個性的すぎる伝書鳩
と、黒髪の女性コマキさんが説明してくれる。
この人が一番まともで、話が分かりそうだわ。
胸のサイズも、同じくらいだし。
「ど、どこ見てるんですか!?」
「あ、すいません……どこも見てないです。胸しか」
「ハッキリ言いましたね、姫様!」
着物姿のコマキさんは、叫びながらサッと胸元を両手で隠した。
ずっと洋服しか見てなかったから、彼女の服装は日本にいるみたいでホッとする。
やっぱり、和装は良いよなぁ。
奥ゆかしさがあって。
「そ、それで……姫様はこちらに何をしに来たのですか?」
「あぁ、えと……一週間後にラウール様の邸でダンスパーティが開かれると思うんですけど、それをキャンセルしに」
「いやいや、違うでしょ姫様」
横から、ライラに突っ込まれる。
「あ、じゃなかった。伝書鳩を飼いたくて」
「伝書鳩……伝書鳩ですか……」
コマキさんが、二回言った。
凄く困った顔をしていらっしゃる。
何やら事情がありそうだ。
「もしかして、今は売ってないですか?」
「いえ、売ってはいるんですけど、ラウ様どうしましょう?」
ちらり、とコマキさんがラウール様の方を見る。
メイさんと、カーラさんを両腕に絡ませながら、彼は頷いた。
「良いんじゃないか、見てもらえば」
凄いセクシーな女性が、二人もラウール様に引っ付いている光景が、異質すぎる。
全く話が入ってこない。
というか、ラウール様が女性嫌いって嘘でしょ、あれ。
絶対、好きな女性を選びすぎてるだけでしょ。
「姫様、とりあえず鶏小屋の方へどうぞ」
「あ、はい」
コマキさんに話しかけられて、私はハッと我に返った。
異様な光景だが、きっと突っ込んだらダメなやつなんだ。
意識を切り替えて、今は伝書鳩の方を優先しよう。
「こちらです」
コマキさんに案内されたのは、ラウール様達がいた所から少し歩いた所にある、ベランダだった。
沢山の色をした可愛らしい花があちこちに咲いていて、しっかり手入れされているのが分かる。
その花達が咲いている場所から、奥の方にさらに進むと小さな鶏小屋が見える。
小学校の時に見た事のある形のもので、赤い屋根が特徴的だ。
その内部には、卵を産んだ後に収穫出来るスペースや、広い餌箱に水飲み場も設置されている。
ただし、中にいるのは一羽の鳩であった。
「ニワトリいないのに、卵収穫スペースいる!?」
まず一番に、当然の疑問を叫んだ。
「昔は、ニワトリさんもいたんですよー」
と、私の叫びに驚きもせず、コマキさんが説明してくれる。
「今は、どうしていないんですか?」
「えーと、それが今から紹介する伝書鳩のせいなんですけどねー。何ていうか……実際見てもらった方が早いと思うんで」
伝書鳩の説明をする時から、コマキさんの歯切れが悪い。
どうしてなんだろう。
何か問題があるんだろうか。
「……ポンボ! お客様だよ!」
コマキさんが、水を飲んでいた鳩に向かって話しかけた。
名前は、ポンボというらしい。
「あなたを買いに来たんだって!」
『え、コマキ……それマジなん!?』
飲みかけて、こちらを振り向いた鳩が叫んだ。
鳩が!
「鳩が、喋った!?」
「おぉ、これは凄いですね」
隣にいたライラも、驚いている。
驚いているのかは、無表情だから分からないけど。
『何や、姉ちゃん。鳩が喋ったら、あかんっちゅうんか?』
しかも、コテコテの関西弁だ!
「ダメな事は無いんだけど、一般常識的に鳩が喋るなんてあり得ないから、戸惑ってしまって」
何度も言うけど、何故か関西弁だし!
『一般常識、一般常識って言うけどな。姉ちゃんの常識は、鳩は喋らないっちゅう事やろ? けど、今オレは口で……いや、くちばしで喋っとる。なら姉ちゃんの常識は、根本から間違っとるんや。分かるか? つまり、オレが常識や!』
意味不明な鳥が、意味不明な事を言い出したわよ!
何で偉そうなの、この鳩は!?
「えと、ポンポコさんだっけ?」
『アホ! 誰がたぬきや! ポンボ! 人の名前くらい、覚えとけっちゅうねん』
人じゃなくて、鳩じゃん。
っていうツッコミは、胸の内に閉まった。
なんか、興奮状態でいらっしゃるし。
これ以上、刺激しない方が無難であると判断した。
「そうでした。えと……ポンボさん。申し訳ないんですけど、他の伝書鳩も見ておきたいんで、今回の購入の件は一旦保留という事で」
『他の鳩? おらんで。ここにはオレだけや。つまり、姉ちゃんが買うべき鳩も、オレだけ』
「あ、だから今日買うんじゃなくて、後日改めて伺います。しばらく経てば、新しい鳩さん入荷してるだろうし」
私は、チラッとコマキさんを見る。
だが、彼女は目線が合うと苦笑しながら首を振った。




