一人目の攻略対象来た
そんなわけで、折角部屋を出たのにまた逆戻り。
ライラが部屋のクローゼットを開けて、私が着たいものを選ぶ事になった。
木で出来た可愛らしいデザインのクローゼットには、クマの顔の取手が付いている。
こういう家具、大好きだなぁー。
クローゼットって、高いからあんまり買えないけど。
「えーっと、とりあえずライラ。その中にジャージとパーカーある?」
「姫様、貴女も天然バカなんですか。それとも、漫才師みたいにツッコんで欲しいんですか。来客って言ってるのに、格好ラフ過ぎるでしょ」
「……だって、私平日は学校で制服だったし、休日は家でゴロゴロしてたから、ジャージとパーカーが一番落ち着くのよ」
「十五歳、もっと青春しろ。恋愛の一つや二つ無かったんですか。デート服とか持ってたでしょう」
あぁ、ライラもそんな事言うんだなぁ。
「……何ですか、その目は」
「ライラも、私が恋愛くらいしてると思ってるんだなぁって」
「そりゃあ、お年頃ですし」
「あのね、乙女ゲームの主人公に転生させられて、攻略対象と結婚するのが目的って言ってたでしょ。ずっと言おうと思ってタイミング逃してたけど、私それ無理」
「は? 無理……とは?」
「私ね、彼氏いないどころか恋愛歴ゼロ。男子に興味無し。将来も結婚する気無し。恋愛ゲームは色々やってきたけど、現実世界に良い人なんているわけないし、そもそも恋人作りたいとは思わないんだよね」
乙女ゲームのクリア方法は、絶対に恋愛しなければいけない訳じゃない。
誰とも恋人関係にならず、日が経っていくルートもある。
そう、つまり!
「だから私は、ノーマルエンドを目指すわ!」
「なんでやねーん!」
胸を張って宣言すると、ライラがエセ関西人風のイントネーションで突っ込んできた。
「別に絶対結婚しないといけないわけじゃないんでしょ? ゲームの世界なんだし」
「そうですが! そうなんですけどっ! 乙女ゲームの主人公に転生出来たんですよ? しかも相手はイケメン揃いですし。恋愛経験ゼロなんだったら、尚更この状況って幸せじゃないですか」
「ちなみに、クリアしたら何かご褒美あるの?」
「そうですね……次こそ、再転生をするってのはどうでしょう。本来なら、姫様の言う通り赤ん坊から人生をスタートさせるんですが、先程説明した通り枠が無かったんで。ゲームクリアを目指してる間に枠が空くと思いますから、良い転生枠が見つかったらこちらでキープしておきますよ」
「オッケー、その話に乗ったわ。なら尚更早くノーマルエンドクリアを目指さないと! ライラ、私はやっぱりジャージにパーカーで行く。来客が攻略対象なら、好感度をなるべく上げずにいくわよ」
ライラは、がっくり項垂れた。
「来客が、まだ攻略対象とは決まって無いじゃないですか」
「さっきイベント云々って言ってたじゃない。ただのモブキャラの来客だったら、そんな事言わないでしょ。絶対恋愛イベントの事よね」
「姫様は、記憶力が良すぎますっ!」
そこまで褒められると、逆に恥ずかしいわね。
私は、照れるのを隠しながらライラから強引に服を取り上げ、急いで着替える。
そして、部屋の扉を開ける。
「……やぁ、ステラ姫。あまりに長く待たされたから、こちらからお迎えに来たよ」
「……誰?」
目の前に、イケメンがいた。
「こちら、隣国ロシタニア皇国の皇帝、ラムド・ヴァン・ロシタニア様です、姫様」
「……えと」
とりあえず、私は扉を閉めた。
「ちょ、何で閉めるんですか! ラムド様に失礼でしょう!」
「だって、私の事ステラって、他の人の名前で呼んだし、そもそも知らない人に関わったらいけないって、お母さんが」
「言い忘れていた私も悪かったですが、いい加減ゲームの世界って事に慣れて下さいよ。貴女は、ステラ・ヴァレスト姫殿下です。ここはゲームですから、姫様が命に関わるような事件なんて起きません。安心してください」
「わ、分かったわよ……とりあえず、挨拶くらいはしてみるわ」
「その域です、姫様!」
渋々だが、私は再度扉を開ける。
いきなり目の前でドアを閉めるという失礼な行為をしたにも関わらず、ラムドという男は怒るどころか満面の笑みで私を迎えてくれる。
「あの……失礼しました、ラムド様」
「気にしないでくれ。ステラ姫の、そういう照れる姿を見れただけで、今日は良い日だ」
「え、キモ……」
「姫様っ!?」
ライラが、悲鳴に近い叫び声を上げる。
あー、キモとか言っちゃ、さすがにダメか。
「すいません、キザなセリフ聞くと私イラっときちゃうんです」
「そういう素直な所も、僕は好きだな。ところで、今日は天気が良いし、今から二人でデートしないかい?」
「あの、ラムド様。私デート服って持ってないので、今の格好なんですけど良いんですか?」
何故かいきなりデートに誘ってくるラムド。私に対して好意を持っているのはみえみえだ。
全く身に覚えないし、今が初対面のはずなのに。
前から私……というかステラ姫の事を知っている口ぶりだ。
どういう設定なのよ。
いや、それよりも。このままでは、彼とのエンディングの方向に進んでしまう。
ライラに、ノーマルエンドを目指すと宣言したからには、何とか好感度を下げなければ。
デート服が、ジャージにパーカーしか持って無い姫なんて、皇帝なら一緒に歩くのを嫌がるはず。
「どんな服でも、ステラ姫に似合ってるよ。準備出来てるなら、早速行こうか」
「な……っ」
と思っていたら、相手は気にもしていないみたい。
何じゃ、その返し!?