三人の女性
「いらっしゃいませ……って、ステラ姫!?」
「え、姫様っ? 何でここに!?」
「今日って、何かのイベントだったかい?」
「私、姫様を間近で見るの初めてです……はぁ、なんてお可愛らしい方!」
受付で出迎えてくれたのは、青色の髪に眼鏡をかけた長身の青年と、茶髪の女性、金髪の女性、黒髪ロングの女性だった。
茶髪の女性は、青年の右腕に自分の両腕を絡めている。
金髪の女性は、青年の左腕に。
そして、黒髪ロングの女性は青年を少し離れたところで見ている。
「えーと、ラウール様……ですよね?」
「そうだが」
青髪の青年が答える。
ライラと同レベルの無表情だ。
私に対して睨んでいるように見えるのは、好感度がまだ零だからなのだろうか。
「まさか、昔からの知り合いでありながら、俺を忘れたわけじゃないだろう」
「いや……そのまさかで。私、ちょっと前にベッドから落ちて頭を打ったみたいで、記憶が混濁してるんですよね」
我ながら毎度毎度恥ずかしい理由なのだが、こう言わないと、知ったかぶり出来ない話題とかも出てくるかもしれないのだ。
だったら最初から記憶の一部欠損って事にしといて、自己紹介から始めてもらった方が良い。
じゃないと、分かったフリをしていても、いつかボロが出ると思う。
「記憶が混濁? 大丈夫なのか」
「はい、まぁなんとか生きてますし」
「姫様、記憶が混濁って事はラウちゃんの事忘れてしまってるの?」
「ラウール様、忘れられちゃってるのかい。だったら、私達の事も知らないよね。自己紹介から始めようか?」
「ラウ様、私は前の時には参加出来ませんでしたから、今度こそ姫様を紹介して下さいね」
女性達が、口々に言う。
すっごく、気になっていた。
さっきからずっと、彼女達の事を。
「あのー……」
「なんだ」
「この女性達は一体……」
「今から自己紹介をしようか、という流れなんだから大人しく聞いておきなよ、ステラ姫」
「あ、はい……ごめんなさい……」
確かにそうかもしれないんだけど、疑問に思っちゃったんだから、仕方ないじゃない。
「ってか、私仮にもこの国のお姫様なのよね? ラウール様は、一応貴族だろうけど私の方が偉くない? なのに、何か偉そうなんだけど」
隣にいたライラに、小声で話しかけてみる。
「あー、ラウール様は設定二十歳で、姫様はまだ十八歳ですからね。歳下の子は、なんとなく下に見てしまうっていうか、砕けた言い方になるじゃないですか」
彼女の説明に、私は疑問を感じる。
例え歳下だとしても、一国のお姫様に失礼な物言いをして許されるものかしら。
それとも、この世界がゲームだから?
だから、常識とかが通用しないの?
「じゃあ、早速メイから自己紹介してくれ」
「分かったわ、ラウちゃん」
そんな事を考えているうちに、ラウール様がまず茶髪の女性に話しかけた。
女性は、楽しそうに頷いた。
「姫様、私はメイだよ。ラウちゃんの、何ていうか……彼女係をしてるよ。よろしくね」
「彼女じゃなくて、彼女係!?」
「そうそう! ラウちゃんって、大貴族様だけど実は女嫌いなの。女の子と付き合うとかも当然なんだけど、話す時も緊張してしまって拒絶したりするんだよね。それで、昔から知り合いだった私達と常に一緒にいる事で、女嫌いを直してくれってラウちゃんのお父様に頼まれたのが始まりなのよ」
「じゃああなた達は、ラウール様と付き合ってるわけでは無いの?」
「当然さ!」
今度は、金髪の女性が答えた。
メイさんの胸もなかなか立派だが、この女性はそれよりも豊満だ。
胸元が開けた真っ赤なドレスを着用していて、正直目のやり場に困る。
ちょっと見ちゃった感じでは、Eカップはありそう……。
「私の名前は、カーラ。姫様、ラウール様と結婚したいなら、肉を食べて私みたいなナイスバディになるっきゃないよ? 何なら、良い肉を紹介するけど」
「い、要りません! 別に、私はラウール様と結婚したいなんて思ってませんから」
「そうかい? 私の胸を凝視してるみたいだったからさ。姫様の貧相な胸に、協力出来たらと思ったんだけど」
胸を凝視していたのが、バレていた。
ってか、貧相な胸ってこの人も失礼だわ。
そこまで貧相じゃないし!
……今、胸元を確認したら確かに貧相だった。
「それでも、必要ありませんから」
「そうかい? 勿体無いねぇ。私にかかれば、豊満な胸を手に入れる事が出来るのに」
凄く気になるけど、何となく借りを作ってはいけない気がする。
気にはなるけど!
「メイさん、カーラさん、姫様が困ってますし話が脱線していますよ。私の名前は、コマキと言います。女性嫌いを無くす為に私達がいるので、誰もラウ様とお付き合いはしていませんよ。ラウ様が、後に運命の方と結婚出来るまで、彼に恋愛指導をする役目を担っているだけなんです」