!!」
ライラが、秒速でポンボを見つけた。
というか、ラウール様の店の扉の前で項垂れていて、出入り口から一歩も動いていなかった。
「ポンボ、あんたここで何してんの」
『嬢ちゃん……』
ポンボが、振り返る。
彼の両眼に涙が溜まっていた。
『オレは、自分が思った以上にチキン野朗やったんや!』
「あー、鳥だけにね」
「全然上手くないからね、ライラ」
泣きながら、洒落を言う余裕なんて今のポンボには無いだろう。
ライラの言葉は放っておいて、落ち込むポンボの方に目を向ける事にする。
「で、チキン野朗って?」
『……ほら、オレってずっとラウールの店で暮らしてきたからな、外の世界って知らんやんか』
「あぁ、だからいきなり外に出ても怖くて動けないよね」
『それもあるんやけど、オレ……運動不足になってて、空を飛べないみたいやねん!』
「伝書鳩として、致命的な欠陥を抱えてた!?」
手紙を運んでくれないといけないのに、その役目をこなせないなんて、本当に売れなくなっちゃうわよ。
『けど、通信機能は出来るんやで。嬢ちゃん、連絡先知っとるやつはおるか?』
「通信って……住所しか分からないわよ」
『それで良いわ。そいつの住所教えてくれ』
「そんな事言われても、私ラムド様の住所なんて覚えて無いし」
携帯があれば、連絡先機能から確認出来るけど、この世界って文通が連絡手段として主流だから、人にすぐ伝える時は記憶しておくしかない。
「大丈夫です、姫様。ラムド様の住所は、私が覚えています」




