ゲームの仕様
「主人に、何てもん飲ませとんじゃい!」
「蛇ジュースです」
「それさっき聞いたわ。内容を聞いてるんじゃなくて、変なもん飲ませるなって言ってんの!」
「あぁ、そっちですか」
「何で笑う」
苦笑するライラに、私は苛立った。
笑うとこじゃないでしょ。
しかも、そっちですかって、どっちなのよ。
「すいません、お気に召さないみたいで。体に良いんですけどね」
「お気に召すわけないでしょ」
「緑色の飲み物って、体に良いイメージじゃないですか」
「青汁と一緒のカテゴリーに入れないでくれる? あれは、野菜とか沢山入ってて健康に良いけど、あんたのは蛇入ってるから。全く違うから」
「一応入ってますよ。十二種類くらいの野菜と、蛇のエキス」
「だから、何故蛇を入れる」
「健康的なイメージじゃないですか」
もはや、無限ループである。
これ以上何を言っても、ただ同じ事の繰り返しなんだろう。
もう突っ込まないでおく。
ジュースは、土に向かって流す。
「それで、姫様。二つ目は?」
「え?」
「質問が二つあるって言ってたじゃないですか」
「あぁ、それね。ラムド様と連絡先は交換したけどさ、設定上彼とステラ姫って幼い頃からの知り合いなのよね? だったら、だいぶ前から連絡先くらい知ってるんじゃないの、って思って」
そうですね、とライラは頷く。
「常識的にはそうなんですけど、これはゲームですから。好感度上げて、連絡先交換して、さらにMAXまで上げて、告白イベントに向かうのがセオリーなわけですよ」
「ラムド様は、告白してきてから連絡先交換してきたけど」
「ラムド様は、イレギュラーなキャラで最初から好感度MAXですからね。順番が逆になっても仕方ないと思います」
「なるほどね……」
リアルだったら、ちょっと不自然な感じがするけど、この世界はゲームだから常識は通用しない場合があるって事か。
「……けど好感度MAXにしたの、あんただけどね」
「てへっ」
「全く可愛くないわ」
自分の頭をコツン、と叩いてみせるライラは無表情だ。
可愛さの欠片もない。
せめて笑顔であったなら、ちょっとは可愛いと思ったかもしれないけど。
彼女は、そこまで不細工では無いし、むしろ顔が整ってる方だと思うのに、無表情で感情が掴めないのが実に勿体ない。
「じゃあ、ラウール様の好感度はどれくらいなの?」
「えーと、今は零ですね」
「ゼロって、低すぎ! レイと初対面だった時でも、もうちょいあったわよ」
「普通は零から好感度上げていくゲームですから。レイ様は隠しキャラですし、家族でもありますから、最初からある程度好感度高く設定されてるんですよ」
「そうかもしれないけど! ステラ姫の初恋の相手って設定な割に、一から好感度上げていかないといけないのが鬼畜すぎる。絶対糞ゲーよ、これ」
「と言われましても、皆零からのスタートですよ。ラムド様が異常なだけで」
何故異常な事になったのかと言うと、ライラが設定を変えるからなんだけど、こいつは分かって言ってるのかしら。
「……さぁ、休憩もそろそろ終わりにして、また歩きましょうか」
「うー、足痛いんだけど……」
「仕方ないですね、私が姫様を抱っこして差し上げましょう」
「いらないわよ。ってか、なんで抱っこなのよ。この場合、おんぶでしょうが」
「おんぶって、見た目恥ずかしいですし」
「抱っこの方が恥ずかしいわよ! あんたの羞恥心、どうなってんのよ」
「抱っこって言っても、お姫様抱っこですよ? お姫様なんですし」
「余計恥ずかしいわ!」
ライラは、ちぇっと拗ねる。
どんだけお姫様抱っこしたいのよ。
ってか、ライラみたいな華奢で小柄な体型の女性が、私をお姫様抱っこなんて出来るわけがない。
私は大柄ってわけでは無いけど、身長は158cmはあるのだ。
一方ライラは、ハッキリとは分からないにしても、150前半に見える。
ちょっと、いやかなり厳しいと思うけど。
「ワンチャン、1キロルで良いので抱っこさせてくれませんか」
「しつこい! ワンチャンも無い!」
そして、キロルって何よ!?
♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢
朝から山を歩き始めて、街に着いたのはなんと夕方であった。
やっぱり、歩いていける距離では無かった。
馬車を使うべきだったのだ。
「……し、しんどすぎる……タクシーは無いの?」
「姫様……この世界、タクシーありませんから。それに、もう着きましたよ。ほら」
ライラが指差す先に、目的の建物はあった。
巨大な金の犬のオブジェが付いた屋根が特徴で、敷地面積もかなり大きい。
東京ドーム一個分くらいあるかもしれない。
「凄い店ね! ラウール様って、こんな大きな店の経営者なんだ!」
「そうですね。かなりやり手の経営者です」
こんな立派な店を経営するラウール様とは、一体どんな人なのだろう。
そう思い、私は扉を開いた。